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2章 奇妙な事件

19話 決戦 3

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「アハッ!君はこんなもんじゃないだろ、なぁ、キョーガ!」

  既に戦闘が始まって十分が経とうとしている。二人の間で行われていた攻防は他を一切寄せ付けないほどの速度と鋭さで繰り広げられていた。

  一進一退を続ける京雅きょうがとズザク。二人の間で行われる戦闘は更に鋭く更に速くなっていく。

「平和ボケしてなくて良かったよ!もしかしたら一撃で殺しちゃうかもって思ってたんだ!」

  段々と激化する戦闘の中、ズザクは恍惚とした様子で笑っていた。この戦闘をずっと続けるかのように、ことごとく急所を狙わず、その戦闘の様子はまるで赤子と遊んでいるようにすら見える。

  京雅はひたすらにズザクの攻撃を受け流していた。四方八方からの攻撃をサバき切ると京雅は後方に飛んでズザクとの距離をとった。

「どうしたのさ、キョーガ!らさずに早く見せてくれよ、無形魔術師シーカーリウスと呼ばれる所以をさ!」

  ズザクは振りかぶりながら京雅に急接近する。

「はぁ……『止まれ』」

  後ろに大きく振りかぶった腕を振り下ろすと同時に周囲に強大な圧がのしかかろうとした。

  だが、京雅のたった一言『止まれ』。この一言ズザクの体はピクリとも動かずに前傾姿勢のまま固まってしまう。ズザクが行使しようとした魔術は跡形もなく消え、周囲のものを押し潰さんとする圧も共に無くなった。

「くは、くははははははッ!!これがッ、これが目に見えぬ魔術、無形魔術師シーカーリウスの力かッ!前に戦った時はただの魔術で負けてしまったが、ついにこの力を味わえるとは!」

「黙れ。お前のような外道ともう一度顔を合わせること自体、反吐が出そうなんだよ」

「まだあの事を根に持っているのかい?でも、彼女は君には勿体なかったよ?君の恋人、かなり良い女だったからね。最後の最後まで……君のあんな顔を見───アグァッ?!」

「それ以上………なんにも話すんじゃねぇ……腐れ外道が」

  時間が経つにつれ、京雅のズザクの首を握る手に力が篭っていく。

  ズザクの首を掴み始めてか十秒程度が経とうとした時、突如辺りが静かになった。京雅の背後で行われていた戦闘に決着が着いたようだ。

「………何の用だ?」

「離してもらおう、彼は私の計画に必要不可欠なんだ」

  京雅の背後に立っていたのは、ルレインだった。所々怪我をしてはいるものの、至って元気そうだ。

「はぁ………使えねぇヤツらだ」

  京雅はズザクの首を掴んだいた手を離すと、乱雑に投げ捨てた。

  さすがのズザクも苦しそうにしながら地面に倒れたまま起き上がろうとはしなかった。

「リベルトたちは?」

「死なない程度に遊んでやった」

「そうか……だが、俺はお前とじゃれ合う気は無い」

「っ………!!」

  それはたった一瞬だった。だが、京雅を前にしたルレインは恐ろしく感じるほど、時間がゆっくりと経つような感覚を覚えていた。

  京雅の腕がゆっくりと動く。それに注視していたルレインは急に胸元辺りに妙な感覚を覚えた。まるで体の真ん中を丸くくり抜かれたかのような爽快感があった。そんな違和感を覚えつつも京雅を見やると目の前にいる京雅の体が透けていっていた。

「ノロマが」

  その言葉を皮切りにルレインの体から力が抜け、血の気が引いていく。体の大部分を一瞬にしてくり抜かれたのだ。

  ルレインは何もしなくともあと十秒と持たずに息絶えるだろう。

  その様子を静かに見下ろしている京雅の目はとても冷めていた。冷徹な眼差しがルレインの体に注がれる。

「やはり君は強いよね。前のように人質を取らないと」

「止めろ、それ以上は無駄な足掻きだ」

「君の連れ………大事だよね?」

「はぁ………」

  ズザクは地面に倒れている瑛翔えいとを視界内に捉えると、ニヒリと笑みを浮かべた。

「君はもう動けないはずだ。君が動けば彼は死ぬ。ボクの意思ひとつで彼を生かすも殺すも決まる」

「………………」

「君にはもう一度、あの辛さを味わってもらうよ!そして、また見せてくれよ、君のあの悲痛に満ちた顔をッ!」

「もう…………黙れよ」

「ッ………!!」

  ズザクの四肢は一瞬で分断された。攻撃の動作どころか、痛みすらも感じぬスピードだ。

  ズザクは何も出来ずに胴と頭を残してその場に転がる。

「なんッだ、今のはッ!?」

「ずっと後悔してた。あの時の俺は弱かったから、何も守れなかった、何も残らなかった。恋人を目の前で殺され、唯一の親友を自分の手に掛けた。今度は唯一の理解者をも見殺しにするところだった。これも全部、俺が弱いせいだ」

  京雅は瑛翔の方に近付くと、そっと頬に触れる。その手から淡い緑の光を放ち、たちまち瑛翔の全身の怪我を癒した。

「光栄に思え。キサマは絶対に殺さない。死にたいと思い続けながら静かに生き続けろ」

  そういうと、京雅の隣に楕円形の空間が現れる。その空間は黒とも白とも、赤とも青とも言えぬ色をしていた。現存する言葉で言い表せぬその空間を横目で見やった後、京雅はゆっくりとズザクの方へと歩みを進めた。

「その選択、必ず後悔するよ」

「言ってろ。俺はこんなにテメェが弱いとは思わなかったぞ」

「ふふっ、だろうね」

  終始笑み浮かべたままズザクは京雅の開けた亜空間へと放り込まれた。

「クソが………やっぱりアイツが絡んでるわけか」
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