君の眼鏡をかけることはできないけれど。

第一章

仕事帰りの憂鬱。

「まもなく電車が参りますー。危ないですから黄色い線の内側までー」
今日も怒涛の一日だった。今日も頑張って仕事をした。今日は何を食べようか・・・。
そう思いながら、重たい足取りで僕は電車に乗り込んだ。

電車に揺られながら帰る僕は25歳、会社員の小野田雄介おのだ　ゆうすけ。
これという趣味はなく、料理をしながら酒を飲むのが好きな独身だ。
当然彼女はおらず寂しい日々を過ごしている。
会社で気になる人はいるものの、何も出来ないまま一日を繰り返している男だ。

スマホで”社内恋愛”と検索をかけては予測変換に”社内恋愛　ばれる”など出てきてハードルが高いといつも考えている。

気になる人は同じ部署の坂下美歩さかしたみほさん。デスクも彼女とは近くあまり話すことはないが、
それなりに同僚として仲は良いと思ってはいるつもりだ。
今日も仕事の資料を手伝ってほしいと言われ、二人で夜遅くまで資料作りに励んでいたのだ。

ご飯に行きましょうと誘われたが自分に自信がなく断ってしまった。
行けばよかったなと心の中で悔やみながら、電車を降りた。