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本編
22 月華騎士団
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他人からの視線さえ気にしなければ、特にトラブルもなかった船旅は7日ほどで終わりを迎え、
「本当に、着いた……」
もう一人の聖女がいる、アースノルト大陸の土を踏みしめていた。
レオンの仲間、船に乗っていた多くの人が下船していく中、私もレオンとレインさんの後ろを歩いて船から降りる。
初めて訪れる異国の地。
両親が生きていた頃を除けば、王都どころか聖堂の敷地から出た事がなかったから、その港の風景には目を惹かれた。
見た事がないような民族衣装を着ている人もいれば、家畜の種類も初めて見るような物ばかりだった。
露天に並べられている品物も種類は様々で、何に使うか分からないものもある。
「シャーロット、こっちだ。ごめん、時間が無くてゆっくり見せてあげられない」
「あ、いえ、よそ見をしてごめんなさい」
放っておかれるのかと思いきや、船を降りてからもずっとレオンとレインさんがそばにいる。
私がどこかへ行く隙がなかった。
見た目も全く似ていない、兄弟二人の後ろ姿を眺めながら歩く。
レオンは黒髪に黒目だけど、レインさんは銀髪に瞳の色は紫だ。
やはり二人が兄弟なのが信じられなかった。
仲が良いのは、すでにわかっている事ではあるけど。
視線を上に向けると、上空を、変わった色の鳥が飛んでいるのが見えた。
ここは異国の地だと、その事実を噛み締めながらしばらく歩いていくと、港町から少し離れた場所にその一団はいた。
どこまでも続く平原に、大規模な野営地が設置されているのが見えてくると、そこに掲げられている、月と槍と盾の紋章が刺繍された旗やタペストリーに真っ先に視線が向いた。
これは、帝国の、月華騎士団?
月の大陸の聖女と、帝国を守護する存在。
「レオン達は、騎士?」
その事実に行きあたって、思わず尋ねる。
「ああ。でも、俺達は傭兵みたいなこともするから、嘘は言ってない。俺が使っているテントに案内するよ。こっちだ。しばらくそこで寝泊まりするといい」
レオンは誤魔化すわけでもなく、取り繕うわけでもなく、極自然な態度で野営地の中を案内して行く。
何故、帝国の騎士団が星の大陸にわざわざ来たのか疑問は生まれるけど、黙ってレオンの後ろをついて歩く。
ここには、いくつものテントが張られているようだ。
それは遊牧民の移動式住居、ゲルによく似たとてもしっかりとした造りをしている。
その間を団服を着た多くの騎士が行き交っていた。
「ここが俺が使っていた場所だ。シャーロット用に空けるから、ちょっと待ってて。俺はレインの所で寝泊まりできるから、ここを気兼ねなく使って」
レオンがテントの中の一つに入って行くから、それに続くと、何やら荷物を一つにまとめている。
その様子を横目で見ながら、小さなテーブルの上に置かれていた鏡を見る。
そこに映る見慣れない顔。
船の中でも何度か見たけど、この顔にはまだ違和感しかない。
「じゃあ、俺はレインの所に荷物を置いたら、報告に行くから、しばらくここで休んでて」
「はい、ありがとうございます」
レオンが自分の荷物を抱えてテントを出て行くと、ポツンと一人残される。
何をしたらいいのか分からないし、外を出歩くのも怖い。
綺麗に整えられたテント内では、特にすることもなさそうで、ここで、本当にしばらくお世話になるのだとしたら、私も働かなければならないけど、一体、何ができるのか。
掃除くらいしか、取り柄がない。
あの聖堂に居た時も、閉ざされた部屋で祈ることか、掃除しかさせてはもらえなかった。
王妃教育だって、滅びゆく国の歴史を覚えさせられて、役にも立たない貴族の名前をひたすら覚えさせられただけだ。
社交の場に出ることなんかないのに、それに関する教育を受けても無意味だ。
テーブルマナーだって、誰かと一緒に食事の席に着くことすらなく、質素な食事ばかりを一人で食べていたのに、全てが、時間の無駄だった。
簡易ベッドの端に座って、どこを見るともなくボーッとしていた。
脳裏に浮かぶのは、またあの大陸のことだ。
絶え間なく降る雨は、どれだけの被害をもたらしているのか。
全部、全部、綺麗さっぱり押し流してしまえばいい。
あの思い出したくもない恐怖と苦痛の記憶と共に、消えてしまえばいいのに。
腰に下げていた袋がモソモソと動く。
すっかり忘れていたから、モフーを袋から出して床に置いた。
何処かに行くのならそれでもいいと思ったけど、やっぱりモフーは私から離れない。
