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6 マリー②
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「マリーの希望通りにしたが、結果的にエルドを救う事になってしまってよかったのか?」
騎士であり、幼い頃からの友人のクラウスが言った。
私が入院している所へ、お見舞いがてら、報告に来てくれたのだ。
死の淵にあった私を救ってくれたのは、もう一人の幼なじみのクラウスだった。
彼は伯爵家の五男として生まれて、今は独立して準男爵の地位を得ている。
爵位としては平民に近いものだけど、騎士として活躍しており、王太子殿下から特別な依頼を受けるほど厚い信頼を得ているそうだ。
彼にジェームズ達を捕まえる事や、王都の屋敷を取り戻す事を依頼すると、あらゆるコネを使い、クラウスは私の願いを聞き届けてくれた。
同じ歳なのに、大変な事を簡単にやってのけるクラウスはすごいと思う。
それだけ努力して、たくさんの事を頑張ってきたのだ。
「うん。エルドの為じゃなくて、町の人達を放ってはおけなかったから。エルドは、町の人達にとっては必要な人だから。私のわがままを聞いてくれてありがとう。それに、御両親の形見の時計を取り戻してもくれて」
「別に、大した労力はいらなかったから。捕まった連中も、それぞれ厳罰に処されることになるが……」
「うん……」
窃盗や詐欺や横領は許されるべきじゃない。
それから、私に対する殺人未遂。
私は病死した事にはなっているけど、医師の診察記録が残っているから、そこは罪が問われるはずだ。
聞いた限りでは、情状酌量の余地があるとも思えないし。
然るべき場所で、然るべき処罰を受けることだろう。
「治安部隊の奴に聞いたが、あいつ、マリーの遺灰を抱きしめて泣いていたそうだ」
「そう……」
彼に情は残っていたのか、少しは悲しんでくれたのね。
「今さらだ」
吐き捨てるように、クラウスは言った。
「私……家族になってあげたかったの……」
エルドのことは、幼い頃から大好きだった。
小さな頃は、同じ歳なのにお兄ちゃんぶるエルドが頼もしくて。
一生懸命に町の改善点を語る姿が好きだった。
そこだけは、小さな頃から大人になるまで変わらないエルドの姿だった。
エルドはもう少しだけ、優しい御両親に見守られて領地運営の事を学んでいけるはずだったのに、悲しい事故があった。
突然、御両親をいっぺんに亡くし、そしてすぐに子爵位を受け継ぐこととなった。
頼るべき人を失って、町の人達の生活を守るという大きな責任を背負うことになって。
「対等な関係で支えてあげられる家族になりたかったの……それは傲慢な、独り善がりな思いだったのかな……結局、最後までエルドに私は必要ではなかった……」
「それは違う。傲慢なのはあいつの方だ。一時期エルドは、俺とマリーの関係を疑っていたんだ」
「そうなの?」
「12歳で学園に入学した後、13~14歳くらいの頃だ。覚えているか?俺がマリーやエルドから距離を置いたのを」
「うん」
入学するまでは、三人でよく過ごしていた。
クラウスの領地で大規模な水害が起きて、復興の間、十分な教育を受けさせるために、クラウスだけが私の家に預けられていたからだ。
クラウスとエルドは私の家で知り合って、入学するまでは私よりも二人の方が仲が良かったくらいだ。
でも、進級するにつれ、私達とクラウスとは疎遠になっていった。
「エルドには俺が何を言っても無駄で、だから距離を取るしかなかった。エルドがマリーに対する当たりを強めていたのは、嫉妬からくるものだったんだろう」
エルドが私に嫉妬の感情を抱くとは信じられなかった。
今回のことで、クラウスとは卒業して初めて会うほどに疎遠だったのに。
入学してからは、クラウスとは必要最低限の接点しか持っていなかった。
級友として接していただけで、連絡事項を伝える程度で、それ以外で話していた覚えがない。
でも、思い返せば、第二学年あたりのエルドとの関係が一番ギスギスしていたかもしれない。
話しかけたら、最後はいつもエルドが怒って、最後まで話ができなかったから。
それから学年が上がるにつれ、エルドはほんの少しだけ話を聞いてくれるようにはなった。
「自分はマリーへの気持ちを認めないくせに、俺を牽制して、マリーをぞんざいに扱って。結婚してしまえば、マリーを大切にするのだとばかり思っていたんだ。だから、マリーを助けるのが遅くなって、悪かった。完全に俺の落ち度だ。もっと気にかけていれば……手遅れにならなくて本当に良かった」
「クラウスが謝る事じゃないよ。むしろ、ここまでしてくれて感謝しかない。本当に、よく私を見つけてくれたなって」
「それは偶然で、たまたま、俺の部下が治療院でマリーを見かけて知らせてくれたんだ。覚えていないか?学園の後輩で、調査の為に訪れた治療院で、マリーを見てすぐに気付いたそうだ」
クラウスと仲が良かった一つ下の男の子の顔が浮かんできたけど、あの子の事かな。
偶然が重なって助けられたのか。
運が良かったとしか言えない。
エルドとクラウスの関係も、そんな事があっただなんて知らなかった。
特に学生の頃は、エルドは私の事をなんでも管理して、支配下に置きたがった。
全部、エルドの劣等感や嫉妬からくるものだったの?
