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1 月夜の下で
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「お前は役得だな。オレのレアな方の裸を見れたのだから。人なら、目玉を抉り出しているところだぞ」
森の中にある、夜の湖は誰もいない。
だから、素っ裸で泳いでいた。
そして今も裸なままだ。
どうせ見る奴は、腕の中にいるこの獣しかいない。
成長過程にある、控え目に膨らんだ胸に、手当てを終えた獣を抱いてやる。
肌に直に触れさせて、私自身の体温で、冷えた体が温まればいいけどな。
「今日、ここにいたオレに見つけてもらえて良かったな。満月の夜に、こうやって湖に泳ぎに来るんだ。そうしなければ、自身の性別を忘れてしまうからな」
城を抜け出して、勝手に連れ出した馬に乗り、遠く離れたこの森でひと泳ぎしていたこの場で、怪我をした仔犬らしき獣を見つけたんだ。
足や体から血を流していて、他の獣にやられたのかもしれない。
静まった森に、今のところ近くに獣の気配はない。
木々の揺れる音がサワサワと聞こえるだけだ。
夜鳥の鳴き声すら聞こえない。
「厄介な王族として疎まれているオレは、人には優しくないからな。お前が獣で良かったな」
まだプルプルと震えているから、腕に力を入れて抱きしめ外套に一緒に包まってやった。
腕の中の獣は、真っ白い毛並みに、水色の瞳。
その白い毛並みが、血痕で少し汚れていた。
「犬じゃなくて、狼かもしれないな」
どうせ分からないだろうと、犬に話しかける。
「恩を返す気があるのなら、大きくなってオレを喰いに来てくれよ。無意味に殺されて存在を消されるくらいなら、お前の糧となり、血と肉になった方がマシだからな」
そう話すのは、ただの戯言だった。
ちょっとだけ本音を含めた、戯言だった。
大木の幹に体を預けるように座る。
満月の夜がもうすぐ終わる。
こんな所で眠るつもりはなかったけど、獣を城に連れ帰るわけにもいかず、小さな存在を抱きしめたままいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ペロペロと顔を舐められる感触で目が覚めた。
目を擦りながら辺りを見渡すと、仔犬が背中に朝日を浴びながら尻尾を振っていた。
その行動は、やはり犬のようだ。
もう夜明けか。
朝日は森の中にも届いていた。
鳥の囀りが聞こえる。
人の気配はなくとも、生あるものが活動し始める気配が感じ取れる。
「お前、元気になったのか?」
小さな白い塊は、腕の中から抜け出して地面の上を歩き回っていた。
城から勝手に持ち出した、超高級品の軟膏が効いたのだろう。
ある程度の傷口は一晩で塞ぐ。
獣に使うような代物じゃないけど、まぁ、いいだろう。
「大丈夫そうだな」
立ち上がると、ハラリと外套が落ちて、男の体になった裸体が朝日を受け止める。
足元から獣が、私の体を見上げていた。
「不思議か?昨夜は女の体をしていたからな」
胸は真っ平になり、体の真ん中で、忌々しいモノがぶら下がっている。
自分の体なのに、嫌になる。
「お前になら何を見られても構わないから、気楽なものだ。オレは、女として生まれてきたはずなのに、魔女の呪いのせいでほとんどの時を男の体で過ごしているんだ」
服を着込みながら、獣に話す。
「魔女の呪いは国全体に及んでいる。今の王家の血筋からはもう子供はこれ以上生まれない。オレは近いうちに完全に廃籍されて、平民になる。騎士として城には残るけどな。いつか……背後から刺されて殺されるかもな。惨めなものだ。お前の方が、よほど誇り高いかもしれないぞ」
聞いているのかいないのか、獣は私の足元にずっと擦り寄っている。
「オレは城に帰るから、お前はついてくるなよ。殺されるぞ。もう行け」
獣の頭を撫でてやると、クゥンと一声鳴いてから茂みの中に消えて行った。
着衣を整え、帯剣してから城に向けて歩き出す。
もう会う事はない獣の事は、すぐに忘れるだろう。
初めての朝帰りのため、勝手に城を抜け出した事を叱責されるだろうから、少々うんざりはしていた。
森の中にある、夜の湖は誰もいない。
だから、素っ裸で泳いでいた。
そして今も裸なままだ。
どうせ見る奴は、腕の中にいるこの獣しかいない。
成長過程にある、控え目に膨らんだ胸に、手当てを終えた獣を抱いてやる。
肌に直に触れさせて、私自身の体温で、冷えた体が温まればいいけどな。
「今日、ここにいたオレに見つけてもらえて良かったな。満月の夜に、こうやって湖に泳ぎに来るんだ。そうしなければ、自身の性別を忘れてしまうからな」
城を抜け出して、勝手に連れ出した馬に乗り、遠く離れたこの森でひと泳ぎしていたこの場で、怪我をした仔犬らしき獣を見つけたんだ。
足や体から血を流していて、他の獣にやられたのかもしれない。
静まった森に、今のところ近くに獣の気配はない。
木々の揺れる音がサワサワと聞こえるだけだ。
夜鳥の鳴き声すら聞こえない。
「厄介な王族として疎まれているオレは、人には優しくないからな。お前が獣で良かったな」
まだプルプルと震えているから、腕に力を入れて抱きしめ外套に一緒に包まってやった。
腕の中の獣は、真っ白い毛並みに、水色の瞳。
その白い毛並みが、血痕で少し汚れていた。
「犬じゃなくて、狼かもしれないな」
どうせ分からないだろうと、犬に話しかける。
「恩を返す気があるのなら、大きくなってオレを喰いに来てくれよ。無意味に殺されて存在を消されるくらいなら、お前の糧となり、血と肉になった方がマシだからな」
そう話すのは、ただの戯言だった。
ちょっとだけ本音を含めた、戯言だった。
大木の幹に体を預けるように座る。
満月の夜がもうすぐ終わる。
こんな所で眠るつもりはなかったけど、獣を城に連れ帰るわけにもいかず、小さな存在を抱きしめたままいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ペロペロと顔を舐められる感触で目が覚めた。
目を擦りながら辺りを見渡すと、仔犬が背中に朝日を浴びながら尻尾を振っていた。
その行動は、やはり犬のようだ。
もう夜明けか。
朝日は森の中にも届いていた。
鳥の囀りが聞こえる。
人の気配はなくとも、生あるものが活動し始める気配が感じ取れる。
「お前、元気になったのか?」
小さな白い塊は、腕の中から抜け出して地面の上を歩き回っていた。
城から勝手に持ち出した、超高級品の軟膏が効いたのだろう。
ある程度の傷口は一晩で塞ぐ。
獣に使うような代物じゃないけど、まぁ、いいだろう。
「大丈夫そうだな」
立ち上がると、ハラリと外套が落ちて、男の体になった裸体が朝日を受け止める。
足元から獣が、私の体を見上げていた。
「不思議か?昨夜は女の体をしていたからな」
胸は真っ平になり、体の真ん中で、忌々しいモノがぶら下がっている。
自分の体なのに、嫌になる。
「お前になら何を見られても構わないから、気楽なものだ。オレは、女として生まれてきたはずなのに、魔女の呪いのせいでほとんどの時を男の体で過ごしているんだ」
服を着込みながら、獣に話す。
「魔女の呪いは国全体に及んでいる。今の王家の血筋からはもう子供はこれ以上生まれない。オレは近いうちに完全に廃籍されて、平民になる。騎士として城には残るけどな。いつか……背後から刺されて殺されるかもな。惨めなものだ。お前の方が、よほど誇り高いかもしれないぞ」
聞いているのかいないのか、獣は私の足元にずっと擦り寄っている。
「オレは城に帰るから、お前はついてくるなよ。殺されるぞ。もう行け」
獣の頭を撫でてやると、クゥンと一声鳴いてから茂みの中に消えて行った。
着衣を整え、帯剣してから城に向けて歩き出す。
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