勇者、囚われました。

茶葉茸一

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第五話 姫様、学校かよ。

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 目が覚めると、はこじんまりとした殺風景な部屋の中で一人ベッドに横たわっていた。
 ほんの数時間前までは『二人』と一緒に森をさまよっていたはず。…………二人って、誰だ?
 何も思い出せない。森で迷っている最中奥に光を見つけて、そこを目指して仲間たちと歩ってていたことまでは覚えているのに、肝心のその『仲間たち』が誰なのか、何故アタシは森の中にいたのかがよく思い出せないでいた。

 ていうかアタシは何者なんだ?
 そうベッドの上で自問自答にふけっていると、部屋の外から扉を叩く音が聞こえる。

「あの、、さん? そろそろ、起きて」

 外から聞こえてきたのは、か弱そうな女の子の声だった。
 え、姫島? アタシのことを言っているのかな?

「う、うん! ごめん、ちょっと考え事してて……今、開けるね!」

 アタシはベッドから飛び起きると、一目散に扉の前へと向かい勢いよく開いた。

「わっ、わ、び、びっくり、させないで……危ないよ?」
「ご、ごめん! 勢いつけ過ぎたね!」

 目の前には丸眼鏡が特徴的なとても可愛らしい女の子が、ちょっと起こっているのか頬を膨らませて立っていた。
 うわ、何だコレ! めちゃくちゃ可愛いなこの子!

「ひ、姫島さん、わたしが、起こしに、来なくても、起きれる、ように、なって」
「あ、あー、あれ、そうだったっけ?」
「毎日、来てる、でしょ? 忘れたの?」
「え! そ、そんなことないって! ね、寝ぼけてるだけだよ!」
「ほんとう、かな?」

 彼女はきょとんと小首を傾げる動作をする。
 えぇぇぇぇぇぇ、アタシこんな可愛い子に毎日起こされてたの!? いや、ぜんっぜん思い出せない! こんな可愛い子に毎日起こされてるのに忘れるなんて、罰当たり過ぎるでしょ!

「ホント、ホント! ほ、ほら早く起こしたのも何か急いでるからなんでしょ!? 急ごう!」
「あ、うん、学校、遅刻しちゃうよ」

 学校って、なに? アタシって学校なんて行ってたっけ? なんか違うような、もっとこう殺伐とした『何か』をしていたような……。そもそも森で迷ってたのに、何で学校なんて通ってるんだろう。
 記憶が曖昧で気持ち悪い。

「どうしたの? 具合、悪いの?」

 考え込むアタシを心配そうな顔で覗き込む彼女。そういえば、この子の名前はなんていうんだろう?
 それすらも思い出せないでいた。

「だ、大丈夫だよ! それより早く学校行こう!」
「うん。でも、その前に、洗面台あっちで、顔、洗ってね」
「わかった! 行ってくる!」

 まあ名前は後でそれとなく聞けばいいか。記憶についても学校へ行ったら何か思い出すかもしれないし。
 アタシは彼女が指差した方向へと向かって走り出した。

 彼女が遠くの洗面所へと行ったことを確認すると、『少女』は独りでに片手を耳に当てる動きをし話し始めた。

「…………リ、、計画、うまく、いきました」
『オーケー! 『姫様』のやつちゃんと記憶飛んでるねっ。も演技問題無かったよ!」
「あ、ありがとう」

 メデュ子は少し頬を赤らめ、彼娘かのじょからの賞賛の言葉に喜びを感じていた。

 そう物語の冒頭からすでに、勇者リコルスの作戦は始まっていた!
 現在メデュ子は『伝令送受信機』という名の小型魔導具を片方の耳に取り付け、彼娘かのじょと連絡を取り合っていた。

『いやー、にしても普通ににかかるとはね。記憶の置き換えもしっかり出来てるし』
「ちょっと、怪しい、とこも、あるけど……ひとまず、成功」
『まーも記憶置き換わってるはずだし、なんとかなるでしょ? とりあえず、姫様が完全に無防備になるまでは大きな動きは出来ないからね』
「うん、『英雄の剣』が、見つからない、から、油断、大敵」

 当初の予定では幻術へと誘い込む眠りの魔法をかけた段階で『英雄の剣』を奪取する手筈だったが、フェリシの周辺を探しても剣はどこにも見つからず、メデュ子たちは派手な動きを出来ない状態にあった。
 例え幻術にかかっているとはいえ、チート級の武器を持つ彼女が相手では何かの拍子に武器を取り出し、こちら側に攻撃を仕掛けてくる可能性も十分に検討出来るため、慎重に行動することを余儀なくされていた。

『咄嗟にどこかへしまったのか? まったく面倒なことをしてくれるよ』
 武器を保管する系のスキルで隠しているのか? どちらにしろそういう魔法は、本人の意思でないと発動されないことがほとんどだからな。むやみやたらに探りを入れるのはよそう。これも一応は予測していたし。

 リコルスたちは前回、姫フェリシパーティを惑わしの森で遭難させた挙句、長時間迷い続けたことで思考能力や体力が低下した彼女たちに対し悪魔を使って『記憶を置き換える幻術』をかけていたのだ。
 それにより彼女たちはに軽い記憶喪失の状態に陥り、そこに彼娘かのじょが従える悪魔(ナベリー)や人間(ナベリーの生徒)たちによる記憶の刷り込みを行い、自分たちは『元からこの学校の生徒だった』と思い込ませるまでが目的の一段階である。

『生徒として徐々に学校へ馴染んだら、おのずと警戒心も解け英雄の剣も投げ出すだろ。そしたら剣及び姫の略奪を実行し、後の二人は例のごとく記憶無くして森の外へポイ捨てすればいい』
「カンペキ、な、作戦、です!
『……カンペキかこれ? 良心は痛まないのか? 仲間が悪魔にいいようにされてるんだぞ?』
『そもそも自分を救出に来た相手にする仕打ちではないですよね? 記憶の置き換えも後遺症が残る場合もあるんですよ?』

 伝令送受信機の向こう側、リコルスの後ろで魔王サタンとそのお世話役バーティンが彼娘かのじょの行いに対し疑問を呈していた。さすがの悪魔といえど彼娘かのじょの蛮行にはツッコミを入れざるを得ない。

『あいつらに何ぼ後遺症が残ったって、ボクの知ったことじゃないね』
『悪魔かお前は!? もう少し仲間のことを大切にしようよ!?』
『ボクはボクのことしか大切にしない!』
「ステキ、です!」
『……メデューサ、目を覚ましなさい。感化されてはいけません』

 相変わらず突き抜けた汚れ具合を見せるリコルスに対して、尊敬の念を抱くメデュ子に一方で軽蔑の念を抱くサタンたち、どこかお互い複雑な心境になりつつも作戦は進行していく。

「あ、姫様が、もどって、きます」
『わかった! 指示がある時はこれを通して伝えるから、まずは学校に向かって!』
「は、はい」

 咄嗟にメデュ子は耳に添えていた手を戻し、向かってくるフェリシの元へと向き直る。

「ごめ~ん! 待ったよね?」
「大丈夫。それより、学校、いこ」
「うん!」

 二人は身支度を済ませると、『学校』がある棟へと向かって早歩きで寮を出ていった。
 これからに振りかかる、様々な試練があるとも知れずに。


 ーー二人は学校内の教室へと移り変わり、それぞれ指定された席へ着くーー


 席もちゃんと指定されていた……。といっても、アタシが覚えてないだけで当たり前のことか。
 学校に着いてからも何一つ思い出せないままでいるアタシのところに、何故か妙に『聞き慣れた』声で話しかける人物がいた。

「んも~、ちゃんじゃな~い! 朝は寮の食堂に見なかったけど、お寝坊さんしてたのぅ~?」

『フェリシ』アタシの下の名前か?
 それよりもこの声、どこかで聞いたことあるような? ていうか、コイツは女子なのか? 制服見た感じ、下はスカートを履いているけど、なんかゴツゴツしてるし気持ち悪いし、声も男っぽくて気持ち悪いし。

「おはよう、武藤ぶとう尻臼子しりうすこちゃん」
「おっは~! メデュ子ちゃ~ん」

 この気持ち悪い生物の名は武藤尻臼子というのか、そして朝一緒に教室まで来た可愛い子がメデュ子ちゃんか。得体の知れないキモイ物体と並ぶと、よりメデュ子ちゃんの可愛さが引き立つな。
 にしてもこの声と武藤子という名前といい、何かが引っかかる感じがする。
 アタシはこのオカマを知っている?

