余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

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25話 焦り

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「…………」

  何気なく過ごしているうちにいつの間にか放課後になっていた。

  まだゴールデンウィークの名残のせいで気ダルいが、今日は水曜日。もう少しで土曜日だと思えば案外気楽だ。

「なぁ、海斗」

「ん?どった?」

  俺の机に座り、スマホを弄っている海斗に話しかける。

  こっちを振り向く素振りすら見せずにずっと画面を見ていた。

「おい、海斗ほこたて」 

  俺はその態度に何故か怒りが湧いてきた。

「んだよ。暇なんだから良いだろ?こちとら六連敗してんだぞ?」

「それはお前の実力不足だ。それよりも早くバイト行けよ」

  俺は発言した後にハッとした。いつもよりも少しトゲのある言い方になってしまった。本来なら笑いながら会話できるのに……。

  瑠魅の事で頭がいっぱいで焦ってるのかもしれない。今の状況は俺にとってマズイ状況なのだろう。

「どうした、蓮?なんかピリついんてんな」

  余裕がなくて言葉にトゲがある。自分でも分かるし、罪悪感のようなものが湧いてくる。

「あ、そのごめん……些細なことで……気にしないでくれ、本当に小さいことなんだ」

  そうだよ。こんなことで余裕が無くなるなんて意味がわからないよな。自分でも馬鹿らしい。

「そうか?無理すんなよ?頼りたい時は頼ってよな。じゃあ俺は行くぜ。じゃあな」

「あぁ、ありがとな。また明日な」

  俺は軽く手を振って海斗を見送った。

  いつもは馬鹿な言動で忘れがちだが、本来はあぁ言う気遣いのできる奴だ。

  だからクラスでも中心的な人物なんだろう。

  だからかな。対比しちまう。こんな嫌な自分が浮き彫りされちまう。

  時折思うんだ。俺はアイツらの友達として対等なんだろうか。みんな特出した何か……自分の強みを持つ中で、俺には何があるんだ?

  たまに聞く、『俺から〇〇を引いたら何も残らない』というセリフ。でも、俺はそもそも何かを引くことすら出来ない状態なんだ。

  何か引く。そんな比喩すらも俺じゃ不可能。

「ほんと、嫌になるぜ」

  ほんとに嫌になる。こんな自分がウザイ。

  自分には何も無いだと?それは間違ってる。

  俺には自分と比べられる程、素性を知った相手が……友達が居る。すんごいスペックの友達が、だ。

  思考をマイナスにするな。常に前を向くんだ。

「これ以上失う訳には、いかねぇもんな」

  俺は厨二チックな言葉を吐き捨て椅子から立ち上がった。

  教室に残ってる人たちは特別仲の良いわけではなかったので、静かに教室から出た。

「あれ、今帰り?」

「……亮」

  人懐っこい笑みを浮かべながらこちらに近付いてくる亮。

「珍しいな、お前が一人なんて」

  いつもはクラスの友達とワイワイしながら帰ってるのに。

「蓮が教室から出てくるのが見えたからね」

「……それだけか?」

  普通そんな理由で俺の方に来るか?コイツの友好関係は広く深いからな。

  俺は亮の事特別な友達だと思ってるが、亮からすれば有象無象の一人だと思うのだが……。

「そうだね。それだけだよ。俺によって蓮は特別な人だからね」

「…………そうか」

  つい照れくさくて顔を逸らしてしまった。俺が一方的に特別だと思っていたが、亮も俺の事を特別、だなんてな……。なんか、驚きだぜ。

  にしても、亮はなんでこんな言葉を恥ずかし気も無く言えるんだよ。

「どうせ蓮は覚えてないだろうね」

「……そうだな。なんで俺が特別枠なのかなんて想像も付かねぇもんな」

「俺は蓮のおかげで今生きてるんだ。それだけは忘れちゃダメだよ」

「???」

  こう言っちゃなんだが、コイツ大丈夫か?

  俺がいつ亮を助けたってんだ?いつも助けられてるのはこっちなのに。

  亮のおかげである程度運動ができるし、亮自身の身体能力の高さのおかげで何度大怪我を回避したことか。

  それに、亮のおかげで赤点回避は余裕だ。教えるのがとてつもなく上手いのか、亮に教えてもらうと、その時のテストは全て八十点を軽く越えられる。

  だから、亮に感謝されるってのは違和感しかない。

「おっと。せっかく蓮と帰れるのに、変な話しちゃったね。今のは忘れてくれよ」

「あ、あぁ」

  やっぱりコイツはすんごいイケメンだなって再確認させられる。

  イケメン過ぎてもはや嫉妬すら出来んな。俺が亮だったとしても、こんな風に相手を気遣うのも、優しい笑みを浮かべるのもきっと無理だ。

「やっぱり、亮が友達で良かった」

「……え?」

「ん?どうかしたか?」

  驚いたようにこちらを見てくる亮。

  俺はもしや、と思った。もしかして、俺の心の声、出てた?と。

  亮が友達で良かったとは常々思ってるいるが、それを言葉にできる程俺は立派な人間じゃない。

  もし、聞こえてたなら……それはそれで良いかもな。いつもなら恥ずかしくて言えないから。

「いや……ううん。そっか。友達か……」

「お、おい。急にどうした?」

「いや、なんでもないよ。さ、帰ろ」

  その笑みはとても嬉しいそうであって……とても悲しそうだった。
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