余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

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82話 2日目

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  大きな進展もなく、いつの間にか迎えていた二日目。昨日は登校も昼食も下校までもずっと那乃と一緒だった。

  もちろん、楽しくなかった、と言えば嘘になる。でも、この一週間だけはどうしても瑠魅に集中したい。

 俺はただそれだけを那乃に今日伝えたい。

  そのために、今日はいつも通りゆっくりと登校した。朝から那乃に会って調子を崩してこの関係を惰性に引き伸ばしてしまわないように。

「よっ、おはよう。久々だな」

「………海斗か。おはよう」

  目の前にはいつも通りの海斗の姿があった。ここ数週間は何かと海斗たちとの絡みが減っしまっている。理由も言わずに離れたからか、微妙な空気が流れる。

  話したいことはあるのに、なんでか喉を通らない。

「どうした?変な顔してるぞ?」

「…………そうか。なぁ、海斗」

「ん?」

  伝えたいことはいっぱいあるけど、俺が今言えるのはこれだけ。

「………あとで必ず話すから……今は時間をくれないか?」

  俺の真意が伝わらなくても良い。ただ、もう一度話すチャンスを作れれば……。

「ふっ……当たり前だろ?俺から二人には言っておくから、気にすんな」

  海斗にどう伝わったのか知る術はないが、海斗の浮かべる笑顔を見るだけで気持ちが落ち着いた。

「ありがとう。時間が出来れば必ず言うよ」

「あぁ。じゃあ頑張れよ」

  俺は本当に良い友達を持ったと、心の底から思えた。今までは当たり前だと思ってた優しさが今になって身に染みる。

「………あとは那乃だけか」

~~~~

「はぁ……やっと昼休みだぁ……」

  雪崩のごとく押し寄せた睡魔を凌ぎ、迎えた昼食。いつもならば三時間目に空くはずの腹も今は緊張でキリキリ痛む。

  最悪の結果になる可能性は低い。とは言え、俺の身振り次第で今後の瑠魅と那乃の関係に影響が及ぶと考えるとどうも緊張する。

「さて……最後の仕事かな」

  これでもう本当に裏で暗躍することも無い。まぁ、暗躍と言うほどのことをやったかは知らないが、少なくとも自分以外の人に全力で尽くすのはこれで最後だろう。

「ん?どうしたんだ、瑠魅?」

  決心が着くまで少しの間自分の席でボォとした後、弁当箱を片手に教室を出ると、まるで俺を待っていたかのように瑠魅が廊下に佇んでいた。

「………那乃ちゃんのこと、よろしくね?」

  その言葉がいったいどんな意味を孕んでいるかはわからない。

  と言っても、たとえ瑠魅の言葉の真意を理解できたとしてもそれが出来るは別の話だ。結局は俺ができることするまで。

「あぁ、任せてくれ。瑠魅も今日はわざわざありがとな」

「ううん。でも……」

「ん?」

「今日の放課後は……二人きりで、ね?」

「………っ!?」

  その照れる仕草に俺は思わずに気を失いかけた。普段こんな事を言うことは無いが故に、そのあまりのギャップにやられた。

「………」

「は、恥ずかしいからもう行くね……!」

  俺はその後も少しの間、先程の光景を噛み締めるようにその場で立ち尽くしていた。

  意識が戻ったのは那乃の声が聞こえてからだった。

  那乃と合流し、俺はついに今日の本題……那乃との決着をつける。

~~~~

「それにしても良かったね。今日も天気が良くてね」

「そうだな。昨日あぁ言っておいて雨だったらどうしようかと思ったよ」

  事前に用意していたレジャーシートと一応バッグに忍ばせておいた日傘を端に置いて座る。

  天気は良いが日差しはそこまで強くはないから日傘は必要なかったかもしれない。

「腹も減ったしとりあえず食べるか」

「そうだね。わたしもお腹ぺこぺこだよ」

  今日も今日とて瑠魅のお手製の弁当だ。昨日とは違ってほとんどが今日作ったであろう具材ばかりだ。明日からは協力しないとな。

「そういえば、わたしに話したいことがあったんでしょ?何かあったの?」

「………あぁ。まぁ、早めに話す方が良いかもな」

  ハッキリと言って切り出すタイミングが分からなかったから、この助け舟は大いに助かる。

「………俺はこの曖昧な関係に終止符を打ちたいんだ」

「……………」

  その一言で瑠魅の表情が暗くなったように見えた。せっかく助け舟も出してくれたのに……あの表情を見ると俺の決心というものが揺らぐ。

「俺は……瑠魅の事が好きなんだ。だから、俺は那乃とはちゃんとした……の友達になりたい」

「…………」

  言葉の聞こえは良いかもしれない。でも、結局は那乃を振ったに過ぎない。たくさん引っ張って、もったいぶって、引き伸ばした結果がこれだ。もし俺がこの宣告を受けたなら納得することなんてできないだろう。

  自分でもわかるほど、この宣告はひどく残酷だ。

  だからこれから那乃になんと言われようとも全て受け止める。それが俺に出来る精一杯の誠意というものだ。

「…………」
 
「そっか………ねぇ、一つだけ良いかな?」

  那乃の表情からは何も読み取れない。無表情という訳では無いのに、今どんな感情を抱いているのか、さっぱり分からない。

「なんで……瑠魅ちゃんだったの?瑠魅ちゃんは良くて、なんでわたしじゃダメなの……?」

「ッ………」

  那乃の今にも泣き崩れそうな表情が俺の胸を強くひどく締め付ける。辛い、辛い、辛い………。

  ここで真実を言えば楽になることは出来る。でも、瑠魅も俺と同じ日に死ぬ、そんな事言える訳がない。そんな偶然、そうそうあるものじゃない。

  なにより、それを知って那乃に出来ることは無い。

「…………瑠魅、来年には転校するんだ」

「……え?」

  昨日、もしものために考えた言い訳。万が一を考えていたのが役に立った。

  最後の最後にこんな嘘、本当ならつきたくなかったが、こんな状況ならばもう仕方がない。

「だから、瑠魅は俺が死ぬことを知らないままでいられる。だから、そんなに悲しませないだろ?」

「……………」

  複雑そうな顔をしている。こんなお粗末な言い訳でどこまで通用するだろうか。

「……瑠魅ちゃんも居なくなっちゃうんだね」

「そうだな……」

  渋々と言った様子ではあるものの、とりあえずは納得したのだろうか。この感じならばこれ以上の追求はなさそうだけど……。これ以上深く詰められるとさすがに逃げられない。

「そっか……うん。わかったよ」

「ありがとう。最後に一つだけ那乃に頼みたいことがあるんだけど、良いか?」

「ん?何かな?」

「一週間だけ俺と瑠魅に時間が欲しい。その後は……いつも通り、みんなで楽しもう」

  俺は結局これが言いたかった。今まで通りに過ごせればそれだけで良かった。それだけで充分楽しいんだ。

「もちろんだよ。わたしもたくさん蓮くんと瑠魅ちゃんとの思い出が欲しいしさ」

「……ホントにありがとな」

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