5 / 11
5 王女の御披露目
しおりを挟む
ティアラが王女となって一年。
「ねぇ、エリス。このドレス、素敵でしょ?お父様が、特別に作ってくださったの」
ティアラの社交界デビューも兼ねた舞踏会が近付いていた。
下町で育った彼女が必要な教育を受けるのに最低でも一年は必要だったわけで、今は試着したドレス姿を、わざわざ私を呼んで見せびらかしている。
私はドレスを着たことなど一度もない。
それを知ってか知らずか、とにかく今日はドレスを自慢したかったようだ。
「お似合いですよ」
適当に相手をしてあげていると、ご機嫌な様子でクルクルとその場でターンを披露していた。
成人前の淑女がやる行動ではないけど、その無邪気な様子に、他の護衛達は顔を緩めている。
そこだけを見ると、田舎から出てきたばかりの娘が、都会の華やかな場所で背伸びをしてはしゃいでいるだけのようだ。
ティアラのお披露目のために王が用意したのは、ドレスだけじゃない。
重そうなネックレスに、イヤリング。
国庫が心配になるくらい豪華なものを、たくさん用意していた。
それらで飾り立てられた当日、ティアラの周りを多くの人が囲んでいた。
私は会場の壁際に立ち、ボーッとその光景を眺めていた。
こんな人がごちゃごちゃいる場所では、ティアラの護衛よりも、自分の身を守る方を優先していた。
ティアラの身は、専門の騎士が勝手に守るだろう。
私を連れ回す事が目的なのだから、それでティアラは満足している。
ティアラを放置していると、彼女は代わる代わるダンスを申し込まれていた。
勝手に踊ってくれと思う。
だけど、何故かティアラはこっちに視線を向けて、コツコツとヒールを響かせながら歩いてきた。
自然と人が割れて、私の方に綺麗な一本道ができる。
そして手を差し出され……
「エリス。私と踊りなさい」
おーい、命令口調かよ!
「王太女殿下をリードできるほどの技能がありませんので、辞退させてください」
即、断ってやったのに、
「あら、上手に踊ろうとしなくていいのよ」
口元を歪めて強引に私の腕を掴んで、広間の中央へ引っ張っていった。
優雅さも気品もない行動だ。
ティアラと手を組み、向き合う。
姉妹でダンスって、どんな冗談だよ。
目の前にきた妹の顔を見下ろしながら、呆れていた。
よくやるよ。
そして演奏が始まり、曲に合わせて動き出すが、ティアラの魂胆は、私を転ばす事だったらしい。
その幼稚な行動に笑いも出そうになる。
やるならもっと狡猾な事をすればいいのに、わざとか?
わざと、幼稚なフリをしているのか?
何度も足を引っ掛けられたけど、そこは体の鍛え方が違う。
難なくかわしながら、一曲を踊り切っていた。
「身に余る光栄です、王女殿下。ありがとうございました」
悔しそうなティアラに微笑みかけながら一礼し、さっさとその場から離れ、また壁際に立っていた。
会場にいた女性陣が顔を赤らめて私を見ていたけど、その理由を知りたいとも思わない。
後から、何人かの女性に話しかけられたけど、私が家名を明かさなかったから残念そうな顔はしていた。
暇だなと、またしばらくティアラがチヤホヤされる様子を眺めていた。
それで、その異変に気付いたのだけど、放っておくのもちょっとだけ良心が痛んだから、人の中心にいるティアラに近付いた。
「殿下、王妃殿下がお呼びですので、御案内します」
人知れず、小さく息を吐いたティアラは、私の腕に手を添え人々に断りを入れながら付いてくる。
来賓用の休憩室に連れて行くと、不思議そうな顔で室内を見渡していた。
「王妃様が呼んでいるんじゃなかったの?」
「座って。靴擦れで足が痛むんでしょ?」
それを指摘すると、ムーッと音がしそうなほど頬を膨らませ、そんな子供じみた不機嫌顔を背けさせて、
「別に、頼んでないから」
ボスンとソファーに座った。
部屋の隅の置かれていた応急箱から、軟膏とガーゼを取り出す。
ティアラの前に膝をついてしゃがむと、ヒールのある靴を脱がせてあげた。
踵の皮膚がめくれて、血が滲んでいるから痛々しいものだ。
「田舎者の小娘にしては頑張ったんじゃない?」
たまには嫌味の一つでも言ってやる。
「どうせ、こんな靴なんかはいたことなかったわ!パーティーなんか初めてで!こんな人が多い場所で笑顔を貼り付けて!もう嫌!足が痛い!疲れたのよ!」
喚くティアラを無視して、無言で薬を塗ったガーゼをペタンと踵に貼り付ける。
「ひゃっ、しみるから!」
「文句を言うな。すぐに痛みなんか消えるから」
この国は、傷薬の軟膏だけは良いのが揃っているんだ。
「あ……本当だ…………」
ティアラを見上げると、少しだけ涙を滲ませて、未だ不機嫌そうに視線を逸らしていた。
「お礼なんか、言わないから」
「いいよ。別に」
これで私達が仲良くなったなんて事はなく、何も変わらないまま二年の月日が流れていった。
「ねぇ、エリス。このドレス、素敵でしょ?お父様が、特別に作ってくださったの」
ティアラの社交界デビューも兼ねた舞踏会が近付いていた。
下町で育った彼女が必要な教育を受けるのに最低でも一年は必要だったわけで、今は試着したドレス姿を、わざわざ私を呼んで見せびらかしている。
私はドレスを着たことなど一度もない。
それを知ってか知らずか、とにかく今日はドレスを自慢したかったようだ。
「お似合いですよ」
適当に相手をしてあげていると、ご機嫌な様子でクルクルとその場でターンを披露していた。
成人前の淑女がやる行動ではないけど、その無邪気な様子に、他の護衛達は顔を緩めている。
そこだけを見ると、田舎から出てきたばかりの娘が、都会の華やかな場所で背伸びをしてはしゃいでいるだけのようだ。
ティアラのお披露目のために王が用意したのは、ドレスだけじゃない。
重そうなネックレスに、イヤリング。
国庫が心配になるくらい豪華なものを、たくさん用意していた。
それらで飾り立てられた当日、ティアラの周りを多くの人が囲んでいた。
私は会場の壁際に立ち、ボーッとその光景を眺めていた。
こんな人がごちゃごちゃいる場所では、ティアラの護衛よりも、自分の身を守る方を優先していた。
ティアラの身は、専門の騎士が勝手に守るだろう。
私を連れ回す事が目的なのだから、それでティアラは満足している。
ティアラを放置していると、彼女は代わる代わるダンスを申し込まれていた。
勝手に踊ってくれと思う。
だけど、何故かティアラはこっちに視線を向けて、コツコツとヒールを響かせながら歩いてきた。
自然と人が割れて、私の方に綺麗な一本道ができる。
そして手を差し出され……
「エリス。私と踊りなさい」
おーい、命令口調かよ!
「王太女殿下をリードできるほどの技能がありませんので、辞退させてください」
即、断ってやったのに、
「あら、上手に踊ろうとしなくていいのよ」
口元を歪めて強引に私の腕を掴んで、広間の中央へ引っ張っていった。
優雅さも気品もない行動だ。
ティアラと手を組み、向き合う。
姉妹でダンスって、どんな冗談だよ。
目の前にきた妹の顔を見下ろしながら、呆れていた。
よくやるよ。
そして演奏が始まり、曲に合わせて動き出すが、ティアラの魂胆は、私を転ばす事だったらしい。
その幼稚な行動に笑いも出そうになる。
やるならもっと狡猾な事をすればいいのに、わざとか?
わざと、幼稚なフリをしているのか?
何度も足を引っ掛けられたけど、そこは体の鍛え方が違う。
難なくかわしながら、一曲を踊り切っていた。
「身に余る光栄です、王女殿下。ありがとうございました」
悔しそうなティアラに微笑みかけながら一礼し、さっさとその場から離れ、また壁際に立っていた。
会場にいた女性陣が顔を赤らめて私を見ていたけど、その理由を知りたいとも思わない。
後から、何人かの女性に話しかけられたけど、私が家名を明かさなかったから残念そうな顔はしていた。
暇だなと、またしばらくティアラがチヤホヤされる様子を眺めていた。
それで、その異変に気付いたのだけど、放っておくのもちょっとだけ良心が痛んだから、人の中心にいるティアラに近付いた。
「殿下、王妃殿下がお呼びですので、御案内します」
人知れず、小さく息を吐いたティアラは、私の腕に手を添え人々に断りを入れながら付いてくる。
来賓用の休憩室に連れて行くと、不思議そうな顔で室内を見渡していた。
「王妃様が呼んでいるんじゃなかったの?」
「座って。靴擦れで足が痛むんでしょ?」
それを指摘すると、ムーッと音がしそうなほど頬を膨らませ、そんな子供じみた不機嫌顔を背けさせて、
「別に、頼んでないから」
ボスンとソファーに座った。
部屋の隅の置かれていた応急箱から、軟膏とガーゼを取り出す。
ティアラの前に膝をついてしゃがむと、ヒールのある靴を脱がせてあげた。
踵の皮膚がめくれて、血が滲んでいるから痛々しいものだ。
「田舎者の小娘にしては頑張ったんじゃない?」
たまには嫌味の一つでも言ってやる。
「どうせ、こんな靴なんかはいたことなかったわ!パーティーなんか初めてで!こんな人が多い場所で笑顔を貼り付けて!もう嫌!足が痛い!疲れたのよ!」
喚くティアラを無視して、無言で薬を塗ったガーゼをペタンと踵に貼り付ける。
「ひゃっ、しみるから!」
「文句を言うな。すぐに痛みなんか消えるから」
この国は、傷薬の軟膏だけは良いのが揃っているんだ。
「あ……本当だ…………」
ティアラを見上げると、少しだけ涙を滲ませて、未だ不機嫌そうに視線を逸らしていた。
「お礼なんか、言わないから」
「いいよ。別に」
これで私達が仲良くなったなんて事はなく、何も変わらないまま二年の月日が流れていった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

薬師ホミカは幸せになれるのか
さおり(緑楊彰浩)
恋愛
*この物語には病が存在します。ご注意ください。
彼女には今の生以外にも記憶があった。その記憶の中で彼女は処刑された。
次こそは、処刑を回避して病を治すための薬を作ろうとする。
これは、病を治すための薬を作る1人の女性の物語。
彼女は無事薬を作ることができるのか。
そして、彼女に待ち受けている未来は何なのか。
*本日15時から22時にかけて20分おきに更新いたします。
22時の更新で完結となります。よろしくお願いします。

流れる水の記憶 (完結済)
井中エルカ
恋愛
董星(とうせい)は父王とその後妻から疎まれ、山中の離宮で王子の身分を隠して暮らす。
ある日森で倒れたところを央華(おうか)という少女に助けられ、女として女人だけの神殿に連れていかれる。間もなく董星は男であることが知れ、董星と央華はお互いに淡い恋心を抱いたまま別れる。
成長して二人は再会するが、その時央華は董星の義兄の結婚相手として王宮に迎えられていた。結婚式を目前に義兄は愛人と共に姿を消し、菫星は探索に乗り出すのだが……。
※全29話(一話が短め)完結済み。 ※小説家になろうにも掲載。


果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

婿入り条件はちゃんと確認してください。
もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

絵姿
金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。
それなのに……。
独自の異世界の緩いお話です。
令嬢の願い~少女は牢獄で祈る~
Mona
恋愛
私は、婚約者と異母妹に何回も殺された。
記念するべし何回めかのループで、やっと希望がかなった。
今回は、記憶が有ります!!
「火刑の後は喉が渇くわ」令嬢は花瓶の水を飲み干す。
柔らかいベッドの上でピョンピョンしながら考える。
「私の希望」それは・・・・。
邪神様、願いを叶えて下さり感謝します。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる