『あなたの幸せを願っています』と言った妹と夫が愛し合っていたとは知らなくて

奏千歌

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エリアナ・ディエムのやり直し

(9)王子の訪問

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 学園で起きた落水事故から数日後。

 言った通りに、お詫びの品を持った王子が侯爵家を訪れたものだから、両親は大喜びだった。

 ルーファスとイレール王子は同じクラスだそうだけど、その辺りで家族関係なんかが知られたりしているのかな。

 だったら今、イレールは白けた思いで私の母を見ているのではないかな。

 なんだか恥ずかしくなってきた。

 困った母親だと思ったことはあっても、今までこんな感情を抱いたことはなかったのに。

 侯爵家を訪れた王子殿下御一行は、応接間に案内されて、そこで私達と向かい合って座っていた。

「ディエム嬢。改めてお詫びする。貴女に怖い思いをさせて申し訳なかった」

 イレールから、丁寧な謝罪の言葉をかけられた。

「私はこの通り大丈夫だったので、もう気にしないでください」

「体調を悪くしたりはしなかったかい?」

「はい」

「それならよかった」

 イレールは、安心したように私に微笑んできた。

 前の時も今回も、第二王子イレールとは直接関わったことがあまりなかったけど、今のところは良い印象しかない。

 これで、もう湖での事故の件はおしまいとなるはず。

 母が贈り物にチラチラと視線を向けているのが何だか嫌だけど、特に咎めたりせずに私はイレールに意識を向けていた。

「この場を借りてディエム嬢に伝えたいことあるのだけど、いいかな?」

「はい」

 イレールは、テーブルに封筒を置いた。

「君を宮廷魔法士へと推薦したいと思っている。これは招待状で、一度城に来てほしい」

「宮廷魔法士?」

 それは時が戻る前にニアが担っていたものだから、まさか自分までそうなるとは考えてもみなかった。

「魔法使いは貴重な人材だ。保護の意味もこめて、貴女を宮廷魔法士として城に招きたい。国は、魔法使いを保護する義務もある」

「まぁ!なんて名誉なことなの!」

 私が返事をする前に、お母様は喜色の声をあげた。

 大げさに胸の前で手を組んで、目を輝かせてイレールを見ている。

 ちょっと黙っていてほしいと思っていた。

「謝罪に来た場で、こんなことを突然伝えられても戸惑うと思う。ディエム嬢、もし決められないようなら、話だけでも聞いてみないかな。彼からもお願いしたいようなんだ」

 イレールが視線を向けた彼とは、他の護衛と一緒に扉の前で控えていた、レアンドルのことだ。

 今日は、濃紺の上質なローブを身に付けていた。

 羽を広げた鳥の形をした銀細工のブローチで前を留めている。

 その姿は宮廷魔法士の証でもあるのだと、私でも知っている。

「宮廷魔法士、第四位のレアンドル・ベラクールです」

 イレールに促されて、レアンドルが自己紹介した。

 第四位は、階級のことかな。

 そこは詳しくない。

「まぁ!ベラクール公爵家の御子息ね。立ったままでなくて、お座りになって」

 レアンドルの話を途中で遮ったお母様には呆れてしまうけど、イレールもレアンドルもそこで特に表情を動かすことはなかった。

 だから、黙ってそのままレアンドルの話を聞いた。

「第一位、筆頭魔法士のジャン=バティスト・デュゲがディエム嬢との面会を希望していました」

「まぁ!あの高名な魔法使い様ね。是非お会いするべきよ、エリアナ。貴女は認められたってことなのよ。そうでしょ?」

 お母様はいちいち発言も大げさでうるさい。

 レアンドルは、今は睨むことなく穏やかな顔つきで話をしている。

 ただし、私とは視線を合わせようとはしていない。

「ディエム嬢、どうかな。一度、城に来てからデュゲと話してみては。侯爵令嬢である君が魔力を覚醒させたことについて、今後のことを相談してほしい」

 ジャン=バティスト・デュゲがどんな人かは知らない。

 以前のニアの同僚だったりするのかな。

 もしかしたらレアンドルとニアも、以前の時の中では知り合いだったのかもしれない。

「王子殿下がそう仰るのなら、謹んで登城します」

 だから、デュゲに会ってみたいという好奇心はあった。

「ありがとう。当日は城から迎えを寄越すから。それと、城内の案内はレアンドルが担当するから、安心して」

 いや、明らかに好意的ではない人物と一緒だなんて、どこで安心すればいいのか。

 ましてや相手が魔法使いなら、知らないうちに闇に葬られたり……しないよね?

 レアンドルの恨みを買った覚えがないから、余計に何かされないか不安だった。

 もしかしたら、知らないうちに何かをやらかしていたのかもしれない。

 自分が信用できないから、怖い。

「任せれたことは責任を持って遂行しますので、ご安心を」

 レアンドル自身からそう言われれば、

「よろしくお願いします…………」

 返す言葉はそれしかなかった。

「では、今日のところはこれで失礼するよ。ディエム嬢。また、城で会おう」

「はい」

 イレールは、最後にもう一度私に微笑むと、立ち上がった。

 護衛の人達と共に帰っていくイレールとレアンドルを、外に出て見送った。

 その姿が見えなくなって、やれやれと思いながら家に入ろうとすると、お母様が私の両肩を掴んで言った。

「すごいわ、エリアナ!第二王子殿下には婚約者がいないのよ!これをきっかけにお近付きになれれば」

 目をギラギラさせて言ったその言葉にはうんざりした。

 それどころじゃないのに、お母様はいったい何を期待しているのか。

「ごめんなさい、お母様。ちょっとこれからのことを整理したいから、部屋に戻るわ」

「あ、あら。そう?それじゃあ、また夕食の時にでも話しましょ。王子殿下には失礼のないようにしなくちゃ。お城に行く時のためのドレスも大急ぎで用意して」

「いらないから!新しいドレスなんか必要ないから!」

 これ以上、余計なところにお金を使わないでほしい。

 そう言えばうちの借金についても調べる必要があるのかと、頭が痛くなることが山積みとなって、減ることはないようだった。


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