余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

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76話 答え

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  授業と始業式を経ていつの間にか迎えていた放課。

  クラス内は長期休み明けとは思えぬほど賑やかで、普段通りの光景が広がっていた。

  でも、海斗や瑠魅、那乃やその友人内にはピリついた空気が漂っているのを感じる。

  まぁ、ほとんど俺のせいではあるんだが……そんなに見られるとさすがに肩身が狭い。

「はぁ……」

  朝からずっと、どうすれば答えを先延ばしできるか、どう答えればこの関係を壊さないでいられるかばかりを考えていた。

  答えは決まってるのに、勇気が出ない。言葉がつまる。このままこの時間をやり過ごして有耶無耶にしたい。

  そんな情けないものばかりが俺の脳内を駆け回り、俺の思考を止める。でも……と、俺の脳裏に那乃の緊張した表情が過ぎる。

「はぁ………よし」

  那乃はちゃんと俺に想いを告げたんだ。俺もこんなところでヒヨるなんて真似はしたくない。

  俺は早まる鼓動と共に、緊張した表情をしたままの那乃の方へと向かう。

「……那乃」

「なに、かな?」

  何かを悟ってか、那乃の周りにいた人たちは距離を取った。その不可解な行動を目にしたクラスメイトからの視線を背中に受け、俺の脳裏には卑怯にも『逃げの一手』が浮かぶ。普段通りの会話を展開すればきっと簡単に乗り切れる。那乃ならきっと汲んでくれる。あやふやなままこの関係を続けられる。

  でも、俺は逃げない、逃げたくない。

  俺は太ももを抓り、その薄情な思考を必死に咎める。

  深呼吸をして頭の中を整理する。伝えたいことは沢山ある。そんな中、グチャグチャになった思考を破棄して、残ったのはたった一言。

「……今日、一緒に帰らないか?」

~~~~

「…………」

「…………」

  午前下校と言うことで、真上からの強烈な日照りが俺と那乃に襲い掛かる。

  伝えたいこと、伝えないといけない事は山ほどあるのにそのどれもが喉を通らない。暑さ以外の何かが喉をカラカラにして、話すこと、口を開くことすらも億劫だと感じる。

  そして、この沈黙を破るように那乃は口を開いた。

「蓮くん」

「………なんだ?」

「その……朝はごめんね」

  俺はまた那乃の優しさに甘えてしまった。昔からずっとそうだった。今だって何も悪くない那乃が先に謝って……。

  ホントに謝るべきは俺なのに……嫌われてもおかしくはないのに……。那乃がくれたチャンスを無駄にはしない。今しかないんだ。

「……考えたよ、俺。ずっと悩んだんだ」

  昔のことを思い出す度に那乃を愛おしく思ってしまう、この関係を壊したくないと思ってしまう。

  俺は歩くのやめて那乃の顔を見る。それに合わせて歩みを止めた那乃も俺を見上げるように視線を上げた。

  振り返れば振り返るほど俺はこの関係を手離したくないと思ってしまう。那乃と何気ない会話も、ちょっとした事でケンカしたことも、一緒に勉強したことも……何よりも、那乃の無邪気な笑顔を独占できる関係……この全部が愛おしい。那乃が幸せなら、きっと俺も幸せになれる。

「先延ばしにしてごめんな。俺はこの関係を壊したくなくて……どう答えたら壊れないか、そればっかりだった」

  那乃はこの猛暑の中、俺の目を見てただひたすらに口を閉している。不安や緊張、恐怖と言った感情を孕んで、その瞳は俺の顔を覗き込んでいた。その何かを訴えるような視線を受け、俺は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

  俺はその視線から逃げるように視線を上げた。それでもなお、俺の視界の端には那乃が居て、俺はそれを無視できなかった。

  緊張で浅くなる呼吸を無理やりに整え、俺はさも冷静であるかのように平然を装う。

「俺らの間には色々とあったよな。思い出そうと思えばいくらでも思い出せる。ホントに……大事なもんばっかりだ……」

  もし、結論を言えばどうなるのだろうか。この関係は一瞬で崩れるのだろうか?明日からは全く違う関係で一から始めるのだろうか?

  まるで他人事のようだ。実感なんて湧かないし、想像なんて出来もしない。漠然とした結果だけが脳内にあるだけ。

  俺は視線を再び落として那乃と目を合わせる。

「那乃……俺は那乃の事が好きだ。那乃が幸せなら俺も嬉しいし、きっと幸せになれる。でも……その俺では那乃を幸せに出来ない。だから……ごめん。那乃とは付き合えない」

「ッ……………」

  腹の下が妙な熱を発し、胸を掻きむしりたいほどのざわつきが俺を襲う。

  俯いた那乃は今、何を思って、俺にどんな感情を持っているのか。

  それが憎悪なら……俺は快くそれを受け入れる。これ以上俺というものに縛られること無く生きられるなら………。

「……蓮くん」

「…………」

  なんて返せば良いかなんて分からない。ただ口を閉ざし、那乃の次の言葉を待つ。

  那乃の震えた声は俺の胸のざわめきを加速させる。罪悪感や後悔なんて感情を置き去りにして俺の心を蝕んだのは、最悪の達成感だけだった。

「なんで……なんでそんな事、平気なフリにして言えちゃうの」

「…………」

「あんなに沢山一緒にして、わたしの事何も分かってないじゃん……だって自己犠牲して……蓮くんはわたしの何も分かってないよ……」

「…………」

「わたしの幸せを勝手に決めないでよ。わたしにとっての幸せは……蓮くんと一緒に居れる時間なんだよ!」

  こんな状況じゃなきゃ、照れ隠しに軽口の一つや二つはパッと出るんだけどな。

「……ありがと。でも、それなら尚更付き合えない。俺は那乃を不幸にしたくないから」

  だから………これ以上俺に楽しい記憶を作らせないでくれ……これ以上俺に大事なものをよこさないでれ……。俺はもう既にわかれが怖い。

「ごめん、那乃」

  俺……なんでこんな事に巻き込まれちまったんだろ………。
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