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3章 それぞれの特訓

11話 狂気

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「アハハハハハハハッ!!」

「……………」

「弱い、弱すぎるよ!ホントに勝司しょうじさんを倒せたのかなァ?なァ、君よォ!?」

  京雅きょうがを相手に笑みを浮かべ、余裕を見せながら戦いを繰り広げるレオ。互角以上の力……否、京雅の拳を受ける毎に更に鋭く、速く、洗練された動きへと成長していく。

「あァ、こんな感情をぶつけられるのは初めてだよォ!こんな狂気じみた感情、人間が持てる範疇に納まってない!」

  再びレオの顔面に京雅の回し蹴りが当たる。だが、今度は吹き飛ぶどころか、その場から微動だにしない。

  嬉々とした表情を浮かべて京雅を見る。その狂気的な笑みを浮かべたレオを京雅はただ静かに見上げた。

  すぐに距離をとって京雅は呼吸を整えた。

「ガキが力を持つと調子に乗るねェ。でも、君のその戦闘への欲求はハッキリと言って異常だよォ。戦闘狂……いや、君にそんな甘い言葉じゃだめだね。やはり、君は異常おかしいよ」

  鼻血を拭い、服に着いた砂埃を払う。血に飢えた肉食獣のような眼光が京雅に狙いを付けて放さない。

「オレの力は"ギフト"。相手が最も欲してるモノを与えることができるんだ。その際に感情を読めるんだけどねェ。君の心には戦闘欲以外に何も無い。決壊寸前、強敵との戦闘しか望んでない。君、異常おもしろいよ」

「自己紹介どうも。で、俺に何の用だ?」

「ハッハッハッハッハッ!!そう隠さなくて良いさ!君のその戦闘への欲求……それはどんな本能よりも優先されている恐ろしいものだからねェ!!」

「そうかい………」

  一瞬にして目の前に現れたレオから距離をとるように後ろへステップする。その隙を見逃さず、レオは再び接近してきた。

「それが、お前の判断か?」

「そうさァ!君をここで殺すゥ!!」

  その瞬間、周囲の空気が沈む。重力が何倍にもなったように体の自由を奪う。

  レオの目の前には目を閉じ、俯いた京雅が居た。

「なら……殺ろうか」

  顔を上げた京雅の顔付きは今までのモノとは違っていた。虚ろな瞳も光を取り戻し、なんの感情も読み取れなかった表情には、狂気と言う言葉すら足りないほど、明るく、純粋で、楽しそうで、野生の本能的な笑みがあった。

  レオの体を縛るは"恐怖"。人生で一度として感じたことの無い感情が内から洪水のように押し寄せた。体に緊張と恐怖が走る。体を強ばらせて、硬直させる。

「う、あ、く、来るな、来るなァァァァアアア!!!」

「殺ろう……俺が飽きるまでな!!」

  涙の浮かぶ瞳。恐怖に染まる顔。怖気付く体。その全てを置き去りにした。

  涙はその場に残り、恐怖も緊張も、覚悟も意志も全てをその場に置いて、体だけが吹き飛んだ。理解なんて追い付かない。状況なんて分からない。京雅の願望……"強敵"を完璧に演じていた体は既に死んでいた。有り得ない方向に曲がる四肢、それを後ろから眺める半回転した頭、小さな穴が幾つも空いた腹。

  呼吸も意識も地面の感触もわかるのに、全身を襲う強烈な痛みは認識できない。死んでるはずなのに死んでいない。

「この程度か?お前の異能力は?」

  ギラついた瞳、異様に上がる口角、戦闘に対する圧倒的欲求。

  レオから流れる血液、関節を無視して曲がる四肢、風通しの良い腹、香る血、半回転した頭……何よりも、レオの息遣いが京雅を更に興奮させた。

完治の呪いパーフェクト・リカバリー

  京雅の手のひらから発せられた淡い緑色の光はレオの体に触れるなり、全身を黄金で覆った。

  光が収まることにはレオの四肢も首も腹も元通りとなっていた。

「あ、え……こ、これは?」

「まだ、俺は飽きてないぞ?」

「あ、あぁ……ぁぁぁぁあああああ!!!!も、もうやだ、やめてくれ!」

  脳裏に浮かぶ先程の体。それに反応してか、レオの全身を酷い激痛が襲った。脳が痛みを理解した。状況把握が済んだ。コンマ一秒にも満たない間に打ち込まれた何百撃、それを今理解したのだ。

「いい……その顔、実に良いよ。さぁ、もっと素晴らしい悲鳴うたごえを聞かせてくれ!」
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