廃棄王女と魔女の呪い

奏千歌

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10 帝国領

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 外の景色を眺め続けていると、建物の様式が明らかに変わったのがわかった。

 これが元々の帝国領か。

 もう間も無く、帝都なのだろう。

 本当に国外に出たんだな。

 ここに来て、やっとそれを実感した。

 頭の中に地図を思い浮かべる。

 ここからさらに北に、仇敵ガルシア帝国があり、そこから北東に、傭兵国家と六か国同盟国が存在している。

 同盟国のそばには御伽噺としてもよく語られる、世界の中心とも言える城も存在しており、それを意識すれば人間同士でいざこざを起こしている場合ではないと思う一方で、今のところは私達に大きな影響はない。

 悪いことをすると空から悪魔が降りてきて攫われてしまうよという、一般的な家庭で何度も繰り返されてきたであろう言葉が頭に浮かんでくる。

 ロージェ国内の移動よりも多くの日数をかけて帝国内を移動して、帝都にあるデファー公爵家の屋敷に連れて行かれたが、そこは予想通りに広大なものだった。

 ロージェの王城よりも敷地が広い。

 国力を見せつけられたものだ。

 どれだけ感情が追いついていなくても、結局ここまで来てしまった。

 自分自身がどうしたいのか決められなくて、流れに任せてここまで来た。

 イザークとの結婚など受け入れられるものではないけど、言っても無駄なだけだ。

 嬉々とした様子のイザークにドレスを着せられた。

 平均的な女性の身長よりは高い私のサイズにあわせたドレスが用意されていたのには驚いた。

 男体でも女体でも身長は変わらなかったようで、イザークに聞けば、同じデザインで少しずつサイズが違うものをいくつも用意していたそうだ。

 無駄遣いするなと、叱っておいた。

 しかし、鏡で見た自分のドレス姿は違和感がありまくりだった。

 自分のドレス姿に慣れる間も無く、皇帝との謁見の場に赴いていた。

 つまり、イザークの兄との対面だ。

 道中でイザークが教えてくれたけど、皇帝とは異母兄弟で、前皇帝が正妃亡き後、獣人から妃を娶ったそうだ。

 イザークの兄、今の皇帝には正妃が一人。

 皇族なら、妻を何人も娶るのは当たり前だが……

 今は馬車の中で向かい合って座っている。

「俺は、エリスだけだから安心しろ」

 そんな事を言っていたが、

「別に、好きなだけ他の妻を娶ればいいだろう。皇帝の弟なら、いくらでも喜んでくるだろ」

「俺の愛を疑うの?」

 何が愛だ。

 この先、イザークが成人するまでの数年でどうなるのかわからないのだ。

 口先の愛なんか信用できるか。

 イザークの戯言を聞き流しながら皇宮内に入ると、空気がガラリと変わっていた。

 皇帝は、まだ若いながらもさすがに威圧感は半端なかった。

 うちの父親など足元にも及ばない。

 この皇帝の父親がイザークと同じだから、数年前のあの日に殺されたことになる。

 で、この男が獣人の自治領に助けを求めたイザークと協力して、反乱を鎮めて今の座に就いたと。

 周囲には護衛の騎士が数名いたが、雰囲気がイザークと同じに感じられたから彼らも獣人なのかもしれない。

「お前が、俺の弟を救ってくれたか」

「エリスだ」

 王女でも、王族でもない。

 ましてや、女でも男でもない。

 エリスだ。

 礼儀も礼節も無視してやった。

 そんな態度をとってもイザークの顔色は変わらないから面白くない。

 皇帝すらも反抗期の子供を前にしているかのように、ニヤニヤと面白そうに私を見ている。

「よく、オレみたいな者を入国させる事を許可したな」

 不貞腐れながらそんな事を呟いてやった。

「仕方なかろう。エリス王女を妻とすることを認めなければ、反乱を起こしてやると脅されたからな」

 その反乱すらも楽しみだと言いたげだ。

「イザークが暴れないように、自愛しろよ。俺の可愛い弟だ」

 知るか。

「特別に俺から厳選したシャペロンをつけさせよう。皇帝自らがお前の存在を認めている証となる」

「シャペロン?」

「社交界での付き添い人だ。お前の事を、政敵から守る存在だ」

「…………」

 社交界に興味はないのだから、感謝なんかするはずない。

 謁見から解放されても、気分は全く晴れなかった。

「お疲れさま、エリス。後はもう、俺の屋敷でゆっくりできるから」

「…………」

 イザークが気遣うような声をかけてくれたけど、無視し、イザークとは口も利かずに自室に戻った。




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