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12 アルテュール②
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目の前には、叔父からの手紙が置かれていた。
読まなくてもわかる。
どうせ俺の事を責めて、マヤと別れろと言うものだ。
封を開ける事もせずに暖炉の中に投げ捨て、忌々しげに燃えていく様子を眺めていた。
どうしてこう、何もかもが上手くいかない。
あの女さえいなければ、マヤと二人で幸せになれると思っていたのに。
「陛下。御報告したい事があります」
「なんだ」
執務室に入ってきたのは、騎士団長。
前王が健在だった時から団長を任されている者だ。
「城下では、公国の縁者である元王妃様を蔑ろにしたから、不作が続いていると農民達が騒いでおります」
「暴動が起きる前に騎士団を遣わせて、黙らせろ」
そんな事はそっちで対処しろと、さらに伝えた。
ますます俺をイラつかせる。
廃妃となってまで俺の邪魔をするヴァレンティーナには、怒りが募る。
「しかし、陛下。自国の民に剣を向ける事は、教えに反します。陛下が……」
「貴様達の役目は、王である俺を守る事だろ!!それ以上何かを言えば、お前とお前の部下は職を失う事になるぞ!!」
怒鳴りつけてやると、口を閉ざした団長は一礼して部屋から出て行った。
静かになった部屋で一人になると、ようやくそれを思い出す。
そう言えば今日は朝食を一緒に過ごした以降、マヤの姿を見ていないと。
今はもう昼過ぎで、先程昼食の時を告げに来た侍女を無視したから、もしかしたらマヤは一人で過ごしているかもしれない。
急いで部屋を出て、マヤを探した。
彼女の姿は、お気に入りのバラ園で見つける事ができた。
「マヤ!」
声をかけると、驚いた様に振り向いて俺を見ていた。
顔を強ばらせたマヤの隣には、見慣れない男がいる。
年若い男で、俺と同じくらいの年齢だ。
「マヤ……」
「あ、アルテュール、紹介するわ。彼は仕立て屋で、今度のドレスの参考にしてもらいたくてこのバラ園を案内していたの。彼、とても刺繍が上手くて、バラの刺繍がもっと上手くなりたくて、どうしてもバラ園が見たいと言うから。ここは王都一キレイな場所でしょ?」
「そ、そうか……」
もちろん俺は、マヤの言葉を疑う事なんかしない。
ただ、異国風の容姿をもつ、鍛えられた事がわかる体格の男が繊細な刺繍ができる仕立て屋とは思えなくて……
「じゃあ、あなたとはここでお別れね。ドレスのデザインを楽しみにしているわ」
マヤがそう言うと、男は俺に頭を下げて去っていった。
「アルテュール、私に何か用だった?会えなくて寂しかったわ」
取り繕う様に俺に腕を絡めてくるマヤの様子に、疑念を抱きながらも何かを問い詰める事はできなかった。
俺がマヤを疑えば、足元から何かが崩れていくように思えて。
「昼食がまだだっただろう?一緒にどうかと思って探していたんだ」
「まぁ!わざわざ探しに来てくれたのね。嬉しいわ、アルテュール」
ニッコリと笑うマヤの腰を抱き寄せて、並んで食堂へと向かう。
何も変わらない。
俺とマヤの愛は本物だ。
そう自分に言い聞かせながら歩いていくと、マヤはご機嫌な様子で、最近会ったばかりの商人の話もしてくれた。
「光って燃える金属があるからって見せてもらったの」
「へー。不思議なものだな」
「他所の国から訪れた商人が教えてくれたの。えっと、説明が難しくてわかりにくかったけど、何かを作っている最中に偶然できて、使い道がないからってくれたの。面白いわよ。とてもやわらかくて、水をかけるとすごく光ってすぐに消えてなくなるのにそれが金属なんですって。臭い液に漬けておかないといけないそうだけど」
「それは面白い物だ。だが、放っておくと火事にならないか?」
「そうなの?ほんの少しだけだったから、もう全部無くなってしまって。だから、大丈夫よ」
「それなら安心だ」
ニコニコしているマヤの話は楽しいものばかりだった。
だから、先ほど抱いた疑念はすぐに忘れて、マヤの話に聞き入って、時間が経つのも忘れて二人で一緒に過ごしていた。
読まなくてもわかる。
どうせ俺の事を責めて、マヤと別れろと言うものだ。
封を開ける事もせずに暖炉の中に投げ捨て、忌々しげに燃えていく様子を眺めていた。
どうしてこう、何もかもが上手くいかない。
あの女さえいなければ、マヤと二人で幸せになれると思っていたのに。
「陛下。御報告したい事があります」
「なんだ」
執務室に入ってきたのは、騎士団長。
前王が健在だった時から団長を任されている者だ。
「城下では、公国の縁者である元王妃様を蔑ろにしたから、不作が続いていると農民達が騒いでおります」
「暴動が起きる前に騎士団を遣わせて、黙らせろ」
そんな事はそっちで対処しろと、さらに伝えた。
ますます俺をイラつかせる。
廃妃となってまで俺の邪魔をするヴァレンティーナには、怒りが募る。
「しかし、陛下。自国の民に剣を向ける事は、教えに反します。陛下が……」
「貴様達の役目は、王である俺を守る事だろ!!それ以上何かを言えば、お前とお前の部下は職を失う事になるぞ!!」
怒鳴りつけてやると、口を閉ざした団長は一礼して部屋から出て行った。
静かになった部屋で一人になると、ようやくそれを思い出す。
そう言えば今日は朝食を一緒に過ごした以降、マヤの姿を見ていないと。
今はもう昼過ぎで、先程昼食の時を告げに来た侍女を無視したから、もしかしたらマヤは一人で過ごしているかもしれない。
急いで部屋を出て、マヤを探した。
彼女の姿は、お気に入りのバラ園で見つける事ができた。
「マヤ!」
声をかけると、驚いた様に振り向いて俺を見ていた。
顔を強ばらせたマヤの隣には、見慣れない男がいる。
年若い男で、俺と同じくらいの年齢だ。
「マヤ……」
「あ、アルテュール、紹介するわ。彼は仕立て屋で、今度のドレスの参考にしてもらいたくてこのバラ園を案内していたの。彼、とても刺繍が上手くて、バラの刺繍がもっと上手くなりたくて、どうしてもバラ園が見たいと言うから。ここは王都一キレイな場所でしょ?」
「そ、そうか……」
もちろん俺は、マヤの言葉を疑う事なんかしない。
ただ、異国風の容姿をもつ、鍛えられた事がわかる体格の男が繊細な刺繍ができる仕立て屋とは思えなくて……
「じゃあ、あなたとはここでお別れね。ドレスのデザインを楽しみにしているわ」
マヤがそう言うと、男は俺に頭を下げて去っていった。
「アルテュール、私に何か用だった?会えなくて寂しかったわ」
取り繕う様に俺に腕を絡めてくるマヤの様子に、疑念を抱きながらも何かを問い詰める事はできなかった。
俺がマヤを疑えば、足元から何かが崩れていくように思えて。
「昼食がまだだっただろう?一緒にどうかと思って探していたんだ」
「まぁ!わざわざ探しに来てくれたのね。嬉しいわ、アルテュール」
ニッコリと笑うマヤの腰を抱き寄せて、並んで食堂へと向かう。
何も変わらない。
俺とマヤの愛は本物だ。
そう自分に言い聞かせながら歩いていくと、マヤはご機嫌な様子で、最近会ったばかりの商人の話もしてくれた。
「光って燃える金属があるからって見せてもらったの」
「へー。不思議なものだな」
「他所の国から訪れた商人が教えてくれたの。えっと、説明が難しくてわかりにくかったけど、何かを作っている最中に偶然できて、使い道がないからってくれたの。面白いわよ。とてもやわらかくて、水をかけるとすごく光ってすぐに消えてなくなるのにそれが金属なんですって。臭い液に漬けておかないといけないそうだけど」
「それは面白い物だ。だが、放っておくと火事にならないか?」
「そうなの?ほんの少しだけだったから、もう全部無くなってしまって。だから、大丈夫よ」
「それなら安心だ」
ニコニコしているマヤの話は楽しいものばかりだった。
だから、先ほど抱いた疑念はすぐに忘れて、マヤの話に聞き入って、時間が経つのも忘れて二人で一緒に過ごしていた。
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