余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

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18話 頼み事

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「まぁ、驚くのも仕方がない。さて、どう説明したものかね」

「………」

  俺は動揺を隠しきれなかった。神なんて信じてないし、居るとも思っていなかった。

  神なんて結局空想上の登場人物の一人と言う認識程度だ。

  人間の勝手な妄想で生まれたものだと思っていたのに……。

「な、え、は……な、なにが、え?は?え、えと……」

  なにかを言おうとして……何か言わないといけないような気がして、無理に口を開いた。

  でも、結局出てきた言葉は意味の無い単語ばかりだ。

  脳が上手く……全くもって機能してない。

「無理に喋らなくて良いよ。ちょっと落ち着こうか。ほら、深呼吸してみて」

「………スゥ、ハァ……スゥ、ハァ……」

  なんで深呼吸をすると落ち着くのか、そんな事を知ったこっちゃない。と言うか、全く落ち着けないんだけど!?

  でも、思考は良好のようだ。少しだけだけど冷静になれた気がする。

「えぇと……神、様がなんのようで?」

  普通に生きてる上で誰かに様付けする機会なんてない。

  少したどたどしくなったけど、さすがに神様相手に無礼は働けない。

「案外、すんなり信じるんだね。なんだか、驚いたよ」

「………思い当たる節はあるんで」

  初めて瑠魅のお父さん……神太さんに会った時、何故か俺の名前を知っていた。後で気付いたけど、俺、名乗ってないよね、名前。

  だけど、一番はその時の記憶がなぜかほとんど無いって事だ。

  まるで、記憶を消されたみたいにだ。

「ちょっと干渉しすぎたみたいだね。まぁ、そのことは置いておこう」

  自分でも驚くほど落ち着いていた。達観しているみたいだ。

「まずは誤解を解きたい。そもそもね……一年後に死ぬのは君でも瑠魅でも……他の誰かでもない」

「え?」

  反射的に出てしまった。その素っ頓狂な声は、俺のバカ加減を表してるみたいだ。

「厳密には、瑠魅が一年後にみんなの記憶から消えて……この世から去るって訳なんだ」

「っ………!!」

「僕はこの町の神様でね。君よりもずっと瑠魅の事を知ってたさ。だからね………頑張ったよ」

  明後日の方向を物寂しく眺めて、そんな事を言った。最後の頑張ったは、きっと俺に向けて言ったんじゃない。そんな気がした。

  それは、誰に言う訳でも無く、ただ呟いたように聞こえる。言い方は悪いけど、あれはまるでここに居ない誰かに言い訳するかのようだった。

「瑠魅はね。もともと君の家の近くにある千年桜なんだよ」

「……は?」

「僕とね……あともう一人。僕よりももっと偉い神様が千年桜瑠魅の願いを叶えたのさ」

「えっ、ど、どういう事だよ」

  一段落付いたのか、神太さんはお茶をすすった。だが、俺はそんな事をするほど余裕なんてなかった。焦りに近いのかもしれない。

  自分でも分からないが、なぜだか俺は焦っている。

「あの千年桜ね……来年の四月十日に枯れるんだ」

「えっ……」

  今日、何度言葉を失ったことか。何度思考がグチャグチャになったか分からない。

  平衡感覚がおかしくなって、上下左右がおかしくなってきてる。

「だからね……最後ぐらい彼女にも楽しんで欲しくてね」

  俺の目が潤んできた。涙が溜まる。視界が歪む。自分の感情がどうなってるのかなんてどうでもよかった。

  もう、抑えることはできなさそうだ。

「ずっと……そう、ずっと千年桜彼女は僕に言ってきたんだよ。蓮翔と会話がしたいって。少しでも長く過ごしたいって」

「…………」

  一気に色んな感情が取り留めなく来るものだから、整理できずにいた。

  一周まわって冷静になっていた。

「だからね。偉い神様に何度も何度もお願いしてね……何とか彼女を人間に出来たんだ。瑠魅の体のモチーフはね……君の理想系なんだ」

「っ………」

「彼女は……本当に、僕の娘同然なんだ。死ぬって分かってるのにさ……どうしても愛してしまうんだ」

「神太さん……」

  俺よりも早く神太さんの涙腺が崩壊してしまったようだ。俺の目は、共感性涙腺崩壊を起こしてしまい、一緒になって涙を流した。

  なんだよ、共感性涙腺崩壊って。

  はぁ……こんな時でもツッコミが出てくる自分が嫌になる。

  だけど、そんな事を思っていても涙は止まらない。

  一粒一粒がゆっくりと頬を伝う。号泣では無いので、それが唯一の幸いだ。

「彼女を……瑠魅を幸せにしてやって、くれ。あと一年間……彼女を頼む。幸せだったと……笑える最期を……彼女に頼む。僕では、無理だから」

  無理に言葉を紡いでたせいか、言葉は拙かった。でも、しっかりと感じた。

「俺なんかで……良いんでしょうかね。力不足かもしれませんよ」

「そうだね……君には役不足かもしれない。でも、君以上の適任者なんて……居ないさ。彼女は君と会話をしたくて、瑠魅として生まれたのだからね」

  初めて、人から明確に必要とされた気がする。替えのきかない役割。初めて有象無象の枠を突き破ったこの感覚は、なぜか心地よくて……悲しくなった。

「俺、なんとかーーー」

『面倒事を増やさいでよね、全く』

「「っ………!!!」」

  俺の言葉を遮るようように言葉がした。それは人の声にしてはあまりに無機質だった。

  何よりも、その声は耳ではなく、脳に直接聞こえた。
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