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エカチェリーナ *バッドエンド注意
16 役割(2)
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王子は、おそるおそる足を進めていた。
耳に届く、得体の知れない生き物の息遣いはさぞかし怖いことでしょう。
「今日は危険から王子のことを守るよ。だからそんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
「あ、いえ、僕こそエカチェリーナさんのことを守らなければならないのに、怯えた姿を見せてごめんなさい」
“今日は”と言ったことに、王子は言及しない。
おそらく、緊張のあまり気付いてないのだと思う。
「エカチェリーナさんは、声の持ち主に目星はついているのですか?」
「うん。この森のある場所に眠っていた子だと思うよ。封印、に近いかな」
「封印されなければならないような恐ろしい存在なのですか?」
思わずといった様子の王子が、後ろを歩く私の方を振り返った。
想像通りに、その表情には怯えが見える。
「力を持つものだけど、悪いものではないよ。引きこもりだった王子も、一度くらいは見たことがあるんじゃない?神殿に祀られた聖竜と戯れる聖女の像を。大半の国の国教だよね」
「竜!?」
とうとう王子の足は止まって、私の方を完全に向いた。
「聖竜が世界を守り、聖女が聖竜を守る」
「あ、はい。聞いたことはありますが、でも、どうして、僕が竜に?」
「王子が生まれた時には決まっていたことのはず」
首を傾げている王子に、さらに言葉を投げかけていく。
「ルニース王国の王家に伝わる話があるはずだけど、今はもう消え去っているのかな。聖女の存在だけが一人歩きして」
手を振って前に進むように促すと、王子は再び歩きだす。
「竜の命が込められた玉を抱いて生まれてくる女の子がいる。だいたい百年ちょっと前に起きた事件が発端だけど、その前までは竜の命は込められていなかったようだよ。それで、その竜玉に聖女が魔力をこめ、竜と疎通できる男の子が竜に返して悪しきものと眠りについてもらうことで世界が安定する。役目を持った三人は元々は一つの家系に生まれていたのだけど、長い時を経て、二つの王家と一つの一族に血が受け継がれることとなった」
「そんな話があるって、僕は知らなかったです」
「綺麗さっぱり忘れられているようだから、王子が悪いわけじゃないよ」
「でも、忘れられているのなら、玉は竜に返せないのでは?」
「だから今、竜は世界に現れて、魔物が溢れているんじゃないかな」
「えっと……」
前を向いていても、王子からは戸惑いが伝わってきた。
「王子には難しい話だったね」
「玉を返す役目は、どうして男の子でなければならないのでしょうか?玉を持って生まれてきた女の子ではダメなのですか?」
「女の子は、そのまま連れて行かれてしまうからだよ。竜が眠るゆりかごにされてしまう。逆に男の子は竜と心を通わせることができるから……」
「女の子が連れていかれるって、御伽噺のような話ですね。怖い人にはついて行ってはダメみたいな。それから、女の子と聖女の役割が別々なのも不思議です」
「聖女はね、女の子が抱いていた竜玉に触れて、初めて覚醒するんだよ」
「えっ!?じゃあ、ヴェロニカさんもですか?エカチェリーナさんは、どうしてそんなに詳しいのですか?」
「寝物語として母親に聞かされていたから。だからね、王子、私は……さて、到着したのかな?」
「はい。ここから聞こえてきます」
王子が立ち止まった場所の足元には、ぽっかりと穴が空いている。
「じゃあ、行こっか」
「えっ?」
その穴に向けて、王子の背中をトンっと押していた。
耳に届く、得体の知れない生き物の息遣いはさぞかし怖いことでしょう。
「今日は危険から王子のことを守るよ。だからそんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
「あ、いえ、僕こそエカチェリーナさんのことを守らなければならないのに、怯えた姿を見せてごめんなさい」
“今日は”と言ったことに、王子は言及しない。
おそらく、緊張のあまり気付いてないのだと思う。
「エカチェリーナさんは、声の持ち主に目星はついているのですか?」
「うん。この森のある場所に眠っていた子だと思うよ。封印、に近いかな」
「封印されなければならないような恐ろしい存在なのですか?」
思わずといった様子の王子が、後ろを歩く私の方を振り返った。
想像通りに、その表情には怯えが見える。
「力を持つものだけど、悪いものではないよ。引きこもりだった王子も、一度くらいは見たことがあるんじゃない?神殿に祀られた聖竜と戯れる聖女の像を。大半の国の国教だよね」
「竜!?」
とうとう王子の足は止まって、私の方を完全に向いた。
「聖竜が世界を守り、聖女が聖竜を守る」
「あ、はい。聞いたことはありますが、でも、どうして、僕が竜に?」
「王子が生まれた時には決まっていたことのはず」
首を傾げている王子に、さらに言葉を投げかけていく。
「ルニース王国の王家に伝わる話があるはずだけど、今はもう消え去っているのかな。聖女の存在だけが一人歩きして」
手を振って前に進むように促すと、王子は再び歩きだす。
「竜の命が込められた玉を抱いて生まれてくる女の子がいる。だいたい百年ちょっと前に起きた事件が発端だけど、その前までは竜の命は込められていなかったようだよ。それで、その竜玉に聖女が魔力をこめ、竜と疎通できる男の子が竜に返して悪しきものと眠りについてもらうことで世界が安定する。役目を持った三人は元々は一つの家系に生まれていたのだけど、長い時を経て、二つの王家と一つの一族に血が受け継がれることとなった」
「そんな話があるって、僕は知らなかったです」
「綺麗さっぱり忘れられているようだから、王子が悪いわけじゃないよ」
「でも、忘れられているのなら、玉は竜に返せないのでは?」
「だから今、竜は世界に現れて、魔物が溢れているんじゃないかな」
「えっと……」
前を向いていても、王子からは戸惑いが伝わってきた。
「王子には難しい話だったね」
「玉を返す役目は、どうして男の子でなければならないのでしょうか?玉を持って生まれてきた女の子ではダメなのですか?」
「女の子は、そのまま連れて行かれてしまうからだよ。竜が眠るゆりかごにされてしまう。逆に男の子は竜と心を通わせることができるから……」
「女の子が連れていかれるって、御伽噺のような話ですね。怖い人にはついて行ってはダメみたいな。それから、女の子と聖女の役割が別々なのも不思議です」
「聖女はね、女の子が抱いていた竜玉に触れて、初めて覚醒するんだよ」
「えっ!?じゃあ、ヴェロニカさんもですか?エカチェリーナさんは、どうしてそんなに詳しいのですか?」
「寝物語として母親に聞かされていたから。だからね、王子、私は……さて、到着したのかな?」
「はい。ここから聞こえてきます」
王子が立ち止まった場所の足元には、ぽっかりと穴が空いている。
「じゃあ、行こっか」
「えっ?」
その穴に向けて、王子の背中をトンっと押していた。
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