聖女は歌う 復讐の歌を

奏千歌

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エカチェリーナ  *バッドエンド注意

17 大いなる存在(1)

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 王子を穴に突き落とした直後に、私も彼の後を追って穴に飛び込んでいた。

 ものすごい速度で落ちていく王子と私。

 穴は、真っ直ぐに、真下に伸びていた。

 王子からは悲鳴は聞こえない。

 声も出せないのか、または気絶しているか。

 眼下に何かが見えたところで、私と王子に浮遊魔法をかけた。

 途端に、空中でピタリと体が静止した。

 隣に目をやると、涙目でガタガタと震えながら、肩で息をしている王子の姿を認めた。

 ちゃんと意識を保っていたか。

 偉い偉い。

 そんな王子と一緒に足が着く場所にゆっくりと降りると、目の前の物体を見つめていた。

 だいたい150cmくらいの私達と同じ背丈くらいかな。

 首の長さや尻尾を含めた体長はどれくらいかは知らない。

「これは、何ですか?」

 声をひそめた王子が聞いてきた。

「竜だね」

「竜……」

「まだ小さい方だと思うよ」

「これでですか?」

 焦茶色の鱗を持つ竜は、まだ幼体に近い。

 体を丸めて眠っているようだけど……

「くっ、うううっ」

 王子が両耳を押さえて悶えていた。

 寝息の合間に、お腹に響くほどの呻き声が聞こえるからだ。

 耳の良い王子なら、キツイかな。

 王子の両耳に触れて音量を調整してあげた。

「すみません。ありがとうございます」

「いいよ。もうすぐ自分で調整できるようになるだろうから」

「あ……」

 王子の視線が前方に固定された。

 私達が会話をしていると、目の前の物体に動きがあった。

 頭を持ち上げた竜が、私達を見下ろしていたのだ。

 巣に飛び込んできた、不法侵入の私達がいきなり襲われることはなかった。

 絶対的な、大いなる存在であるはずの竜が、私を見て戸惑っているから面白いなと思った。

 私が魔女の弟子でなければ、今、どうなっていたんだろう。

 番になるべく、巣穴に引き摺り込まれていたかな。

 そうなった可能性のその先を想像してしまって、王子の背中に隠れるように、少しだけ下がった。

 その行動の意味を、王子は気付いていない。

「ほら、王子。自己紹介して」

「ええっ、言葉が通じるのですか?」

「試してみたらいいよ」

 私に背中を押されて一歩前に出た王子は、

「あの、えっと、初めまして。突然、眠っているところを起こしてしまい、申し訳ありません。僕は、レナートといいます。何かお困りではないかと思いまして」

 黄金色の瞳が、ジッと王子を見つめている。

『我は、何故ここにいる?』

「ええっ?えっと……」

『我は、何故ここにいるのだ?』

「それは、僕にもわからなくて……」

 王子に問いかける竜の声音は、呻き声とは違って、脳裏に穏やかに響いてくるものだった。

「エカチェリーナさんの話によると、あなたは本来ならどこかで眠りについているはずなのですが、それが上手くいっていないようで、だから、えっと、僕がお手伝いできればと……」

 王子は、しどろもどろになりながらも竜と対話を重ねていた。

 私はその様子を、近くの大きな石に腰掛けて、膝に肘をついて、手に顎を乗せて眺めていた。


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