いつか、私達の関係が改善されて、歩み寄れると思っていた。
学生時代の私も間違っていたのかもしれない。
エルドに大人しく従っていることが正しいのだと思っていた。
それが、エルドを立てることのなのだと。
でも結局、最後まで私達の関係が改善されることはなかった。
エルドは、私を裏切った。
奪われたお金の流れを捜査していた過程で、王都の屋敷が不当に抵当に入れられていることがわかり、エルドが被害に遭ったこと、浮気をしていた事が発覚した。
クラウスは怒り狂い、私は嘆き哀しんだ。
二度と、エルドの顔を見たくないし、声も聞きたくないと思っている。
エルドに渡った遺灰は、ただの木々の燃えカスだ。
子爵夫人は死に、ただの平民のマリーとなった。
両親を悲しませてしまうけど、子供もいないうちから浮気されて離婚した出戻りの娘が、いつまでも家にいるよりはマシなのだ。
伯爵家の評判に関わるから。
家族の事が大好きだからこそ、家族に迷惑をかけたくはない。
「マリーの両親の様子を見て、状況が悪くなりそうなら、マリーが生きている事は知らせるからな」
「うん……私、今はまだまともな判断ができそうにないから、そこはクラウスに冷静な判断をお願いしたい」
エルドが王都で女性と過ごしていた事を聞いて、その裏切りに耐えられるものではなかった。
クラウスがそばにいてくれなかったら、今頃はやけを起こしていたかもしれない。
今でもまだ、このまま死んでしまった方がよかったのではと考えている。
「馬鹿なことを考えるなよ。まだ、体調も不安定なんだ。無理するな」
「うん。ありがとう」
退院したら、まずは仕事を探さないと。
町の人達を手伝う中で、それなりに平民の生活にも触れた。
自立できる道を探せる。
「しばらく、俺が監視するからな」
何でだろう、エルドの監視と、クラウスの監視では、全く意味合いが違うのは。
心配そうな視線を向けてくれるクラウスの中に、子供の頃の姿が思い出せて、思わず、ふふふっと笑ってしまった。
子供の頃の楽しかった思い出の数々には、クラウスが常にいたものだ。
未消化の苦しい想いが私の中にはまだまだたくさん残っているけど、底の見えない絶望感に飲み込まれてしまわないのは、クラウスがこうやって様子を見に来てくれるからだ。
まだまだ長い残りの人生。
頑張って生きてみようと思っていた。
騎士であり、幼い頃からの友人のクラウスが言った。
私が入院している所へ、お見舞いがてら、報告に来てくれたのだ。
死の淵にあった私を救ってくれたのは、もう一人の幼なじみのクラウスだった。
彼は伯爵家の五男として生まれて、今は独立して準男爵の地位を得ている。
爵位としては平民に近いものだけど、騎士として活躍しており、王太子殿下から特別な依頼を受けるほど厚い信頼を得ているそうだ。
彼にジェームズ達を捕まえる事や、王都の屋敷を取り戻す事を依頼すると、あらゆるコネを使い、クラウスは私の願いを聞き届けてくれた。
同じ歳なのに、大変な事を簡単にやってのけるクラウスはすごいと思う。
それだけ努力して、たくさんの事を頑張ってきたのだ。
「うん。エルドの為じゃなくて、町の人達を放ってはおけなかったから。エルドは、町の人達にとっては必要な人だから。私のわがままを聞いてくれてありがとう。それに、御両親の形見の時計を取り戻してもくれて」
「別に、大した労力はいらなかったから。捕まった連中も、それぞれ厳罰に処されることになるが……」
「うん……」
窃盗や詐欺や横領は許されるべきじゃない。
それから、私に対する殺人未遂。
私は病死した事にはなっているけど、医師の診察記録が残っているから、そこは罪が問われるはずだ。
聞いた限りでは、情状酌量の余地があるとも思えないし。
然るべき場所で、然るべき処罰を受けることだろう。
「治安部隊の奴に聞いたが、あいつ、マリーの遺灰を抱きしめて泣いていたそうだ」
「そう……」
彼に情は残っていたのか、少しは悲しんでくれたのね。
「今さらだ」
吐き捨てるように、クラウスは言った。
「私……家族になってあげたかったの……」
エルドのことは、幼い頃から大好きだった。
小さな頃は、同じ歳なのにお兄ちゃんぶるエルドが頼もしくて。
一生懸命に町の改善点を語る姿が好きだった。
そこだけは、小さな頃から大人になるまで変わらないエルドの姿だった。
エルドはもう少しだけ、優しい御両親に見守られて領地運営の事を学んでいけるはずだったのに、悲しい事故があった。
突然、御両親をいっぺんに亡くし、そしてすぐに子爵位を受け継ぐこととなった。
頼るべき人を失って、町の人達の生活を守るという大きな責任を背負うことになって。
「対等な関係で支えてあげられる家族になりたかったの……それは傲慢な、独り善がりな思いだったのかな……結局、最後までエルドに私は必要ではなかった……」
