蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌

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3 理想と現実

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「ヴァレンティーナ様……本日も陛下はマヤ様の寝所へ行かれました……」

「そう……」

 それを告げる侍女のジャンナの方が悔しげな顔をしていた。

 結婚した日から毎晩の事で、私はもう諦めに近い感情を抱いていた。

 婚約が決まったばかりの幼い頃は、アルテュール様と手を取り合って国を支えていけるのだと、夢見ていた。

 自分が王家と王国を支えていける事を、誇らしいと思っていた。

 でも、現実は……

 侮辱を受けたあの日から、陛下と顔を合わせない日常が当たり前になった。

 私は自分に与えられた執務室にこもり、陛下が手を抜いた公務のフォローを余儀なくされた。

 今も陛下は、当てつけのようにマヤの腰を抱き寄せて庭を散歩している。

 私が少し視線を向ければそれがよく見えてしまうため、手元の書類に集中していた。

 でも、すぐに視線を上げて、同じく執務に忙殺されていた国王補佐官の顔を見た。

「この金額は間違いないの?」

「はい。王妃殿下」

 彼も苦々しげにしている。

 頭が痛かった。

 城に納品された品目を見るに、マヤの散財は目に余る。

 彼女への予算はこんなに多いはずが無いのに。

 その資金源はどこなのか、少し考えればわかる事だった。

 おそらく、王妃に使われるべきお金を彼女に使っているのだ。

「貴方の言葉にも、陛下は耳を貸さないのね」

「はい……」

 また、ため息が出た。

 どこまで私を馬鹿にすればいいのか。

 マヤが購入した品目と金額を書き写し、それをファイルに挟んだ。

 こんな日が毎日続いていった。

 華やかな場にアルテュールとマヤが二人で姿を見せる一方、私はずっとこの執務室で過ごす。

 虚しい時間が過ぎる。

 王妃となって、もっとやりたいことがあったはずだったのに。

 今の私では、アルテュールの尻拭いで、最低限の実務をこなすことしかできない。

 マヤが王妃のように振る舞う尊大な態度に、他の貴族達の憤りも募っていっている。

 陛下に知られないように私の元を訪れて、嘆願されることもたびたびあった。

 マヤの無茶振りに困っていると、商人達からの声も届けられていた。

 この事態をどう導いていけばいいのか、力不足を痛感させられる。

 見えない何かに絡みとられて、暗い底に落ちていくかのような錯覚を覚える。

 この状況で経験不足の私にいったい何ができるのか。

 両親も頭を抱えているほどなのに。

 でも、転機が訪れたのは、ある人の来訪からだった。

「妃殿下。ローハン閣下がお会いしたいそうですが、いかがなさいますか?」

「ローハン公爵様が?すぐに時間を設けるとお伝えして」

 机の上を軽く片付けて、予定外の、そして予想していなかった方との面会に備えた。





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