余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

文字の大きさ
上 下
31 / 89

30話 再確認

しおりを挟む
「なぁ、ホントにこれで帰るのか?」

  授業が終わってついに下校時間だ。

  今日は海斗同様、瑠魅もバイトがないので一緒に帰ることにしたのだが……。どうやら瑠魅は二人乗りをしたいようだ。

  本来は俺がチャリを引きながら瑠魅と帰る予定だったから若干焦っている。

  理由としてはやっぱり心の準備をしてないからだな。

「二人で一緒に帰れる機会が少ないでしょう?一緒に帰れる時ぐらいは良いかなって」

  そんな風に言われたら断れないって……。

  いや、でもな……これは不健全だ。俺たちはまだ……その……付き合ってないしな、うん。体が密着するような事はよろしくないと思うんだ、うん。

「どうかした?」

「あ、ううん。たださ、やっぱり二人乗りって危ないじゃん?」

  直接言うのはちょっと恥ずかしいからオブラートに包んだけど……。これはちゃんと伝わってるか?

  瑠魅はちょっとズレてるからな。知っておいて損のない常識ぐらいはちゃんと教えた方が良いよな。

  まぁ、大事な部分は俺が恥ずかしくて言えてないけど……。

「そっか……そうだよね。じゃあ行こっか」

  瑠魅は少し悲しそうにするも、すぐに笑顔になって校門の方へと向かっていった。

  俺もそれに続くようにチャリを引きながら瑠魅の後を行く。

~~~~

「あ、瑠魅。ちょっと待っててくれる?」

「ん?どうしたの?」

  俺と瑠魅は雑談をしながら俺の家に向かった。

  途中で建物が視界から消えて、その代わりに緑色に染まった稲が両側になびく、家までの一本道に出た。

  その道を瑠魅と通っていると、ふと思い出したことがある。

  千年桜への挨拶だ。前までは習慣でほぼ毎日欠かさずにやっていたのに、最近はめっきりやらなくなっていた。

  せっかく思い出したのだから、これを機に久々にやるか。

  俺は道端にチャリを停めて千年桜のある空き地へと入っていく。

  すると後ろから足音がしたので、振り返ると瑠魅も後ろを着いてきていた。

「私もやるわ。私の起源だもの、あの木は」

「そういえばね。時々忘れるけど、瑠魅は千年桜あの木の思念体なんだもんね」

  そう考えると、ホントに不思議だな。

「っ……!瑠魅、さん?」

「フフッ。どうかした?」

  俺が静かに千年桜を眺めていると、手に柔らかい感触があり、次の瞬間ギュッと握られた。

  どうやら、瑠魅が俺の手を握ってきたようだ。しかも、指を絡める握り合う恋人繋ぎで、だ。

  俺は不意にそんなことをされて血が顔に上って熱く、赤くなっていく。

  そんな顔を見られるのが嫌で、俺は瑠魅から視線を外した。

「さ、早く済ませて家に行こう」

「あ、え、ちょ、ちょっと!」

  そう言った瑠魅は手を握り、楽しそうに笑いながら俺を引っ張るようにして千年桜へ向かう。

  少し驚いたものの、瑠魅の明るさに当てられ、俺もつられるようにして笑った。

  ………こんな特別な事をされると、瑠魅への想いが一層強くなってしまうようで、怖かった。

  瑠魅を手放したくないと言う"独占心"が湧いてしまう。

  歪んでいるのだろうか?この想いはずれているのだろうか?

  分からない。分からないけど、なんでか俺の瑠魅への想いは異常なほどに大きくなってきているようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

さよなら私のエーデルワイス〜侍女と騎士の初恋〜

佐原香奈
恋愛
 小さな村で幼馴染として育ったエマとジャン。小さい頃からジャンは騎士を目指し、エマはそれを応援していた。  ジャンは成人する年、王都で開かれる各地の騎士団採用試験として行われるトーナメント戦に出場するため、村を出た。  一番の夢であった王立騎士団入団は叶えられなかったものの、辺境伯家の騎士団に入団することになったジャンは、胸を張ってエマを迎えに行くために日々鍛錬に励んでいた。  二年後、成人したエマは、ジャンが夢を叶える時に側にいたいと、ジャンの夢の舞台である王立騎士団で侍女として働くことになる。しかし、そこで待ち受けていたのは、美しい女性と頻繁にデートするジャンの姿だった。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...