78 / 91
76話 答え
しおりを挟む
授業と始業式を経ていつの間にか迎えていた放課。
クラス内は長期休み明けとは思えぬほど賑やかで、普段通りの光景が広がっていた。
でも、海斗や瑠魅、那乃やその友人内にはピリついた空気が漂っているのを感じる。
まぁ、ほとんど俺のせいではあるんだが……そんなに見られるとさすがに肩身が狭い。
「はぁ……」
朝からずっと、どうすれば答えを先延ばしできるか、どう答えればこの関係を壊さないでいられるかばかりを考えていた。
答えは決まってるのに、勇気が出ない。言葉がつまる。このままこの時間をやり過ごして有耶無耶にしたい。
そんな情けないものばかりが俺の脳内を駆け回り、俺の思考を止める。でも……と、俺の脳裏に那乃の緊張した表情が過ぎる。
「はぁ………よし」
那乃はちゃんと俺に想いを告げたんだ。俺もこんなところでヒヨるなんて真似はしたくない。
俺は早まる鼓動と共に、緊張した表情をしたままの那乃の方へと向かう。
「……那乃」
「なに、かな?」
何かを悟ってか、那乃の周りにいた人たちは距離を取った。その不可解な行動を目にしたクラスメイトからの視線を背中に受け、俺の脳裏には卑怯にも『逃げの一手』が浮かぶ。普段通りの会話を展開すればきっと簡単に乗り切れる。那乃ならきっと汲んでくれる。あやふやなままこの関係を続けられる。
でも、俺は逃げない、逃げたくない。
俺は太ももを抓り、その薄情な思考を必死に咎める。
深呼吸をして頭の中を整理する。伝えたいことは沢山ある。そんな中、グチャグチャになった思考を破棄して、残ったのはたった一言。
「……今日、一緒に帰らないか?」
~~~~
「…………」
「…………」
午前下校と言うことで、真上からの強烈な日照りが俺と那乃に襲い掛かる。
伝えたいこと、伝えないといけない事は山ほどあるのにそのどれもが喉を通らない。暑さ以外の何かが喉をカラカラにして、話すこと、口を開くことすらも億劫だと感じる。
そして、この沈黙を破るように那乃は口を開いた。
「蓮くん」
「………なんだ?」
「その……朝はごめんね」
俺はまた那乃の優しさに甘えてしまった。昔からずっとそうだった。今だって何も悪くない那乃が先に謝って……。
ホントに謝るべきは俺なのに……嫌われてもおかしくはないのに……。那乃がくれたチャンスを無駄にはしない。今しかないんだ。
「……考えたよ、俺。ずっと悩んだんだ」
昔のことを思い出す度に那乃を愛おしく思ってしまう、この関係を壊したくないと思ってしまう。
俺は歩くのやめて那乃の顔を見る。それに合わせて歩みを止めた那乃も俺を見上げるように視線を上げた。
振り返れば振り返るほど俺はこの関係を手離したくないと思ってしまう。那乃と何気ない会話も、ちょっとした事でケンカしたことも、一緒に勉強したことも……何よりも、那乃の無邪気な笑顔を独占できる関係……この全部が愛おしい。那乃が幸せなら、きっと俺も幸せになれる。
「先延ばしにしてごめんな。俺はこの関係を壊したくなくて……どう答えたら壊れないか、そればっかりだった」
那乃はこの猛暑の中、俺の目を見てただひたすらに口を閉している。不安や緊張、恐怖と言った感情を孕んで、その瞳は俺の顔を覗き込んでいた。その何かを訴えるような視線を受け、俺は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。
俺はその視線から逃げるように視線を上げた。それでもなお、俺の視界の端には那乃が居て、俺はそれを無視できなかった。
緊張で浅くなる呼吸を無理やりに整え、俺はさも冷静であるかのように平然を装う。
「俺らの間には色々とあったよな。思い出そうと思えばいくらでも思い出せる。ホントに……大事なもんばっかりだ……」
もし、結論を言えばどうなるのだろうか。この関係は一瞬で崩れるのだろうか?明日からは全く違う関係で一から始めるのだろうか?
まるで他人事のようだ。実感なんて湧かないし、想像なんて出来もしない。漠然とした結果だけが脳内にあるだけ。
俺は視線を再び落として那乃と目を合わせる。
「那乃……俺は那乃の事が好きだ。那乃が幸せなら俺も嬉しいし、きっと幸せになれる。でも……その俺では那乃を幸せに出来ない。だから……ごめん。那乃とは付き合えない」
「ッ……………」
腹の下が妙な熱を発し、胸を掻きむしりたいほどのざわつきが俺を襲う。
俯いた那乃は今、何を思って、俺にどんな感情を持っているのか。
それが憎悪なら……俺は快くそれを受け入れる。これ以上俺というものに縛られること無く生きられるなら………。
「……蓮くん」
「…………」
なんて返せば良いかなんて分からない。ただ口を閉ざし、那乃の次の言葉を待つ。
那乃の震えた声は俺の胸のざわめきを加速させる。罪悪感や後悔なんて感情を置き去りにして俺の心を蝕んだのは、最悪の達成感だけだった。
「なんで……なんでそんな事、平気なフリにして言えちゃうの」
「…………」
「あんなに沢山一緒にして、わたしの事何も分かってないじゃん……あの時だって自己犠牲して……蓮くんはわたしの何も分かってないよ……」
「…………」
「わたしの幸せを勝手に決めないでよ。わたしにとっての幸せは……蓮くんと一緒に居れる時間なんだよ!」
こんな状況じゃなきゃ、照れ隠しに軽口の一つや二つはパッと出るんだけどな。
「……ありがと。でも、それなら尚更付き合えない。俺は那乃を不幸にしたくないから」
だから………これ以上俺に楽しい記憶を作らせないでくれ……これ以上俺に大事なものをよこさないでれ……。俺はもう既に死が怖い。
「ごめん、那乃」
俺……なんでこんな事に巻き込まれちまったんだろ………。
クラス内は長期休み明けとは思えぬほど賑やかで、普段通りの光景が広がっていた。
でも、海斗や瑠魅、那乃やその友人内にはピリついた空気が漂っているのを感じる。
まぁ、ほとんど俺のせいではあるんだが……そんなに見られるとさすがに肩身が狭い。
「はぁ……」
朝からずっと、どうすれば答えを先延ばしできるか、どう答えればこの関係を壊さないでいられるかばかりを考えていた。
答えは決まってるのに、勇気が出ない。言葉がつまる。このままこの時間をやり過ごして有耶無耶にしたい。
そんな情けないものばかりが俺の脳内を駆け回り、俺の思考を止める。でも……と、俺の脳裏に那乃の緊張した表情が過ぎる。
「はぁ………よし」
那乃はちゃんと俺に想いを告げたんだ。俺もこんなところでヒヨるなんて真似はしたくない。
俺は早まる鼓動と共に、緊張した表情をしたままの那乃の方へと向かう。
「……那乃」
「なに、かな?」
何かを悟ってか、那乃の周りにいた人たちは距離を取った。その不可解な行動を目にしたクラスメイトからの視線を背中に受け、俺の脳裏には卑怯にも『逃げの一手』が浮かぶ。普段通りの会話を展開すればきっと簡単に乗り切れる。那乃ならきっと汲んでくれる。あやふやなままこの関係を続けられる。
でも、俺は逃げない、逃げたくない。
俺は太ももを抓り、その薄情な思考を必死に咎める。
深呼吸をして頭の中を整理する。伝えたいことは沢山ある。そんな中、グチャグチャになった思考を破棄して、残ったのはたった一言。
「……今日、一緒に帰らないか?」
~~~~
「…………」
「…………」
午前下校と言うことで、真上からの強烈な日照りが俺と那乃に襲い掛かる。
伝えたいこと、伝えないといけない事は山ほどあるのにそのどれもが喉を通らない。暑さ以外の何かが喉をカラカラにして、話すこと、口を開くことすらも億劫だと感じる。
そして、この沈黙を破るように那乃は口を開いた。
「蓮くん」
「………なんだ?」
「その……朝はごめんね」
俺はまた那乃の優しさに甘えてしまった。昔からずっとそうだった。今だって何も悪くない那乃が先に謝って……。
ホントに謝るべきは俺なのに……嫌われてもおかしくはないのに……。那乃がくれたチャンスを無駄にはしない。今しかないんだ。
「……考えたよ、俺。ずっと悩んだんだ」
昔のことを思い出す度に那乃を愛おしく思ってしまう、この関係を壊したくないと思ってしまう。
俺は歩くのやめて那乃の顔を見る。それに合わせて歩みを止めた那乃も俺を見上げるように視線を上げた。
振り返れば振り返るほど俺はこの関係を手離したくないと思ってしまう。那乃と何気ない会話も、ちょっとした事でケンカしたことも、一緒に勉強したことも……何よりも、那乃の無邪気な笑顔を独占できる関係……この全部が愛おしい。那乃が幸せなら、きっと俺も幸せになれる。
「先延ばしにしてごめんな。俺はこの関係を壊したくなくて……どう答えたら壊れないか、そればっかりだった」
那乃はこの猛暑の中、俺の目を見てただひたすらに口を閉している。不安や緊張、恐怖と言った感情を孕んで、その瞳は俺の顔を覗き込んでいた。その何かを訴えるような視線を受け、俺は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。
俺はその視線から逃げるように視線を上げた。それでもなお、俺の視界の端には那乃が居て、俺はそれを無視できなかった。
緊張で浅くなる呼吸を無理やりに整え、俺はさも冷静であるかのように平然を装う。
「俺らの間には色々とあったよな。思い出そうと思えばいくらでも思い出せる。ホントに……大事なもんばっかりだ……」
もし、結論を言えばどうなるのだろうか。この関係は一瞬で崩れるのだろうか?明日からは全く違う関係で一から始めるのだろうか?
まるで他人事のようだ。実感なんて湧かないし、想像なんて出来もしない。漠然とした結果だけが脳内にあるだけ。
俺は視線を再び落として那乃と目を合わせる。
「那乃……俺は那乃の事が好きだ。那乃が幸せなら俺も嬉しいし、きっと幸せになれる。でも……その俺では那乃を幸せに出来ない。だから……ごめん。那乃とは付き合えない」
「ッ……………」
腹の下が妙な熱を発し、胸を掻きむしりたいほどのざわつきが俺を襲う。
俯いた那乃は今、何を思って、俺にどんな感情を持っているのか。
それが憎悪なら……俺は快くそれを受け入れる。これ以上俺というものに縛られること無く生きられるなら………。
「……蓮くん」
「…………」
なんて返せば良いかなんて分からない。ただ口を閉ざし、那乃の次の言葉を待つ。
那乃の震えた声は俺の胸のざわめきを加速させる。罪悪感や後悔なんて感情を置き去りにして俺の心を蝕んだのは、最悪の達成感だけだった。
「なんで……なんでそんな事、平気なフリにして言えちゃうの」
「…………」
「あんなに沢山一緒にして、わたしの事何も分かってないじゃん……あの時だって自己犠牲して……蓮くんはわたしの何も分かってないよ……」
「…………」
「わたしの幸せを勝手に決めないでよ。わたしにとっての幸せは……蓮くんと一緒に居れる時間なんだよ!」
こんな状況じゃなきゃ、照れ隠しに軽口の一つや二つはパッと出るんだけどな。
「……ありがと。でも、それなら尚更付き合えない。俺は那乃を不幸にしたくないから」
だから………これ以上俺に楽しい記憶を作らせないでくれ……これ以上俺に大事なものをよこさないでれ……。俺はもう既に死が怖い。
「ごめん、那乃」
俺……なんでこんな事に巻き込まれちまったんだろ………。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる