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第三話 メデューサ、恋する乙女。
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前回、惑わしの森にて計画を実行するために魔王城の中から協力出来る悪魔を選出していた魔王サタンたちであったが、その中の一人引っ込み思案で存在感の薄い『メデューサ』に美少女としての可能性を感じた勇者リコルスは、惑わしの森の番人『ナベリー』が受け持つ学校でおそらく生徒として潜入させるべくセーラー服の着用を強要していた。
そしてリコルスはまずメデューサの自信のない性格を直すべく、何故か自分自身もセーラー服を着用して彼女の特訓に努めることとなった。
ちなみに今回は『メデューサ』がメインとなるため、魔王の存在はほぼ空気と同等の扱いとなっている。
『……おい、どういうことだよ。何で物語の主要キャラである俺が、三話目にして早くも空気扱いされてんだよ!?』
しかし、存在の無いものとして扱うのはあまりにも可哀そうなため、『』の中では喋ることが許されている。
『なに!? 『』の中では喋れるって!? 存在の在り方が斬新過ぎるだろ!? 聞いたことねーよ!』
今回、魔王のことに関してはスルーしてお楽しみください。
『結局空気じゃねえか!? え、ちょっ、このまま始めんの!? 強引過ぎなーー』
ーーこれは自分に自信の持てない少女が、ある人から勇気をもらうお話ーー
今日も空は清々しいくらいに青く澄んで、沈んだ私の空虚な心を満たしてくれていた。
天気が晴れの日も雨の日でも、昼時になるとこうして学校の屋上でただ一人何も考えずに空を見上げるのが日課になっていた。
『あれ!? メデューサなにやってんの!? てか学校の屋上ってなに!? ここ魔王城だよね!?』
私は『石田メデュ子』とても臆病な女だ。
『石田メデュ子ってなに!? どういう世界観になってんの!? ファンタジーで青春モノやる気!?』
いつも周りに合わせて生きていくことに精一杯で、集団の中にいても自分を主張することが出来ないから自然と存在も薄くなる。いや、わざと存在感を消している、という言い方が正しいのか。
『いや、存在感消してるの俺だよね!? 正確には消されているだけど!』
所詮私のような丸眼鏡の女は、一生丸眼鏡にかけられて丸眼鏡した人生を歩んでいくんだ。額に傷もないし…………付けようかな。
『なんだよ丸眼鏡した人生って!? それと額に傷を付けるのはやめろぉぉぉぉぉ! ここは例の魔法魔術学校じゃねえんだよ!』
私は三人姉妹の次女としてこの世に生を受けた。明るくて自分に正直な姉と妹を見ていると、本当に自分と血のつながりがあるのか疑問に思う。
昔から二人の後ろに隠れて付き添うばかりで自分で行動を起こすこともなく、何かを意見する機会があっても二人の回答に賛成するばかりで、まるで金魚のフンのような私を軽蔑することも嫌悪することもなく引っ張ってくれる姉妹に対して申し訳なく思っていた。
だがそんな生活にもいつしか変化は訪れてしまう。
姉妹はそれぞれ別の学校に進学することとなり、一人取り残された私はこの辺境の地にひっそりと建つ学校で孤独な生活を強いられることになってしまった。
学校の周りには何もなく当然友達もいないため、学校と家を往復する退屈な日々がひたすらに長く続いていた。姉妹のところへ遊びに行くにも、かなりの距離となるので学生の自分にとっては会うのが難しかった。
クラスには私と同じように存在感が薄く周囲から『頼りない』などと言われ、孤独な学校生活を送っている男子生徒も一人いた。一度、勇気を出して声を掛けようと思ったが、所詮は『マイナス』と『マイナス』相容れない存在のため、関わることをやめた。
『それ俺のことだよね!? マイナスって! メデューサ、俺のことそんな風に思ってたの!? あと心の中だとめちゃくちゃ饒舌だな!?』
きっと私はこの先の人生もサタン様のように、誰からも見向きも頼られもせずに孤独に生きていくのだろう。サタン様のように。
『ハッキリとサタン様って言ったよね!? しかも二回も! 俺のこと孤独の代名詞にしないでくれない!?』
そういつものように、自分を悲観する私のもとに一人の少女が姿を現した。
普段は使われてないこの屋上は、孤独な私にとってオアシスのような場所であった。その理由の一つとして、私以外にこの場所に来る人がいないことだ。
だからこそ自分以外に誰もいないこの空間に、彼女が入ってきたことが驚きであった。
「な~んだ、先約がいたのか……」
早乙女リコ。学校のアイドルとも言われる、私とは別の世界で生きている美少女が今目の前にいるこの現状が信じられなかった。
『何してんだリコルスぅぅぅぅぅぅぅッ!! 何でお前が学校のアイドルになってんだよ! 何でオトコの娘なのに美少女として確立されてるんだよ! 何で『早乙女リコ』なんてもっともらしい名前に改名してんだよ!』
彼女の目は眩しいほどに輝いていた。日陰で生きる私にとって、その光はとても受け止めきれるようなものではなかった。
「ごめんね? 邪魔しちゃった?」
申し訳なさそうに彼女は謝る。
私も何か話さないとと思うが、姉妹と離れてからあまり人と話す機会が無かったからか、どうしてぎこちない話し方になってしまう。
「あ、いや、その、大丈夫……だと思います」
「プッ、なにそれ? 思うって……あなたの場所なんでしょ? 変な言い方だね」
「あっ、うぅ、ご、ごめんなさい……」
「いやいや、別に謝らなくてもいいって! こっちこそ、いきなりごめんね?」
おどおどしている私に対して、彼女は何も気にすることなく笑顔で話しかけてくれる。
『……誰これ? 本当に勇者なのこれ? 何でコッチの世界ではお淑やかに美少女を遂行してんの?』
「あなた……わたしと同じクラスの人よね? 見たことあるな~って思った!」
「え? そう、でしたか?」
「あれ? ひょっとして分からなかった?」
「ご、ごめんなさいっ」
「大丈夫だよっ! ちょっと驚いただけ!」
どうしよう……教室にいる時は誰にも話しかけられないよう、サタン様みたいに存在を消して自分の世界に入っていたから、まさか彼女のような子がクラスメイトだと知らなかった。
『……メデューサ俺のこと嫌いだよね? 前回、後ろにいたの気付かなかったのがダメだった? ごめんね』
「ま、わたしも学校に来ないことのが多いしね~。同じクラスといっても気付きづらいでしょ?」
「ほ、ほんとに、ごめんなさい……」
「そんな気にしなくていいって! それより名前は? 正直、クラスの人の名前ほとんど覚えてなくてさ」
「石田、メデュ子、です」
「メデュ子ちゃん! かわいい名前だね! わたしは早乙女リコ、『リコちゃん』って呼んでね! よろしくね!」
「リ、リコちゃん。よ、よろしく、お願い、します」
信じられない、私は今学校のアイドルと話してる? しかも名前で呼び合うなんて。ついさっきまでの自分からしたら、とても考えられないようなことだ。
『信じられない、勇者がちゃんと美少女になっている……!。それとも俺の目が悪くなったのか!?』
「はははっ……………………魔王うるせぇ殺すぞ」
『お前ホントは俺の存在認識してるだろ!? 視えてるのに視えてないフリしてるだろ!?』
「…………ッチ、しつけぇな…………空気読めよ」
『やっぱり視えてるじゃん!? お前は違う意味で空気読めてんじゃん!?』
急に胸の奥から恥ずかしさが込み上げてきた私は、咄嗟に顔を下に向けて早乙女さんに今の真っ赤になった自分の顔を見られないように手で覆い隠した。
「なになに? 照れちゃったの? メデュ子ちゃんってば、かわいいな~」
『変わり身早すぎてこえぇよ』
彼女はそう言って、面白がりながら私の顔を覗き込んできた。
黒髪は指も軽く通せるほどにさらさらとなびかせ、まつ毛は長く整っていて目もくりっと大きく、さらに透き通った白く綺麗な肌に少し桃色に火照った頬と艶やかな小さい唇がーー
ち、近い! 目の前にすごく可愛い女の子の顔があると、同性の私でも目を奪われてしまう。
『いや、同性ではないよ』
「ちっ、近い、です!」
「ん? あぁ、ごめんごめんっ。そうやって恥ずかしがるメデュ子ちゃんがあまりにもかわいくて…………イヤ、だったかな?」
「……イヤ、では、ないです。ただ、は、恥ずかしくて……」
「あはははっ! ほんと面白いなぁ」
「うぅ、か、からかってますよね?」
「そんなことないって! 全部本心だよっ」
「や、やっぱり、からかってます!」
こんなにも胸がときめいたのは生まれて初めてだった。姉妹以外の人とこんな風に楽しく会話をしたのも、短い時間でたくさんの幸せを感じることが出来た。
でも一つ疑問に思うことがあった。
「……あ、あの」
「ん~? なーに? メデュ子ちゃん」
「ど、どうして、ここにーー」
そう言いかけた瞬間、昼休み終了のチャイムが学校全体に鳴り響いた。
「もう昼休みおわりか~」
「そ、そう、ですね」
「教室、戻ろっか?」
「は、はい」
私は彼女に連れられて教室へと戻っていった。
聞きたいことはあったけど、今はこの幸福を嚙み締めることにしよう……。
『…………この話しまだ続くの?』
ーー場所は教室へと移り変わるーー
「はーい、みんな席に着いてー。午後の授業が始まるよー。今日は私バティ山が務めるよー」
『バーティンんんんんんんんッ!! お前もグルだったんかいぃぃぃぃぃぃぃ!!』
「ーーバティ山竜吾。彼は魔王学校にて教員を勤め、魔王クラス(魔王はいない)の担任も受け持っているーー」
『バティ山ってなんだ!? 魔王学校ってなんだ!? 自分でナレーションしてて恥ずかしくないの!?』
「ーー良かったですね、サタン様。意外と出番あるじゃないですか? ツッコミでーー」
『しれっとナレーションで会話するな! てかお前、主人を置いて何やってんの!? 側近なのに目立ち過ぎじゃない!?』
