5 / 52
ユーリア *胸糞注意
5 そして領地で過ごしていたのだけど
しおりを挟む
領地で家族に囲まれて心穏やかに過ごせた私は、少しずつ行動範囲を広げることができた。
といっても、屋敷近くの町で買い物を楽しむとかだけど。
自分が行きたいところに行って、興味のあるお店を見て、憧れだったカフェでのひと時も、従姉妹のライサと楽しむことができた。
ずっとベッドの上にいた少し前の自分に教えてあげたい。
悲しい別れはあったけど、自由を満喫できる健康が何よりだと。
それで、さらに婚約解消からおおよそ三ヶ月が経った頃にお父様が私のためにパーティーを開催してくれたのだけど……
通路で口を押さえて蹲る私を、黒髪に黒い瞳の長身の男性が見下ろしていた。
私に向ける蔑むような視線は、先程聞いた彼の誤解からだろう。
彼は呆れたようなため息を吐くと、会場の方へと足を向けた。
行かないでと、呼び止める事はできなかった。
その彼と入れ替わるようにこちらに近付いてくる足音が聞こえた。
「ユーリア!?やだっ、どうしたの!?具合が悪いの!?病気は治ったって聞いたのに!!待ってて、おじ様を呼んでくるから、死なないで!!せっかく、一緒に過ごせるようになったのに!!」
ライサが悲鳴のような声をあげると、徐々に涙声になっていた。
驚かせてしまって申し訳ないけど、これで誰かに来てもらえると安堵していた。
その直後の事だ。
「すまない、君は本当に具合が悪かったんだな」
去っていったと思っていた黒髪に黒い瞳の若い男性は、明らかに私よりも青ざめた顔で私を抱き上げると、
「そこの君、すまないが救護室のような場所があるなら案内してくれ。彼女のことは、このまま僕が運ぶから」
ライサに声をかけていた。
逞しい両腕が、しっかりと私を支えてくれている。
かけられた言葉には驚いたけど、招待客であろうこの人の手を煩わせてしまったこちらが悪いのは明白だ。
謝罪の言葉を口にしたかったけど、どうやら今すぐには叶いそうにはなかった。
人に心配と迷惑をかけてばかりの自分が嫌になる。
「ベッドに君を運ぶよ。もう少しだけ辛抱してくれ」
私を運んでくれている最中、男性はずっと私に声をかけ続けてくれていた。
男性の手によって会場から一番近い客間に運ばれた私は、ベッドに横になると、すぐに家族と医者に囲まれていた。
「ユーリア!!しっかりしろ!!すぐにワーレム医師が診てくれる!!だから、頑張るんだ!!」
「あなた、ユーリアの耳元でそんなに大きな声を出したら、ユーリアの体に障るわ。ユーリア、母がそばにいるから安心して」
「兄もついているからな」
「ヴィクトル、貴様、招待客を放置して何故ここにいる!」
「親父こそ、主催者だろ」
私の枕元は、随分と賑やかなものだった。
心身が弱っているところに、家族の存在はありがたいものだけど、まだまだパーティーは終わりの時刻ではないのに、主催者一家がここにいてはいけない。
「お父様、お兄様、私は大丈夫ですので会場にお戻りください」
それに、私には気になっていることがあった。
私を運んでくれた男性にお礼を言えないまま、彼の姿が見えなくなっていたのだ。
「ほら、あなた達は会場に戻って。ユーリアのそばには私がいるから」
お母様がベッドサイドに座ると、私の手を握ってくれた。
柔らかい手が心地良い。
「むぅ……後でまた、すぐに顔を見にくるから、ゆっくり休みなさい」
「ユーリア、異変があれがすぐに知らせるんだぞ」
「はい。お父様、お兄様、ありがとうございます」
渋々といった様子で、お父様達は退室していく。
「お嬢様の体調には休むのが一番です。気分が落ち着く薬を調合してきますので、白湯と一緒に服用してください」
ワーレム医師も退室して行ったから、お母様に尋ねていた。
「お母様、私を運んでくださった方は?まだお礼を言えてなくて」
「ああ、あの方ね。大丈夫よ。貴女のお父様はやるべき事はちゃんとしているから」
お父様が代わりにお礼を伝えてくれているらしい。
直接言いたかったけど、この状況では仕方がない。
それにもう、人前に出られる格好ではなくなっていた。
「ヴィクトルとも顔見知りで、あの方はしばらく領地内に滞在しているでしょうから、貴女が元気になってからお礼の手紙を書いたらいいわ」
「はい」
お母様の言葉から、あの男性はそれなりの身分の方なのだとわかる。
女性に言い寄られて辟易していたところに、私に迷惑をかけられて、どんな謝罪とお礼が相応しいのか。
社交経験のない私には、難しい課題となっていた。
といっても、屋敷近くの町で買い物を楽しむとかだけど。
自分が行きたいところに行って、興味のあるお店を見て、憧れだったカフェでのひと時も、従姉妹のライサと楽しむことができた。
ずっとベッドの上にいた少し前の自分に教えてあげたい。
悲しい別れはあったけど、自由を満喫できる健康が何よりだと。
それで、さらに婚約解消からおおよそ三ヶ月が経った頃にお父様が私のためにパーティーを開催してくれたのだけど……
通路で口を押さえて蹲る私を、黒髪に黒い瞳の長身の男性が見下ろしていた。
