オレがヒトになりたいと願ったわけは

奏千歌

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4 サクヤが出会った茶色の犬

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 クンクンヒュンヒュン鳴く声が鬱蒼とした暗い森に響く。

 また、主人と死に別れた犬に関わってしまった。

 今回は、俺が積極的に動いたせいだけど。

 でも今回は仕方がなかったんだ。

 こいつの主人の、こいつを助けてって、命をかけた訴えが響いてきたから。

 俺の名前はサクヤ。

 ワケあって生き別れた俺の主人を探して旅を続けている猫だ。

 その旅の最中に、風に乗るようにその声が聞こえてきたんだ。

 心の声って言うのか?

 ヒトがたまに使えるマホーってやつの一つだと思う。

 実際の声とは違って、心と頭に直接響いてくるような、悲痛な声だったから。

“誰か、ルゥを、助けて”

 って。

 その声の主を探して木の上から見ると、肩と腹から血を流して倒れている、ヒトがいた。

 そいつの服の袖を咥えて引っ張っている、俺よりも小さな茶色い犬も。

 少し離れた所にはにヒトよりも遥かにでかい魔物の姿も確認できた。

 おそらくこの魔物に襲われたんだろう。

 ヒトの方は助かるかどうか微妙な怪我の具合だった。

 自力で動けないのなら、体の小さな俺達にはどうしようもない。

 だから俺はそのヒトの最後の願いを聞くことにした。

 ヒトの服の袖を咥えて動かそうとしている、往生際の悪い犬っころの首を噛んで引き摺って連れて行こうとする。

 当然抵抗されたけど、主人の願いを叶えてやるのが、お前の役目だろ!って無理矢理ヒトから引き剥がしていた。

 ずるずるとソイツを引き摺っていくと、ヒトの方は満足そうに俺達を見送って、そして魔物に少しずつ喰われていった。

 主人が喰われていく様子を、犬っころの方は泣きながら見ていたようだ。

 何度か主人の所へ行きそうになったけど、その度に渾身の力で引き摺っていた。

 顎も脚も痛い。

 何で猫の俺が、犬を引き摺らなければならないんだ。

 途中から、魂が抜けたようにされるがままになった犬っころは、うわ言のように主人の名前を呼んでいた。

 どれだけその犬っころを引き摺ったことか、息が切れて、顎の力がなくなったから解放すると、ペタンと座り込んで主人の名前を呼びながら鳴いていた。

 こいつの主人を喰って満足したのか、どうやら魔物は俺達を追ってはこないようだ。

「ああ、もう!うるさい!泣くな!」

 両目いっぱいに涙を溜めて、それがこぼれ落ちるのを我慢もしない。

 なんでこいつら犬は、これだけ堂々と隠しもせずに泣くことができるんだ。

「お前の御主人様の望みだろうが!あそこで死ぬなってのは!!御主人様の願いを、お前が聞いてやれ!!それに、ソレだ!それを埋めて墓にしてくれってのが、お前の主人の望みだろ!」

 茶色の犬、ルゥは、そこでやっと気付いたのか自分の首にかけられたものを見た。

 そして、尻を浮かせたから、

「主人の元へ戻ろうとするのはやめろ。もう骨まで食べられている」

 そう忠告すると、またペタリと座り込んでボロボロ涙を流しながら鳴いていた。

「お前達犬は、何でそんなに手がかかるんだ。それで墓を作って墓守をすれば、また主人に会えるかもしれないんだ」

「また、会えるの?」

 やっと、主人の名前以外の言葉を口にした。

「次に生まれ変わった時に、また会える可能性はある」

「どうやって?」

 ボロボロ流れる涙は止まっていないが、俺の話しを聞く気はあるようだ。

 どこかの白い犬にしたみたいに、ルゥにも墓守の話を教えてやった。

「に、にじゅうねん……俺が生きてるうちは、リシュアには、会えないんだ……」

「それが、死に別れるってことだ」

 そう言い放つと、また声を上げてルゥは鳴いていた。

 とりあえず、今だけは好きなだけ泣かしてやる。

 何度も言うが、生きてるか死んでるかも分からないくらいなら、死に分かれた方がまだマシだ。

 少し落ち着いた頃に、ルゥに声をかけた。

「それを、どこに埋めてやるつもりだ」

 ちょっとだけ考えたルゥは、こう答えた。

「リシュアが好きだった、森を見渡せる場所があるから、そこに……」

「じゃあ、そこまで一緒に行ってやるから案内しろ」

 目をまん丸くして俺を見たルゥは、

「一緒に、行ってくれるの?」

「お前みたいな泣き虫は、目的地に着く前にまた襲われるかもしれないだろ」

「ありがとう、その……」

「サクヤだ」

「サクヤ」

 ルゥに案内された場所に行って、ルゥの主人の形見を埋めて墓にした。

 ルゥとそこで少しだけ一緒に過ごし、元々森暮らしのソイツが大丈夫そうなのを確認して別れた。

 その後は再会することはなかったから、ソイツがどこまで生きれたのかは分からない。

 ルゥと別れる時に、

「サクヤが御主人様に会えることも毎日お願いするよ」

 といっていた。









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