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67話 保留
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「十分前か、少し早かったな」
スマホと駅を交互に見ながら時間を潰す。特にやることもないけど、とりあえずスマホの電源つけたり消したりを繰り返す。
でも、まさか別々に駅に行きたいと言われるとは思わなかった。この行動にどんな意味があるか分からないけど、特段嫌って訳でもないけど。
スマホで面白い記事を見つけて見入っていると、周りが騒がしくなってきた。俺はそう言うのに興味が無いので、スマホをスクロールした。
「さっきぶりね」
「さっきぶり……瑠、魅……?」
その姿をした瑠魅を見たのはいつぶりだろうか。多分、初めて瑠魅と会った時以来だ。
白のタンクトップワンピースに麦わら帽子、黒のサンダル。道行く人も瑠魅のその姿に皆見惚れている。かく言う俺も目が離せなかった。
先程のざわつきは疑う余地なく瑠魅に向けられたものだろう。
「どう?似合ってるかな?」
「あ、あぁ……めっちゃ似合ってる」
そう言うのがやっとだ。口を開くことすら面倒と感じ、ただ静かに彼女を見つめていたかった。どんな言葉でも、俺の語彙では彼女の美しさを表現出来ず、鬱憤すら感じる。
「ふふっ、じゃあ行きましょう」
「……そう、だな。暑いし早く行こう」
俺は夏の暑さとは別の熱を感じながら瑠魅の隣を歩いて行く。
~~~~
「どっちが良いかな?」
「え、えぇと、そうだなぁ……」
現在、ショッピングをしている最中。瑠魅の水着選びをしているところだ。これ、なんで俺なの?
こういうのって普通、恋人か女友達のどっちかじゃないのか?瑠魅の感覚が若干ズレているのは知っているが、これはさすがに恥ずかしいぞ……。
前に那乃とも似たようなことあったけど、選びはしなかった。まさか俺がこの役をやる事になるとは。
俺は恥ずかしくも水着の方を見た。ビキニ系の水着で色は白か黒かの二択。
「黒……かな?」
俺は熟考の末導き出した答えを伝えた。女性のこの手の質問では、既に答えは決まっているらしいから、なおの事答えにくいと思ってしまう。
「コッチ?わかったわ。買ってくるね」
この感じ、正解……なのか?
そう思い、安堵すると急に周囲の視線が気になり、恥ずかしくなった。
まぁでも、瑠魅の楽しそうな顔を見れると思えば、多少の辱めなんて耐えられる。
「ありがとね。次、良いかな?」
「あぁ。今日はとことん付き合うよ」
あと約九ヶ月。こんな日々を毎日送れれば良いのに。
そんな事を思いながらも、俺と瑠魅は買い物を続けた。最後の方はウィンドウショッピングのようなものをしてショッピングモールを後にした。
よく女性の買い物は長いとか、荷物持ちが大変とか言うが、瑠魅の買い物はスパッと決まるし、荷物もそこまで多くない。まぁ、瑠魅が特殊というのはあるかもしれないけど。
「今日はありがとね」
「いや、俺も楽しかったよ」
駅までの道中、俺と瑠魅は雑談に花を咲かせた。日もだいぶ落ちて既に夕日だ。
「ちょっと、あそこ寄っても良い?」
「公園?全然構わないけど……」
その公園にはジャングルジムに滑り台、ブランコに鉄棒、砂場があった。
昔はよく公園で遊んでいたけど、最近は公園自体行かなくなった。
瑠魅は四つあるブランコの一つに座ってゆっくりと漕ぎ出した。
「私、当たり前だけど、こんな経験ないの」
俺は瑠魅の隣のブランコに座り、ただ瑠魅の言葉一つ一つに耳を傾けた。
「何もかも知らなかった、やったこともなかったの。でも、こうして今はなんでも出来る」
彼女の笑顔はとても輝いていた。彼女に触れたいという俺の中にある欲望が暴れそうになるのを必死に抑えて、瑠魅から視線を外した。
