聖女は歌う 復讐の歌を

奏千歌

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エカチェリーナ  *バッドエンド注意

14 村民からの知らせ

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 降った雪が積もることはなかったようだ。

 夜を越えて朝を迎えて、庭先に出てみても辺りの景色には何の変化もなかった。

 外に出れば寒いものだけど、それよりもそれとは別に、その日は朝から妙な気配を感じて肌がピリピリしていた。

 その直後だ。

 近くの村の住人から、不気味な声が聞こえたとの知らせを受けた。

 そこの村で何か問題が起きたら知らせて欲しいと伝えていた。

「王子、行くよ」

「はい。何処へでしょうか」

 朝食の片付けを終えた王子が私のそばに来たから声をかけた。

「村の人の問題解決に」

「えっ、僕もいいのですか?」

「ちょうどいいから、村の人がどんな生活を送っているのか見ておいたら?」

「はい。エカチェリーナさんがそう言うのなら、是非」

 王子はやたらと張り切っている様子だ。

 そんな王子を引き連れて、歩いて村へと向かった。

 家から村へは、小一時間程森を歩いていく。

 飛んで行ってもよかったけど、王子を歩かせることが目的だった。

 森の様子をじっくり見てもらうつもりで。

 しばらく歩くと、木々が途切れて、幾つかの簡素な建物が見えてきた場所がそうだ。

 村は石垣にグルリと囲まれている。

 それは、魔物避けの効果もあり、人の目からも隠されている。

「わぁ……こんな近くに村があるって知りませんでした」

 門をくぐると、王子は辺りを見渡していた。

 どこも平屋建ての建物ばかりで、二階以上のものはない。

「ここはルファレット。ここの村だけは領境が曖昧で、領主がわからないの。不思議よね」

 それを伝えれば王子が混乱することはわかっていた。

「えっと……僕の勉強不足で……そんな事があり得るのでしょうか?」

「貴方の住むルニース王国ではあり得ないと思うよ」

「それはどういった意味で……」

 王子が尋ねかけたところで、私達に近付いてくる人がいた。

「ひーさま」

「ばぁや、変わりはない?あれから体調はどう?」

 赤子の頃から私のことを知っている数少ない人だ。

 もう結構な歳で、年齢の現れが体のどこを見てもわかる。

 これ以上苦労をさせたくはないと思っているけど……灰色の瞳が心配そうに私を見ていた。

「はい。ひーさまがくださった薬湯がよく効きました」

「良かった」

 一時は咳が止まらなかったけど、私が調合したものが効いたようだ。

 この知識を授けてくれたことだけは、お師匠様に感謝している。

「ひーさまこそ、お変わりはありませんか?」

「うん」

 ばぁやは私の両腕に手を添えると、上から下まで確かめるように視線を動かしていた。

「そちらの少年は……?」

 そして、最後にやっと私の隣に意識を向けた。

「うちの居候だから、気にしないで。私の弟子で助手。それよりも、話を聞かせてくれる?どうしたの?」

 私に連絡をくれたのはばぁやだ。

 この村に大人はほとんどいない。

 大人は皆女性ばかりで、その中の最高齢がばぁやとなる。

「お知らせした通り、昨夜のことです。それはそれは恐ろしい呻き声が聴こえて、特に子供達は不安で眠れなかったようです」

「私の家には聞こえてこなかったから、気付くのが遅れて不安にさせたね」

「ひーさまが心を痛めることではありませんが、すぐにお越しいただきありがとうございます」

「風向きの関係ではないと思うから、多分、地面から聞こえているのだと思う。地面を探してみるよ。ばぁやは家で休んでて」

 疲れさせては困るからと、ばぁやをすぐに家に戻して村の出口へと足を向けると、今度は元気良く駆け寄ってくる小さな人影があった。

「おねぇちゃん!」

 小さな子供達がわらわらと集まってきた。

 孤児院の子供達だ。

「おねぇちゃん、今からトカゲ退治に行くの?」

「まだトカゲって決まってないだろ!」

 女の子の言葉に、男の子が反論している。

 ここにいる子達は王子よりも年下だ。

 厄災当時は、まだ乳幼児だった。

 私を見つめる小さな瞳に語りかけた。

「退治するかはわからないけど、様子を見に行くよ。だからみんなは家の中にいてね。お母さんや先生を困らせてはダメだよ」

「「はーい」」

 みんな素直だ。

 いくつもの元気な声が重なって、子供達に見送られて今度こそ村の出口へと向かった。

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