1 / 89
1話 出逢い
しおりを挟む
冬が過ぎて春を迎えた。適当に過ごしていた春休み。気付くと既に入学式がある四月十日だ。と言っても既に入学式を終えて下校中なのだが。
俺は去年高校に入学して、今日で晴れて高校二年生だ。
久々に自転車を漕いだせいか、はたまた家の中でぐうたらしていたせいか、そんなにスピードを出していないのに、かなり疲労している。
俺の家は大きな森の手前にある。その近くにある空き地の中央には樹齢千年の桜の木がある。
「あら、蓮ちゃん。早い帰りね」
「あぁ、八百屋のばっちゃん。今日は入学式だから午前中で帰れるんだよ」
「そうなの?今日も八百屋に来るのかい?」
「どうだろう?もしかしたら行くかも」
「是非いらっしゃい」
「わかったよ」
俺の住む町は田舎だからだいたいみんなが顔見知りだ。今日高校に入学した新入生はほとんどが知人だ。
うちの高校は特出したものは無いが、先輩後輩の仲がこの上ないほど良い。
住宅街を抜けると、田んぼが両側にある道に出る。秋になると金色の海のように綺麗になる。
右側には俺の住む家がある。もちろん、まだ遠いが。
だが、自分の家に帰る時、いつも最初に目に入るのは自分の家でも大きな森でもなく、千年桜だった。
あれはいつからか俺の中でお守りみたいな物になっていた。
俺は桜に対する知識が無いのでどんな種類の桜かは知らない。両親は、ただ桜が咲いているな、程度にしか思っていないので、この千年桜に全く興味が無い。
「はぁ……しんど」
俺は道端に自転所を止めて、桜のある空き地に足を踏み入れる。
「誰だ、あの子?」
俺の視界に映ったのは桜の木の下にうつ伏せで倒れている人だった。季節外れの白いワンピースを着ていた。服装や骨格からして女性だと思う。
もちろん遠目で見ただけなので完全には判断できないが、さすがにワンピースを男性が着ているのは想像でもしたくない。
まぁ、人それぞれ趣味は違うし、男性がタンクトップのワンピースを着ていようとも………。ごめん、無理かも。
そんな事を考えながら小さめの歩幅で桜の木(倒れている人)の方に歩いていく。
近づくにつれてハッキリとしたシルエットが見えてきた。
「ふぅ……」
艶のある髪だ。ロングのストレートって言うの?まぁ、とにかく長い髪だ。骨格もまぁ、男性と言うよりは女性っぽい。
まぁ、男性ではような気はする。最近では男の娘と言うものもあるので、断言は出来ないけど。
ずっと眺めていると犯罪だと思われてしまうし、この辺にしておこう。それに、他にやることもあるし。
俺は桜の木の下まで移動して、上を向いて桜の花を見た。そして、視線を下げて今度は足元にうつ伏せで倒れているその女性?の方を見た。
「顔が見えないからアレだけど見えるところだけ見るとかなり美人だな」
身長は俺よりも少し小さいくらいか?じゃあだいたい俺と同い年か?でも、こんな子今まで見たことないぞ。
この町の人なら一回は最低でも会っているはずだし……。
「ま、まさか……!?」
転校生かッ!?こんな田舎に転校してくるなんて……物好きな人も居るもんだな。
「春とは言え、その服はさすがに寒いだろ」
それにしても、なんでこの桜のところに居るのだろう?確かにこの町でかなり目立つ場所ではあるが……。
半分考えることを放棄した俺はいつも桜の木にするようにしゃがみ込む。
制服でなければ正座するのだが、制服を汚すことを考慮すると出来るだけ地面に制服はつけたくない。
しゃがみ込んだあと顔の辺りで二回拍手してから一礼をした。
「さて、どうしようか」
立ち上がり右下に倒れ込む女性?を見た。この場に置いていくのは気が引ける。
「と言ってもさすがに家には連れて行けないし……」
両親が居るかは分からないけど、やっぱり家に連れ帰るのは犯罪の匂いがする。
「だからってこの場に置いていくのはなぁ……」
俺はどうすれば良いか悩みに悩んだ。結果から言って何も思い浮かばなかったが。
万策尽きたと思い、考えるのをやめた。
