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3 新たな王女の誕生
しおりを挟む“エリス。大事な話があるから、私の執務室に来るように”
そんな用件を簡単に書いた紙を受け取り、父から呼び出されて執務室を訪れていた。
祝われることのない12歳の誕生日がひっそりと過ぎて、
王族の身分を完全に剥奪される13歳の誕生日目前のことだ。
そこに集まっていたのは母と宰相と…………
「お前の妹、ティアラだ」
私の目の前には、私と違って王家の証である金色の瞳を宿した同じ歳くらいの少女が立っていた。
見た目は美少女と言っていい、可憐な姿だ。
同じく、王家の特徴である紫銀の髪は、腰まで届いている。
私は母親似で、蜂蜜色の髪に、榛色の瞳だ。
だからこそ、両親と母専属の侍女以外は、私の存在に気付きもしていなかった。
それは、その子の訪れは突然だった。
ある日突然連れてこられた少女は、王女であり、私よりも半年遅く生まれた妹、らしい。
聞けば、城に勤めていた男爵家出身の侍女に手をつけて、生ませた子だと。
今まではずっと、国外で暮らしていたそうだ。
だから、呪いの直接の影響からは逃れたのか。
母もこの場で初めて聞いたのか、態度には出さなかったが、怒り狂っていたのは目を見ればわかった。
この国ではもちろん、一夫多妻は認められていないし、母を裏切っていた行為に怒り心頭なのはもっともな話だ。
母の妊娠中に、国の戦時中に、魔女を裏切って、一体何をしていたのか。
こんな男が国王とは。私の父親とは。
怒りを通り越して、呆れるしかなかった。
もう一人の王女。
私とほとんど歳の変わらない、妹。
よりにもよって、王女。
今後は彼女を王太女、女王とする気か。
その存在は、少なからず私を動揺させる。
表にはその焦燥は出さないが、ますます私は用済みといったわけだ。
が、まず冷静になって、これから私が行うべきことをした。
「なるほど。今後、彼女が王太女となるのですね」
不安そうに周囲を見ていた妹に向き直り、正面に立つ。
突然ここに連れてこられたように見えるけど、彼女は今までどんな生活を送っていたのか。
服装は普通の町娘のものだ。
「ティアラ、はじめまして。慣れない環境に不安なことも多いでしょう。貴女のことはこの身に代えてもお守りします。どうかご安心を」
不自然にならないように、細心の注意で笑顔を向けた。
私がとれる手段は今はこれしかない。
彼女の支持。
呪いの象徴である私が、やはりこのまま生かされておくとは思えない。
正直、突然存在を知った妹のことなんかどうでもよかったけど、今は保身に走るしかない。
まずは彼女を安心させて敵意が無いことを示すと、
「あの、よろしく、お願いします、お兄様……」
おずおずとした様子で、か細い声で挨拶をされていた。
まぁ、この子には罪はないからと思おうとしていたら、
「ふふっ、可哀想なお姉様」
俯き気味のその子から小さな声で囁かれ、そしてさらにニヤリと、歪に形を変えた唇を見た。
父や母は気付いていない。
そっちが本性か……
なかなかイイ性格をしているようだ。
それなら、何の配慮の必要もないな。
むしろその性格に礼を言いたいくらいだった。
面倒事をすべて丸投げしても、何ら罪悪感を抱かなくて済むから。
さて、用済みの私の、これからの事を考えるか。
想定外の事態ではあるな。
これは本格的に自分の身の振り方を考えなければならなかった。
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