「私ね……蓮翔のこと、好きなんだ」
「っ……!?」
心臓が止まるかと思うほどの衝撃が走った。顔が見る見るうちに赤くなる。俺が瑠魅の方を見てると、瑠魅も少しずつその白い頬を赤く染めていった。
「聞き間違い、じゃない……よね?」
「たぶんね。でも、答えは待って欲しいの」
「なんで?」
心臓が耳障りなほどうるさい。瑠魅の次の言葉を聞き逃さないようにと集中するほどに心音も更に大きく鳴り響いた。
「このままじゃ、那乃ちゃんが可哀想だから」
「……………」
「私、那乃ちゃん質問したことあるの。一時の辛さのあとにそこそこの幸せを得るのと、一時の最幸のあとにとても長い間辛い思いをするの、どっちを選ぶって」
「それって……」
俺たちを忘れて人並みの幸せを得るか、俺たちとともに過ごして、その後に別れの悲しみを背負いながら生きるか、と言う質問に聞こえた。
「那乃ちゃんね、即答したんだよ、断然後者だねって」
「っ………」
「理由を聞いたらね、那乃ちゃんなんて言ったと思う?」
瑠魅をブランコを漕ぎながら楽しそうに笑っていた。その顔で何となく答えはわかった。でも、俺は瑠魅から聞きたかった。
俺は目を閉じて瑠魅の次の言葉を待った。
「一番の幸せを捨ててまで幸せになりたくないって。那乃ちゃん、カッコイイよね」
「そっか。強いな、那乃は」
俺は視線を下げた。自分の弱さと対比されて情けなくなって、どうしようもない。
隣からブランコの揺れる音がしなくなった。俺は首だけで隣を見ると、瑠魅はブランコを漕ぐのをやめていた。
瑠魅は俺の方を見て優しく微笑んだ。
「だから……夏祭りの日、楽しみにしててね。その時に今日の答えを教えて」
「………あぁ」
理解が追いつかないまま俺もブランコを降りて瑠魅と共に公園から出た。
スマホと駅を交互に見ながら時間を潰す。特にやることもないけど、とりあえずスマホの電源つけたり消したりを繰り返す。
でも、まさか別々に駅に行きたいと言われるとは思わなかった。この行動にどんな意味があるか分からないけど、特段嫌って訳でもないけど。
スマホで面白い記事を見つけて見入っていると、周りが騒がしくなってきた。俺はそう言うのに興味が無いので、スマホをスクロールした。
「さっきぶりね」
「さっきぶり……瑠、魅……?」
その姿をした瑠魅を見たのはいつぶりだろうか。多分、初めて瑠魅と会った時以来だ。
白のタンクトップワンピースに麦わら帽子、黒のサンダル。道行く人も瑠魅のその姿に皆見惚れている。かく言う俺も目が離せなかった。
先程のざわつきは疑う余地なく瑠魅に向けられたものだろう。
「どう?似合ってるかな?」
「あ、あぁ……めっちゃ似合ってる」
そう言うのがやっとだ。口を開くことすら面倒と感じ、ただ静かに彼女を見つめていたかった。どんな言葉でも、俺の語彙では彼女の美しさを表現出来ず、鬱憤すら感じる。
「ふふっ、じゃあ行きましょう」
「……そう、だな。暑いし早く行こう」
俺は夏の暑さとは別の熱を感じながら瑠魅の隣を歩いて行く。
~~~~
「どっちが良いかな?」
「え、えぇと、そうだなぁ……」
現在、ショッピングをしている最中。瑠魅の水着選びをしているところだ。これ、なんで俺なの?
こういうのって普通、恋人か女友達のどっちかじゃないのか?瑠魅の感覚が若干ズレているのは知っているが、これはさすがに恥ずかしいぞ……。
前に那乃とも似たようなことあったけど、選びはしなかった。まさか俺がこの役をやる事になるとは。
俺は恥ずかしくも水着の方を見た。ビキニ系の水着で色は白か黒かの二択。
「黒……かな?」
俺は熟考の末導き出した答えを伝えた。女性のこの手の質問では、既に答えは決まっているらしいから、なおの事答えにくいと思ってしまう。
「コッチ?わかったわ。買ってくるね」
この感じ、正解……なのか?