「ーーたまには息抜きくらいしてもいいでしょう? 主婦だって疲れてるんです」
『主婦!? お前は幹部兼お世話役でしょ!?』
「ーーそんなもの一括りにしたら、総じて主婦と呼びますよ」
『呼ばねーわ!』
教室に入って私はあることに驚きを隠せないでいた。今まで教室の中では周りのことなど気にしたことが無かったせいか、まさかリコちゃんが自分の隣の席だとは今日まで気付かなかった。
「リ、リコちゃん……わたしと、席、となり、だったん、ですね」
「そうだよ~、だからメデュ子ちゃんのこと覚えてたのかな? それと! わたしたちもう友達なんだから! 敬語なんて使わなくていいよっ」
「え! と、友達に、なって、いいんです、あっ、いいの?」
「当たり前じゃん! わたしたち友達だよ!」
「う、うん、と、友達……」
私は今日死んでしまうのか? こんなに可愛い子とお話ししてるだけじゃなく、まさかお友達にまでなれるなんて……。
「そこー、私語を慎みなさーい。先生のチョークが火を噴くぞー。白亜紀から氷河期まで体験したいかー。化石となって発掘されて変な名前を付けられたいかー」
『変な名前のやつがなに言ってんだ』
「はーい、気を付けまーす…………また後で話そうね、メデュ子ちゃん!」
「う、うん」
「……まったく……青春ダネ!」
『あいつキャラ作りに必死なのか?』
授業はあっという間に終わりを迎え、気づけば放課後になっていた。
「はーっ、退屈だったねー」
「で、でもリコちゃん、ほとんど、寝てた、よね?」
「あちゃ~、バレてた?」
自分の人生に友達と雑談をする放課後が訪れるなんて、今日は本当にすごい一日になってしまったなぁ。
「そういえば、メデュ子ちゃんさ、お昼のとき何か言いかけてなかった?」
そうだ。お昼休みの時に聞きそびれたことがあったんだ。
「あ、その、な、なんで、普段こない、お、屋上に、来たのかな、って聞こうと……」
「あ~、そういうこと」
彼女は少し考える素振りをすると優しく微笑み、私のーー
私の丸眼鏡を外した。
「………………え?」
「はい、皆もう家にかえ…………あっ」
教室に入ってきたバティ山先生もその光景を目にし、身体を固まらせていた。
『何してんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』
私、石田メデュ子もとい悪魔メデューサの能力は、裸眼で目の合った相手を石にすることだ。石の解除には丸一日ほどの時間がかかる。
そのため私は周りへ危害を及ぼさないように、いつも分厚い丸眼鏡をかけて他人とも距離を取って生きてきた。
「え、ちょ、ちょぉぉぉぉぉぉぉ!! な、なにしてるんですかー!? い、石になっちゃいますよぉぉぉぉぉぉ!?」
ま、まずい! リコちゃ、リコルスさんが石になってしまーー
目の前には変わらずいじらしい笑みを浮かべた彼女が、何もない状態で立っていた。
「え、え!? な、なんで!?」
『ど、どういうことだ!?』
おかしい! 確かに丸眼鏡を外したときに目が! いや、そういえば、目は合ってなかったかも!?
「ふっふっふ、気付いたでしょ? 目さえ見なければ石にならないって。メデュ子ちゃんがその丸眼鏡にコンプレックスを持っていることは、魔王城の悪魔を締めて聞き出してたからねっ」
『えぇ!? そんなのアリなの!?』
「アリなのです!」
『えへん』とふんぞり返る彼女の背後には、いつの間にか低姿勢な悪魔たちが大勢佇んでいた。
「いやー姐さんマジパないっすよ! 俺たちもう姐さん無しじゃ生きていけないっす!」
それは見事に勇者リコルスの手によって懐柔された下級悪魔、というよりは従順な舎弟たちの姿であった。
『お前何してくれてんの!? なに魔王城の悪魔たちボコって従わせてんの!? なに魔王の俺よりも懐かれてんの!?』
「悪魔って基本、自分より強いヤツに従うだろ? 自然の摂理に従ったまでじゃないか?」
『悪魔! 悪魔だよ、お前は!』
確かに私と目が合わなければ石になることは無いのだが、それは単純のように思えてかなり難しい芸当だ。一瞬でも気を抜けば、石にされてしまうリスクもある。それなのにーー
「どうして、ボクがこんなリスクを冒してまでメデュ子ちゃんの丸眼鏡を外したのか? でしょ?」
「ど、どうして……どうして、そんなことまでして!」
「……理由なんてシンプルなものさ」
彼女はそう言うと、こぶしを強く握りしめ高らかに声を上げた。
「丸眼鏡外した方が美少女だからに決まってるじゃないかッ!!」
「………………ッ!?」
『絶句!!』
「もうすでに台本から逸れたから、ここからは演技無しで行かせてもらおうかぁ!」
『あぁ、やっぱり台本とかあったのね』
「なぜ!? 素がこんなにも美少女だとういのに! そんな丸眼鏡なんかしているんだ!? 君はボクを凌駕はせずとも、匹敵するほどの美少女だというのに! もったいないとは思わないのか!? もったいないね! あー! もったいない!」