「メデュ子ちゃ~ん、ワタシのことは『しり子』でいいって言ってるじゃ~ん! フルネームで呼ばれるとむず痒い~!」
「いや、その呼び方は、何か、抵抗感が、あるから」
「『しり』がダメなの!? それなら『ケツ』は!?」
「変わって、ないよ、意味合い」
「意味合いってなによ!? んまっ、あなたお下劣なこと考えてるんでしょ!? 『しり』と『ケツ』のどこが下品なのよ!? どちらも同じ『穴』を掘ってるのよ!? それとも『穴』がいけないの!? 『穴』が何をしたっていうのよ!?」
「いや、穴は掘る前からそこにあるから。アンタが一番下品なこと考えてるでしょ」
 こんなのと知り合いだなんて死んでも御免なんだけど。

「何なのよ! フェリシちゃんまでワタシのこと下品扱いしてっ! んもぉぉぉぉぅ!」
「いやもう、存在自体が下品なの。存在自体がR指定なの。あとその『んも』って言うのやめてくれない? アゴ割るよ?」
「誰のアゴがケツアゴよ!」
「言ってねーよ」
「ケンカ、しないで、ね」

 話せば話すほどに不愉快なオカマだな。コイツは絶対、記憶にうっすらと残る二人の中には入らないな。
 メデュ子ちゃんはセクハラされて顔赤くなっているし、あまりにもしつこいようなら締めるしかない。

「ほんっと、女子って上辺で判断するわよねっ。んもっごほあぁッ!?」

 しまった。つい鳩尾みぞおちに鉄拳を打ち込んでしまった。
 目線の下でオカマが生まれたての小鹿のように、小刻みに震えながらうずくまっている。

「あらあら~、ケンカですか~?」

 後ろからまたもや聞き覚えのある声が聞こえた。

「アナ、先生」
「え、先生?」

 そこに立っていたのは銀髪に紅い瞳をした美少女、少し身長はアタシよりも低めだが大人の色気を持つ不思議な人だ。彼女は白衣から『回復ポーション』を取り出すと、ケツ子に差し出す……素振りをしてそのまま自分で飲んだ。
 …………え? 何やってんの、この人。

「先生、ポーションなんで飲んだの?」
「え~? 必要だった~?」
「必要っちゃ必要でしょ。元凶のアタシが言うのも変だけど、そこでケツ子が負傷してるの見えるでしょ?」

 ケツ子は返事が無い。ただの屍のようだ。
 もう手遅れか? これ。

「おしりが痛いの~? 痔持ちなの~?」
「あの、名前、です」
「『痔』なんて生徒いないわよ~?」
「先生そっちじゃない。ケツの方」
「女の子が『ケツ』だなんて、めっですよ~?」
「話し進まねーよ」

 この話しのテンポ、どこか懐かしく感じる。親近感? みたいかな。
 アナ先生は倒れているケツ子を容赦なく踏みつけて、気に留めずに教壇がある方へと歩いていく。
 本当に教員なのか疑わしいな、普通死にかけの生徒をヒールでさらにトドメ刺しに行くか? どこぞの女王様だよ。

 周りの生徒もこの光景に慣れているのか、誰一人ケツのことを心配する者はいなくそれぞれが自身の席へと着いた。気付いてないフリするのも優しさなのか?
 自分で負傷させておいてなんだが、ちょっとだけ可哀そうだなと思った。
 メデュ子ちゃんもいつの間にか、自分の席に戻ってるし。さっきまで心配する素振り見せてたよね? 彼女もドSなの? このクラスってドSしかいないの? こんなとこでアタシは生活していたの?

 不安に苛まれながらも、授業開始のチャイムは鳴り響く。
 とりあえず、アタシもみんなに合わせてケツ子のことは放置しよう。集団心理って怖いな。

「は~い、授業はじめますよ~?」

「「「はーい」」」

 何事もなかったかのように授業は始まっていく。ケツ子はまだ倒れたままだ。

のやつおぞましいほどに気持ち悪かったな』

 メデュ子の耳には魔道具越しに、リコルスたちの会話が聞こえていた。
 この魔道具は音漏れも防ぐ優れものなため、隣の席に座るフェリシにもその会話の内容は聞こえていない。

勇者おまえがオカマの設定を無理矢理入れ込んだんだろ!? よくも自分の仲間を無下に扱えるな!?』
『あいつはキモイからあのまま退場させよう。メデュ子もやりづらそうだったし』
 想像以上のキモさに吐くかと思った。設定しておいてなんだけど。

「たすかり、ます」

 さすがにメデュ子もオカマに変わり果てたシリウスの醜悪な態度にはストレスを抱えていたのか、彼娘かのじょの提案に安堵の声を漏らす。

『シリウスってやつに恨みでもあんの?』
『ケツアゴが受け付けない』
『全世界のケツアゴの人に謝れよ!』
『大体あいつエルフのくせにむさ苦しいんだよ、武闘家だし。エルフなんだから、もうちょっと知的で清楚な感じでいろよ。美少女のボクの側にいるのもおこがましい』
『黒いよ、この勇者! 真っ黒で底が見えねえよ!』
「黒い、リコちゃんも、ステキ、です」

 メデュ子ちゃん、何一人で話してんだろ?
 授業の内容もよく分かんないし、なんか退屈だなぁ。皆と冒険したりして楽しかったな。
 …………皆と『冒険』ってなに? 何でふとそんなこと思ったんだろ。アタシは元々『この学校にいなかった』ってこと? ワケが分からん。

「……ん、姫島、さん」
「え!? あ! ご、ごめん!」
「どう、したの? ボーっと、して」
「い、いや~、授業が退屈だったから考えごとしてた!」
「かんがえ、ごと?」
「ん~、『冒険』のこととか!」
「……ッ!」

 今、ほんの一瞬だけど、メデュ子ちゃんが少し目を見開いたような気がした。
『冒険』って言葉に対して反応したのか?

「おかしい、ね? 学校に、通って、いるのに」

 おかしい? のか。それになんで『ずっと』学校に通っていることを強調したんだろう?
 彼女は何か隠しているのか?

「そう、だね。ね、アタシお腹すいちゃった! 食堂行かない?」
「うん。でも、その前に、アナ先生が、呼んでたよ?」
「えぇ~!? サボってたのバレてたか」
「そう、かも、ね」

 とりあえず『今』聞くのはやめておこう。何故だかその方がいい気がする。野生の勘というやつだろうか。

「じゃあアタシ、職員室行ってくるから! 先に食堂で食べてて!」
「わかった」

 すぐに用事を済ませてご飯食べなくちゃ! 朝も寝坊して朝食抜きだし、それにも食べてない気がするんだよな。
 アタシは足早に職員室へと向かった。

 その姿を見送るメデュ子は彼女の言動に対し、不信感を持ち始めていた。

「…………き、気付いてる?」
『いや、まだ気付いてはいないんじゃないかな? メデュ子に何か聞こうとしてたし……疑い始めてはいるんだろうけど』
 もう幻術の効果が薄れてきたのか? 早すぎる。あのバカは完璧にハマっているのに。

『大丈夫なのか? 姫様は英雄の剣を持っているんだろ? もし記憶を完全に取り戻したら、メデューサたちの身が危ないだろ?』
『それについては心配ないかと。メデューサやナベリーたち悪魔はともかく、あの学校のほとんどは人間の子供なのですから、そう簡単に手は出さないでしょう。リコルス殿と違って』
『一言余計だよ? まあ、バーティンの言う通り、直接的に危害を加える可能性は低いと思う。けど英雄の剣を出された時点で、悪魔たちこちら側が姫様を攫うことはほぼ不可能になるよ。素手で武闘家をノックアウトしてるんだよ? ゴリラだよゴリラ』
『となると時間は限られてきますね。幻術自体、効力が長く持つ魔法ではありませんし、肝心の姫にかかっている術も効力が弱いともなると……』
『…………効力、ね』

 そこでリコルスはある疑問を抱いた。フェリシは幻術の効力は弱いものの記憶は曖昧になっており、シリウスは完全に別の生命体オカマへとなり替わっていた。
 しかし、ある人物だけは口調も性格も変わらずにいた。

『……何で他の二人のような変化が見られないんだ?』

 そう僧侶吸血鬼のアナスタシアだけは口調も普段と変わらず、猟奇的でドSじみた言動にも変化が見られなかった。つまり、いつも通りの彼女であったということだ。

『その女性、確か吸血鬼だとおっしゃっていましたよね? 吸血鬼であれば、上級以上の魔法を扱うことが可能です。幻術を防御する魔法なども使えるはずですよ?』

 バーティンのある言葉に、リコルスは自分が重要なことを忘れていたことに気付いた。

『し、しまったぁぁぁぁぁぁぁッ! あいつにキャラ設定があったこと、すっかり忘れてたーーー!』
 あいつ血を吸ったりとか、十字架やニンニク嫌がったりする素振り見せなかったから、普通に吸血鬼だったこと忘れてたぁぁぁぁぁぁ!!

『仲間の設定忘れんなよ!?』
『ボクは基本、美少女かそうでないかでしか区別しないから!』
『もうちょっと、違うステータス見るとこあんだろ!?』
『なに? スリーサイズとか? 変態なの? ドン引きなんですけど』
『そっちじゃねぇよ!? 戦闘のパラメーターとかだよ!』
『サタン様は胸の大きな女性に惹かれるそうです』
『スリーサイズ見てんじゃん』
『見てねぇよ!? つか、バーティン何言ってんの!? べ、別に巨乳なんか好きじゃねーし! そういうの興味ねぇし!』
『おたわむれを。ベッドの下にたんまりとコレクションしてるじゃないですか?』
『おまっ、何見てんだよ!? ちげーから! たまたま友達に預かってて欲しいって言われて預かってるだけだから! 自分で買ったりとかしてないから!』
『え? サタン、友達いたの?』
『え? 購入したレシートありましたよ?』
『お前らお願いだから黙っててくんない!?』

 そしてリコルスたちが話しを進めている間、渦中のアナスタシアも密かに動き始めていた。
 彼女はこの『領域』に入ったその時から、自身に防御魔法プロテクションを付与することによって幻術魔法を防いでいた。
 では何故、そのような高等魔法が使えるにも関わらず、フェリシとシリウスは幻術にかかったのか? 
 その理由は明白。だからだ!
 彼女もさすがは勇者リコルスの仲間であるだけ、何よりも人が嫌がることや苦しむ姿に一種の快楽を覚える性癖を持つ特殊な人種であった。そのためフェリシにのみ万が一に備え少しだけ魔法を付与し、シリウスについては一切何も付与せず敵地へと踏み込んだのだ。彼はどうなってもいいので。
 ちなみにそんな彼を『オカマ』へと変えたのも彼女の仕業である。
 この僧侶は仲間に対してなのであった!

「アナ先生、用事ってなんですか?」

 そして何も知らないフェリシは彼女の元へと足を運んでいた。
 職員室の中は『二人』だけしかいない、異様な雰囲気に包まれていた。

「よくきました、姫様~?」

 姫、様? この先生は何を言っているんだ? アタシは『姫島フェリシ』じゃないのか?
 彼女の口から出て来た言葉に理解出来ず、その場で固まってしまう。

「あ~では、『姫島さん』でしたね~?」
「…………こっち、では?」

 さっきから何を言ってるんだこの人? 『こっち』では? やはり、この人は何かを知っているのか?
 もしそうだとしたらが話しを聞くチャンスなのでは?

「何か、知ってるの?」
「はい、知ってますよ~?」
「アナタは誰なの? アタシは一体何者なの? なんでこの場所にいるの?」
「そんないっぺんに聞かなくても、すぐに思い出させてあげますよ~?」

 彼女はそう言うと、アタシの胸に手を置き呪文を唱え始めた。

「眠り彷徨う迷人うつつ幻からこれ覚める『幻幻打破』」
「ーーッ!? 呪文ダさ!?」

 突如、辺りは白い光へと包まれアタシを包み込んだ。その瞬間、頭の中にこれまで欠けていた記憶が蘇っていく。
 自分が一国の『姫』であること、勇者リコルスと二人の仲間たちと一緒に冒険をしていたこと、魔王に囚われた彼娘かのじょを救出する道中でこの森に入ったこと、全てを思い出した。

「…………迷惑かけたわね。
「そんなに時間はかからなかったですよ~?」
「はー、何だか悪い夢でも見てた気分だわ」
「たしかに、シリウスの件は悪い夢ですね~?」
「……てかさ、最初から幻術にかかっていなかったんでしょ? 何で早く解かなかったの? 特にシリウスとか。醜悪過ぎて目も当てられないよ、アレ」
「なんか、おもしろくて~?」
「面白がるなよ!? アンタ『そういう』とこあるよね!? 変なとこはリコルスアイツそっくりだよ!?」
「それは心外です~?」

 ついに記憶を取り戻し、復活を果たした姫フェリシ。
 幻術を解いてくれたアナスタシアには感謝をしているが、早く解かずに少し状況を楽しんでいたり、シリウスについてはオカマキャラになっていたりと微妙な気持ちになる彼女であった。

「シリウスは元に戻さないの?」
「邪魔なので~?」
「邪魔!?」
「はい~?」

 アナスタシアにはある考えがあった、それはこの森奥深くの校舎へと自分たちを導いた黒幕を探すこと。
 彼女はフェリシたちが記憶を置き換えられてパニクっている間にも、密かに学校の教師になったフリをして潜入捜査をしていた。
 決して使えない二人をただおちょくっていたワケではない。

「この森、なんか怪しいですよね~?」
「まあ怪しいっちゃ怪しいよね? 惑わしの森の中に『人間』が通う学校があるんだから」
「それもそうなんですけど~? 悪魔人がいないんですよ~?}
「……言われてみれば、そうだね。周りは人間の子供ばかりで、皆当たり前のように生活してるし」
「はい~、どう考えてもこんな場所に~人が学校なんて、作れないと思うのですよ~?」
「ってことは、この中に『悪魔』がいるってこと?」
「その線が濃厚ですね~?」

 惑わしの森は通常、人が寄り付かない危険な区域として近隣の人々に認識されている。そんな場所に学校を建て尚且つ、人間の子供が通っている光景はどう見ても異常でしかない。
 だがアナスタシアは教師として潜入している時から、もう一つの異変を目の当たりにしていた。

「それにわたし以外に『教師』が~んですよ~?」
「えぇ! あ、だから職員室来ても、アナスタシアだけだったのね」
「どうやら警戒されてるみたいです~?」
「いよいよ悪魔が関与してるっぽいわね。生徒の中にそれっぽい子はいたの?」
「はい~、『石田メデュ子』この子をマークしてました~?」

 フェリシも彼女のことを疑っていた。初めてこの場所に来た時から自分のことを気に掛けてくれる仕草や、授業中も独り言が目立ち、極めつけは記憶を思い出しかけた時に口に出した『冒険』していたという言葉に対しての反応など、怪しい部分は多々あった。

「やっぱり、メデュ子ちゃんは怪しいわよね」
「姫様~見惚れてましたよね~?」
「う、うるさいなぁ! だってめっちゃ可愛いじゃん、あの子!」
「なんにせよ~彼女のマークは頼みましたよ~?」
「わかってるわ。お互い元に戻ったことは隠さないとね。『英雄の剣』を使うにも人間の子供たちがいる場所では危険だし。それにあの子たちも洗脳されてるかもしれないし」
「はい~、まずはお互い~の自分になりきり~生活しましょ~?」
「そうね。ひとまずアタシは彼女の元へと行くわ。お昼食べる約束したしね」
「お気をつけて~?」

 フェリシはそう言い残すと職員室を後にし、標的であるメデュ子が待つ食堂へと向かった。
 そして彼女たちの異変に気付いた悪魔ナベリ―も、次の段階へと行動を移しにかかっていた。

「リコルス殿! ケツ子を除く二人が動き出しましたぞ! 標的をメデュ子殿に定めております!」
『あー、やっぱりアナスタシアのやつ幻術解いてたか。にしても姫様も幻術が解けたとなると、かなり厳しい戦況になるな』
 相変わらず食えない女だな。ボクとのキャラ被り問題もあるし。

「幸いにも! 子供たちのことを危惧し! 即座に行動には移さないようでありますが! 我々『悪魔』を探しているのは明白! 見つかるのも時間の問題ですぞ!」
『……弱りましたね。惑わしの森あちらで使える悪魔は主にナベリーとメデューサ、その他の悪魔は下級ばかりですし。今回の幻術についてもほとんど二人で発動したようなものですし。戦闘になったら圧倒的に不利ですよ』
『今から魔王城にいる悪魔を送っても間に合わないだろうしな。俺の瞬間移動の魔法なら使えると思うが』
『サタンが行けばいいんじゃない? いざとなったら』
『は?』

 突拍子も無くリコルスは提案する。
 彼娘かのじょを帝国から瞬く間に連れ去った時のように瞬間移動を使えば、サタン含め魔王城のメンバーを送り込むことは出来るが、リコルスは囚われの身であるので不可、バーティンは魔王城の全管理をするため城から出ることが不可、他の悪魔たちは言うことに従わないため不可、となると消去法的にサタン一人が行くことになる。

『確かにサタン様なら捨て駒ぐらいにはなるでしょうけど』
『捨て駒なの!? 俺魔王だよ!? ラスボスだよ!?』
『捨て駒の魔王だろ?』
『捨て駒の魔王ってなんだ!? どこのファンタジーでラスボス捨て駒扱いするよ!?』

「『『ここで』』」

『ハモんなよ!? ナベリーお前もしれっと言ってただろ!?』

 リコルスたちの作戦はアナスタシアのを軽んじたことによって、一気に窮地へと立たされていた。作戦がバレれば勇者は指名手配されることなり、悪魔の存在がバレればナベリーたちがボコられる。
 とにかく彼娘かのじょたちは一度たりとも失敗が許されない状況となっていた。

「リコルス殿、次のご指示をいただけますかな?」
『あぁ、そうだね。姫様は攫えなくても、ボクたちは逃げ切らないとね!』
 指名手配なんてされたら大金が稼ぎづらくなるし。

『責任はサタン様が取ってくれるそうですので』
『何言ってんの!? 領土一つ失うかもしんないんだよ!? 魔王としての人望失墜するかもしんないんだけど?』
『いやお前はもう十分人望無いから。魔王なんて飾りだから』

 彼娘かのじょたちの作戦は大幅に修正が出たものの、中止することは有り得なく引き続き実行していくのであった。尚、もしもの責任については魔王サタンが全て請け負うこととなった。

『えぇ!? 決定事項なの!? 俺の意思は尊重されないの!? 魔王なのに扱い酷すぎない!?』
『いい加減諦めろよ。皆お前が苦しむところを見たいんだよ。分かれよ』
『皆って誰だよ!? 苦しむとこみたいの勇者おまえだろ!?』
『サタン様、往生際が悪いですよ? 将たる者、潔く決定に従うものですよ?』
『いやそれっていうか、操り人形ぅぅぅぅぅ!?』

 勇者リコルス率いる魔族たちと姫フェリシたちによる学園戦争が静かに幕を開ける。
 彼娘かのじょはその瞳に闘志を燃やし不敵な笑みを浮かべていた。
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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

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