11 / 52
ユーリア *胸糞注意
11 提案
しおりを挟む
「こんにちは。ユーリアさん」
それは、足が引き寄せられるように森に向かいかけた直後のことだった。
ここに来ればもしかしてと思っていたら、本当にヴェロニカさんが背後から声をかけてきた。
実は監視されているのではと、被害妄想的な事を考えてしまう。
目の前に立つ姿は、とても無邪気な様子なのに。
「こんにちは、ヴェロニカさん。御結婚、おめでとうございます。もう妃殿下とお呼びしなければなりませんね」
「ありがとう。貴女はそんなこと気にしないで、今まで通りヴェロニカと呼んで。それでね、私、お城で気になる事を聞いたの」
「え?」
「ユーリアさん。レナート王子と婚約するかもしれないのでしょ?」
「ご存知なのですね……」
少しだけ眉を寄せたヴェロニカさんは、不安そうに私に聞いてきた。
「イヤなの?」
「はい。レナート王子がどうこうではなくて、断れるのなら断りたいです。もう……お城には行きたくありません」
「わかったわ。ミハイルが心配していたの。ユーリアが嫌がることはしたくないって。ふふっ。彼、相変わらず優しいわね」
それを知っているから、ヴェロニカさんに言われると複雑だ。
「ユーリアさんは、もし、レナート王子がミハイルの王座を脅かそうとしているのなら、味方になってくれる?」
「それは、どのような意味で……」
話が変わって驚かされる。
「レナート王子が前王の息子だということは知ってる?」
「はい……事情は……」
「もし、彼がミハイル達に復讐しようとしているとしたら?」
ヴェロニカさんは、笑っているようで笑っていなくて、怖く感じた。
「そんな事は……レナート王子はまだ13歳ですよね?」
「復讐に年齢は関係ないでしょ?彼、長年部屋に引きこもって何をしていたのかしらね」
療養だけではないと言いたいのかな……
「以前は、ヴェロニカさんはレナート王子の事を心配している様子でしたが」
「元気になったからよ。だから、ユーリアさんには彼の監視役をお願いしたかったのだけど、無理を言ってはダメだし、私が頼める立場でもないわね」
普通は王太子妃様の願い事を断れないし、ヴェロニカさんを侮っているわけではないけど、こればかりはとても受け入れられない。
「申し訳ありません」
「いいの。でも、一つだけお願いを聞いてくれないかしら?」
「私にできることなら」
「簡単なことよ。私と時々、お茶会をしてほしいの。いつも、マナーだなんだって息苦しくて。私はミハイルと一緒にいられたらそれでいいのに。だからね、私がライネ領に来るから、町でおしのびで楽しみましょう」
「はい、それくらいなら……」
「平民だった頃の自由が懐かしくて。ありがとう、ユーリアさん」
ヴェロニカさんは笑顔になって、私の両手を包み込むように握った。
そうだよね。
平民から王太子妃となったヴェロニカさんは、幸せなことばかりじゃないよね。
我慢しなければならないこともたくさんあって、窮屈な思いをして。
「ミハイルには私から、貴女の気持ちを伝えておくね。大丈夫。彼、全力で貴女とレナート王子の縁談を握り潰すわ。本当は、貴女に手紙が届く前に無かったことにするつもりだったの。でも、私がユーリアさんの考えを聞いてみたら?って言って。ここで会えてよかった」
心底嬉しそうに、ニッコリと笑いかけられていた。
こんな屈託の無い表情に、王太子殿下は惹かれたのだ。
「レナート王子の動向は私が注視しておくね。もしかしたら、私の考えすぎかもしれないし」
「はい。ヴェロニカさん、気を付けて下さいね。立場ある方は、御本人のせいではなくても敵は現れるものです」
「そうね。ちゃんと忠告は心に留めておくわ。貴女も……ね」
「はい」
「じゃあね。ミハイルに貴女と話したことを伝えに行くわ。またね、ユーリアさん」
「はい。またです」
ヴェロニカさんが飛び去る様子を見送って、よく考えれば護衛も付けずに飛び出した自分をみんなが心配しているかもと、急いで屋敷に引き返していた。
それは、足が引き寄せられるように森に向かいかけた直後のことだった。
ここに来ればもしかしてと思っていたら、本当にヴェロニカさんが背後から声をかけてきた。
実は監視されているのではと、被害妄想的な事を考えてしまう。
目の前に立つ姿は、とても無邪気な様子なのに。
「こんにちは、ヴェロニカさん。御結婚、おめでとうございます。もう妃殿下とお呼びしなければなりませんね」
「ありがとう。貴女はそんなこと気にしないで、今まで通りヴェロニカと呼んで。それでね、私、お城で気になる事を聞いたの」
「え?」
「ユーリアさん。レナート王子と婚約するかもしれないのでしょ?」
「ご存知なのですね……」
少しだけ眉を寄せたヴェロニカさんは、不安そうに私に聞いてきた。
「イヤなの?」
「はい。レナート王子がどうこうではなくて、断れるのなら断りたいです。もう……お城には行きたくありません」
「わかったわ。ミハイルが心配していたの。ユーリアが嫌がることはしたくないって。ふふっ。彼、相変わらず優しいわね」
それを知っているから、ヴェロニカさんに言われると複雑だ。
「ユーリアさんは、もし、レナート王子がミハイルの王座を脅かそうとしているのなら、味方になってくれる?」
「それは、どのような意味で……」
話が変わって驚かされる。
「レナート王子が前王の息子だということは知ってる?」
「はい……事情は……」
「もし、彼がミハイル達に復讐しようとしているとしたら?」
ヴェロニカさんは、笑っているようで笑っていなくて、怖く感じた。
「そんな事は……レナート王子はまだ13歳ですよね?」
「復讐に年齢は関係ないでしょ?彼、長年部屋に引きこもって何をしていたのかしらね」
療養だけではないと言いたいのかな……
「以前は、ヴェロニカさんはレナート王子の事を心配している様子でしたが」
「元気になったからよ。だから、ユーリアさんには彼の監視役をお願いしたかったのだけど、無理を言ってはダメだし、私が頼める立場でもないわね」
普通は王太子妃様の願い事を断れないし、ヴェロニカさんを侮っているわけではないけど、こればかりはとても受け入れられない。
「申し訳ありません」
「いいの。でも、一つだけお願いを聞いてくれないかしら?」
「私にできることなら」
「簡単なことよ。私と時々、お茶会をしてほしいの。いつも、マナーだなんだって息苦しくて。私はミハイルと一緒にいられたらそれでいいのに。だからね、私がライネ領に来るから、町でおしのびで楽しみましょう」
「はい、それくらいなら……」
「平民だった頃の自由が懐かしくて。ありがとう、ユーリアさん」
ヴェロニカさんは笑顔になって、私の両手を包み込むように握った。
そうだよね。
平民から王太子妃となったヴェロニカさんは、幸せなことばかりじゃないよね。
我慢しなければならないこともたくさんあって、窮屈な思いをして。
「ミハイルには私から、貴女の気持ちを伝えておくね。大丈夫。彼、全力で貴女とレナート王子の縁談を握り潰すわ。本当は、貴女に手紙が届く前に無かったことにするつもりだったの。でも、私がユーリアさんの考えを聞いてみたら?って言って。ここで会えてよかった」
心底嬉しそうに、ニッコリと笑いかけられていた。
こんな屈託の無い表情に、王太子殿下は惹かれたのだ。
「レナート王子の動向は私が注視しておくね。もしかしたら、私の考えすぎかもしれないし」
「はい。ヴェロニカさん、気を付けて下さいね。立場ある方は、御本人のせいではなくても敵は現れるものです」
「そうね。ちゃんと忠告は心に留めておくわ。貴女も……ね」
「はい」
「じゃあね。ミハイルに貴女と話したことを伝えに行くわ。またね、ユーリアさん」
「はい。またです」
ヴェロニカさんが飛び去る様子を見送って、よく考えれば護衛も付けずに飛び出した自分をみんなが心配しているかもと、急いで屋敷に引き返していた。
2
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる