35 / 52
エカチェリーナ *バッドエンド注意
18 大いなる存在(2)
しおりを挟む
「あなたは、何か覚えていることがありますか?ここで眠っていた以前のことです」
『何も。気付いたらここで眠っていた』
「誰かに会った記憶などは」
『無い』
「じゃぁ……何かしたいことはありますか?」
『それも無い。我は何をするべきなのだ?』
「あなたは本当なら、多くの魔物と一緒に眠りについているべきなのだそうですが、それが叶いそうにありません」
『我に魔物を退治せよと命じるか?』
「あ、いえ、命じるわけではありませんが、できたら魔物が人に害を与えないようにしていただけたら助かります。あなたの指示に魔物は従うものなのですか?」
『うるさいから静かにしていろと言えば、しばらく息を殺して大人しくしていたな』
「あなたを怖がっているのですね。では、魔物には引き続き静かにしてもらえていたら助かります」
『それが我の役目か。了承した』
「よければ、僕からの提案なのですが、他に何をすればいいのかわからないのであれば、空を巡ってみるのはいかがですか?ただ、人が住む街に行くのは、驚かせてしまうかもしれませんが。あなたが眠っている時に、呻き声が聞こえて、とても苦しんでいるようでした。その原因が、僕にはわかりません。僕は少し前まで、苦しんでいた時に、一人で暗い部屋に閉じこもっていました。その部屋から救い出してくれたのがこちらのエカチェリーナさんで、その後に夜空を一緒に飛んで、とても感動しました」
王子は語り過ぎたと思ったのか、一度口を閉じて深呼吸をしている。
「えっと……こんなことを、偉大な聖竜であるあなたに勧めてもいいものでしょうか?」
『貴殿がそう言うのなら』
すぐさま立ち上がった竜は、勢いよく翼を広げた。
その弾みでなのか、小さな何かが飛んできて王子がそれを上手に掴んだ。
『行ってくる』
そう告げて暗がりから空に向けて飛び去る竜を、二人で見上げていた。
少し先で立つ王子は、自分が何をしたかも理解できていない様子で、なんとも間の抜けた表情で上を見上げ続けていた。
「君は優しいな。王族なら、それが枷になる時があるだろう」
私が声をかけると、王子は私の方を向いた。
そして笑顔となっていたのだけど、
「どこを見てそう仰ってくれるのかはわかりませんが、きっとエカチェリーナさんが優しいから、僕も優しくあろうとしているだけです」
私の方こそ、どこを見てそう言われるのかを理解できなかった。
「それは、竜からの贈り物かな?」
先程飛んできた物体のことだ。
王子の手の中には、小さな骨で作られた笛があった。
王子がそれを吹いてみると、ふーっと空気が漏れ出るようなわずかな音がする。
途端に、上から巨体が急降下してきて、私でもちょっと驚いてしまった。
つい今しがた別れたばかりの竜が舞い戻ってきたのだ。
感慨深い見送りをしたつもりだったのに。
「その笛を吹けば、竜が来てくれるようだね」
「えっと……」
王子は気まずげに竜を見上げ、竜は穏やかな目で王子を見ている。
「せっかくだから、背中に乗せてもらったら?」
「あ、はい。ではエカチェリーナさんもご一緒に……」
「私は聖なる竜には乗れない」
「そうなんですか?」
「私は古の魔女の弟子で、聖竜と言われるだけあって、不浄のものを嫌うからね」
「不浄のもの?エカチェリーナさんがそんなはず……古の魔女は、エカチェリーナさんのお師匠様のことですよね?」
あの人は、とても特殊な思考の持ち主だった。
「ほら、乗った乗った」
王子を急かし、竜の背中に慎重に乗る様子を見守っていた。
背中に王子を乗せた竜は、翼を広げて飛び上がる。
「使い魔が聖竜とは大した者だね。ちょうどいいから、明日からは魔法の特訓をしようか。私は村への報告を済ませて家で待ってるから、暗くならないうちに戻ってくるんだよ」
その言葉をかけて見送っていた。
『何も。気付いたらここで眠っていた』
「誰かに会った記憶などは」
『無い』
「じゃぁ……何かしたいことはありますか?」
『それも無い。我は何をするべきなのだ?』
「あなたは本当なら、多くの魔物と一緒に眠りについているべきなのだそうですが、それが叶いそうにありません」
『我に魔物を退治せよと命じるか?』
「あ、いえ、命じるわけではありませんが、できたら魔物が人に害を与えないようにしていただけたら助かります。あなたの指示に魔物は従うものなのですか?」
『うるさいから静かにしていろと言えば、しばらく息を殺して大人しくしていたな』
「あなたを怖がっているのですね。では、魔物には引き続き静かにしてもらえていたら助かります」
『それが我の役目か。了承した』
「よければ、僕からの提案なのですが、他に何をすればいいのかわからないのであれば、空を巡ってみるのはいかがですか?ただ、人が住む街に行くのは、驚かせてしまうかもしれませんが。あなたが眠っている時に、呻き声が聞こえて、とても苦しんでいるようでした。その原因が、僕にはわかりません。僕は少し前まで、苦しんでいた時に、一人で暗い部屋に閉じこもっていました。その部屋から救い出してくれたのがこちらのエカチェリーナさんで、その後に夜空を一緒に飛んで、とても感動しました」
王子は語り過ぎたと思ったのか、一度口を閉じて深呼吸をしている。
「えっと……こんなことを、偉大な聖竜であるあなたに勧めてもいいものでしょうか?」
『貴殿がそう言うのなら』
すぐさま立ち上がった竜は、勢いよく翼を広げた。
その弾みでなのか、小さな何かが飛んできて王子がそれを上手に掴んだ。
『行ってくる』
そう告げて暗がりから空に向けて飛び去る竜を、二人で見上げていた。
少し先で立つ王子は、自分が何をしたかも理解できていない様子で、なんとも間の抜けた表情で上を見上げ続けていた。
「君は優しいな。王族なら、それが枷になる時があるだろう」
私が声をかけると、王子は私の方を向いた。
そして笑顔となっていたのだけど、
「どこを見てそう仰ってくれるのかはわかりませんが、きっとエカチェリーナさんが優しいから、僕も優しくあろうとしているだけです」
私の方こそ、どこを見てそう言われるのかを理解できなかった。
「それは、竜からの贈り物かな?」
先程飛んできた物体のことだ。
王子の手の中には、小さな骨で作られた笛があった。
王子がそれを吹いてみると、ふーっと空気が漏れ出るようなわずかな音がする。
途端に、上から巨体が急降下してきて、私でもちょっと驚いてしまった。
つい今しがた別れたばかりの竜が舞い戻ってきたのだ。
感慨深い見送りをしたつもりだったのに。
「その笛を吹けば、竜が来てくれるようだね」
「えっと……」
王子は気まずげに竜を見上げ、竜は穏やかな目で王子を見ている。
「せっかくだから、背中に乗せてもらったら?」
「あ、はい。ではエカチェリーナさんもご一緒に……」
「私は聖なる竜には乗れない」
「そうなんですか?」
「私は古の魔女の弟子で、聖竜と言われるだけあって、不浄のものを嫌うからね」
「不浄のもの?エカチェリーナさんがそんなはず……古の魔女は、エカチェリーナさんのお師匠様のことですよね?」
あの人は、とても特殊な思考の持ち主だった。
「ほら、乗った乗った」
王子を急かし、竜の背中に慎重に乗る様子を見守っていた。
背中に王子を乗せた竜は、翼を広げて飛び上がる。
「使い魔が聖竜とは大した者だね。ちょうどいいから、明日からは魔法の特訓をしようか。私は村への報告を済ませて家で待ってるから、暗くならないうちに戻ってくるんだよ」
その言葉をかけて見送っていた。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
その婚約破棄喜んで
空月 若葉
恋愛
婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。
そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。
注意…主人公がちょっと怖いかも(笑)
4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。
完結後、番外編を付け足しました。
カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる