4 / 53
末路
4 三日後
しおりを挟む
王太子夫妻の御成婚から三日目。
王都では珍しく、滝のような雨が降っていた。
屋根や窓を叩く雨粒の音は、轟音に近く、修道士達の神に捧げる祈りの言葉が聞こえないほどだ。
作物を潤す恵の雨は、もっと優しく降り注ぐものだが、昨夜から続くものは、落雷を伴う激しいものだった。
一部の地域では雹も降っていると聞く。
まとまった雨は飲用水の確保に一翼を担うから、たまにはいいだろうと思いながら、王太子夫妻の待つ場所へ足を進めていた。
名誉ある“星読み”を担う私は、真なる聖女であるアリーヤ様の拝顔賜りたく、その歩みを速める。
まだ一昨日の挙式の疲れが癒えてないはずだ。
王太子夫妻の居室に相応しい、荘厳な扉の前で足を止めると、中から女性の荒げた声が聞こえてきた。
取り込み中なのだろうか?
室外で待つ専属侍女に視線を送ると、王太子夫妻から、誰も中に入れるなと命じられていると話す。
『処刑だなんて!!』
扉に再び視線を向けると、そんな言葉が聞こえていた。
卑しき罪人であっても、慈悲の心を向けるアリーヤ様はお優しい方だ。
あの女がどれだけの罪を犯していたのかアリーヤ様が知れば、納得もされることだろう。
それは本日の私の役目ではないため、また、改めて出直すこととした。
聖殿へ戻る途中、雨は激しくなる一方だった。
先程声を荒げていた聖女、アリーヤ様の感情に呼応しているようにも思える。
歩くたびに泥水が跳ね、長い法衣を濡らしてしまった為、着替えを済ませて祈りの場へ向かう。
ここは、偽聖女が使っていた場であり、穢されている。
清めて内装を改修してからアリーヤ様を御案内するつもりだ。
祈りの場は、元々あの女に管理を任せていたそうだが、こんな、床に古びた布が敷かれただけの何もないような部屋、賎民にほど近いあの女には相応しいのだろうが、原初の民でもあるアリーヤ様にはとても見せられない。
「コールダー様。昼食の用意が整いました」
改修の算段を立てる私に、下位修道士が声をかけてきた。
食事の為に個室へ行くと、私の為に特別に用意されたものは、地方の教会にいた頃とは比べ物にならないほど豪華な物だった。
名誉ある職に就いているのだ。
威厳を損なわないためにもこの待遇は当然のものと言える。
一人静かに食事を始めると、通路からの話し声が聞こえていた。
『土砂崩れが発生して、一部の道が塞がれているそうだ』
『物流が滞るな』
『まぁ、ここには影響はないだろう』
『でも、東の村近くの川が危険水位を超えているそうだ』
『ここだけじゃなく、あっちもそんなに降ったのか?』
『大した整備がされてない小さな村は、雨が少し降っただけでも川の氾濫に巻き込まれるからな』
『だが、ここ数年はそんな話も聞かなかっただろ』
『なぁ、やっぱり……』
『おい、もう黙れ』
『…………』
まったく、人が食事をしているというのに、騒がしいですね。
食事の最後に口を拭いて、立ち上がり、休憩するために部屋へ向かう。
外は昼間のはずなのに夜の様に暗くなり、周囲の物音が聞こえないほどに雷鳴が轟いていた。
王都では珍しく、滝のような雨が降っていた。
屋根や窓を叩く雨粒の音は、轟音に近く、修道士達の神に捧げる祈りの言葉が聞こえないほどだ。
作物を潤す恵の雨は、もっと優しく降り注ぐものだが、昨夜から続くものは、落雷を伴う激しいものだった。
一部の地域では雹も降っていると聞く。
まとまった雨は飲用水の確保に一翼を担うから、たまにはいいだろうと思いながら、王太子夫妻の待つ場所へ足を進めていた。
名誉ある“星読み”を担う私は、真なる聖女であるアリーヤ様の拝顔賜りたく、その歩みを速める。
まだ一昨日の挙式の疲れが癒えてないはずだ。
王太子夫妻の居室に相応しい、荘厳な扉の前で足を止めると、中から女性の荒げた声が聞こえてきた。
取り込み中なのだろうか?
室外で待つ専属侍女に視線を送ると、王太子夫妻から、誰も中に入れるなと命じられていると話す。
『処刑だなんて!!』
扉に再び視線を向けると、そんな言葉が聞こえていた。
卑しき罪人であっても、慈悲の心を向けるアリーヤ様はお優しい方だ。
あの女がどれだけの罪を犯していたのかアリーヤ様が知れば、納得もされることだろう。
それは本日の私の役目ではないため、また、改めて出直すこととした。
聖殿へ戻る途中、雨は激しくなる一方だった。
先程声を荒げていた聖女、アリーヤ様の感情に呼応しているようにも思える。
歩くたびに泥水が跳ね、長い法衣を濡らしてしまった為、着替えを済ませて祈りの場へ向かう。
ここは、偽聖女が使っていた場であり、穢されている。
清めて内装を改修してからアリーヤ様を御案内するつもりだ。
祈りの場は、元々あの女に管理を任せていたそうだが、こんな、床に古びた布が敷かれただけの何もないような部屋、賎民にほど近いあの女には相応しいのだろうが、原初の民でもあるアリーヤ様にはとても見せられない。
「コールダー様。昼食の用意が整いました」
改修の算段を立てる私に、下位修道士が声をかけてきた。
食事の為に個室へ行くと、私の為に特別に用意されたものは、地方の教会にいた頃とは比べ物にならないほど豪華な物だった。
名誉ある職に就いているのだ。
威厳を損なわないためにもこの待遇は当然のものと言える。
一人静かに食事を始めると、通路からの話し声が聞こえていた。
『土砂崩れが発生して、一部の道が塞がれているそうだ』
『物流が滞るな』
『まぁ、ここには影響はないだろう』
『でも、東の村近くの川が危険水位を超えているそうだ』
『ここだけじゃなく、あっちもそんなに降ったのか?』
『大した整備がされてない小さな村は、雨が少し降っただけでも川の氾濫に巻き込まれるからな』
『だが、ここ数年はそんな話も聞かなかっただろ』
『なぁ、やっぱり……』
『おい、もう黙れ』
『…………』
まったく、人が食事をしているというのに、騒がしいですね。
食事の最後に口を拭いて、立ち上がり、休憩するために部屋へ向かう。
外は昼間のはずなのに夜の様に暗くなり、周囲の物音が聞こえないほどに雷鳴が轟いていた。
120
お気に入りに追加
2,727
あなたにおすすめの小説
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜
桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。
彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。
それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。
世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる!
※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*)
良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^
------------------------------------------------------
※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。
表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。
(私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です
斯波@ジゼルの錬金飴② 1/18発売予定
恋愛
また一人、キャサリンの美貌に陥落した。
今回、私の元にやっていたのは騎士団トップの象徴である赤マントを羽織ったアイゼン様。他の騎士達や貴族令息のように姉を紹介してほしいとやってきたのである。
顔良し、血筋よし、武力よし。
軍事力を重視するこの国では貴族の権力と並んで重要視されるのは武術であり、アイゼン様は将来性がズバ抜けている。
普通なら声をかけられて喜ぶところだけど、私達は違う。キャサリンを嫁入りなんてさせられない。
だってキャサリンは11年前に私と入れ替わった双子の弟なのだから!
顔見せもデビュタントも入れ替わったままで切り抜けたけど、いつまでも入れ替わったままではいられない。これを機に再度の入れ替えを試みるが、アイゼン様の様子がおかしくてーー
聖女は歌う 復讐の歌を
奏千歌
恋愛
[悠久を生きる魔女①]
*②と②´まとめました。バッドエンドです。後味が悪い部分があります。ご注意ください。
幼なじみの令嬢との婚約を解消して、新たに聖女と王太子が婚約した。といった騒動があった事は私には関係の無いことだと思っていた。
ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、薬草を調合する手を止め、エプロンを外しながら玄関に向かった。
こんな森の中の辺鄙な場所に誰がきたのかと、首を傾げながら取っ手を掴んだ。
そもそも、人避けの結界を張っているのに、そんな場所に侵入できるのは限られている。
カチャっと扉を開くと、予想通りの人の姿を認めた。
「エカチェリーナ、助けて!」
開けるなり飛び込んで来たのは、この国の王太子と婚約したばかりの聖女、ヴェロニカさんだった。
コテンと首を傾げた私に彼女が頼んできたことは、第二王子を救うことをだった。
彼女に同行して、城で私が見たものは…………
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる