廃棄王女と魔女の呪い

奏千歌

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5 王女の御披露目

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 ティアラが王女となって一年。

「ねぇ、エリス。このドレス、素敵でしょ?お父様が、特別に作ってくださったの」

 ティアラの社交界デビューも兼ねた舞踏会が近付いていた。

 下町で育った彼女が必要な教育を受けるのに最低でも一年は必要だったわけで、今は試着したドレス姿を、わざわざ私を呼んで見せびらかしている。

 私はドレスを着たことなど一度もない。

 それを知ってか知らずか、とにかく今日はドレスを自慢したかったようだ。

「お似合いですよ」

 適当に相手をしてあげていると、ご機嫌な様子でクルクルとその場でターンを披露していた。

 成人前の淑女がやる行動ではないけど、その無邪気な様子に、他の護衛達は顔を緩めている。

 そこだけを見ると、田舎から出てきたばかりの娘が、都会の華やかな場所で背伸びをしてはしゃいでいるだけのようだ。

 ティアラのお披露目のために王が用意したのは、ドレスだけじゃない。

 重そうなネックレスに、イヤリング。

 国庫が心配になるくらい豪華なものを、たくさん用意していた。

 それらで飾り立てられた当日、ティアラの周りを多くの人が囲んでいた。

 私は会場の壁際に立ち、ボーッとその光景を眺めていた。

 こんな人がごちゃごちゃいる場所では、ティアラの護衛よりも、自分の身を守る方を優先していた。

 ティアラの身は、専門の騎士が勝手に守るだろう。

 私を連れ回す事が目的なのだから、それでティアラは満足している。

 ティアラを放置していると、彼女は代わる代わるダンスを申し込まれていた。

 勝手に踊ってくれと思う。

 だけど、何故かティアラはこっちに視線を向けて、コツコツとヒールを響かせながら歩いてきた。

 自然と人が割れて、私の方に綺麗な一本道ができる。

 そして手を差し出され……

「エリス。私と踊りなさい」

 おーい、命令口調かよ!

「王太女殿下をリードできるほどの技能がありませんので、辞退させてください」

 即、断ってやったのに、

「あら、上手に踊ろうとしなくていいのよ」

 口元を歪めて強引に私の腕を掴んで、広間の中央へ引っ張っていった。

 優雅さも気品もない行動だ。

 ティアラと手を組み、向き合う。

 姉妹でダンスって、どんな冗談だよ。

 目の前にきたの顔を見下ろしながら、呆れていた。

 よくやるよ。

 そして演奏が始まり、曲に合わせて動き出すが、ティアラの魂胆は、私を転ばす事だったらしい。

 その幼稚な行動に笑いも出そうになる。

 やるならもっと狡猾な事をすればいいのに、わざとか?

 わざと、幼稚なフリをしているのか?

 何度も足を引っ掛けられたけど、そこは体の鍛え方が違う。

 難なくかわしながら、一曲を踊り切っていた。

「身に余る光栄です、王女殿下。ありがとうございました」

 悔しそうなティアラに微笑みかけながら一礼し、さっさとその場から離れ、また壁際に立っていた。

 会場にいた女性陣が顔を赤らめて私を見ていたけど、その理由を知りたいとも思わない。

 後から、何人かの女性に話しかけられたけど、私が家名を明かさなかったから残念そうな顔はしていた。

 暇だなと、またしばらくティアラがチヤホヤされる様子を眺めていた。

 それで、その異変に気付いたのだけど、放っておくのもちょっとだけ良心が痛んだから、人の中心にいるティアラに近付いた。

「殿下、王妃殿下がお呼びですので、御案内します」

 人知れず、小さく息を吐いたティアラは、私の腕に手を添え人々に断りを入れながら付いてくる。

 来賓用の休憩室に連れて行くと、不思議そうな顔で室内を見渡していた。

「王妃様が呼んでいるんじゃなかったの?」

「座って。靴擦れで足が痛むんでしょ?」

 それを指摘すると、ムーッと音がしそうなほど頬を膨らませ、そんな子供じみた不機嫌顔を背けさせて、

「別に、頼んでないから」

 ボスンとソファーに座った。

 部屋の隅の置かれていた応急箱から、軟膏とガーゼを取り出す。

 ティアラの前に膝をついてしゃがむと、ヒールのある靴を脱がせてあげた。

 踵の皮膚がめくれて、血が滲んでいるから痛々しいものだ。

「田舎者の小娘にしては頑張ったんじゃない?」

 たまには嫌味の一つでも言ってやる。

「どうせ、こんな靴なんかはいたことなかったわ!パーティーなんか初めてで!こんな人が多い場所で笑顔を貼り付けて!もう嫌!足が痛い!疲れたのよ!」

 喚くティアラを無視して、無言で薬を塗ったガーゼをペタンと踵に貼り付ける。

「ひゃっ、しみるから!」

「文句を言うな。すぐに痛みなんか消えるから」

 この国は、傷薬の軟膏だけは良いのが揃っているんだ。

「あ……本当だ…………」

 ティアラを見上げると、少しだけ涙を滲ませて、未だ不機嫌そうに視線を逸らしていた。

「お礼なんか、言わないから」

「いいよ。別に」




 これで私達が仲良くなったなんて事はなく、何も変わらないまま二年の月日が流れていった。






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