『うるさっ! この勇者うるさっ! なにヒートアップしてんの!?』
「さっきから『空気』が前に出過ぎなんだよ! 誰か空気清浄機持ってきて! 魔王城の空気を循環させて!」
『空気にしたのお前だろがぁぁぁぁぁぁ!! もうこの『』の呪縛から解放させてくれよ!?』
ヒートアップする勇者リコルスと魔王サタンの言い争いに対して、珍しく気弱な彼女も声を荒げて自身の真っすぐな気持ちを勇者へとぶつけていた。
「わ、私だって出来るなら丸眼鏡なんてしたくないんです! で、でも、私が裸眼だと皆のことを石にしてしまうし! そ、それに、実際視力も悪いし!」
「そんなの周りのやつらの努力が足りないだけだろ! 視力悪いのはコンタクトレンズにすれば解決出来るし、変わるのが怖いから逃げてるだけだろ!」
「……ッ! じゃ、じゃあリコルスさんは、私が毎日あなたの前で丸眼鏡を外していても、い、良いって言えるんですか!?」
彼女の藁にも縋るような、そんな思いで吐き出した問いかけに対し、リコルスは芯の通った真っすぐな目で、心の底から出た偽りの無い言葉でその思いに真剣に応える。
「はぁ? 当たり前だろ! ボクは台本の中だけじゃなく、現実でもメデュ子ちゃんと友達になったつもりだよ!」
「…………え?」
白熱する舌戦の最中、突如メデュ子の胸に青い春が訪れた。
「わ、私、本当に友達になっても、いいんですか?」
今まで姉妹以外に仲の良い悪魔がいなかった彼女にとって、リコルスの素直な気持ちで放たれたその言葉が何よりも自身の身体を熱くするのを感じた。
彼女に遅咲きの春が訪れた瞬間であった。
「当然だよっ。それにボクは美少女意外と友達になるつもりないから。美少女以外は全員、塵芥同然だと思ってるから」
『さらりと発言がクズのそれだな』
沸騰するように熱い血が全身を駆け巡り胸の高鳴りが止まらない彼女は、顔を真っ赤に染め上げついにはその場にしゃがみ込み悶えてしまう。
初めて演技でも無い本当の友達が出来た喜びに加え、勇者に対して抱いたもう一つの感情が心の奥底から勢いよく芽生えてきているのが感じ取れたのだ。
そしてその感情はある症状として、一時的に発現するものとなった!
「…………ア、アタイ」
普段のメデュ子の口からは聞き慣れない言葉が出てくる。
「ん? メデュ子ちゃんどうしたの? なんか周りがめちゃくちゃ熱いんだけど。煙出てない?」
あれ? ボクなんかやっちゃいました?
『もう嫌な予感しかないんだけど……』
メデュ子の身体は周囲に熱を発しながら蒸気を立ち昇らせ、髪も白髪から真っ赤な深紅の髪へと染まっていきーー
「アタイがこの魔王城を取り仕切るレディース! 雌頽悠鎖の総長、異死陀メデュ子だよ!!」
まさかの総長が誕生した。
「…………メデュ子ちゃん?」
これはこれで可愛いけど。
『いや、いつからお前の魔王城になったんだよ!? つか性格変わり過ぎじゃね!?』
「アタイがここに来たからには、勇者リコルスぅぅぅぅぅ!」
「え? あ、はい」
『あの変態があまりの衝撃に動揺してるッ!?』
メデュ子はどこからか持ってきた単車に跨いで、エンジンを勢いよく吹かしていた。
「アンタを必ず、このメデュ子様が堕としてやるよぉぉぉぉぉぉぉ!! せいぜいチ〇コ残して待ってなぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! ヒャッハー!」
そう宣言し彼女は高らかな笑い声を上げながら、魔王城の壁を破壊して外へと走り去っていった。ヒャッハー!
「「………………………………蓄積されていたものが弾け飛んだのか?」」
取り残された二人が改めて周囲の現状を確認すると、ほとんどの悪魔たちが見事に石になっているのであった。
「なんか静かだなと思ったら、バティ山先生も石になってるじゃないですか」
『あ、ほんとだ。気付かなかった』
メデュ子が裸眼のまま暴れ回った際に、その眼をを直視した悪魔たちはことごとく石へと姿を変えていた。
そして結果的に今回、最も出番が少なかったのはバーティンということになった。
『……作戦どうすんの?』
「……とりあえず、目的のメデュ子の引っ込み思案を治すは成功したから、後は大丈夫じゃない?」
『成功ってか、一周回って失敗してない? 反抗期来てたよね? 盗んだバイクで走り出してたよね?』
「まぁ相手姫様だし、反骨精神あるくらいが丁度いいでしょ?」
気性の荒い点では姫様と同等だし、『英雄の剣』さえ封じれば割と良い戦いになるかも。
『意味わかんねえよ。てかあれ戻るんだろうな? 一生あのままだったらイヤなんだけど? 魔王城の壁壊されてるし』
「ボク勇者だから悪魔のことわかんないっ」
『こういう時だけ勇者面してんじゃねえよ』
メデュ子を引っ込み思案な性格から明るい性格へと治すことに成功した彼娘たちであったが、まだまだ計画実行までの課題は山積みである。
勇者リコルスたちはこのまま計画を実行に移すことが出来るのだろうか?
