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2章 奇妙な事件

1話 訪問

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  れいと一悶着あった次の日。あんな大事件があった後でも世界は平然と無慈悲に、冷徹なほど淡々と時間を刻んでいった。

「で、お前がなんでここに?」

  朝起きて黎の事を思い出した京雅きょうがは寂しそうな顔を浮かべていた。

  すると、唐突にドアを叩く音が聞こえる。返答する暇もなく開かれたドアの向こうには居たのは瑛翔えいとだった。

  昨日隠していた全てを吐露した仲とはいえ、この行為には流石の京雅も訝しげな視線を瑛翔に向けざるを得なかった。

「モーニングコールとでも思っててくれよ」

  ニコッと爽やかなイケメンスマイルを浮かべながらそんな事を言った。

「質問を変える。なんで家の中に居るんだ?不法侵入か?」

「ん?あぁ、それね。簡単だよ。君のお母さんが入れてくれたんだ」

「…………」

  それを聞いた京雅はウンザリしたような顔をしながら瑛翔の方を……厳密には瑛翔の後ろで料理を作っているであろう母親に視線を向けた。

  はぁ……と、深いため息をつくと、ゆっくりとベッドを降りて瑛翔の方に歩み寄る。

「あ、えと……なに、かな?」

  無表情のまま無言の圧力を掛けてくる京雅にたじろぎながら聞き返す。

「これからは連絡しろ。そしたらワザワザ家に上がる必要もねぇだろ?」

「………えっ?怒らない、の?」

  予想外の言葉に恐る恐ると言った様子で京雅の表情を盗み見る。そこにはいつも通りの無表情があった。

「怒る?こんなんで怒るわけねぇだろ?昨日も言ったが、俺がお前に強く当たってたのはお前を巻き込まないように、最悪の場合に陥った時に切り離せる距離を保つためだ」

「………」

「………通れねぇよ。退いてくれ」

「………君ってやつは……」

  良い雰囲気の中、いつも通りのブッキラボウな感じで瑛翔に退くように言う。その一言に瑛翔はやれやれといった雰囲気を出しながらも体をズラして通れるスペースを作る。

「俺、寝起きだから時間掛かるぞ?その間何してんだ?」

「ん?適当に時間潰すよ。テレビでも見てようかな」

「そうかい」

  それだけ言うと京雅は、いつもよりも早く朝食を食べ終わり素早く着替えて歯磨きをする。

  ものの十数分で準備を終えた京雅は瑛翔に家を出るように促した。

「準備早いんだね。びっくりした」

「いや、無理した」

「………ごめん」

  そんな軽口を挟みながら二人は家を出た。

  京雅は家を出たあと、準備をしている間ずっと疑問に思っていたことを瑛翔に聞いた。

「母さんと楽しそうにテレビの前に居たが何してたんだ?」

「ん?あぁテレビを観てたんだ」

「テレビ?ニュースか?」

「あはは。さすがにニュースで楽しい話題を出すのはリスキーだよ」

  京雅はまるで自分のことをバカにしてるように思えて不機嫌になってしまう。瑛翔はその様子に気が付いたが、敢えてスルーして話を続ける。

「今やってるドラマを見てたんだ。録画してるやつね」

「ふぅん、で?どんなやつ?」

  不機嫌な京雅は乗り気でないような雰囲気であった。

  その様子を見て苦笑いを浮かべながら瑛翔は顔を前に向き直した。

「なんでも、ヴァンパイアが出てくるやつでね。今時珍しいね、って話してた」

「ヴァンパイア?どんな内容だ?」

  ピクっと眉が動く。どうやらこの手の話題は京雅にとって興味のあるもののようだ。

  表面上は先程同様に不機嫌そうだが、興味津々なのがだだ漏れである。

  この変わり身の早さにまた苦笑いを浮かべると、瑛翔は思い出すような仕草をして口を開く。

「まず、主人公がヴァンパイアなんだ。ヴァンパイアだから朝に行動はできないから夜にだけ活動するんだ。でも、ヴァンパイアの存在が日本全体に広まって急遽ヴァンパイアを捕らえる集団が出てくるんだよ。それで───」

「長い。要約するとどういうことだ?」

  瑛翔が少しずつ盛り上がってきてるところで、言葉を被せて遮る。

  不完全燃焼で、少し不貞腐れる瑛翔だが、京雅の質問にはちゃんと答えた。

「要約すると、ヴァンパイアが自分を捕らえようとしてる人間の一人と恋に落ちて駆け落ちするって話しさ」

「へぇ。まさかのラブストーリーだな」

「まさかって……君はどんな展開を期待してたのさ」
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