15 / 45
前編
15 騎士科へ
しおりを挟む
余計な事を知ったからといって、私が黙っている限り何かが変わることはなかった。
言ったところで私がめんどくさい事に巻き込まれた挙句にひどい目に遭うのが目に見えている。
息を殺して屋敷で過ごし、学園でも出来るだけ一人でひっそりとしていようとした。
私に構ってくるテオは相変わらずだけど、第3学年が終わる頃には、該当する者は進級するクラスを選ばなければならない。
私はこのままだけど、男子生徒の多くは騎士科に進む。
そして、
「テオも騎士科に行くんだ」
「リュシアンが騎士科に進むからな」
申請書と同意書に必要事項を記入しているテオを、横で眺めていた。
「王太子様が、わざわざ騎士科に行く必要がないと思うけど」
防護壁がある限りは大丈夫だろうけど、それでも何が起こるかは分からない。
そもそも、防護壁が国を守る限りはリュシアンが国の防衛を騎士科に行ってまで学ぶ必要はないだろうに。
と、それを壊そうとしている私が言うのもどうなんだという話か。
あの防護壁は、国から人が出て行くのは自由だけど、入るには数ヶ所ある何処かの関門を通過しなければならない。
そんな事を考えていると、ふと顔を上げたテオが私の方を向く。
「クラスが変わるけど、何かあればすぐに俺に教えろよ」
「えー。余計な心配よ。そっちこそ、怪我しないようにね」
この3年はテオとクラスが同じだった。
第4学年になって初めてテオとはクラスが離れる。
別に、寂しいとは思わない。
それよりも、万が一でも何かトラブルや事故に巻き込まれて怪我をする方が心配だ。
いや、まて。
何で私が心配をする必要がある?
私には関係ないんだ。
ちょっとだけ、もしテオが怪我をしたらって考えた時に……、胸がぎゅっとなったりなんかしてない!
これは、心配したんじゃない!
本!そう、本の心配をしたんだ!
テオが怪我をして休んだりしたら、本が借りられないって、そう思っただけだ!
いつのまにか私の目の前では、テオが俯いて肩を震わせている。
「ちょっと。何がそんなにおかしいの?」
「いや、何でもない」
まだ肩を震わせていて、そのはずみで机の上のペンが床に落ちてしまっていた。
理由もなく笑って失礼な奴だなと思いながらも、ペンを拾ってあげたら、それに指先が触れた瞬間、テオとリュシアンの少しだけ前の光景が視えた。
テオは、騎士科に進むリュシアンを止めようとしていたんだ。
『この先、もしギフトを持った者が現れたら、その人に王太子の座を譲ってもいいように、色々な道を準備しておきたいんだ。彼女、ローザのギフト騒ぎの時から、ずっと考えていたんだ』
そう話すリュシアンの決意は固かった。
困り顔で、見守るしかないテオの顔が印象的だ。
そっと、テオの机にペンを置く。
「怪我、しないでね。テオもだけど、あの王太子様も」
リュシアンに何かあれば、テオが苦しむ。
それも、何だか嫌だった。
「ありがとう」
ペンを握り直したテオは、居心地が悪くなるくらい優しい笑顔で私に応えてきた。
この数年、テオの顔なんかほぼ毎日見ているのに、今日はなんだかおかしい。
あれっ?テオって、こんなカッコよかったっけ?
15歳になって顔つきもなんだか変わってきたし。
いやいや、テオを見てかっこいいはないでしょ。
ローザじゃないんだから。
でも、何だ、この息苦しさは。
テオの顔を見て、ドキドキしているの?
あり得ない、あり得ない!
これじゃあ、まるで……
テオが目を大きく開いて私を見つめているけど、どうやら様子のおかしい私に気付いたようだ。
ヤバイヤバイ。
こんな挙動不審者、心配されるよ。
「ちょっと、用事を思い出した!」
勢いよく立ち上がると、テオの返事を待たずに脱兎のごとく教室から走り出していた。
距離だ!私に今必要なのは、距離なんだ!!
淑女のマナー?そんなものは、最初から持ち合わせていない!
結局この後、授業開始直前に教室にコソコソと戻ったけど、チラチラとこっちをずーっと見てくるテオの何か言いたげな視線が気になって、あんまり集中できなかった。
よりにもよって、テオを意識しているだなんて、テオを好きだと思い始めているだなんて、こんな浮ついた思いを知られるわけにはいかない。
これからクラスが分かれるのは、私にとってとても都合のいいタイミングだった。
言ったところで私がめんどくさい事に巻き込まれた挙句にひどい目に遭うのが目に見えている。
息を殺して屋敷で過ごし、学園でも出来るだけ一人でひっそりとしていようとした。
私に構ってくるテオは相変わらずだけど、第3学年が終わる頃には、該当する者は進級するクラスを選ばなければならない。
私はこのままだけど、男子生徒の多くは騎士科に進む。
そして、
「テオも騎士科に行くんだ」
「リュシアンが騎士科に進むからな」
申請書と同意書に必要事項を記入しているテオを、横で眺めていた。
「王太子様が、わざわざ騎士科に行く必要がないと思うけど」
防護壁がある限りは大丈夫だろうけど、それでも何が起こるかは分からない。
そもそも、防護壁が国を守る限りはリュシアンが国の防衛を騎士科に行ってまで学ぶ必要はないだろうに。
と、それを壊そうとしている私が言うのもどうなんだという話か。
あの防護壁は、国から人が出て行くのは自由だけど、入るには数ヶ所ある何処かの関門を通過しなければならない。
そんな事を考えていると、ふと顔を上げたテオが私の方を向く。
「クラスが変わるけど、何かあればすぐに俺に教えろよ」
「えー。余計な心配よ。そっちこそ、怪我しないようにね」
この3年はテオとクラスが同じだった。
第4学年になって初めてテオとはクラスが離れる。
別に、寂しいとは思わない。
それよりも、万が一でも何かトラブルや事故に巻き込まれて怪我をする方が心配だ。
いや、まて。
何で私が心配をする必要がある?
私には関係ないんだ。
ちょっとだけ、もしテオが怪我をしたらって考えた時に……、胸がぎゅっとなったりなんかしてない!
これは、心配したんじゃない!
本!そう、本の心配をしたんだ!
テオが怪我をして休んだりしたら、本が借りられないって、そう思っただけだ!
いつのまにか私の目の前では、テオが俯いて肩を震わせている。
「ちょっと。何がそんなにおかしいの?」
「いや、何でもない」
まだ肩を震わせていて、そのはずみで机の上のペンが床に落ちてしまっていた。
理由もなく笑って失礼な奴だなと思いながらも、ペンを拾ってあげたら、それに指先が触れた瞬間、テオとリュシアンの少しだけ前の光景が視えた。
テオは、騎士科に進むリュシアンを止めようとしていたんだ。
『この先、もしギフトを持った者が現れたら、その人に王太子の座を譲ってもいいように、色々な道を準備しておきたいんだ。彼女、ローザのギフト騒ぎの時から、ずっと考えていたんだ』
そう話すリュシアンの決意は固かった。
困り顔で、見守るしかないテオの顔が印象的だ。
そっと、テオの机にペンを置く。
「怪我、しないでね。テオもだけど、あの王太子様も」
リュシアンに何かあれば、テオが苦しむ。
それも、何だか嫌だった。
「ありがとう」
ペンを握り直したテオは、居心地が悪くなるくらい優しい笑顔で私に応えてきた。
この数年、テオの顔なんかほぼ毎日見ているのに、今日はなんだかおかしい。
あれっ?テオって、こんなカッコよかったっけ?
15歳になって顔つきもなんだか変わってきたし。
いやいや、テオを見てかっこいいはないでしょ。
ローザじゃないんだから。
でも、何だ、この息苦しさは。
テオの顔を見て、ドキドキしているの?
あり得ない、あり得ない!
これじゃあ、まるで……
テオが目を大きく開いて私を見つめているけど、どうやら様子のおかしい私に気付いたようだ。
ヤバイヤバイ。
こんな挙動不審者、心配されるよ。
「ちょっと、用事を思い出した!」
勢いよく立ち上がると、テオの返事を待たずに脱兎のごとく教室から走り出していた。
距離だ!私に今必要なのは、距離なんだ!!
淑女のマナー?そんなものは、最初から持ち合わせていない!
結局この後、授業開始直前に教室にコソコソと戻ったけど、チラチラとこっちをずーっと見てくるテオの何か言いたげな視線が気になって、あんまり集中できなかった。
よりにもよって、テオを意識しているだなんて、テオを好きだと思い始めているだなんて、こんな浮ついた思いを知られるわけにはいかない。
これからクラスが分かれるのは、私にとってとても都合のいいタイミングだった。
24
お気に入りに追加
857
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】これでよろしいかしら?
ここ
恋愛
ルイーザはただの平民だった。
大人になったら、幼馴染のライトと結婚し、畑を耕し、子どもを育てる。
そんな未来が当たり前だった。
しかし、ルイーザは普通ではなかった。
あまりの魅力に貴族の養女となり、
領主の花嫁になることに。
しかし、そこで止まらないのが、
ルイーザの運命なのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お城で愛玩動物を飼う方法
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約を解消してほしい、ですか?
まあ! まあ! ああ、いえ、驚いただけですわ。申し訳ありません。理由をお伺いしても宜しいでしょうか?
まあ! 愛する方が? いえいえ、とても素晴らしいことだと思いますわ。
それで、わたくしへ婚約解消ですのね。
ええ。宜しいですわ。わたくしは。
ですが……少しだけ、わたくしの雑談に付き合ってくださると嬉しく思いますわ。
いいえ? 説得などするつもりはなど、ございませんわ。……もう、無駄なことですので。
では、そうですね。殿下は、『ペット』を飼ったことがお有りでしょうか?
『生き物を飼う』のですから。『命を預かる』のですよ? 適当なことは、赦されません。
設定はふわっと。
※読む人に拠っては胸くそ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・
青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。
彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。
大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・
ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる