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前編
8 テオとリュシアン
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「なあ。一人で本ばっか読んで、暇じゃね?」
テオが横から何かを言ってくるけど、聞こえないフリをする。
「なあ。聞こえてるんだろ?」
無視し続けていると、入学式の案内があり、講堂へ移動することになった。
その間も、テオはしぶとく私に話しかけてくる。
とうとう、式の間も隣の席に座って私の顔を眺めている始末だ。
いい加減にしてほしい。なんなんだ。
しかめっ面でテオを睨んでも、どこ吹く風で、涼しい顔で受け流している。
その間に、式はどんどん進んでいく。
次は、新入生代表挨拶だ。
講堂内がざわついて、微かに女生徒のため息も聴こえて前を向くと、妹の婚約者、リュシアンが壇上に上がっていた。
ローザと並ぶと、一対の精巧な人形のようにリュシアンも整った顔立ちをしている。
それに、子供のくせに、もうすでに王族の風格を兼ね備えていた。
生まれより、育ちだな。
王家の血は流れていなくても、あいつは確かに王子だよ。
あれ?
ここで、私はふと思い出した。
テオの家のアニストンって、あの女の本命じゃなかったか?
ってことは、ローザとテオは異母兄妹なの?
うげー。やな事実に行き当たってしまったな。
いやいや、アニストンの当主のことなのかどうかはまだ分からないから。
もう、考えるのはやめよう。
どうせ当人達と私しか知らない事実だ。
朗々としたリュシアンの答辞が読み上げられている中、ふと横を向くと、青い顔をしたテオが僅かに身体を震わせていた。
「ちょっと、具合でも悪いの?」
小さな声で、テオに尋ねる。
真横でこんな真っ青になられたら、さすがに心配になる。
「いや、大丈夫だ」
「そんな、青い顔で言われても……」
大丈夫だと、またテオが言うから、それ以上は何も言えなかった。
式が終わり、講堂から出る頃には、テオの顔色は少しは戻っていた。
「気分はどう?」
中庭に設置されているベンチに座ったテオは、顔を押さえて俯いている。
「ごめんな。余計な心配をかけさせた」
「別に心配なんかしていない」
「そうだな。心配なんかしていないな。ちょっとほっとけなくて、わざわざついててくれているだけだよな。ありがとう」
「は?え?あ、ちがっ」
気にかけてくれてありがとうと言われているようで、慌てて否定しようとするのに、焦って上手く言葉が出てこなかった。
そんな様子の私がおかしかったのか、テオは俯いたまま笑いを堪えるように肩を震わせていた。
人を笑い者にして、私の心配を返せ!
「隣、座れよ」
ずっとテオを見下ろすようにしていたので、その言葉に従う。
「お前と初めて会った日に、リュシアンとも初めて会って」
私が座ったのを確認してから、テオは徐に話し始めた。
「その日からリュシアンとは仲良くなれたんだ。少し話しただけで、あいつの人の良さはすぐに理解できた。俺はこの人に将来、命をかけて仕えたいと思える相手だったんだ。だから、それから必死に努力して、リュシアンの側近候補の中に名前をいれてもらえている」
「ふーん」
テオがなんで私にそれを話そうとしているのかは分からないけど、話くらいは聞いてあげてもいいと思った。
「あいつは王になるべきなんだ。俺は、それを、全力でサポートしたい」
「テオは、何でそこまでリュシアンを大事にするの?直感でしょ?」
「あいつなら、いい王様になれるからだよ」
「そんなの、分からないじゃない」
「俺には、分かるんだ」
そんな穏やかな顔で、確信を持って言われたら、これ以上は反論ができなかった。
でも、一つだけ、引っかかっていた事を聞く。
「リュシアンの婚約者のローザの姉だから、私と親しくしようとしてるの?」
テオは目を見開いて、それから心外だと言うように、物凄いしかめっ面になった。
「キーラの考えはよく分かった。この一年でお前の信頼を勝ち取れるように努力する」
「えっ?いらないよ。そんな、無駄な努力」
「いや。無駄じゃない。覚悟しろよ。キーラ。俺を信頼させたいって決意させたんだから」
さっきまで青い顔をして俯いていた男の子の姿はもうどこにもなくて、それを安心すればいいのか、どうなのか、それこそ私を無駄に悩ませていた。
テオが横から何かを言ってくるけど、聞こえないフリをする。
「なあ。聞こえてるんだろ?」
無視し続けていると、入学式の案内があり、講堂へ移動することになった。
その間も、テオはしぶとく私に話しかけてくる。
とうとう、式の間も隣の席に座って私の顔を眺めている始末だ。
いい加減にしてほしい。なんなんだ。
しかめっ面でテオを睨んでも、どこ吹く風で、涼しい顔で受け流している。
その間に、式はどんどん進んでいく。
次は、新入生代表挨拶だ。
講堂内がざわついて、微かに女生徒のため息も聴こえて前を向くと、妹の婚約者、リュシアンが壇上に上がっていた。
ローザと並ぶと、一対の精巧な人形のようにリュシアンも整った顔立ちをしている。
それに、子供のくせに、もうすでに王族の風格を兼ね備えていた。
生まれより、育ちだな。
王家の血は流れていなくても、あいつは確かに王子だよ。
あれ?
ここで、私はふと思い出した。
テオの家のアニストンって、あの女の本命じゃなかったか?
ってことは、ローザとテオは異母兄妹なの?
うげー。やな事実に行き当たってしまったな。
いやいや、アニストンの当主のことなのかどうかはまだ分からないから。
もう、考えるのはやめよう。
どうせ当人達と私しか知らない事実だ。
朗々としたリュシアンの答辞が読み上げられている中、ふと横を向くと、青い顔をしたテオが僅かに身体を震わせていた。
「ちょっと、具合でも悪いの?」
小さな声で、テオに尋ねる。
真横でこんな真っ青になられたら、さすがに心配になる。
「いや、大丈夫だ」
「そんな、青い顔で言われても……」
大丈夫だと、またテオが言うから、それ以上は何も言えなかった。
式が終わり、講堂から出る頃には、テオの顔色は少しは戻っていた。
「気分はどう?」
中庭に設置されているベンチに座ったテオは、顔を押さえて俯いている。
「ごめんな。余計な心配をかけさせた」
「別に心配なんかしていない」
「そうだな。心配なんかしていないな。ちょっとほっとけなくて、わざわざついててくれているだけだよな。ありがとう」
「は?え?あ、ちがっ」
気にかけてくれてありがとうと言われているようで、慌てて否定しようとするのに、焦って上手く言葉が出てこなかった。
そんな様子の私がおかしかったのか、テオは俯いたまま笑いを堪えるように肩を震わせていた。
人を笑い者にして、私の心配を返せ!
「隣、座れよ」
ずっとテオを見下ろすようにしていたので、その言葉に従う。
「お前と初めて会った日に、リュシアンとも初めて会って」
私が座ったのを確認してから、テオは徐に話し始めた。
「その日からリュシアンとは仲良くなれたんだ。少し話しただけで、あいつの人の良さはすぐに理解できた。俺はこの人に将来、命をかけて仕えたいと思える相手だったんだ。だから、それから必死に努力して、リュシアンの側近候補の中に名前をいれてもらえている」
「ふーん」
テオがなんで私にそれを話そうとしているのかは分からないけど、話くらいは聞いてあげてもいいと思った。
「あいつは王になるべきなんだ。俺は、それを、全力でサポートしたい」
「テオは、何でそこまでリュシアンを大事にするの?直感でしょ?」
「あいつなら、いい王様になれるからだよ」
「そんなの、分からないじゃない」
「俺には、分かるんだ」
そんな穏やかな顔で、確信を持って言われたら、これ以上は反論ができなかった。
でも、一つだけ、引っかかっていた事を聞く。
「リュシアンの婚約者のローザの姉だから、私と親しくしようとしてるの?」
テオは目を見開いて、それから心外だと言うように、物凄いしかめっ面になった。
「キーラの考えはよく分かった。この一年でお前の信頼を勝ち取れるように努力する」
「えっ?いらないよ。そんな、無駄な努力」
「いや。無駄じゃない。覚悟しろよ。キーラ。俺を信頼させたいって決意させたんだから」
さっきまで青い顔をして俯いていた男の子の姿はもうどこにもなくて、それを安心すればいいのか、どうなのか、それこそ私を無駄に悩ませていた。
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