聖女は歌う 復讐の歌を

奏千歌

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ユーリア   *胸糞注意

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「こんにちは。ユーリアさん」

 それは、足が引き寄せられるように森に向かいかけた直後のことだった。

 ここに来ればもしかしてと思っていたら、本当にヴェロニカさんが背後から声をかけてきた。

 実は監視されているのではと、被害妄想的な事を考えてしまう。

 目の前に立つ姿は、とても無邪気な様子なのに。

「こんにちは、ヴェロニカさん。御結婚、おめでとうございます。もう妃殿下とお呼びしなければなりませんね」

「ありがとう。貴女はそんなこと気にしないで、今まで通りヴェロニカと呼んで。それでね、私、お城で気になる事を聞いたの」

「え?」

「ユーリアさん。レナート王子と婚約するかもしれないのでしょ?」

「ご存知なのですね……」

 少しだけ眉を寄せたヴェロニカさんは、不安そうに私に聞いてきた。

「イヤなの?」

「はい。レナート王子がどうこうではなくて、断れるのなら断りたいです。もう……お城には行きたくありません」

「わかったわ。ミハイルが心配していたの。ユーリアが嫌がることはしたくないって。ふふっ。彼、相変わらず優しいわね」

 それを知っているから、ヴェロニカさんに言われると複雑だ。

「ユーリアさんは、もし、レナート王子がミハイルの王座を脅かそうとしているのなら、味方になってくれる?」

「それは、どのような意味で……」

 話が変わって驚かされる。

「レナート王子が前王の息子だということは知ってる?」

「はい……事情は……」

「もし、彼がミハイル達に復讐しようとしているとしたら?」

 ヴェロニカさんは、笑っているようで笑っていなくて、怖く感じた。

「そんな事は……レナート王子はまだ13歳ですよね?」

「復讐に年齢は関係ないでしょ?彼、長年部屋に引きこもって何をしていたのかしらね」

 療養だけではないと言いたいのかな……

「以前は、ヴェロニカさんはレナート王子の事を心配している様子でしたが」

「元気になったからよ。だから、ユーリアさんには彼の監視役をお願いしたかったのだけど、無理を言ってはダメだし、私が頼める立場でもないわね」

 普通は王太子妃様の願い事を断れないし、ヴェロニカさんを侮っているわけではないけど、こればかりはとても受け入れられない。

「申し訳ありません」

「いいの。でも、一つだけお願いを聞いてくれないかしら?」

「私にできることなら」

「簡単なことよ。私と時々、お茶会をしてほしいの。いつも、マナーだなんだって息苦しくて。私はミハイルと一緒にいられたらそれでいいのに。だからね、私がライネ領に来るから、町でおしのびで楽しみましょう」

「はい、それくらいなら……」

「平民だった頃の自由が懐かしくて。ありがとう、ユーリアさん」

 ヴェロニカさんは笑顔になって、私の両手を包み込むように握った。

 そうだよね。

 平民から王太子妃となったヴェロニカさんは、幸せなことばかりじゃないよね。

 我慢しなければならないこともたくさんあって、窮屈な思いをして。

「ミハイルには私から、貴女の気持ちを伝えておくね。大丈夫。彼、全力で貴女とレナート王子の縁談を握り潰すわ。本当は、貴女に手紙が届く前に無かったことにするつもりだったの。でも、私がユーリアさんの考えを聞いてみたら?って言って。ここで会えてよかった」

 心底嬉しそうに、ニッコリと笑いかけられていた。

 こんな屈託の無い表情に、王太子殿下は惹かれたのだ。

「レナート王子の動向は私が注視しておくね。もしかしたら、私の考えすぎかもしれないし」

「はい。ヴェロニカさん、気を付けて下さいね。立場ある方は、御本人のせいではなくても敵は現れるものです」

「そうね。ちゃんと忠告は心に留めておくわ。貴女も……ね」

「はい」

「じゃあね。ミハイルに貴女と話したことを伝えに行くわ。またね、ユーリアさん」

「はい。またです」

 ヴェロニカさんが飛び去る様子を見送って、よく考えれば護衛も付けずに飛び出した自分をみんなが心配しているかもと、急いで屋敷に引き返していた。



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