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エリアナ・ディエムのやり直し
(21)異なる道
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「おい、まだ見るつもりか」
「待って。もう少しだけ」
ノインの不機嫌な声を背中に受けながらも、両手から視線を外せなかった。
「ノインは先にお屋敷に戻っててもいいよ」
「なんでお前を一人残して帰らなければならないんだよ。病み上がりだろ。早く戻らないとニアが心配するぞ」
ニアを心配させたくはないけど、決められないのだ。
ここは、おばあ様のお屋敷から少しの距離にある雑貨店。
おばあ様の家がある場所、ディエム侯爵領は、そこそこお店は充実している。
目立った特産品はないけどそれなりに裕福な領地のはずなのに、どうして娘を売らなければならないほど困窮したのか。
今はおばあ様がきちんと管理されているから、おばあ様がいなくなって一気に家が傾いてしまったってことなのかな。
両親がアレだから。
それはさておき、両手に持った金属製のしおりをノインの目の前に差し出してみた。
職人が作った素敵な物だ。
影絵を型抜きしたようなデザインは、ニアが気に入ってくれると思う。
「これ、どっちの色がいいと思う?」
「つい最近まで農奴だった俺が、お貴族様の女の好みなんかわかるわけないだろ」
ノインからは答えの代わりに呆れたような視線を向けられた。
「じゃあ勉強しなさいよ。女性の好みがわからないなんて、これから先もてないわよ。いい男になれないってことよ」
ノインに見せるのはやめて、もう一度手元に視線を落とす。
本好きのニアに使ってもらえるかなとしおりにしたけど、デザイン違いをルーファスにも贈りたい。
ニアにはきっと、柔らかい色合いのものがいいはず。
そう思ってピンクゴールドのものに決めた。
ルーファスには黒色のものにするとして、
「ノインも何か必要な物ある?一緒に支払うよ」
「まず先に自分のものを買えよ。俺は支度金を受け取っているから、自分の物は自分で買えるし、手にしてるそれはニアと兄貴の物だろ?」
「私はいいの。たくさん物を持ちすぎているから。だから大切なものが何かって、わからなくなってたくらいにね」
「なんだよ、それ」
「あ、ノインも正式に宮廷魔法士になるんだよね」
「見習いだけどな」
「無理してない?」
「お前にできて、俺にできないことはないだろ」
「なによ、それ」
可愛くない。
お子様に張り合われたって、本気で相手にするはずないでしょ。
まぁ、ノインの方が魔法の才能はありそうだけど。
ノインの魔力を調べ終えた後からニヤけ面が止まらなかったデュゲ先生を思い出す。
この子のことを変な実験に使ったりしないか心配だ。
「ノイン。自分の体は大切にしなさいよ」
「はぁ?」
今度は訝しげに見るノインを置いて、会計場所へと向かった。
綺麗にラッピングしてもらった品物を受け取ると、すぐにでも家に帰りたくなった。
ニアはどんな顔をしてくれるかなって。
ノインと一緒に馬車に乗って、早く早くと心の中で何度も言う。
「ニア!」
おばあ様に見つかったらはしたないって怒られるかもしれないけど、お屋敷の中に飛び込んでニアの姿を探した。
「おかえりなさい。エリアナ」
思えば、私を出迎えてくれるのはいつもニアだ。
探すまでもなく、ニアはすぐに玄関ホールまで出迎えに来てくれた。
ニアからおかえりなさいって言ってもらえることが、とてつもなく嬉しい。
「ノインもおかえりなさい」
「ああ……」
「はい、これ。ニアにお土産」
おかえりって言われて少し照れくさそうにしていたノインを横目に、ニアに買ったばかりのしおりを差し出した。
「お土産?ありがとう」
笑顔で受け止ってくれると、私も嬉しくなる。
ニアはよく笑うようになった。
叩かれたり、食事を抜かれたりする心配の無くなったニアは、本当によく笑うようになった。
だから、今も、本当に嬉しそうに手元の品を見ている。
「お茶の時間の時に開けていい?」
「うん」
どうして今じゃないのかは、私もわかった。
私達に続けて、出かけていたルーファスが帰ってきたからだ。
ルーファスはおばあ様に言われて町の様子を見に行っていたはず。
「お兄ちゃんもおかえりなさい」
「ただいま。エリアナ、もう体調の方はいいのか?」
「はい」
「伝えたいことがある。俺の部屋に来てもらえるか?」
「今からでもいい?」
「ああ。ノイン、ニアとお茶の準備をしててもらえるか?」
「わかった」
ニアとノインが奥に向かったのを確認して、私はルーファスと一緒に彼の部屋へ向かった。
「ルーファス兄さん。伝えたいことって?」
改めて何を言われるのか、少し緊張した。
「先日、ケラー卿が騎士を辞めて故郷に戻ると、学園の寮まで挨拶をしにきた」
「え?」
「幼なじみと結婚して、家を手伝うそうだ」
ルーファスから伝えられたことは、意外なことだった。
前の時ではアレックスはずっと独り身だったのに、実は結婚を考えてた女性がいたの?
じゃあ、どうして前は結婚しなかったのか……
「本当はエリアナに直接挨拶をしたかったそうだが、お前は城に行っていたから」
アレックスが騎士を辞める。
志半ばで故郷へ帰るのか、自分のための人生を歩むことに決めたのか、もう、彼から直接聞くことはできない。
まだ、騎士になって一年ほどしか経っていないはずなのに。
「言伝を預かっている」
私がどんな顔をしていたのか、ルーファスの声は優しい。
「“貴女は間違っていません。エリアナお嬢様の幸せを願っています”と。お前を気遣っていた。ディエム家のタウンハウスで過ごしていた時のお前のことをずっと心配していたようだ」
アレックスに、何も恩返しができなかった。
今の時間のアレックスとはほんの数ヶ月一緒にいただけだけど、それでも私を気にかけてくれたのに。
前の時間のアレックスには数年分の迷惑料の滞納がある。
それは、もう、二度と取り返しのつかないこと。
私の方こそ、せめて今のアレックスには幸せになってほしいと願うことしかできない。
「…………教えてくれてありがとう。会えなかったことは残念だけど、知らせてもらえてよかったよ。ルーファス兄さん。これ、私の初めてのお給金で買ったものなの。少し早い誕生日プレゼント。よかったら使って」
先ほど買った物をルーファスに差し出す。
「不自由な思いはしていないか?」
「お城で?」
プレゼントを受け取ってもらいながら、それを尋ねられた。
「楽しくはないけど、困ることもないかな。特別貢献しているわけでもないし、気楽に過ごせているって言えばそうかも」
「そうか。お前はイレール王子と直接話すこともできるだろが、必要があれば俺からも伝えることはできるから何かあれば言ってくれ」
「うん。ありがとう。レアンドルさんも相談に乗ってくれるから、宮廷魔法士のことはあんまり心配しないで。心配してくれることはとても嬉しいけど」
あまり表情の変化が無いルーファスが、そこでわずかに微笑んでくれた。
「プレゼントありがとう。大切に使わせてもらう。ニア達が待っているから行こうか」
ルーファスがプレゼントを受け取ってくれたことに安堵する。
気付くことができなかったルーファスの優しさには報いることができているのか。
ニア達が待つ部屋へと移動しながらルーファスの背中を見つめて思っていたことだった。
「待って。もう少しだけ」
ノインの不機嫌な声を背中に受けながらも、両手から視線を外せなかった。
「ノインは先にお屋敷に戻っててもいいよ」
「なんでお前を一人残して帰らなければならないんだよ。病み上がりだろ。早く戻らないとニアが心配するぞ」
ニアを心配させたくはないけど、決められないのだ。
ここは、おばあ様のお屋敷から少しの距離にある雑貨店。
おばあ様の家がある場所、ディエム侯爵領は、そこそこお店は充実している。
目立った特産品はないけどそれなりに裕福な領地のはずなのに、どうして娘を売らなければならないほど困窮したのか。
今はおばあ様がきちんと管理されているから、おばあ様がいなくなって一気に家が傾いてしまったってことなのかな。
両親がアレだから。
それはさておき、両手に持った金属製のしおりをノインの目の前に差し出してみた。
職人が作った素敵な物だ。
影絵を型抜きしたようなデザインは、ニアが気に入ってくれると思う。
「これ、どっちの色がいいと思う?」
「つい最近まで農奴だった俺が、お貴族様の女の好みなんかわかるわけないだろ」
ノインからは答えの代わりに呆れたような視線を向けられた。
「じゃあ勉強しなさいよ。女性の好みがわからないなんて、これから先もてないわよ。いい男になれないってことよ」
ノインに見せるのはやめて、もう一度手元に視線を落とす。
本好きのニアに使ってもらえるかなとしおりにしたけど、デザイン違いをルーファスにも贈りたい。
ニアにはきっと、柔らかい色合いのものがいいはず。
そう思ってピンクゴールドのものに決めた。
ルーファスには黒色のものにするとして、
「ノインも何か必要な物ある?一緒に支払うよ」
「まず先に自分のものを買えよ。俺は支度金を受け取っているから、自分の物は自分で買えるし、手にしてるそれはニアと兄貴の物だろ?」
「私はいいの。たくさん物を持ちすぎているから。だから大切なものが何かって、わからなくなってたくらいにね」
「なんだよ、それ」
「あ、ノインも正式に宮廷魔法士になるんだよね」
「見習いだけどな」
「無理してない?」
「お前にできて、俺にできないことはないだろ」
「なによ、それ」
可愛くない。
お子様に張り合われたって、本気で相手にするはずないでしょ。
まぁ、ノインの方が魔法の才能はありそうだけど。
ノインの魔力を調べ終えた後からニヤけ面が止まらなかったデュゲ先生を思い出す。
この子のことを変な実験に使ったりしないか心配だ。
「ノイン。自分の体は大切にしなさいよ」
「はぁ?」
今度は訝しげに見るノインを置いて、会計場所へと向かった。
綺麗にラッピングしてもらった品物を受け取ると、すぐにでも家に帰りたくなった。
ニアはどんな顔をしてくれるかなって。
ノインと一緒に馬車に乗って、早く早くと心の中で何度も言う。
「ニア!」
おばあ様に見つかったらはしたないって怒られるかもしれないけど、お屋敷の中に飛び込んでニアの姿を探した。
「おかえりなさい。エリアナ」
思えば、私を出迎えてくれるのはいつもニアだ。
探すまでもなく、ニアはすぐに玄関ホールまで出迎えに来てくれた。
ニアからおかえりなさいって言ってもらえることが、とてつもなく嬉しい。
「ノインもおかえりなさい」
「ああ……」
「はい、これ。ニアにお土産」
おかえりって言われて少し照れくさそうにしていたノインを横目に、ニアに買ったばかりのしおりを差し出した。
「お土産?ありがとう」
笑顔で受け止ってくれると、私も嬉しくなる。
ニアはよく笑うようになった。
叩かれたり、食事を抜かれたりする心配の無くなったニアは、本当によく笑うようになった。
だから、今も、本当に嬉しそうに手元の品を見ている。
「お茶の時間の時に開けていい?」
「うん」
どうして今じゃないのかは、私もわかった。
私達に続けて、出かけていたルーファスが帰ってきたからだ。
ルーファスはおばあ様に言われて町の様子を見に行っていたはず。
「お兄ちゃんもおかえりなさい」
「ただいま。エリアナ、もう体調の方はいいのか?」
「はい」
「伝えたいことがある。俺の部屋に来てもらえるか?」
「今からでもいい?」
「ああ。ノイン、ニアとお茶の準備をしててもらえるか?」
「わかった」
ニアとノインが奥に向かったのを確認して、私はルーファスと一緒に彼の部屋へ向かった。
「ルーファス兄さん。伝えたいことって?」
改めて何を言われるのか、少し緊張した。
「先日、ケラー卿が騎士を辞めて故郷に戻ると、学園の寮まで挨拶をしにきた」
「え?」
「幼なじみと結婚して、家を手伝うそうだ」
ルーファスから伝えられたことは、意外なことだった。
前の時ではアレックスはずっと独り身だったのに、実は結婚を考えてた女性がいたの?
じゃあ、どうして前は結婚しなかったのか……
「本当はエリアナに直接挨拶をしたかったそうだが、お前は城に行っていたから」
アレックスが騎士を辞める。
志半ばで故郷へ帰るのか、自分のための人生を歩むことに決めたのか、もう、彼から直接聞くことはできない。
まだ、騎士になって一年ほどしか経っていないはずなのに。
「言伝を預かっている」
私がどんな顔をしていたのか、ルーファスの声は優しい。
「“貴女は間違っていません。エリアナお嬢様の幸せを願っています”と。お前を気遣っていた。ディエム家のタウンハウスで過ごしていた時のお前のことをずっと心配していたようだ」
アレックスに、何も恩返しができなかった。
今の時間のアレックスとはほんの数ヶ月一緒にいただけだけど、それでも私を気にかけてくれたのに。
前の時間のアレックスには数年分の迷惑料の滞納がある。
それは、もう、二度と取り返しのつかないこと。
私の方こそ、せめて今のアレックスには幸せになってほしいと願うことしかできない。
「…………教えてくれてありがとう。会えなかったことは残念だけど、知らせてもらえてよかったよ。ルーファス兄さん。これ、私の初めてのお給金で買ったものなの。少し早い誕生日プレゼント。よかったら使って」
先ほど買った物をルーファスに差し出す。
「不自由な思いはしていないか?」
「お城で?」
プレゼントを受け取ってもらいながら、それを尋ねられた。
「楽しくはないけど、困ることもないかな。特別貢献しているわけでもないし、気楽に過ごせているって言えばそうかも」
「そうか。お前はイレール王子と直接話すこともできるだろが、必要があれば俺からも伝えることはできるから何かあれば言ってくれ」
「うん。ありがとう。レアンドルさんも相談に乗ってくれるから、宮廷魔法士のことはあんまり心配しないで。心配してくれることはとても嬉しいけど」
あまり表情の変化が無いルーファスが、そこでわずかに微笑んでくれた。
「プレゼントありがとう。大切に使わせてもらう。ニア達が待っているから行こうか」
ルーファスがプレゼントを受け取ってくれたことに安堵する。
気付くことができなかったルーファスの優しさには報いることができているのか。
ニア達が待つ部屋へと移動しながらルーファスの背中を見つめて思っていたことだった。
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