そう思い、安堵すると急に周囲の視線が気になり、恥ずかしくなった。
まぁでも、瑠魅の楽しそうな顔を見れると思えば、多少の辱めなんて耐えられる。
「ありがとね。次、良いかな?」
「あぁ。今日はとことん付き合うよ」
あと約九ヶ月。こんな日々を毎日送れれば良いのに。
そんな事を思いながらも、俺と瑠魅は買い物を続けた。最後の方はウィンドウショッピングのようなものをしてショッピングモールを後にした。
よく女性の買い物は長いとか、荷物持ちが大変とか言うが、瑠魅の買い物はスパッと決まるし、荷物もそこまで多くない。まぁ、瑠魅が特殊というのはあるかもしれないけど。
「今日はありがとね」
「いや、俺も楽しかったよ」
駅までの道中、俺と瑠魅は雑談に花を咲かせた。日もだいぶ落ちて既に夕日だ。
「ちょっと、あそこ寄っても良い?」
「公園?全然構わないけど……」
その公園にはジャングルジムに滑り台、ブランコに鉄棒、砂場があった。
昔はよく公園で遊んでいたけど、最近は公園自体行かなくなった。
瑠魅は四つあるブランコの一つに座ってゆっくりと漕ぎ出した。
「私、当たり前だけど、こんな経験ないの」
俺は瑠魅の隣のブランコに座り、ただ瑠魅の言葉一つ一つに耳を傾けた。
「何もかも知らなかった、やったこともなかったの。でも、こうして今はなんでも出来る」
彼女の笑顔はとても輝いていた。彼女に触れたいという俺の中にある欲望が暴れそうになるのを必死に抑えて、瑠魅から視線を外した。
「私ね……蓮翔のこと、好きなんだ」
「っ……!?」
心臓が止まるかと思うほどの衝撃が走った。顔が見る見るうちに赤くなる。俺が瑠魅の方を見てると、瑠魅も少しずつその白い頬を赤く染めていった。
「聞き間違い、じゃない……よね?」
「たぶんね。でも、答えは待って欲しいの」
「なんで?」
心臓が耳障りなほどうるさい。瑠魅の次の言葉を聞き逃さないようにと集中するほどに心音も更に大きく鳴り響いた。
「このままじゃ、那乃ちゃんが可哀想だから」
「……………」
「私、那乃ちゃん質問したことあるの。一時の辛さのあとにそこそこの幸せを得るのと、一時の最幸のあとにとても長い間辛い思いをするの、どっちを選ぶって」
「それって……」
俺たちを忘れて人並みの幸せを得るか、俺たちとともに過ごして、その後に別れの悲しみを背負いながら生きるか、と言う質問に聞こえた。
「那乃ちゃんね、即答したんだよ、断然後者だねって」
「っ………」
「理由を聞いたらね、那乃ちゃんなんて言ったと思う?」
瑠魅をブランコを漕ぎながら楽しそうに笑っていた。その顔で何となく答えはわかった。でも、俺は瑠魅から聞きたかった。
俺は目を閉じて瑠魅の次の言葉を待った。
「一番の幸せを捨ててまで幸せになりたくないって。那乃ちゃん、カッコイイよね」
「そっか。強いな、那乃は」
俺は視線を下げた。自分の弱さと対比されて情けなくなって、どうしようもない。
隣からブランコの揺れる音がしなくなった。俺は首だけで隣を見ると、瑠魅はブランコを漕ぐのをやめていた。
瑠魅は俺の方を見て優しく微笑んだ。
「だから……夏祭りの日、楽しみにしててね。その時に今日の答えを教えて」
「………あぁ」
理解が追いつかないまま俺もブランコを降りて瑠魅と共に公園から出た。
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