余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

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41話 勉強 2

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「よし、じゃあ続きをやろうぜ」

  あの後、結局俺がお茶を出した。まぁ、当たり前なんだけど。

  これが終わったら一旦休憩にするのもありだな。確かお菓子が冷蔵庫の隣にあったし。

「任せたぜ、姫乃さん」

「ふふっ。任せなさい!」

「ん。任せる」

  実技科目は基本暗記だ。つまり、どれだけ覚えられるかがキモだ。もちろん、提出物もあるからじっくりという訳には行かないが。

  実技は教科書さえあれば提出物ぐらいなら簡単に終わらせられる。

  そう。つまり、姫乃に教えてもらうものは基本的にない。単語の覚え方だって人それぞれだしな。

「…………」

「…………」

「…………」

  気まずくはないが……姫乃に悪いな。教える側なんてそうそう無いのに……。でも、勉強に関しては人それぞれだもんな。教えるのが好きな人も居れば、黙々とやりたい人だって居るし。

  ここで無理に質問とかするのは気を使わせるよな?

「…………」

「…………」

「…………」

  シャーペンの走る音以外何も聞こえない空間の中、ついに一人のシャーペンが止まる。そう、俺だ。だが、これは仕方がない。だって教科書と対応してるはずのノートブックに変なこと書いてあるんだから。

  マジでどゆこと?これ、どこを見ればこの空欄を埋められるん?

「…………」

  俺はこの沈黙を破るための勇気がなくひたすらににらめっこしていた。こんなことしてて分かるなら苦労しないんだがな……。ここは腹を括るしかねぇ!

「………なぁ、姫乃」

「どうしたの?」

「この単語、なんだか分かるか?」

「どれどれ……あぁ、これはね───」

  姫乃が俺の教科書を指さしながら丁寧に教えてくれた。ついでにその単語の暗記方法まで教えてくれた。

「おぉ、なるほどな。こりゃわかりやすいな。ありがとな、姫乃」

「あ、ううん。助けになったなら良かったよ」

  姫乃は教えるのが上手いな、と思う。小学校の先生とか上手くやれそうだな、と思う。あっ、決して姫乃が教えられるレベルがその程度とかっていうワケじゃないからな?

  でも、やっぱり俺の周り人たちはスペック化け物な気がするぞ。姫乃は実技科目だけだが、あの亮や海斗と張り合えるだけのスペックがある。

  姫乃が毎回満点を取れるのはやはりその記憶力があるからだろう。俺はどうも覚えるのが苦手で、小学校の記憶なんて皆無だし、中学校の記憶だって三年生の後半ぐらいしか覚えてない。それも朧気だ。

  俺ってもしかして若年性認知症とかだったりしないよな?それに物覚えが悪いし……。でも、あのものすげぇ痛かった頭痛以来、忘れ物は少なくなった。というか無くなった。

  なんでかは知らねぇが、とりあえず神からの荒治療とでも思っておこう。

  うぅ……思い出したら、また頭が痛くなってきた。マジであの頭痛は金輪際味わいたくねぇな……。

「何かあったら気兼ねなく言ってね?」

  そう言ってニコッと笑った。その顔が眩しすぎて俺は視線を逸らした。

  あの後は先程と変わらずに勉強は進んだ。……ある一つを除いて。

  俺はさすがにこの状況にいたたまれなくなり、姫乃に話しかける。

「俺は気にしないけど……姫乃は俺の隣にずっと座ってるのか?」

  さっき教えてもらった時に自分の場所に戻るかと思いきや、荷物を持って俺の隣に座ったのだ。それからずっと顔が赤いし……。

  その表情がなんか色っぽくて時々盗み見ていたのは内緒だ。

  俺としては役得なんだが、その表情は俺の心臓に悪い。

「あ、ごめん。もしかして……迷惑だった?」

「あ、いや。俺としてはありがた……いや、気にしてないんだがな?瑠魅の視線がね?」

  そう。これを言うことを決めたのは瑠魅のあのジト目が原因だ。そんな顔でずっと見られたらさすがに集中出来んて。

「瑠魅ちゃん、どうかしたの?」

「那乃ちゃん……ダメ」

「え?何が?」

  姫乃は天然な部分があるからなぁ……。何がとは言わんが、男子に近づけてはならんものが二つほど俺の視界の端で動いてるんですね。嫌でも目に移るってどんだけデカ……こんなことを考えるのは失礼だな、うん。

「ほら、瑠魅もあぁ言ってるしさ?」

「そっか……うん、わかった。分からないところがあったら言ってね?もちろん瑠魅ちゃんもね」

「あぁ、わかった」

「うん」

  そう言ってさっきまで居た場所に座り直していた。

  さて、俺の心臓は最後まで持つのだろうか。今から心配でならん。
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