足を登って来て、また膝の上で丸くなる。
私の何がそんなに気に入ったのか、しばらく小さな背中を撫でてあげていた。
「本当に、着いた……」
もう一人の聖女がいる、アースノルト大陸の土を踏みしめていた。
レオンの仲間、船に乗っていた多くの人が下船していく中、私もレオンとレインさんの後ろを歩いて船から降りる。
初めて訪れる異国の地。
両親が生きていた頃を除けば、王都どころか聖堂の敷地から出た事がなかったから、その港の風景には目を惹かれた。
見た事がないような民族衣装を着ている人もいれば、家畜の種類も初めて見るような物ばかりだった。
露天に並べられている品物も種類は様々で、何に使うか分からないものもある。
「シャーロット、こっちだ。ごめん、時間が無くてゆっくり見せてあげられない」
「あ、いえ、よそ見をしてごめんなさい」
放っておかれるのかと思いきや、船を降りてからもずっとレオンとレインさんがそばにいる。
私がどこかへ行く隙がなかった。
見た目も全く似ていない、兄弟二人の後ろ姿を眺めながら歩く。
レオンは黒髪に黒目だけど、レインさんは銀髪に瞳の色は紫だ。
やはり二人が兄弟なのが信じられなかった。
仲が良いのは、すでにわかっている事ではあるけど。
視線を上に向けると、上空を、変わった色の鳥が飛んでいるのが見えた。
ここは異国の地だと、その事実を噛み締めながらしばらく歩いていくと、港町から少し離れた場所にその一団はいた。
どこまでも続く平原に、大規模な野営地が設置されているのが見えてくると、そこに掲げられている、月と槍と盾の紋章が刺繍された旗やタペストリーに真っ先に視線が向いた。
これは、帝国の、月華騎士団?
月の大陸の聖女と、帝国を守護する存在。
「レオン達は、騎士?」
その事実に行きあたって、思わず尋ねる。
「ああ。でも、俺達は傭兵みたいなこともするから、嘘は言ってない。俺が使っているテントに案内するよ。こっちだ。しばらくそこで寝泊まりするといい」
レオンは誤魔化すわけでもなく、取り繕うわけでもなく、極自然な態度で野営地の中を案内して行く。
何故、帝国の騎士団が星の大陸にわざわざ来たのか疑問は生まれるけど、黙ってレオンの後ろをついて歩く。
ここには、いくつものテントが張られているようだ。
それは遊牧民の移動式住居、ゲルによく似たとてもしっかりとした造りをしている。
その間を団服を着た多くの騎士が行き交っていた。
「ここが俺が使っていた場所だ。シャーロット用に空けるから、ちょっと待ってて。俺はレインの所で寝泊まりできるから、ここを気兼ねなく使って」
レオンがテントの中の一つに入って行くから、それに続くと、何やら荷物を一つにまとめている。
その様子を横目で見ながら、小さなテーブルの上に置かれていた鏡を見る。
そこに映る見慣れない顔。
船の中でも何度か見たけど、この顔にはまだ違和感しかない。
「じゃあ、俺はレインの所に荷物を置いたら、報告に行くから、しばらくここで休んでて」
「はい、ありがとうございます」
レオンが自分の荷物を抱えてテントを出て行くと、ポツンと一人残される。
何をしたらいいのか分からないし、外を出歩くのも怖い。
綺麗に整えられたテント内では、特にすることもなさそうで、ここで、本当にしばらくお世話になるのだとしたら、私も働かなければならないけど、一体、何ができるのか。
掃除くらいしか、取り柄がない。
あの聖堂に居た時も、閉ざされた部屋で祈ることか、掃除しかさせてはもらえなかった。
王妃教育だって、滅びゆく国の歴史を覚えさせられて、役にも立たない貴族の名前をひたすら覚えさせられただけだ。
社交の場に出ることなんかないのに、それに関する教育を受けても無意味だ。
テーブルマナーだって、誰かと一緒に食事の席に着くことすらなく、質素な食事ばかりを一人で食べていたのに、全てが、時間の無駄だった。
簡易ベッドの端に座って、どこを見るともなくボーッとしていた。
脳裏に浮かぶのは、またあの大陸のことだ。
絶え間なく降る雨は、どれだけの被害をもたらしているのか。
全部、全部、綺麗さっぱり押し流してしまえばいい。
あの思い出したくもない恐怖と苦痛の記憶と共に、消えてしまえばいいのに。
腰に下げていた袋がモソモソと動く。
すっかり忘れていたから、モフーを袋から出して床に置いた。
何処かに行くのならそれでもいいと思ったけど、やっぱりモフーは私から離れない。
足を登って来て、また膝の上で丸くなる。
私の何がそんなに気に入ったのか、しばらく小さな背中を撫でてあげていた。
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