彼らの戦いはまだ終わらない。
ちなみに暴走したメデューサは十五分ほどで元の状態に戻っていた。
「……うぅ、どうしよ。わたし、なんて、恥ずかしい、ことを……バイク、返しに、行かなくちゃ……」
そしてリコルスはまずメデューサの自信のない性格を直すべく、何故か自分自身もセーラー服を着用して彼女の特訓に努めることとなった。
ちなみに今回は『メデューサ』がメインとなるため、魔王の存在はほぼ空気と同等の扱いとなっている。
『……おい、どういうことだよ。何で物語の主要キャラである俺が、三話目にして早くも空気扱いされてんだよ!?』
しかし、存在の無いものとして扱うのはあまりにも可哀そうなため、『』の中では喋ることが許されている。
『なに!? 『』の中では喋れるって!? 存在の在り方が斬新過ぎるだろ!? 聞いたことねーよ!』
今回、魔王のことに関してはスルーしてお楽しみください。
『結局空気じゃねえか!? え、ちょっ、このまま始めんの!? 強引過ぎなーー』
ーーこれは自分に自信の持てない少女が、ある人から勇気をもらうお話ーー
今日も空は清々しいくらいに青く澄んで、沈んだ私の空虚な心を満たしてくれていた。
天気が晴れの日も雨の日でも、昼時になるとこうして学校の屋上でただ一人何も考えずに空を見上げるのが日課になっていた。
『あれ!? メデューサなにやってんの!? てか学校の屋上ってなに!? ここ魔王城だよね!?』
私は『石田メデュ子』とても臆病な女だ。
『石田メデュ子ってなに!? どういう世界観になってんの!? ファンタジーで青春モノやる気!?』
いつも周りに合わせて生きていくことに精一杯で、集団の中にいても自分を主張することが出来ないから自然と存在も薄くなる。いや、わざと存在感を消している、という言い方が正しいのか。
『いや、存在感消してるの俺だよね!? 正確には消されているだけど!』
所詮私のような丸眼鏡の女は、一生丸眼鏡にかけられて丸眼鏡した人生を歩んでいくんだ。額に傷もないし…………付けようかな。
『なんだよ丸眼鏡した人生って!? それと額に傷を付けるのはやめろぉぉぉぉぉ! ここは例の魔法魔術学校じゃねえんだよ!』
私は三人姉妹の次女としてこの世に生を受けた。明るくて自分に正直な姉と妹を見ていると、本当に自分と血のつながりがあるのか疑問に思う。
昔から二人の後ろに隠れて付き添うばかりで自分で行動を起こすこともなく、何かを意見する機会があっても二人の回答に賛成するばかりで、まるで金魚のフンのような私を軽蔑することも嫌悪することもなく引っ張ってくれる姉妹に対して申し訳なく思っていた。
だがそんな生活にもいつしか変化は訪れてしまう。
姉妹はそれぞれ別の学校に進学することとなり、一人取り残された私はこの辺境の地にひっそりと建つ学校で孤独な生活を強いられることになってしまった。
学校の周りには何もなく当然友達もいないため、学校と家を往復する退屈な日々がひたすらに長く続いていた。姉妹のところへ遊びに行くにも、かなりの距離となるので学生の自分にとっては会うのが難しかった。
クラスには私と同じように存在感が薄く周囲から『頼りない』などと言われ、孤独な学校生活を送っている男子生徒も一人いた。一度、勇気を出して声を掛けようと思ったが、所詮は『マイナス』と『マイナス』相容れない存在のため、関わることをやめた。
『それ俺のことだよね!? マイナスって! メデューサ、俺のことそんな風に思ってたの!? あと心の中だとめちゃくちゃ饒舌だな!?』
きっと私はこの先の人生もサタン様のように、誰からも見向きも頼られもせずに孤独に生きていくのだろう。サタン様のように。
『ハッキリとサタン様って言ったよね!? しかも二回も! 俺のこと孤独の代名詞にしないでくれない!?』
そういつものように、自分を悲観する私のもとに一人の少女が姿を現した。
普段は使われてないこの屋上は、孤独な私にとってオアシスのような場所であった。その理由の一つとして、私以外にこの場所に来る人がいないことだ。
だからこそ自分以外に誰もいないこの空間に、彼女が入ってきたことが驚きであった。
「な~んだ、先約がいたのか……」
早乙女リコ。学校のアイドルとも言われる、私とは別の世界で生きている美少女が今目の前にいるこの現状が信じられなかった。
『何してんだリコルスぅぅぅぅぅぅぅッ!! 何でお前が学校のアイドルになってんだよ! 何でオトコの娘なのに美少女として確立されてるんだよ! 何で『早乙女リコ』なんてもっともらしい名前に改名してんだよ!』
彼女の目は眩しいほどに輝いていた。日陰で生きる私にとって、その光はとても受け止めきれるようなものではなかった。
「ごめんね? 邪魔しちゃった?」
申し訳なさそうに彼女は謝る。
私も何か話さないとと思うが、姉妹と離れてからあまり人と話す機会が無かったからか、どうしてぎこちない話し方になってしまう。
「あ、いや、その、大丈夫……だと思います」
「プッ、なにそれ? 思うって……あなたの場所なんでしょ? 変な言い方だね」
「あっ、うぅ、ご、ごめんなさい……」
「いやいや、別に謝らなくてもいいって! こっちこそ、いきなりごめんね?」
おどおどしている私に対して、彼女は何も気にすることなく笑顔で話しかけてくれる。
『……誰これ? 本当に勇者なのこれ? 何でコッチの世界ではお淑やかに美少女を遂行してんの?』
「あなた……わたしと同じクラスの人よね? 見たことあるな~って思った!」
「え? そう、でしたか?」
「あれ? ひょっとして分からなかった?」
「ご、ごめんなさいっ」
「大丈夫だよっ! ちょっと驚いただけ!」
どうしよう……教室にいる時は誰にも話しかけられないよう、サタン様みたいに存在を消して自分の世界に入っていたから、まさか彼女のような子がクラスメイトだと知らなかった。
『……メデューサ俺のこと嫌いだよね? 前回、後ろにいたの気付かなかったのがダメだった? ごめんね』
「ま、わたしも学校に来ないことのが多いしね~。同じクラスといっても気付きづらいでしょ?」
「ほ、ほんとに、ごめんなさい……」
「そんな気にしなくていいって! それより名前は? 正直、クラスの人の名前ほとんど覚えてなくてさ」
「石田、メデュ子、です」
「メデュ子ちゃん! かわいい名前だね! わたしは早乙女リコ、『リコちゃん』って呼んでね! よろしくね!」
「リ、リコちゃん。よ、よろしく、お願い、します」
信じられない、私は今学校のアイドルと話してる? しかも名前で呼び合うなんて。ついさっきまでの自分からしたら、とても考えられないようなことだ。
『信じられない、勇者がちゃんと美少女になっている……!。それとも俺の目が悪くなったのか!?』
「はははっ……………………魔王うるせぇ殺すぞ」
『お前ホントは俺の存在認識してるだろ!? 視えてるのに視えてないフリしてるだろ!?』
「…………ッチ、しつけぇな…………空気読めよ」
『やっぱり視えてるじゃん!? お前は違う意味で空気読めてんじゃん!?』
急に胸の奥から恥ずかしさが込み上げてきた私は、咄嗟に顔を下に向けて早乙女さんに今の真っ赤になった自分の顔を見られないように手で覆い隠した。
「なになに? 照れちゃったの? メデュ子ちゃんってば、かわいいな~」
『変わり身早すぎてこえぇよ』
彼女はそう言って、面白がりながら私の顔を覗き込んできた。
黒髪は指も軽く通せるほどにさらさらとなびかせ、まつ毛は長く整っていて目もくりっと大きく、さらに透き通った白く綺麗な肌に少し桃色に火照った頬と艶やかな小さい唇がーー
ち、近い! 目の前にすごく可愛い女の子の顔があると、同性の私でも目を奪われてしまう。
『いや、同性ではないよ』
「ちっ、近い、です!」
「ん? あぁ、ごめんごめんっ。そうやって恥ずかしがるメデュ子ちゃんがあまりにもかわいくて…………イヤ、だったかな?」
「……イヤ、では、ないです。ただ、は、恥ずかしくて……」
「あはははっ! ほんと面白いなぁ」
「うぅ、か、からかってますよね?」
「そんなことないって! 全部本心だよっ」
「や、やっぱり、からかってます!」
こんなにも胸がときめいたのは生まれて初めてだった。姉妹以外の人とこんな風に楽しく会話をしたのも、短い時間でたくさんの幸せを感じることが出来た。
でも一つ疑問に思うことがあった。
「……あ、あの」
「ん~? なーに? メデュ子ちゃん」
「ど、どうして、ここにーー」
そう言いかけた瞬間、昼休み終了のチャイムが学校全体に鳴り響いた。
「もう昼休みおわりか~」
「そ、そう、ですね」
「教室、戻ろっか?」
「は、はい」
私は彼女に連れられて教室へと戻っていった。
聞きたいことはあったけど、今はこの幸福を嚙み締めることにしよう……。
『…………この話しまだ続くの?』
ーー場所は教室へと移り変わるーー
「はーい、みんな席に着いてー。午後の授業が始まるよー。今日は私バティ山が務めるよー」
『バーティンんんんんんんんッ!! お前もグルだったんかいぃぃぃぃぃぃぃ!!』
「ーーバティ山竜吾。彼は魔王学校にて教員を勤め、魔王クラス(魔王はいない)の担任も受け持っているーー」
『バティ山ってなんだ!? 魔王学校ってなんだ!? 自分でナレーションしてて恥ずかしくないの!?』
「ーー良かったですね、サタン様。意外と出番あるじゃないですか? ツッコミでーー」
『しれっとナレーションで会話するな! てかお前、主人を置いて何やってんの!? 側近なのに目立ち過ぎじゃない!?』
「ーーたまには息抜きくらいしてもいいでしょう? 主婦だって疲れてるんです」
『主婦!? お前は幹部兼お世話役でしょ!?』
「ーーそんなもの一括りにしたら、総じて主婦と呼びますよ」
『呼ばねーわ!』
教室に入って私はあることに驚きを隠せないでいた。今まで教室の中では周りのことなど気にしたことが無かったせいか、まさかリコちゃんが自分の隣の席だとは今日まで気付かなかった。
「リ、リコちゃん……わたしと、席、となり、だったん、ですね」
「そうだよ~、だからメデュ子ちゃんのこと覚えてたのかな? それと! わたしたちもう友達なんだから! 敬語なんて使わなくていいよっ」
「え! と、友達に、なって、いいんです、あっ、いいの?」
「当たり前じゃん! わたしたち友達だよ!」
「う、うん、と、友達……」
私は今日死んでしまうのか? こんなに可愛い子とお話ししてるだけじゃなく、まさかお友達にまでなれるなんて……。
「そこー、私語を慎みなさーい。先生のチョークが火を噴くぞー。白亜紀から氷河期まで体験したいかー。化石となって発掘されて変な名前を付けられたいかー」
『変な名前のやつがなに言ってんだ』
「はーい、気を付けまーす…………また後で話そうね、メデュ子ちゃん!」
「う、うん」
「……まったく……青春ダネ!」
『あいつキャラ作りに必死なのか?』
授業はあっという間に終わりを迎え、気づけば放課後になっていた。
「はーっ、退屈だったねー」
「で、でもリコちゃん、ほとんど、寝てた、よね?」
「あちゃ~、バレてた?」
自分の人生に友達と雑談をする放課後が訪れるなんて、今日は本当にすごい一日になってしまったなぁ。
「そういえば、メデュ子ちゃんさ、お昼のとき何か言いかけてなかった?」
そうだ。お昼休みの時に聞きそびれたことがあったんだ。
「あ、その、な、なんで、普段こない、お、屋上に、来たのかな、って聞こうと……」
「あ~、そういうこと」
彼女は少し考える素振りをすると優しく微笑み、私のーー
私の丸眼鏡を外した。
「………………え?」
「はい、皆もう家にかえ…………あっ」
教室に入ってきたバティ山先生もその光景を目にし、身体を固まらせていた。
『何してんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』
私、石田メデュ子もとい悪魔メデューサの能力は、裸眼で目の合った相手を石にすることだ。石の解除には丸一日ほどの時間がかかる。
そのため私は周りへ危害を及ぼさないように、いつも分厚い丸眼鏡をかけて他人とも距離を取って生きてきた。
「え、ちょ、ちょぉぉぉぉぉぉぉ!! な、なにしてるんですかー!? い、石になっちゃいますよぉぉぉぉぉぉ!?」
ま、まずい! リコちゃ、リコルスさんが石になってしまーー
目の前には変わらずいじらしい笑みを浮かべた彼女が、何もない状態で立っていた。
「え、え!? な、なんで!?」
『ど、どういうことだ!?』
おかしい! 確かに丸眼鏡を外したときに目が! いや、そういえば、目は合ってなかったかも!?
「ふっふっふ、気付いたでしょ? 目さえ見なければ石にならないって。メデュ子ちゃんがその丸眼鏡にコンプレックスを持っていることは、魔王城の悪魔を締めて聞き出してたからねっ」
『えぇ!? そんなのアリなの!?』
「アリなのです!」
『えへん』とふんぞり返る彼女の背後には、いつの間にか低姿勢な悪魔たちが大勢佇んでいた。
「いやー姐さんマジパないっすよ! 俺たちもう姐さん無しじゃ生きていけないっす!」
それは見事に勇者リコルスの手によって懐柔された下級悪魔、というよりは従順な舎弟たちの姿であった。
『お前何してくれてんの!? なに魔王城の悪魔たちボコって従わせてんの!? なに魔王の俺よりも懐かれてんの!?』
「悪魔って基本、自分より強いヤツに従うだろ? 自然の摂理に従ったまでじゃないか?」
『悪魔! 悪魔だよ、お前は!』
確かに私と目が合わなければ石になることは無いのだが、それは単純のように思えてかなり難しい芸当だ。一瞬でも気を抜けば、石にされてしまうリスクもある。それなのにーー
「どうして、ボクがこんなリスクを冒してまでメデュ子ちゃんの丸眼鏡を外したのか? でしょ?」
「ど、どうして……どうして、そんなことまでして!」
「……理由なんてシンプルなものさ」
彼女はそう言うと、こぶしを強く握りしめ高らかに声を上げた。
「丸眼鏡外した方が美少女だからに決まってるじゃないかッ!!」
「………………ッ!?」
『絶句!!』
「もうすでに台本から逸れたから、ここからは演技無しで行かせてもらおうかぁ!」
『あぁ、やっぱり台本とかあったのね』
「なぜ!? 素がこんなにも美少女だとういのに! そんな丸眼鏡なんかしているんだ!? 君はボクを凌駕はせずとも、匹敵するほどの美少女だというのに! もったいないとは思わないのか!? もったいないね! あー! もったいない!」
『うるさっ! この勇者うるさっ! なにヒートアップしてんの!?』
「さっきから『空気』が前に出過ぎなんだよ! 誰か空気清浄機持ってきて! 魔王城の空気を循環させて!」
『空気にしたのお前だろがぁぁぁぁぁぁ!! もうこの『』の呪縛から解放させてくれよ!?』
ヒートアップする勇者リコルスと魔王サタンの言い争いに対して、珍しく気弱な彼女も声を荒げて自身の真っすぐな気持ちを勇者へとぶつけていた。
「わ、私だって出来るなら丸眼鏡なんてしたくないんです! で、でも、私が裸眼だと皆のことを石にしてしまうし! そ、それに、実際視力も悪いし!」
「そんなの周りのやつらの努力が足りないだけだろ! 視力悪いのはコンタクトレンズにすれば解決出来るし、変わるのが怖いから逃げてるだけだろ!」
「……ッ! じゃ、じゃあリコルスさんは、私が毎日あなたの前で丸眼鏡を外していても、い、良いって言えるんですか!?」
彼女の藁にも縋るような、そんな思いで吐き出した問いかけに対し、リコルスは芯の通った真っすぐな目で、心の底から出た偽りの無い言葉でその思いに真剣に応える。
「はぁ? 当たり前だろ! ボクは台本の中だけじゃなく、現実でもメデュ子ちゃんと友達になったつもりだよ!」
「…………え?」
白熱する舌戦の最中、突如メデュ子の胸に青い春が訪れた。
「わ、私、本当に友達になっても、いいんですか?」
今まで姉妹以外に仲の良い悪魔がいなかった彼女にとって、リコルスの素直な気持ちで放たれたその言葉が何よりも自身の身体を熱くするのを感じた。
彼女に遅咲きの春が訪れた瞬間であった。
「当然だよっ。それにボクは美少女意外と友達になるつもりないから。美少女以外は全員、塵芥同然だと思ってるから」
『さらりと発言がクズのそれだな』
沸騰するように熱い血が全身を駆け巡り胸の高鳴りが止まらない彼女は、顔を真っ赤に染め上げついにはその場にしゃがみ込み悶えてしまう。
初めて演技でも無い本当の友達が出来た喜びに加え、勇者に対して抱いたもう一つの感情が心の奥底から勢いよく芽生えてきているのが感じ取れたのだ。
そしてその感情はある症状として、一時的に発現するものとなった!
「…………ア、アタイ」
普段のメデュ子の口からは聞き慣れない言葉が出てくる。
「ん? メデュ子ちゃんどうしたの? なんか周りがめちゃくちゃ熱いんだけど。煙出てない?」
あれ? ボクなんかやっちゃいました?
『もう嫌な予感しかないんだけど……』
メデュ子の身体は周囲に熱を発しながら蒸気を立ち昇らせ、髪も白髪から真っ赤な深紅の髪へと染まっていきーー
「アタイがこの魔王城を取り仕切るレディース! 雌頽悠鎖の総長、異死陀メデュ子だよ!!」
まさかの総長が誕生した。
「…………メデュ子ちゃん?」
これはこれで可愛いけど。
『いや、いつからお前の魔王城になったんだよ!? つか性格変わり過ぎじゃね!?』
「アタイがここに来たからには、勇者リコルスぅぅぅぅぅ!」
「え? あ、はい」
『あの変態があまりの衝撃に動揺してるッ!?』
メデュ子はどこからか持ってきた単車に跨いで、エンジンを勢いよく吹かしていた。
「アンタを必ず、このメデュ子様が堕としてやるよぉぉぉぉぉぉぉ!! せいぜいチ〇コ残して待ってなぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! ヒャッハー!」
そう宣言し彼女は高らかな笑い声を上げながら、魔王城の壁を破壊して外へと走り去っていった。ヒャッハー!
「「………………………………蓄積されていたものが弾け飛んだのか?」」
取り残された二人が改めて周囲の現状を確認すると、ほとんどの悪魔たちが見事に石になっているのであった。
「なんか静かだなと思ったら、バティ山先生も石になってるじゃないですか」
『あ、ほんとだ。気付かなかった』
メデュ子が裸眼のまま暴れ回った際に、その眼をを直視した悪魔たちはことごとく石へと姿を変えていた。
そして結果的に今回、最も出番が少なかったのはバーティンということになった。
『……作戦どうすんの?』
「……とりあえず、目的のメデュ子の引っ込み思案を治すは成功したから、後は大丈夫じゃない?」
『成功ってか、一周回って失敗してない? 反抗期来てたよね? 盗んだバイクで走り出してたよね?』
「まぁ相手姫様だし、反骨精神あるくらいが丁度いいでしょ?」
気性の荒い点では姫様と同等だし、『英雄の剣』さえ封じれば割と良い戦いになるかも。
『意味わかんねえよ。てかあれ戻るんだろうな? 一生あのままだったらイヤなんだけど? 魔王城の壁壊されてるし』
「ボク勇者だから悪魔のことわかんないっ」
『こういう時だけ勇者面してんじゃねえよ』
メデュ子を引っ込み思案な性格から明るい性格へと治すことに成功した彼娘たちであったが、まだまだ計画実行までの課題は山積みである。
勇者リコルスたちはこのまま計画を実行に移すことが出来るのだろうか?
彼らの戦いはまだ終わらない。
ちなみに暴走したメデューサは十五分ほどで元の状態に戻っていた。
「……うぅ、どうしよ。わたし、なんて、恥ずかしい、ことを……バイク、返しに、行かなくちゃ……」
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