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2章 奇妙な事件

15話 対話 1

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「はぁ……『止まれ』」

  その瞬間、その場に居る瑛翔えいと以外の全ての人物に悪寒が走る。

「き、キサマ……その力はッ……?!」

  瑛翔は上手く状況を飲み込めずに居たが、青ざめた三人を見て京雅の方を訝しげに見つめ始める。

  そんな中、リベルトは恐怖で震える体を必死に押さえつけながら口を開いた。

「そんな事が今必要な情報か?それよりも、俺はそいつに用事があるんだが?」

  京雅きょうがの冷めた視線がリベルトを見据えた。

  そいつ、という言葉に反応したのはミリフィアだ。あの謎の強大な力を見せられた後では、京雅に逆らう気力すら湧かない。

  その場に張り詰めた空気が漂う。瑛翔ですら口を開かずに静かに見守るなか、京雅はミリフィアの方は一歩近付いた。

「…………るな。近……寄るなっ!」

  再びリガルが京雅の前に立ちはだかる。だが、顔を真っ青にしたままで体も異常な程震えていた。呼吸も浅く、自身の足で立っているのも不思議な状態だ。

「ハッキリと言ってな。俺からすればお前一人の戦力なんざ……ないも等しいんだよ」

「………っ!!やめろ!」

  瞬間。京雅は既にその場から消えていた。誰の目にも追えず、気付けばリガルの首元には京雅の指が二本当てられていた。

「っ………」

「俺がこの指を前に押し込めばテメェは確実に死ぬ。たとえ人のその姿でもな」

「「「っ!?」」」

「さぁ、選択の時間だ。そこを退いてミリフィアと話をさせるか……死ぬか」

「俺を殺せ」

「ダメ、リガル!あなたが死ぬなんて……!」

  間髪入れずにリガルはそう答えた。今のリガルには確かに恐怖も怯えもあった。だが王女を守るという強い意志だけが今のリガルを突き動かしていた。

「そうか。来世では俺に関わらないことだな」

「やめろ!頼むからやめろ!」

  京雅は全身に魔力を流す。その瞬間、強大な力の圧が再びその場居る者全てにのし掛かる。

  先程まで平然としていた瑛翔ですらも床に倒れそうになるほどの強烈な目眩を感じていた。

「その手はなんのつもりだ?」

「リガルは……殺させない」

  京雅ですら視認できぬ程のスピードでいつの間にか手首を握られ、あまつさえ一切動かすことが出来ない。

「お前には戦闘能力はないと聞いたんだかな。それにその紋章……フィーミレッド家の家紋に似ている」

  ミリフィアの全身を覆う赤黒い幻想的で荒々しいオーラ。左目に浮かぶ不思議な紋章。それらは前世……異世界にて京雅が見た事のあるモノだった。

  それは、京雅が居た異世界、リレイリアに存在し最強と謳われたヴァンパイア………フィーミレッド家のオーラと紋章に酷似していた。

  フィーミレッド家のヴァンパイアは、現在の京雅ですら容易に手が出せないほどの力を持っているヴァンパイアだ。

「はぁ……わかった。手を引こう」

  京雅は驚愕と殺意を押し殺して片手を挙げて降参を意思を示した。

「信じられません」

「アンタが俺と一対一で会話するなら金輪際手を出さない。誰にもだ」

「対話に応じろと言いたいのですか?」

「そうだ。コッチとしてはかなり譲歩している」

  京雅はチラッと瑛翔の方を見た。京雅の視線の先にはあまりの圧に耐えきれず地面に倒れる瑛翔の姿が映る。

  京雅は無表情のまま視線を戻して再びミリフィアを見下ろす。

「まずは解放してくれ。さっきも言ったがコイツらを殺そうなんてもうしないさ」

「…………良いでしょう。私たちとてあなたと敵対はしたくありませんから」

「どうも」

  京雅はミリフィアから一歩二歩と距離をとる。掴まれていた手首を回しながらリベルトとリガルに視線を運ぶ。双方共に京雅に敵意を向けながら一定の距離を保っていた。

「ちょっとだけ寝ててくれ」

「「っ!?」」

  ミリフィアの瞬きに合わせるようにして京雅は動き出した。ミリフィアが目を閉じ開ける。そんな一瞬の一連の流れの間にリベルトとリガルは京雅によって気を失わされていた。

「これは…………どういうことですか?さっき言ったのは嘘だったのですか?」

  京雅がゆっくりと二人を床に置いている背後で凄まじい殺気を飛ばしながら静かにそう問いを投げかけてくる。

「二人は気絶させてあるだけだ。俺はお前と二人きりで話がしたいんでな」
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