『あなたの幸せを願っています』と言った妹と夫が愛し合っていたとは知らなくて

奏千歌

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エリアナ・ディエムのやり直し

(19) あの日の結婚式- 悪夢

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 鐘が鳴っている。

 それを認識したと同時に、

「エリアナ」

 人の温かみなど感じられない、鐘の音よりも無機質な声に呼ばれて顔を上げた。

 私は大きな鏡台の前に座っていたようで、鏡越しにオスカーと視線があった。

 なんの感情も映していないオスカーの視線が、真っ直ぐに私を見つめてくる。

 オスカーは婚礼衣装を見に纏い、見下ろせば、私も白いドレスを着ていた。

 ああ、そうだ。

 私はオスカーと挙式を終えたばかりで、化粧直しのために一時的に控え室のここに戻ってきていたんだ。

 先程の鐘は私達の、私の幸せを祝福する鐘だ。

「私を呼びに来てくれたの?ありがとう。オスカー」

 扉式の鏡を閉じて、振り返って言った。

 彼の無表情なんかいつものことだと、気にもせずににこやかに笑いかける。

 愛想が無いことなんか、大した問題ではない。

 政略結婚にそんなものは必要無い。

 条件の良い人と結婚ができたのだと、この時の私は幸せの絶頂にいた。

 条件の良い人と結婚できたのだと。

 式の最中、純白のドレスを着た私が大勢の人の視線を集めて、気分が良かった。

 それが、祝福される中でのことなのだから余計に。

 みんなが私を見て羨ましがっているのも感じられた。

 仕上げとばかりに私とオスカーが並んで教会の正面に出ると、家族が待ってくれていた。

 両親はとても嬉しそうに私を見ているのに、兄のルーファスはニコリともせずに、オスカーと同じように無表情を決め込んでいる。

 無愛想な兄のこともどうでもよくて、ニアは……

 ニアの姿を探すと、少し離れた場所に婚約者と立っているのが見えた。

 すぐそばには馬車が待機していて、それはダゲール伯爵家のものだ。

 ニアはこの後、私の付き添いで新居となるシニストラ伯爵家のタウンハウスまでは付き添ってくれる予定にはなっている。

 婚約者のダゲール伯爵に送ってもらうのかと、そんなことを何となく考えていると、どうやら二人が言い争っているように見えた。

 ダゲール伯爵が一方的にニアに何かを言って腕を引き、それを拒むようにニアが体を引いて抵抗していた。

 何をやっているのか。

 ニアがグズグズして伯爵を苛立たせてしまったのかと、私の結婚式に水を差さないで欲しいと呆れていると、ニアの頬が伯爵の手によって突然平手打ちされた。

 何が起きたのかと、私と同じくらいか細いニアに暴力が振るわれた様子を呆然と眺めていると、再度頬を殴られたニアの体は勢いよく倒され、頭を地面に打ちつけたら、そのままピクリとも動かなくなった。

 シーンと静まり返る中、

「ニア…………ニア!!」

 誰よりも先に動いたのは、私の夫となったばかりのオスカーだった。



 ついさっきまで参列席で伯爵の隣に座っていたニアの姿が思い起こされた。

 俯いて、遠慮なく腰に回される腕に耐えている様子で……

 華やかな場には似つかわしくない、沈鬱な表情のニア。

 それを腹立たしいとさえ思っていて、もう少し愛想良くできないのかと、私の幸せを祝ってくれないのかと、憤っていて……



 駆け寄ったオスカーがニアを抱きしめて、咆哮のように名前を叫んだ。

 ニアは、それでも動かない。

 何が起きているのか、私の足は震えて、張り付き、その場から動くことはできない。

 ニアはどうなってしまったのか。

 どうして、私の夫のオスカーが、絶望に染まり、ニアを抱きしめて涙を流しているのか。

 私達家族以上に衝撃を受けて。

 兄のルーファスが二人に駆け寄り、ニアの首や手を触り、目を覗き込む。

 そして、力無く首を振ったのが見えた。

 それで、動かないニアはもう二度と目を開けてはくれないのだと悟る。

 ニアが、死んだ。

 私の結婚式の日に、彼女の婚約者の手によって殺された。

 どうしてこんなことが起きてしまったのか。

 私は、これから幸せに暮らせるはずで、ニアだってお金持ちの家に嫁げて楽して生きていけるはずだったのに。



 ああ、これは悪い夢なんだ。



 ぼんやりとそれを思った。

 そう、夢だ。

 の時に起きた出来事。


















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