私に向ける蔑むような視線は、先程聞いた彼の誤解からだろう。
彼は呆れたようなため息を吐くと、会場の方へと足を向けた。
行かないでと、呼び止める事はできなかった。
その彼と入れ替わるようにこちらに近付いてくる足音が聞こえた。
「ユーリア!?やだっ、どうしたの!?具合が悪いの!?病気は治ったって聞いたのに!!待ってて、おじ様を呼んでくるから、死なないで!!せっかく、一緒に過ごせるようになったのに!!」
ライサが悲鳴のような声をあげると、徐々に涙声になっていた。
驚かせてしまって申し訳ないけど、これで誰かに来てもらえると安堵していた。
その直後の事だ。
「すまない、君は本当に具合が悪かったんだな」
去っていったと思っていた黒髪に黒い瞳の若い男性は、明らかに私よりも青ざめた顔で私を抱き上げると、
「そこの君、すまないが救護室のような場所があるなら案内してくれ。彼女のことは、このまま僕が運ぶから」
ライサに声をかけていた。
逞しい両腕が、しっかりと私を支えてくれている。
かけられた言葉には驚いたけど、招待客であろうこの人の手を煩わせてしまったこちらが悪いのは明白だ。
謝罪の言葉を口にしたかったけど、どうやら今すぐには叶いそうにはなかった。
人に心配と迷惑をかけてばかりの自分が嫌になる。
「ベッドに君を運ぶよ。もう少しだけ辛抱してくれ」
私を運んでくれている最中、男性はずっと私に声をかけ続けてくれていた。
男性の手によって会場から一番近い客間に運ばれた私は、ベッドに横になると、すぐに家族と医者に囲まれていた。
「ユーリア!!しっかりしろ!!すぐにワーレム医師が診てくれる!!だから、頑張るんだ!!」
「あなた、ユーリアの耳元でそんなに大きな声を出したら、ユーリアの体に障るわ。ユーリア、母がそばにいるから安心して」
「兄もついているからな」
「ヴィクトル、貴様、招待客を放置して何故ここにいる!」
「親父こそ、主催者だろ」
私の枕元は、随分と賑やかなものだった。
心身が弱っているところに、家族の存在はありがたいものだけど、まだまだパーティーは終わりの時刻ではないのに、主催者一家がここにいてはいけない。
「お父様、お兄様、私は大丈夫ですので会場にお戻りください」
それに、私には気になっていることがあった。
私を運んでくれた男性にお礼を言えないまま、彼の姿が見えなくなっていたのだ。
「ほら、あなた達は会場に戻って。ユーリアのそばには私がいるから」
お母様がベッドサイドに座ると、私の手を握ってくれた。
柔らかい手が心地良い。
「むぅ……後でまた、すぐに顔を見にくるから、ゆっくり休みなさい」
「ユーリア、異変があれがすぐに知らせるんだぞ」
「はい。お父様、お兄様、ありがとうございます」
渋々といった様子で、お父様達は退室していく。
「お嬢様の体調には休むのが一番です。気分が落ち着く薬を調合してきますので、白湯と一緒に服用してください」
ワーレム医師も退室して行ったから、お母様に尋ねていた。
「お母様、私を運んでくださった方は?まだお礼を言えてなくて」
「ああ、あの方ね。大丈夫よ。貴女のお父様はやるべき事はちゃんとしているから」
お父様が代わりにお礼を伝えてくれているらしい。
直接言いたかったけど、この状況では仕方がない。
それにもう、人前に出られる格好ではなくなっていた。
「ヴィクトルとも顔見知りで、あの方はしばらく領地内に滞在しているでしょうから、貴女が元気になってからお礼の手紙を書いたらいいわ」
「はい」
お母様の言葉から、あの男性はそれなりの身分の方なのだとわかる。
女性に言い寄られて辟易していたところに、私に迷惑をかけられて、どんな謝罪とお礼が相応しいのか。
社交経験のない私には、難しい課題となっていた。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王太子殿下は虐げられ令嬢を救いたい
参谷しのぶ
恋愛
エリシア・アージェント伯爵令嬢は国中から虐げられている。百年前の『大厄災』で、王侯貴族は魔力を発動させることに成功したが、アージェント家だけは魔力を得られなかったからだ。
百年後のいま『恥知らずなアージェント家』の末裔であるエリシアは、シンクレア公爵家の令嬢ラーラからこき使われていた。
かなり虐げられているが給料だけはいい。公爵家の使用人から軽んじられても気にしない。ラーラの引き立て役として地味なドレスを身にまとい、社交界でヒソヒソされても気にしない。だって、いつか領地を買い戻すという目標があるから!
それなのに、雇い主ラーラが『狙って』いる王太子アラスターが公衆の面前でラーラを諫め、エリシアを庇う発言をする。
彼はどうやらエリシアを『救いたい』らしく……?
虐げられすぎて少々価値観がずれているエリシアと、そんな彼女を守りたい王太子アラスター。やがてエリシアにとんでもない力があることが判明し……。
★小説家になろう様でも連載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる