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第一章 九重蓮ーコルチカムー
4話 ゾンビとして、女の子として生きる⁉
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リビングに寧が入れた紅茶の香りが漂う。
朝の騒動の後、僕と寧はリビングに向き合って座っていた。テーブルには紅茶だけでなく、トーストとサラダも置かれている。
「さて。朝のようなことがもう起きないように、お兄様の体について話していきましょうか」
寧が紅茶に口を付けつつ言った。僕もしぶしぶと頷く。今の自分をあまり認めたくはないけど、聞かないわけにもいかなかった。
「まず、もう一度確認するけれど、お兄様の体は正真正銘ゾンビで、もう人間のものではないわ」
念を押すように寧がそう伝えてくる。朝の騒動があったから、それはもう嫌でも認めざるを得ない。
「そして、蘇生の際にお兄様の肉体が全て用意できなかったゆえに、お兄様の体は女の体へと変わってしまったわ」
寧がここまではいいかしら? というように視線で促してくる。
「…………うん」
僕は自分の高い声を聞きながら頷いた。
今の僕はゾンビで、女の子で、もう生前の自分はいない。だけど、それ以上に問題点があった。
「ここからがさらに重要なことなんだけど……大前提として、お兄様はもうこの世に存在する人間ではないわ。実際に葬儀も行われたから、戸籍上では死亡扱いになっているわ」
寧が悲しむように、悔やむようにその事実を告げる。
自分がこの現実世界ではもう死んでいる人間だということは、さすがに理解していた。でも、
「じゃあ、僕がこうしてゾンビとして生きている……生きていると言っていいのかわかんないけど、いるのはまずいんじゃないか?」
今の僕は日本はおろか、世界のどこにも戸籍が存在しないことになる。そんなことが知られでもしたら、果たしてどうなってしまうのか。
「戸籍がないのは確かにまずいわ。でも、戸籍ぐらいは何とかして誤魔化すから、お兄様は安心していいわよ」
いや、全然安心できないんだけど!?
「ちょっと待って、寧!? 何か話がかなり不穏な方向にいっている気がするんだけど!?」
「問題ないわ。お兄様が難しいことを考える必要は一切ないわ。全部、寧に任せてちょうだい」
寧に任せるからこそ、余計に心配なんだけど? 寧のことだ。僕のためなら平気で法に触れそうなことまでしでかしそうだ。
「そんなことより、今考えるのはお兄様のこれからの生活についてよ」
寧は僕の不安を無視し、話を強引に切り替えた。
「僕の生活?」
「ええ。せっかくこうして蘇ったのだから、ずっと家にいるわけにもいかないでしょ? けどもし、お兄様がずっと寧とこの家で暮らしたいと言ってくれるのなら、寧がお兄様のお世話を『ずっと』、してあげる。ふふっ」
ずっとの部分を強調して、寧が僕を見つめてくるが、いやいや、そんなのお断りだよ! つまり、僕は妹から世話をされ、ヒモになるということだろ? 何だその屈辱的な生活!? いくら楽をしたいと思っても、そこまでじゃない!
「そんな生活お断りだよ!」
僕が断固拒否すると、寧はショックを受けたかのようにシュンとわずかに顔を俯けた。
「……そこまで嫌がることないじゃない。けど、お兄様がそう言うのなら、お兄様が普通に生活できるように手配してあげる」
寧はしぶしぶといった感じながらも、僕がこの世界で生活できるように動いてくれるという。
「この体で、普通に生活できるの?」
「ええ。ただ、それには色々と準備がいるから、それまではこの家で過ごしててほしいわ。間違っても、家からは出ないでね」
またも念を押すように、寧がそう言った。
「お兄様の体は、短時間なら太陽の光にも耐えられはするけれど、あまり長時間浴び続けてしまうと、朝のように体が腐りはじめてしまうわ」
全く太陽の光がダメというわけではないんだ。短時間なら、この体でも外に出ることは許される。それでも、制限はかなり重たいだろう。あれ? でもそれって、
「ねぇ、太陽の光はダメで、蛍光灯の光とかは大丈夫なの?」
ふと疑問に思った。蛍光灯とかの光だって、同じ光なのは変わらない。
「それは大丈夫、と言いたいところだけど、本来はそういう光もあまり浴びない方がいいわ。太陽の光ほどじゃなくても、徐々にお兄様の体を蝕んでいくわ」
……だから、昨日リビングはあんなに薄暗かったのか。わずかに抱いていた疑問が解消された。
「不便だね、この体」
僕は自分の体をさすりながら言う。やけにすべすべしていて何かいやだな。
「ええ。お兄様はこれからその体と向き合っていかなければいけないわ。もう一つの体の側面ともね」
「…………」
寧の最後の言葉に、思わず口を噤んだ。
「お兄様がこれから普通の生活を送るためには、ゾンビとしての体だけでなく、女の子としての体も理解しなくてはいけないわ」
聞きたくはなかったその言葉を寧は告げる。そうなのだ。僕は今女の子なんだ。心は男の僕のままでも、体は女の子なんだ。
「……僕にこれから女の子として振舞えと?」
「ええ。でないと、周りの人たちから違和感を持たれるわ。それと、振舞うだけではだめよ。振舞うのではなく、女の子にならないといけないわ」
女の子になれ……?
「いやいや、待って!? 体は女の子でも、僕の心はちゃんと男だからね!? 振舞うだけじゃダメなの!?」
「一時的にはそれでも凌げるでしょうけど、これから長い先のことを考えると、早い内に覚悟はしておいた方がいいわよ。でないと、取り返しのつかないことにもなりかねないわ」
僕は頭が痛くなった。これじゃまるごと性転換すれと言うものだ。
「安心して、お兄様。寧がしっかりとサポートしてあげるから。手取足取りね」
寧が身の毛がよだつようなことを言ってくる。まずいって、これ!? 本当に、僕のこれからの生活どうなるの!?
朝の騒動の後、僕と寧はリビングに向き合って座っていた。テーブルには紅茶だけでなく、トーストとサラダも置かれている。
「さて。朝のようなことがもう起きないように、お兄様の体について話していきましょうか」
寧が紅茶に口を付けつつ言った。僕もしぶしぶと頷く。今の自分をあまり認めたくはないけど、聞かないわけにもいかなかった。
「まず、もう一度確認するけれど、お兄様の体は正真正銘ゾンビで、もう人間のものではないわ」
念を押すように寧がそう伝えてくる。朝の騒動があったから、それはもう嫌でも認めざるを得ない。
「そして、蘇生の際にお兄様の肉体が全て用意できなかったゆえに、お兄様の体は女の体へと変わってしまったわ」
寧がここまではいいかしら? というように視線で促してくる。
「…………うん」
僕は自分の高い声を聞きながら頷いた。
今の僕はゾンビで、女の子で、もう生前の自分はいない。だけど、それ以上に問題点があった。
「ここからがさらに重要なことなんだけど……大前提として、お兄様はもうこの世に存在する人間ではないわ。実際に葬儀も行われたから、戸籍上では死亡扱いになっているわ」
寧が悲しむように、悔やむようにその事実を告げる。
自分がこの現実世界ではもう死んでいる人間だということは、さすがに理解していた。でも、
「じゃあ、僕がこうしてゾンビとして生きている……生きていると言っていいのかわかんないけど、いるのはまずいんじゃないか?」
今の僕は日本はおろか、世界のどこにも戸籍が存在しないことになる。そんなことが知られでもしたら、果たしてどうなってしまうのか。
「戸籍がないのは確かにまずいわ。でも、戸籍ぐらいは何とかして誤魔化すから、お兄様は安心していいわよ」
いや、全然安心できないんだけど!?
「ちょっと待って、寧!? 何か話がかなり不穏な方向にいっている気がするんだけど!?」
「問題ないわ。お兄様が難しいことを考える必要は一切ないわ。全部、寧に任せてちょうだい」
寧に任せるからこそ、余計に心配なんだけど? 寧のことだ。僕のためなら平気で法に触れそうなことまでしでかしそうだ。
「そんなことより、今考えるのはお兄様のこれからの生活についてよ」
寧は僕の不安を無視し、話を強引に切り替えた。
「僕の生活?」
「ええ。せっかくこうして蘇ったのだから、ずっと家にいるわけにもいかないでしょ? けどもし、お兄様がずっと寧とこの家で暮らしたいと言ってくれるのなら、寧がお兄様のお世話を『ずっと』、してあげる。ふふっ」
ずっとの部分を強調して、寧が僕を見つめてくるが、いやいや、そんなのお断りだよ! つまり、僕は妹から世話をされ、ヒモになるということだろ? 何だその屈辱的な生活!? いくら楽をしたいと思っても、そこまでじゃない!
「そんな生活お断りだよ!」
僕が断固拒否すると、寧はショックを受けたかのようにシュンとわずかに顔を俯けた。
「……そこまで嫌がることないじゃない。けど、お兄様がそう言うのなら、お兄様が普通に生活できるように手配してあげる」
寧はしぶしぶといった感じながらも、僕がこの世界で生活できるように動いてくれるという。
「この体で、普通に生活できるの?」
「ええ。ただ、それには色々と準備がいるから、それまではこの家で過ごしててほしいわ。間違っても、家からは出ないでね」
またも念を押すように、寧がそう言った。
「お兄様の体は、短時間なら太陽の光にも耐えられはするけれど、あまり長時間浴び続けてしまうと、朝のように体が腐りはじめてしまうわ」
全く太陽の光がダメというわけではないんだ。短時間なら、この体でも外に出ることは許される。それでも、制限はかなり重たいだろう。あれ? でもそれって、
「ねぇ、太陽の光はダメで、蛍光灯の光とかは大丈夫なの?」
ふと疑問に思った。蛍光灯とかの光だって、同じ光なのは変わらない。
「それは大丈夫、と言いたいところだけど、本来はそういう光もあまり浴びない方がいいわ。太陽の光ほどじゃなくても、徐々にお兄様の体を蝕んでいくわ」
……だから、昨日リビングはあんなに薄暗かったのか。わずかに抱いていた疑問が解消された。
「不便だね、この体」
僕は自分の体をさすりながら言う。やけにすべすべしていて何かいやだな。
「ええ。お兄様はこれからその体と向き合っていかなければいけないわ。もう一つの体の側面ともね」
「…………」
寧の最後の言葉に、思わず口を噤んだ。
「お兄様がこれから普通の生活を送るためには、ゾンビとしての体だけでなく、女の子としての体も理解しなくてはいけないわ」
聞きたくはなかったその言葉を寧は告げる。そうなのだ。僕は今女の子なんだ。心は男の僕のままでも、体は女の子なんだ。
「……僕にこれから女の子として振舞えと?」
「ええ。でないと、周りの人たちから違和感を持たれるわ。それと、振舞うだけではだめよ。振舞うのではなく、女の子にならないといけないわ」
女の子になれ……?
「いやいや、待って!? 体は女の子でも、僕の心はちゃんと男だからね!? 振舞うだけじゃダメなの!?」
「一時的にはそれでも凌げるでしょうけど、これから長い先のことを考えると、早い内に覚悟はしておいた方がいいわよ。でないと、取り返しのつかないことにもなりかねないわ」
僕は頭が痛くなった。これじゃまるごと性転換すれと言うものだ。
「安心して、お兄様。寧がしっかりとサポートしてあげるから。手取足取りね」
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