「んん……」
「っ……!!!」
人の声がしたので慌てて周囲を見た。だが、近くに人影はみつからなかった。
周囲に人が居なかったので視線をその倒れている女性?に戻した。
「あなたは誰?」
「…………」
さっきまで倒れ込んでいたその女性は女の子座りしてこちらを見ていた。
起きたばかりだからだろうか。片手で目を擦りながらこちらを上目遣いに見てくる。
マジの美少女やんけ。やべぇ、このレベルの美少女はアニメだけでしか見たことないから耐性が皆無だ。緊張してきたぞ。
「あっ……と君はなんでこんな場所に?」
何とか絞り出せたのはこんな言葉だった。まぁ、無難だと思う。
「分からないの」
「へっ?」
予想だにしない答えに素っ頓狂な声を出してしまった。とても恥ずかしいです、はい。
「ここは、どこなの?」
「っ……!」
首をコテンをさせてそう聞いてきた。今までにこういうあざとい仕草をする女子には会ったことがある。
だが、アレは言わば狙ってやっているのだ。しかし、これは天然!何の画策もなし(多分)のこれは破壊力が違う。
「ちょ、たんま」
「????」
これ以上は本当にやばい。俺の理性が崩壊しそうだ。もう直視出来んて!
「君の家はどこにあるの?」
「家?」
もう!仕草一つ一つが可愛いんだよ!
俺はこの女性に背を向けながら質問をすることにした。
「何か自分の事で覚えてることとかない?」
もう相手に任せよう。俺の質問が悪いのかもしれないし。
「分からない……何も覚えてないの」
「…………」
えぇと……あの、どうすれば良いでしょうか?
俺は去年高校に入学して、今日で晴れて高校二年生だ。
久々に自転車を漕いだせいか、はたまた家の中でぐうたらしていたせいか、そんなにスピードを出していないのに、かなり疲労している。
俺の家は大きな森の手前にある。その近くにある空き地の中央には樹齢千年の桜の木がある。
「あら、蓮ちゃん。早い帰りね」
「あぁ、八百屋のばっちゃん。今日は入学式だから午前中で帰れるんだよ」
「そうなの?今日も八百屋に来るのかい?」
「どうだろう?もしかしたら行くかも」
「是非いらっしゃい」
「わかったよ」
俺の住む町は田舎だからだいたいみんなが顔見知りだ。今日高校に入学した新入生はほとんどが知人だ。
うちの高校は特出したものは無いが、先輩後輩の仲がこの上ないほど良い。
住宅街を抜けると、田んぼが両側にある道に出る。秋になると金色の海のように綺麗になる。
右側には俺の住む家がある。もちろん、まだ遠いが。
だが、自分の家に帰る時、いつも最初に目に入るのは自分の家でも大きな森でもなく、千年桜だった。
あれはいつからか俺の中でお守りみたいな物になっていた。
俺は桜に対する知識が無いのでどんな種類の桜かは知らない。両親は、ただ桜が咲いているな、程度にしか思っていないので、この千年桜に全く興味が無い。
「はぁ……しんど」
俺は道端に自転所を止めて、桜のある空き地に足を踏み入れる。
「誰だ、あの子?」
俺の視界に映ったのは桜の木の下にうつ伏せで倒れている人だった。季節外れの白いワンピースを着ていた。服装や骨格からして女性だと思う。
もちろん遠目で見ただけなので完全には判断できないが、さすがにワンピースを男性が着ているのは想像でもしたくない。
まぁ、人それぞれ趣味は違うし、男性がタンクトップのワンピースを着ていようとも………。ごめん、無理かも。
そんな事を考えながら小さめの歩幅で桜の木(倒れている人)の方に歩いていく。
近づくにつれてハッキリとしたシルエットが見えてきた。
「ふぅ……」
艶のある髪だ。ロングのストレートって言うの?まぁ、とにかく長い髪だ。骨格もまぁ、男性と言うよりは女性っぽい。
まぁ、男性ではような気はする。最近では男の娘と言うものもあるので、断言は出来ないけど。
ずっと眺めていると犯罪だと思われてしまうし、この辺にしておこう。それに、他にやることもあるし。
俺は桜の木の下まで移動して、上を向いて桜の花を見た。そして、視線を下げて今度は足元にうつ伏せで倒れているその女性?の方を見た。
「顔が見えないからアレだけど見えるところだけ見るとかなり美人だな」
身長は俺よりも少し小さいくらいか?じゃあだいたい俺と同い年か?でも、こんな子今まで見たことないぞ。
この町の人なら一回は最低でも会っているはずだし……。
「ま、まさか……!?」
転校生かッ!?こんな田舎に転校してくるなんて……物好きな人も居るもんだな。
「春とは言え、その服はさすがに寒いだろ」
それにしても、なんでこの桜のところに居るのだろう?確かにこの町でかなり目立つ場所ではあるが……。
半分考えることを放棄した俺はいつも桜の木にするようにしゃがみ込む。
制服でなければ正座するのだが、制服を汚すことを考慮すると出来るだけ地面に制服はつけたくない。
しゃがみ込んだあと顔の辺りで二回拍手してから一礼をした。
「さて、どうしようか」
立ち上がり右下に倒れ込む女性?を見た。この場に置いていくのは気が引ける。
「と言ってもさすがに家には連れて行けないし……」
両親が居るかは分からないけど、やっぱり家に連れ帰るのは犯罪の匂いがする。
「だからってこの場に置いていくのはなぁ……」
俺はどうすれば良いか悩みに悩んだ。結果から言って何も思い浮かばなかったが。
万策尽きたと思い、考えるのをやめた。
「んん……」
「っ……!!!」
人の声がしたので慌てて周囲を見た。だが、近くに人影はみつからなかった。
周囲に人が居なかったので視線をその倒れている女性?に戻した。
「あなたは誰?」
「…………」
さっきまで倒れ込んでいたその女性は女の子座りしてこちらを見ていた。
起きたばかりだからだろうか。片手で目を擦りながらこちらを上目遣いに見てくる。
マジの美少女やんけ。やべぇ、このレベルの美少女はアニメだけでしか見たことないから耐性が皆無だ。緊張してきたぞ。
「あっ……と君はなんでこんな場所に?」
何とか絞り出せたのはこんな言葉だった。まぁ、無難だと思う。
「分からないの」
「へっ?」
予想だにしない答えに素っ頓狂な声を出してしまった。とても恥ずかしいです、はい。
「ここは、どこなの?」
「っ……!」
首をコテンをさせてそう聞いてきた。今までにこういうあざとい仕草をする女子には会ったことがある。
だが、アレは言わば狙ってやっているのだ。しかし、これは天然!何の画策もなし(多分)のこれは破壊力が違う。
「ちょ、たんま」
「????」
これ以上は本当にやばい。俺の理性が崩壊しそうだ。もう直視出来んて!
「君の家はどこにあるの?」
「家?」
もう!仕草一つ一つが可愛いんだよ!
俺はこの女性に背を向けながら質問をすることにした。
「何か自分の事で覚えてることとかない?」
もう相手に任せよう。俺の質問が悪いのかもしれないし。
「分からない……何も覚えてないの」
「…………」
えぇと……あの、どうすれば良いでしょうか?
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
さよなら私のエーデルワイス〜侍女と騎士の初恋〜
佐原香奈
恋愛
小さな村で幼馴染として育ったエマとジャン。小さい頃からジャンは騎士を目指し、エマはそれを応援していた。
ジャンは成人する年、王都で開かれる各地の騎士団採用試験として行われるトーナメント戦に出場するため、村を出た。
一番の夢であった王立騎士団入団は叶えられなかったものの、辺境伯家の騎士団に入団することになったジャンは、胸を張ってエマを迎えに行くために日々鍛錬に励んでいた。
二年後、成人したエマは、ジャンが夢を叶える時に側にいたいと、ジャンの夢の舞台である王立騎士団で侍女として働くことになる。しかし、そこで待ち受けていたのは、美しい女性と頻繁にデートするジャンの姿だった。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる