余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

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70話 プール 3

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「海斗、任せた!」

「任せろ、ここで決めてやるぜ!」

  海斗はそう言って垂直跳びをする。バレーはできると言うだけあって、スパイクのフォームがキレイだ。

「オラよっ!」

「甘いね!」

  海斗の渾身のスパイクは亮によって難なく拾われ、そのまま陽斗のスパイクが俺らの陣地へと刺さる。

「くぁぁ……少しは手加減しろよな」

「あははは……まぁ、これでチャラにするよ。ね、陽斗?」

「そうだな。これぐらいにしてるぜ、蓮」

「あぁ、そうしてくれるとありがたいな」

  今、俺らは四人で室内にあるビーチで遊んでいた。ネットやボールがあったからこうしてビーチバレーをしていた。

  女子はみんな流れるプールに居る。どうやら、これからの方針について女子だけで話し合いたいらしい。まぁ、いわゆる作戦会議だな。どんな内容かもだいたいは検討がついている。

「よし、じゃあいくぞ」

  亮から先程とは違う、フワンとしたボールが飛んでくる。どうやら、さっきまでのは俺に対する『お返し』だったらしい。海斗だけでなく、亮と陽斗にも気が付かれているとは。露骨過ぎたとは思うけど、そんなにバレるような事をした記憶はない。

  長年付き合いだからかもしれない。そう思うと、なんだか嬉しいな。

「蓮!」

「うぇっ?」

  感傷に浸っていると、目の前にボールが飛んで来ていた。俺はそのボールに対して、何も出来ずに顔面にもろに受ける。

  優しいボールだったから痛みはないが、びっくりした。

「おい、ボォッとするなって」

「あぁ、すまん。ボケっとしてた。じゃあ行くぞ」

  俺はボールを拾って軽くボールの後ろを叩く。フワッと浮いたボールが狙い通り、陽斗の方へと飛んでいく。

「おっ待たせ!」

  那乃が手を振りながらこっちに歩いてきた。その後ろからは楽しそうな顔をした瑠魅が歩いてくる。そして、またその後ろに、瑠魅の陰に隠れて、頬を微かに赤らめた冬華が恥ずかしそうに歩いてきた。

  俺らはバレー中止して那乃たちの方へと近づく。すると、那乃が冬華の背中を押しながら亮の前まで歩かせた。

「あ、えと……その、亮くん。わ、私と……あの、ウォ、ウォータースライダー……乗らない?」

「っ………!」

  亮の顔がみるみる赤くなる。隣から見ていても、冬華の表情は破壊力がやばかった。美少女の恥ずかしそうな上目遣いと言うだけでも理性が飛びそうだが、その上今にも泣いてしまいそうな潤んだ瞳は、なんと言うか、ズルい。

  理性がゴリゴリ削られる感覚さえ自覚できる。彼氏である亮ならば尚更だろう。

「あ、うん……分かった。じゃ、じゃあ……今から、行く?」

  恥ずかしそうに冬華の方へと手を差し伸べた。相当恥ずかしいのか、冬華の顔を直視できていない。

「うん!」

~~~~

「うぅ……楽しかったぁ!」

「そうだな。かなり遊んだな」

  流れるプールで那乃と二人で浮き輪に乗って流される。亮と冬華は窓から入る夕日に照らされたながらビーチに座っている。陽斗は一人でウォータースライダー、海斗と瑠魅は疲れたからと近くの休憩スペースで休んでいる。

  昼時ぐらいはかなり混んでいて、流れの悪かった流れるプール。でも、今は人も減ってスイスイ進む。人にぶつかる心配もそんなにしなくて良いからゆっくりと流れられる。

「陽斗とは上手くいった?」

「うん。お陰様でね。ありがと」

「ほとんど何もしてないけど、元通りになれたんなら嬉しいよ」

  浮き輪でプカプカを浮かびながら今日のことを振り返る。あともう少しすればこの時間も終わる。

「……………」

「……………」

  二人で静かにプールを流れる。周りに音があるせいか、はたまた相手が那乃だからなのか、この沈黙が苦にならない。ずっとこの時間が続いて欲しいとさえ思ってしまう。

「蓮くんは………夏祭り、誰と行くか決めてるの?」

「………あぁ」

  沈黙を破った那乃の声は微かに震えていたように聞こえる。俺も那乃も真正面を向いたまま、お互いに顔を合わせない。

「そっか。海斗くん達?」

「…………まぁな」

「だよね。わたしも行くからさ、会ったらよろしくね」

  那乃がどんな表情をしているかなんて分からない。何かを必死に我慢しているかもしれないし、笑顔を取り繕っているかもしれない。もしかしたら、泣いているかも……。

  そう思うと、ダメだと分かっているのに、自分の中でちゃんも答えを出したはずなのに、心がキュッと締め付けられる。俺は、自分が思っている以上に那乃に甘い、無駄で、ダメな程に……。

  俺は無意識に口を開き、那乃に希望を見せてしまっていた。

「………何言ってんだ。俺は那乃と回りたいんだよ」

「ッ………ズルいよ、いつも」

  恥ずかしいと言う気持ちが湧き出る。この瞬間、俺はイケないと分かっていても、視界の片隅に映った驚いたような嬉しそうな、そんな那乃の横顔に見惚れてしまった。
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