「それは違う。傲慢なのはあいつの方だ。一時期エルドは、俺とマリーの関係を疑っていたんだ」
「そうなの?」
「12歳で学園に入学した後、13~14歳くらいの頃だ。覚えているか?俺がマリーやエルドから距離を置いたのを」
「うん」
入学するまでは、三人でよく過ごしていた。
クラウスの領地で大規模な水害が起きて、復興の間、十分な教育を受けさせるために、クラウスだけが私の家に預けられていたからだ。
クラウスとエルドは私の家で知り合って、入学するまでは私よりも二人の方が仲が良かったくらいだ。
でも、進級するにつれ、私達とクラウスとは疎遠になっていった。
「エルドには俺が何を言っても無駄で、だから距離を取るしかなかった。エルドがマリーに対する当たりを強めていたのは、嫉妬からくるものだったんだろう」
エルドが私に嫉妬の感情を抱くとは信じられなかった。
今回のことで、クラウスとは卒業して初めて会うほどに疎遠だったのに。
入学してからは、クラウスとは必要最低限の接点しか持っていなかった。
級友として接していただけで、連絡事項を伝える程度で、それ以外で話していた覚えがない。
でも、思い返せば、第二学年あたりのエルドとの関係が一番ギスギスしていたかもしれない。
話しかけたら、最後はいつもエルドが怒って、最後まで話ができなかったから。
それから学年が上がるにつれ、エルドはほんの少しだけ話を聞いてくれるようにはなった。
「自分はマリーへの気持ちを認めないくせに、俺を牽制して、マリーをぞんざいに扱って。結婚してしまえば、マリーを大切にするのだとばかり思っていたんだ。だから、マリーを助けるのが遅くなって、悪かった。完全に俺の落ち度だ。もっと気にかけていれば……手遅れにならなくて本当に良かった」
「クラウスが謝る事じゃないよ。むしろ、ここまでしてくれて感謝しかない。本当に、よく私を見つけてくれたなって」
「それは偶然で、たまたま、俺の部下が治療院でマリーを見かけて知らせてくれたんだ。覚えていないか?学園の後輩で、調査の為に訪れた治療院で、マリーを見てすぐに気付いたそうだ」
クラウスと仲が良かった一つ下の男の子の顔が浮かんできたけど、あの子の事かな。
偶然が重なって助けられたのか。
運が良かったとしか言えない。
エルドとクラウスの関係も、そんな事があっただなんて知らなかった。
特に学生の頃は、エルドは私の事をなんでも管理して、支配下に置きたがった。
全部、エルドの劣等感や嫉妬からくるものだったの?
いつか、私達の関係が改善されて、歩み寄れると思っていた。
学生時代の私も間違っていたのかもしれない。
エルドに大人しく従っていることが正しいのだと思っていた。
それが、エルドを立てることのなのだと。
でも結局、最後まで私達の関係が改善されることはなかった。
エルドは、私を裏切った。
奪われたお金の流れを捜査していた過程で、王都の屋敷が不当に抵当に入れられていることがわかり、エルドが被害に遭ったこと、浮気をしていた事が発覚した。
クラウスは怒り狂い、私は嘆き哀しんだ。
二度と、エルドの顔を見たくないし、声も聞きたくないと思っている。
エルドに渡った遺灰は、ただの木々の燃えカスだ。
子爵夫人は死に、ただの平民のマリーとなった。
両親を悲しませてしまうけど、子供もいないうちから浮気されて離婚した出戻りの娘が、いつまでも家にいるよりはマシなのだ。
伯爵家の評判に関わるから。
家族の事が大好きだからこそ、家族に迷惑をかけたくはない。
「マリーの両親の様子を見て、状況が悪くなりそうなら、マリーが生きている事は知らせるからな」
「うん……私、今はまだまともな判断ができそうにないから、そこはクラウスに冷静な判断をお願いしたい」
エルドが王都で女性と過ごしていた事を聞いて、その裏切りに耐えられるものではなかった。
クラウスがそばにいてくれなかったら、今頃はやけを起こしていたかもしれない。
今でもまだ、このまま死んでしまった方がよかったのではと考えている。
「馬鹿なことを考えるなよ。まだ、体調も不安定なんだ。無理するな」
「うん。ありがとう」
退院したら、まずは仕事を探さないと。
町の人達を手伝う中で、それなりに平民の生活にも触れた。
自立できる道を探せる。
「しばらく、俺が監視するからな」
何でだろう、エルドの監視と、クラウスの監視では、全く意味合いが違うのは。
心配そうな視線を向けてくれるクラウスの中に、子供の頃の姿が思い出せて、思わず、ふふふっと笑ってしまった。
子供の頃の楽しかった思い出の数々には、クラウスが常にいたものだ。
未消化の苦しい想いが私の中にはまだまだたくさん残っているけど、底の見えない絶望感に飲み込まれてしまわないのは、クラウスがこうやって様子を見に来てくれるからだ。
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