1 / 1
ループする世界で
しおりを挟む
私は何を得たんだろう。
こんな事するんじゃ無かった。
後悔しているのに戻れない。
だから戻らない。
諦めた。
好奇心で始めてしまった。
そして、それは最悪を招いた。
私は出会った生物を全員殺そうとしている。
そうしないとこの生き地獄から抜け出せないからだ。
この世界は特定の行動をとる事でみんなが幸せになる事が出来たり、モンスターと友達になれたり、全員が地獄を見たりする事が出来る。
親切な事に途中で選択を誤った時のために、[リセット]することができる。
いや、”出来ていた”、と言うべきか。
何故か[リセット]をする権利が消えた。
何者かに奪われた。
このルートを通り始めてから気分が悪くなっていった。
私がまだ、元に戻れると信じて殺されていくモンスター。
私を恨み呪うモンスター。
死んでも守ると言う決意で蘇るモンスター。
潔く負けを認め、地獄で待っているモンスター。
色々なモンスターを殺してきた。
心が痛い。
私のLvはLv99。
Lv100まで後一歩。
Lv100になればこの世界は崩壊する。
そして自動的に[リセット]される。
城に着いた。城の王はもうすでにいない。
静かな回廊に鳴り響く足音。
外から光が入り込む。
城の謁見室から誰かが立ち上がる音が聞こえる。
「お前だろ?モンスターを殺した殺人鬼は。私の友達を殺したのは。私の親友を殺したのは…」
女性の声だ。
謁見室の扉の前に着く。
物音を立てて大きな扉は開く。
そこには王じゃ無い何者かがいた。
どうやら人間だ。
「なぁ…私とお前…どっちが強いと思う?」
目を凝らすと誰かわかった。
緑の上着、
平和なルートを通った時に私の事を支えてくれた人間だ。
私の親友だ。
「お前は死ぬべきだ」
静かな謁見室に彼女の声がこだまする。
勿論、彼女の記憶も[リセット]されている。
あの時の優しい彼女はもう居ない。
「さぁ、始めよう。私のそっくりさん?」
あの時も私の事をそっくりさんと呼んでいた事を思い出した。
剣を構える。
次の瞬間、左手に激痛が走る。
構えが崩れると同時に胸に何かが刺さった。
真っ暗な世界。
まただ。
必ず死ぬとこの世界に飛ばされる。
『GAMEOVER』
大きい文字が現れた。
その下には
『continue』
そして、私はそこに手を伸ばす。
目の前が白くなる。
何か声が聞こえる。
次第にその声は薄れていき、また元いた世界に戻った。
あの時の静かな回廊だ。
また同じ様に謁見室のドアを開ける。
そして、一つ頼み事をした。
「ねぇ、ステータスを見せてよ。お互いにどれぐらいの強さか知った方がいいと思うから」
「あぁ。確かにそうだな」
彼女のステータスを見る。
Lv0 ATK2 DEF3
おかしい。
このステータスは小学生以下だ。
私のステータスは
Lv99 ATK99 DEF99
だ。
成人男性でさえ
Lv1 ATK20 DEF25
程度ある。
そして、彼女と私だけLv0から始まっているようだ。
「やっぱりそっくりだ。初期Lvが0から始まっている」
彼女とそっくりな理由はこれか。
「私たちは人間じゃない何かだ。体の構造は同じだが、生まれた場所が違う。人間は母親から、私たちはあの場所から。君も分かるだろ?あの黒い世界」
まさか、彼女もそうだとは。
でも、勝てる。
私の方がレベルが上だから。
「もしかして、私に勝てると思ってる?君がみたステータスは真実とは限らないんだよ?」
「いや、ステータスはデータだ。ステータスが裏切る事は出来ない。」
「ねぇ、そっくりさん?確かにステータスは真実を伝えるよ。でも、私は私の方が強いと思うよ?」
口を開こうとしたその時、私に巨大な針が刺さった。
攻撃を覚えておこうと思い、見てみると、直径50cmほどの針が胴に刺さっていた。
また黒い世界。
何かが話しかけてくる。
それを無視し、continueしようとする。
何かが視界に入る。
見てみると、
『I’m stranger then you』
という文字が見えた。
何でこんなところに文字が?
もう一度戦う。
今度は槍を持って行く。
その前にもう一度[SAVE]しようとする。
出来ない。
残された権利は[continue]のみだ。
「”また”来たのか」
“また”?
「今の発言で疑問に思うことでも?」
「”また”来たのか について聞きたい。何故またなんだ?」
「それはな。お前と同じく[リセット]前の記憶が残り続けるんだ。戦うんだろ?来いよ」
私は槍で突進する。
が、確実に槍を折りにきた針が何処からとも無く飛んできた。
なんとか下がって避けれた。
槍を棒高跳びのように使って彼女の後ろに周り、そのまま刺す。
彼女にようやく一撃を入れれた。
あのステータスじゃ一撃だ。
しかし、彼女の胴から血が流れ続けているのにもかかわらず彼女は針で攻撃してきた。
どこからとも無く飛んできたり、生えてくる針。
それを交わしていると、何かにぶつかった。
振り向いてみると、レーザー砲が宙に浮いていた。
自分の上半身が消し飛んだようだ。
既に黒い場所に戻されていた。
あのレーザー砲は過去に殺したモンスターの発明品だ。
何故あんな物を?
もう一度戦う。
「諦めが悪いなぁ」
今度はレイピアで攻める。
針の弾幕が殺しにくる。
それらを避けてレイピアで彼女を刺す。
彼女はレイピアを避けて横から叩き折った。
近くに落ちていた斧を使う。
恐らく壁に飾ってあったものだ。
彼女に急接近し、首を切ろうと振りかぶる。
しかし彼女は、左手で斧の勢いを殺した。
左手には少し深めな傷があった。
ステータスを見る。
おかしい。
Lv99 ATK99 DEF99
ステータスが変動している。
それを理解した直後、胸に針が刺さり、黒い世界に飛ばされた。
ステータスが変動する事を知れた事は大きな収穫だ。
今度はナイフを使う。
身軽に動くことができる。
「何度やれば気が済むのか?私はもう落ち着いたぞ?まぁいい。殺意でこの部屋を満たそうじゃないか」
少し肌寒くなってきた。
綺麗に整備された謁見室はより一層寂しく感じる。
下から生えてきた針を飛んで避けて、心臓を狙ってナイフを刺した。
しかし、避けられた。
その隙に何本か針が立て続けに飛んでくる。
それらを交わし、また攻める。
今度は後ろから針が飛んできた。
避けると、地面に当たった針は爆発した。
そして避けた先から針が生えてくる。
これも交わす。
「凄い執念だね」
針が彼女の横から立て続けに30本程度飛んでくる。
うち10本は近くで爆発した。
後ろに吹き飛ばされる。
体制を立て直すと、針が追尾してきた。
ナイフで叩き落とす。
するとさっき何も起こらなかった針が跳ね返り、的確に頭を狙ってきた。
それを避けようとすると、すでに針にかこまれていた。
けれどそのまま彼女に突進する。
「えぇ…痛く無いの~?」
彼女の陽気な声が聞こえてくる。
もちろん痛い。
が、そんな事を気にしている暇はない。
彼女は重力操作で私のナイフを天井に落とした。
「話したい事でもあるんじゃ無い?話は聞くだけ聞くよ?」
「ねぇ、私たち、また友達に戻れるかな。お願い。私を許して。」
私はそう言って左手を差し出した。
彼女も左手を前に出した。
その時、私の左腕は消し飛んでいた。
彼女は不気味な笑みを浮かべる。
彼女は針で私の腹に一撃を入れようとしていた。
私はそれを素手で止めて、奪った。
そのまま彼女に刺そうとするも虚しく空をきった。
そして私の右脚も消し飛んだ。
そのまま残った左脚で踏ん張ろうとするが、脹脛に針が刺さっていて力が入らなかった。
最後の悪あがきで針を投げる。
勿論、彼女は難なく避けた。
「裏切ったな…」
「そっくりさん。君が過去にした事は許されない。勿論私もだよ。これは罪滅ぼしだ。永遠に消えない罪のね。」
「えっ」
思わず声が漏れる。
彼女は過去に殺しをしたのか?
「私は君の比にならないほど殺したさ。もうどんな奴を殺したか鮮明には思い出せない。だからあの時私は君を止めたんだよ。まさかここまでそっくりになるとは」
心が痛い。
涙が溢れる。
「じゃ、また次回」
これで何度目だ。
また黒い世界。
この声は思い出せそうで思い出せない。
きっと忘れてしまってはいけない記憶。
もう一度回廊から謁見室に入る。
出来ればもう二度とこの光景を見たくない。
「Let’s go my Just like」
彼女の攻撃は激しさを増すばかりだ。
もう針が何千本と出てきた。
今のところお互いにダメージは入っていない。
「はぁ…はぁ…なぁ一度やめないか?」
彼女は息が切れている。
今だ。
私はナイフで彼女を刺した。
彼女は倒れた。
が、また立ち上がった。
フードで顔が見えない。
何故か謁見室の窓の外は赤く染まっていた。
彼女の状態を見ると
Hp 0/99
だった。
しかし彼女はまだ動く。
「いったぁ~体からちょっとおかしくなったじゃ無いかぁ。世界も壊れかけてるし~」
いや、ちょっとでは済まされないだろ。
そう思うと、彼女はフードを外した。
いつの間にか彼女はいつも通りの姿勢で立っていた。
両目が赤く光る。
パーカーには血がついていた。
「まだまだ行くよ!」
今度は赤いナイフが次々と飛んできた。
当たってしまった。
今度は黒い世界にも飛ばされずまたやり直しになった。
世界が壊れ出した。
重力がおかしくなった。
部屋にあった装飾は壁に、私たちは天井に。武器や攻撃は無重力に。脳が付いていけない。
とにかくナイフの弾幕を避け、攻撃できる隙を探す。
が、攻撃する隙間などあるわけもなく、死に続けた。
突然、彼女が倒れ、重量が戻り、窓の外もいつもの景色に戻っていた。
私は彼女をナイフで刺す。
彼女は死んだ。
が世界は壊れない。
誰もいない場所にただ一人。
孤独を感じる。
しばらくすると、誰もいないはずの回廊から足音が聞こえた。
まさか、彼女が帰ってきたのか。
しかし、足音の数がおかしい。
軽い足音。
重々しい鎧の音。
誰かのため息。
「お客を連れてきたよ。でも君と私しか残らない」
そう言ってから見えてきたのは、彼女と私が殺したモンスター二人だ。
「…よくも…よくも殺したな!私を!罪の無い人を!」
「うるさいよぉ~そんなに熱血的にならなくてもいいから」
「こうすれば君も思い出すと思ってね。因みに、これは、」
そう言って彼女は赤いナイフを操り、私が殺したモンスターをもう一度殺した。
「君の幻覚だよ。君が壊した。だから彼ら彼女らは初めから存在しないものになった。データが消えた、だね」
心が折れた。
もう耐えれない。
「な、言っただろう?永遠に消える事のない罪。さぁ、また最悪な時間を過ごそう」
過去には帰れない。
これが本来普通な事だろう。
永遠に罪滅ぼしをしないといけない。
「一つ聞いてもいい?私たち以外の消えた人達は救われたと思う?」
「あぁ。これ以上苦しむ必要は無いからね。でも、私は何も変わらないと思うかな」
「ありがとう。じゃあ、続けるか…」
また静かな謁見室での殺し合いが始まる。
こんな事するんじゃ無かった。
後悔しているのに戻れない。
だから戻らない。
諦めた。
好奇心で始めてしまった。
そして、それは最悪を招いた。
私は出会った生物を全員殺そうとしている。
そうしないとこの生き地獄から抜け出せないからだ。
この世界は特定の行動をとる事でみんなが幸せになる事が出来たり、モンスターと友達になれたり、全員が地獄を見たりする事が出来る。
親切な事に途中で選択を誤った時のために、[リセット]することができる。
いや、”出来ていた”、と言うべきか。
何故か[リセット]をする権利が消えた。
何者かに奪われた。
このルートを通り始めてから気分が悪くなっていった。
私がまだ、元に戻れると信じて殺されていくモンスター。
私を恨み呪うモンスター。
死んでも守ると言う決意で蘇るモンスター。
潔く負けを認め、地獄で待っているモンスター。
色々なモンスターを殺してきた。
心が痛い。
私のLvはLv99。
Lv100まで後一歩。
Lv100になればこの世界は崩壊する。
そして自動的に[リセット]される。
城に着いた。城の王はもうすでにいない。
静かな回廊に鳴り響く足音。
外から光が入り込む。
城の謁見室から誰かが立ち上がる音が聞こえる。
「お前だろ?モンスターを殺した殺人鬼は。私の友達を殺したのは。私の親友を殺したのは…」
女性の声だ。
謁見室の扉の前に着く。
物音を立てて大きな扉は開く。
そこには王じゃ無い何者かがいた。
どうやら人間だ。
「なぁ…私とお前…どっちが強いと思う?」
目を凝らすと誰かわかった。
緑の上着、
平和なルートを通った時に私の事を支えてくれた人間だ。
私の親友だ。
「お前は死ぬべきだ」
静かな謁見室に彼女の声がこだまする。
勿論、彼女の記憶も[リセット]されている。
あの時の優しい彼女はもう居ない。
「さぁ、始めよう。私のそっくりさん?」
あの時も私の事をそっくりさんと呼んでいた事を思い出した。
剣を構える。
次の瞬間、左手に激痛が走る。
構えが崩れると同時に胸に何かが刺さった。
真っ暗な世界。
まただ。
必ず死ぬとこの世界に飛ばされる。
『GAMEOVER』
大きい文字が現れた。
その下には
『continue』
そして、私はそこに手を伸ばす。
目の前が白くなる。
何か声が聞こえる。
次第にその声は薄れていき、また元いた世界に戻った。
あの時の静かな回廊だ。
また同じ様に謁見室のドアを開ける。
そして、一つ頼み事をした。
「ねぇ、ステータスを見せてよ。お互いにどれぐらいの強さか知った方がいいと思うから」
「あぁ。確かにそうだな」
彼女のステータスを見る。
Lv0 ATK2 DEF3
おかしい。
このステータスは小学生以下だ。
私のステータスは
Lv99 ATK99 DEF99
だ。
成人男性でさえ
Lv1 ATK20 DEF25
程度ある。
そして、彼女と私だけLv0から始まっているようだ。
「やっぱりそっくりだ。初期Lvが0から始まっている」
彼女とそっくりな理由はこれか。
「私たちは人間じゃない何かだ。体の構造は同じだが、生まれた場所が違う。人間は母親から、私たちはあの場所から。君も分かるだろ?あの黒い世界」
まさか、彼女もそうだとは。
でも、勝てる。
私の方がレベルが上だから。
「もしかして、私に勝てると思ってる?君がみたステータスは真実とは限らないんだよ?」
「いや、ステータスはデータだ。ステータスが裏切る事は出来ない。」
「ねぇ、そっくりさん?確かにステータスは真実を伝えるよ。でも、私は私の方が強いと思うよ?」
口を開こうとしたその時、私に巨大な針が刺さった。
攻撃を覚えておこうと思い、見てみると、直径50cmほどの針が胴に刺さっていた。
また黒い世界。
何かが話しかけてくる。
それを無視し、continueしようとする。
何かが視界に入る。
見てみると、
『I’m stranger then you』
という文字が見えた。
何でこんなところに文字が?
もう一度戦う。
今度は槍を持って行く。
その前にもう一度[SAVE]しようとする。
出来ない。
残された権利は[continue]のみだ。
「”また”来たのか」
“また”?
「今の発言で疑問に思うことでも?」
「”また”来たのか について聞きたい。何故またなんだ?」
「それはな。お前と同じく[リセット]前の記憶が残り続けるんだ。戦うんだろ?来いよ」
私は槍で突進する。
が、確実に槍を折りにきた針が何処からとも無く飛んできた。
なんとか下がって避けれた。
槍を棒高跳びのように使って彼女の後ろに周り、そのまま刺す。
彼女にようやく一撃を入れれた。
あのステータスじゃ一撃だ。
しかし、彼女の胴から血が流れ続けているのにもかかわらず彼女は針で攻撃してきた。
どこからとも無く飛んできたり、生えてくる針。
それを交わしていると、何かにぶつかった。
振り向いてみると、レーザー砲が宙に浮いていた。
自分の上半身が消し飛んだようだ。
既に黒い場所に戻されていた。
あのレーザー砲は過去に殺したモンスターの発明品だ。
何故あんな物を?
もう一度戦う。
「諦めが悪いなぁ」
今度はレイピアで攻める。
針の弾幕が殺しにくる。
それらを避けてレイピアで彼女を刺す。
彼女はレイピアを避けて横から叩き折った。
近くに落ちていた斧を使う。
恐らく壁に飾ってあったものだ。
彼女に急接近し、首を切ろうと振りかぶる。
しかし彼女は、左手で斧の勢いを殺した。
左手には少し深めな傷があった。
ステータスを見る。
おかしい。
Lv99 ATK99 DEF99
ステータスが変動している。
それを理解した直後、胸に針が刺さり、黒い世界に飛ばされた。
ステータスが変動する事を知れた事は大きな収穫だ。
今度はナイフを使う。
身軽に動くことができる。
「何度やれば気が済むのか?私はもう落ち着いたぞ?まぁいい。殺意でこの部屋を満たそうじゃないか」
少し肌寒くなってきた。
綺麗に整備された謁見室はより一層寂しく感じる。
下から生えてきた針を飛んで避けて、心臓を狙ってナイフを刺した。
しかし、避けられた。
その隙に何本か針が立て続けに飛んでくる。
それらを交わし、また攻める。
今度は後ろから針が飛んできた。
避けると、地面に当たった針は爆発した。
そして避けた先から針が生えてくる。
これも交わす。
「凄い執念だね」
針が彼女の横から立て続けに30本程度飛んでくる。
うち10本は近くで爆発した。
後ろに吹き飛ばされる。
体制を立て直すと、針が追尾してきた。
ナイフで叩き落とす。
するとさっき何も起こらなかった針が跳ね返り、的確に頭を狙ってきた。
それを避けようとすると、すでに針にかこまれていた。
けれどそのまま彼女に突進する。
「えぇ…痛く無いの~?」
彼女の陽気な声が聞こえてくる。
もちろん痛い。
が、そんな事を気にしている暇はない。
彼女は重力操作で私のナイフを天井に落とした。
「話したい事でもあるんじゃ無い?話は聞くだけ聞くよ?」
「ねぇ、私たち、また友達に戻れるかな。お願い。私を許して。」
私はそう言って左手を差し出した。
彼女も左手を前に出した。
その時、私の左腕は消し飛んでいた。
彼女は不気味な笑みを浮かべる。
彼女は針で私の腹に一撃を入れようとしていた。
私はそれを素手で止めて、奪った。
そのまま彼女に刺そうとするも虚しく空をきった。
そして私の右脚も消し飛んだ。
そのまま残った左脚で踏ん張ろうとするが、脹脛に針が刺さっていて力が入らなかった。
最後の悪あがきで針を投げる。
勿論、彼女は難なく避けた。
「裏切ったな…」
「そっくりさん。君が過去にした事は許されない。勿論私もだよ。これは罪滅ぼしだ。永遠に消えない罪のね。」
「えっ」
思わず声が漏れる。
彼女は過去に殺しをしたのか?
「私は君の比にならないほど殺したさ。もうどんな奴を殺したか鮮明には思い出せない。だからあの時私は君を止めたんだよ。まさかここまでそっくりになるとは」
心が痛い。
涙が溢れる。
「じゃ、また次回」
これで何度目だ。
また黒い世界。
この声は思い出せそうで思い出せない。
きっと忘れてしまってはいけない記憶。
もう一度回廊から謁見室に入る。
出来ればもう二度とこの光景を見たくない。
「Let’s go my Just like」
彼女の攻撃は激しさを増すばかりだ。
もう針が何千本と出てきた。
今のところお互いにダメージは入っていない。
「はぁ…はぁ…なぁ一度やめないか?」
彼女は息が切れている。
今だ。
私はナイフで彼女を刺した。
彼女は倒れた。
が、また立ち上がった。
フードで顔が見えない。
何故か謁見室の窓の外は赤く染まっていた。
彼女の状態を見ると
Hp 0/99
だった。
しかし彼女はまだ動く。
「いったぁ~体からちょっとおかしくなったじゃ無いかぁ。世界も壊れかけてるし~」
いや、ちょっとでは済まされないだろ。
そう思うと、彼女はフードを外した。
いつの間にか彼女はいつも通りの姿勢で立っていた。
両目が赤く光る。
パーカーには血がついていた。
「まだまだ行くよ!」
今度は赤いナイフが次々と飛んできた。
当たってしまった。
今度は黒い世界にも飛ばされずまたやり直しになった。
世界が壊れ出した。
重力がおかしくなった。
部屋にあった装飾は壁に、私たちは天井に。武器や攻撃は無重力に。脳が付いていけない。
とにかくナイフの弾幕を避け、攻撃できる隙を探す。
が、攻撃する隙間などあるわけもなく、死に続けた。
突然、彼女が倒れ、重量が戻り、窓の外もいつもの景色に戻っていた。
私は彼女をナイフで刺す。
彼女は死んだ。
が世界は壊れない。
誰もいない場所にただ一人。
孤独を感じる。
しばらくすると、誰もいないはずの回廊から足音が聞こえた。
まさか、彼女が帰ってきたのか。
しかし、足音の数がおかしい。
軽い足音。
重々しい鎧の音。
誰かのため息。
「お客を連れてきたよ。でも君と私しか残らない」
そう言ってから見えてきたのは、彼女と私が殺したモンスター二人だ。
「…よくも…よくも殺したな!私を!罪の無い人を!」
「うるさいよぉ~そんなに熱血的にならなくてもいいから」
「こうすれば君も思い出すと思ってね。因みに、これは、」
そう言って彼女は赤いナイフを操り、私が殺したモンスターをもう一度殺した。
「君の幻覚だよ。君が壊した。だから彼ら彼女らは初めから存在しないものになった。データが消えた、だね」
心が折れた。
もう耐えれない。
「な、言っただろう?永遠に消える事のない罪。さぁ、また最悪な時間を過ごそう」
過去には帰れない。
これが本来普通な事だろう。
永遠に罪滅ぼしをしないといけない。
「一つ聞いてもいい?私たち以外の消えた人達は救われたと思う?」
「あぁ。これ以上苦しむ必要は無いからね。でも、私は何も変わらないと思うかな」
「ありがとう。じゃあ、続けるか…」
また静かな謁見室での殺し合いが始まる。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる