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幽霊少女の未来
行ってきます、行ってきます
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「戻すのは2週間でいいかのー?」
「そうですね、今回は2,3回やり直して解決できればいいと思ってます」
さっきのコントも一通り終わり、俺はクロと真面目な相談をしていた。
「何の相談してるの?」
「どれだけ時間を巻き戻すかの相談ですよ。今回は、桜木さんが最後に覚えていたのがちょうど1週間前だったので、とりあえず2週間戻して様子を見ます」
1回で終われたらいいのだが、そう簡単にはいかないだろう。そのため、今回のタイムリープは、様子見ということにした。何度もタイムリープするのは、クロと俺の負担にはなるが、仕方ない。
「とりあえずで2週間戻せるのが凄い……」
「まあ、今回は桜木さんを死なせないっていうのが第一なんで、そこまで難しくないと思います」
「ほんと!?」
グイッと体を前のめりにして、桜木さんが俺に詰め寄ってくる。いろいろドキドキするから辞めていただきたい……
「ほ、本当ですよ。仮に事件に巻き込まれていて犯人がいたとしても、捕まえる必要はないですし。伊藤さんを死なせなければいいんですから」
「ありがとー!」
「ちょっ! 抱きつかないでください……って」
嬉しさのあまり俺に抱きついてきた桜木さんの、柔らかい感触が……感触が……あれ?
(あっ、幽霊だから感触ないのか……)
「あー! ごめん! 嬉しくて……つい」
そんな残念がる俺の思惑など知らずに、舌をペロッと出して桜木さんは謝ってきた。クッッソかわいい。
「感触がなくて残念じゃのう」
「そこ、心読まないでくれませんか?」
俺の心を読んだクロがニヤニヤしながらこっちを見てくる。
(このロリババアは……時の神様なんて辞めて、煽りの神様にでもなればいいのに)
「残念?」
「あー、なんでもないですよ。余計なこと言わないでください……!」
桜木さんに聞こえないように、俺はクロに懇願をした。
「ほーう、それが物を頼む態度かのう?」
だが、そんなものはお構いなしにクロは全力で煽ってきた。
(このロリババア野郎……)
「ぐっ……余計なことを言わないでください……クロ様」
だが、ここは従うしかないと判断した俺は、渋々と頭を下げた。
「むふふ~、口先だけじゃが、それでよいのじゃ~♪ 貴様の悔しそうな顔でご飯が進むの~」
(サイコパスか)
俺の苦しむ姿を見ながら白ごはんを食べるクロは、今日で1番上機嫌だった。
ーーーーーー
「ご飯も食べ終わりましたし、そろそろ用意しませんか?」
「よいぞー」
なんとか怒りを収めた俺は、クロが料理を完食するのを待った。そして、過去に戻る用意をすることを提案すると、口にソースをつけたままクロは頷いていた。
「なんで栄養ドリンクなんて持ってきたの?」
軽くシャワーを浴びて、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出したまま待っていた俺に、桜木さんが質問してきた。
「今からする儀式の前に、これ飲んだらちょっと楽なんですよ」
「へー、何するの?」
「えーっと……まあ、見てたら分かります。クロ様、オッケーです」
説明するより見てもらったほうが分かりやすいだろう。
「うむ。では、デザート代わりにいただくとするかの。久しぶりじゃの~貴様の【精気】を喰うのは」
俺の用意が終わったのを確認すると、クロは舌舐めずりをしながらこちらに顔を近づけてきた。
「ふふ~、貴様ぁ……近くで見ると愛おしい顔をしておるのじゃがの~」
小さな手で俺の頬を触りながらクロは笑う。体が小さいクロに子供扱いされると、なんだか複雑な気持ちになってしまう。
「そういうのいいですから……早く済ましてください」
少し恥ずかしくなった俺は、下を向きながら、クロに早く済ませるように言った。
「にゃはは~、貴様はそうでないとなぁ……では、いただくぞぉ……んっ」
下を向いた俺の顎を優しく持ち上げると、クロは俺の唇を奪った。
「んっ……」
「えぇ!? な、な、なんでキスしてるのっ!?」
「はむっ……んっ……」
クロは俺の口の中を、舌でくまなく犯すように、貪るように、蹂躙した。その行為を盛り上げるかのように、クチュクチュっと水音が鳴る。
「んっ、ぷはぁ! ふぅ……ごちそうさまなのじゃ~」
「どういたしまし……てっ」
俺は唇を服の袖で拭きながらクロに空返事をする。精気を取られた時は、貧血のような症状がくる。血の気がひき、頭痛がひどく起こり、立ちくらみが足元をふらつかせる。
「どうして、そんなにあっさりしてるのぉ……」
なぜか桜木さんが横で悶絶している。
「え? あー……これが儀式ですよ。精気をクロ様に食べられるっていう」
「そもそも! 精気って、何!?」
(まあ、知らなくて当然だよな)
1つ1つ状況を整理しようとしているのか、桜木さんは俺たちに質問してきた。
「命の源のようなものじゃ。違う言葉で言うと……なんじゃろうなー?」
クロがなんとか説明しようとするが、言葉に詰まっている。
「ゲームのHPみたいなものですよ」
「お、ぴったりじゃの」
そんなクロに俺は助け舟を出した。
「あー……そういう感じなんだ」
日頃ゲームばっかりやっているクロは大きく頷いているが、どうやら桜木さんはゲームとかはあんまりしないみたいだ。びみょーに納得していない。
すると、あまり素直に頷いていない桜木さんは
「そんなのが、栄養ドリンクで補強できるんだ……」
ど正論をぶちかましてきた。
「おまじない程度ですけどね。時間を戻すのに人間の精気がいるんですよ。本来、神への信仰が少しずつ精気を神に与えるんですけど……まあ、見ての通り信仰されてない神もいるんで」
「なぜ我を見る」
「ナゼデショウネー」
こうやって無理やり精気を取らないといけないんだから、もう少しクロには焦って欲しいが……まあ期待するだけ無駄だろう。
「そうなんだー。でも、どうして、その……き、キスするの?」
「それは完全にこやつの趣味じゃ」
「え!?」
「違うわ! あと、桜木さんも真に受けないで!?」
(このロリババアは俺を社会的に殺すつもりか!)
「一瞬そういう趣味があるのかなって……」
「断じてロリコンではないです! クロ様がこれが1番効率良いって言うから仕方なく! 仕方なくですよ!?」
嘘は言っていない。実際に、クロはこうやって直接吸い取った方が効率が良いと言っていたのだ。そのためにあくまで仕方なくやっているのだ。
「そんなこと言いつつも、まだまだ内心は嫌な思いはしておらんではないか」
「嫌な思いしかしてねーし」
「口ではなんとでも言えるの~。初めての時の反応は今でも鮮明に覚えておるぞ~。あの時は確か、貴様が恥ずかしさのあまり気絶しておったの~」
「ええ!?」
「いちいち余計なこと言わないでください!」
本当に余計なことしかこのロリババアは言えないのかと思うくらい、ペラペラと俺の黒歴史を話しやがる。
「こんな小さい女の子にキスされて……気絶したんだ……」
「いや、桜木さん違いますからね!? なんですかその犯罪者を見るような目は!」
犯罪者というより、ゴミを見る目で桜木さんは俺を見てくる。
「その、なんて言うか……趣味は人それぞれだから……」
社会的に死んだ時ってこんな感じなんだー……授業料にしては高いものを俺は失ってしまったようだが……
「なんか、俺の人権が著しくすり減った気がするんですけど……」
「そんなことないよー?」
「そう言いながらも、さっきより明らかに桜木さんとの間に距離があるのはどうしてですか……?」
「さ……さっきも言ったけど、趣味は人それぞれだから!」
これもう完全に人権と信頼失ってるな。
「だから違いますって! そもそも初めての時はクロ様はこんな姿じゃ……」
「男がぐちぐち言うものではないぞ! ほれ、どうせ時を戻せばこのことを覚えているのは、我と貴様だけではないか。何も問題はないのじゃ」
(問題しかないんだよな)
俺の言い分は聞いてすらもらえないようだ。
「……そーですね」
もう、この神に何言っても無駄ってことを悟った俺は適当に頷いた。
「今度は幸人くんが拗ねちゃった」
「す、拗ねてません」
だが、桜木さんの目には俺が拗ねているように見えてしまったらしい。断じて拗ねてはいない。ただ、あんなにお手軽に人権と信頼が無くなったのが、ちょっとだけ悲しいだけだ……
「やっぱりツンデレなんだね」
「つんでれじゃの」
「ツンデレじゃなーい!」
「にゃはは~! 貴様の方が赤子のようではないか~!」
「人を煽る時そんなに笑顔になるのクロ様ぐらいですよ……!」
「お~怖い怖い。赤子が泣き出してしまうのじゃ」
ニヤニヤニヤニヤしやがって……このロリババアにはちょっと痛い目にあって貰わないとな。
「次の晩ご飯は玉ねぎてんこ盛りにしておきますねー」
「のじゃあ!? この鬼畜め! 我が一体何をしたというのじゃぁぁぁぁああ!」
いや、分かるだろ。
相当嫌だったのか、クロの全身の毛がぶわっと逆立った。
「そうされたくなかったら、余計なこと言う前にさっさと時間を戻してください」
「分かったのじゃ! 分かったのじゃ! くぅ……覚えておれ……」
そう言いながらクロは精気を集中させ始めた。
「……幸人くん」
「なんですか?」
いいタイミングと思ったのか、桜木さんが改まった表情で俺に話しかけてきた。
「その……ありがとうね。私のために……」
どうやら、会ったばかりの俺とクロに頼りっぱなしになることに、桜木さんは少し罪悪感を持っているようだった。
「……その言葉は、生身の身体で笑顔で言ってもらいますから、大事に取っておいてください」
その少しの罪悪感を取り払うのは難しいだろう。誰しも人を頼る時は、多少なりとも罪悪感が湧くものだ。だから俺はせめてと思い、桜木さんを安心させるように微笑んだ。
「っ! ……うん!」
そんな俺を見て安心したのか、桜木さんは少し目元を拭いながら満面の笑みを浮かべた。
「おいロリコン、用意ができたのじゃ」
「おい黙れロリババア。……じゃあ桜木さん、行ってきますね」
未だ戦闘態勢のクロにツッコミを入れると俺は桜木さんに別れを告げた。
「……行ってらっしゃい幸人くん、くーちゃん。過去の私を……お願いね」
「任せてください」
「任せるのじゃー」
桜木さんの願いに、俺は軽く、クロは元気いっぱいに、ピースサインをして応えた。
「では、2週間前へレッツゴーじゃ!」
ーーーーーー
9/7
「問題なく戻れましたね」
「そうじゃのー」
先程と同じ社務室の光景だが、先程と違うのは桜木さんの姿が無いことと、気持ち暑いことだ。
「今回はうちの学校のことなんで、翔さんを頼ることにします」
桜木さんがうちの学校でよかった。うちの学校のことなら翔さんに頼れるからだ。
「確か、あやつの父親がりびどーなんじゃろ?」
「理事長です」
翔さんはうちの学校の理事長の息子で、俺と俺の妹の【遥】に普段からよくしてくれている2つ年上の先輩だ。運動能力が凄まじく、性格は面倒見が良くて、おまけに顔まで良い……主人公とはこの人のことを言うのだろう。
「リビドーは性的欲求のことですよ」
「貴様が常に溜めておるやつか」
「溜めてません」
「む? 相手が我だけだったら、やけに軽く流すのじゃな」
「あのテンション疲れるんで……だから、あんまりツッコませないでくださいよ」
さっきのことに疲れた俺は、もうツッコむ気力すら湧いてこなかった。
(ていうか、シンプルに疲れた)
「では、ツッコまなければよいではないか」
「いやー、なんと言うか、関西人としての本能が出るんですよ」
「人間の本能とは面倒くさいものじゃの~」
ただ、その面倒くさいものも面白いのが人間というものだ。
「否定はできませんけど。とりあえず、翔さんに連絡しますね」
「うむ」
そう言って俺は携帯の電話帳欄から翔さんを探しだすと、すぐにコールした。耳元でプルプルと発信音が鳴る。
「……もしもし、お疲れ様です。翔さん、今日ってこの後予定空いてますか?」
「今日? ……空いてるけど、どうかしたか?」
何度かコール音が鳴ると、電話の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。腹の奥に響くような低い声だが、妙に落ち着く。
「ちょっと手を借してもらいたくて」
「いいぞ。どこに行けばいい?」
内容も聞かずに即答。こういう所は無計画かもしれないが、俺達が翔さんを尊敬してる1つの理由だ。頼もしさが半端ない。
「えーっと、大吉に来てください」
「分かった、詳しいことはそっちで聞くわ。ところで、今日は遥ちゃんいるのかー?」
大吉とは、俺と遥が今住んでいるアパートの1階にある定食屋だ。
よくある1階が店、2階が住居になっている感じのやつで、昔からここの大将の家族とは仲が良くて、遥もたまーにバイトさせてもらっている。
「確か14日まで戻したから……いると思いますよ」
俺はなんとなく、14日は遥がバイトしていることを覚えていた。
「お、やる気出てきた~」
「じゃあ、30分後に大吉集合でお願いします」
「はいよー、じゃあまた後でな」
「はい、失礼します」
スムーズに事が進み、翔さんの凄さがひしひしと分かる。
「じゃあ、行ってきますね」
「うむ、無理はするなよ」
「はーい」
「あ、」
「どうしました?」
神社を出ようとすると、何かを思い出したのか、クロが声を上げた。
「今日も貴様の料理は美味かったぞ! ごちそうさまなのじゃ!」
「っ……」
……これだからクロは憎めない。
「次も楽しみにしていてくださいね」
そんなクロの頭を撫でると、俺は1つ大きな深呼吸をした。
「じゃあ改めて……行ってきます!」
そして、先ほどより少し大きな声でクロに別れを告げた。
「そうですね、今回は2,3回やり直して解決できればいいと思ってます」
さっきのコントも一通り終わり、俺はクロと真面目な相談をしていた。
「何の相談してるの?」
「どれだけ時間を巻き戻すかの相談ですよ。今回は、桜木さんが最後に覚えていたのがちょうど1週間前だったので、とりあえず2週間戻して様子を見ます」
1回で終われたらいいのだが、そう簡単にはいかないだろう。そのため、今回のタイムリープは、様子見ということにした。何度もタイムリープするのは、クロと俺の負担にはなるが、仕方ない。
「とりあえずで2週間戻せるのが凄い……」
「まあ、今回は桜木さんを死なせないっていうのが第一なんで、そこまで難しくないと思います」
「ほんと!?」
グイッと体を前のめりにして、桜木さんが俺に詰め寄ってくる。いろいろドキドキするから辞めていただきたい……
「ほ、本当ですよ。仮に事件に巻き込まれていて犯人がいたとしても、捕まえる必要はないですし。伊藤さんを死なせなければいいんですから」
「ありがとー!」
「ちょっ! 抱きつかないでください……って」
嬉しさのあまり俺に抱きついてきた桜木さんの、柔らかい感触が……感触が……あれ?
(あっ、幽霊だから感触ないのか……)
「あー! ごめん! 嬉しくて……つい」
そんな残念がる俺の思惑など知らずに、舌をペロッと出して桜木さんは謝ってきた。クッッソかわいい。
「感触がなくて残念じゃのう」
「そこ、心読まないでくれませんか?」
俺の心を読んだクロがニヤニヤしながらこっちを見てくる。
(このロリババアは……時の神様なんて辞めて、煽りの神様にでもなればいいのに)
「残念?」
「あー、なんでもないですよ。余計なこと言わないでください……!」
桜木さんに聞こえないように、俺はクロに懇願をした。
「ほーう、それが物を頼む態度かのう?」
だが、そんなものはお構いなしにクロは全力で煽ってきた。
(このロリババア野郎……)
「ぐっ……余計なことを言わないでください……クロ様」
だが、ここは従うしかないと判断した俺は、渋々と頭を下げた。
「むふふ~、口先だけじゃが、それでよいのじゃ~♪ 貴様の悔しそうな顔でご飯が進むの~」
(サイコパスか)
俺の苦しむ姿を見ながら白ごはんを食べるクロは、今日で1番上機嫌だった。
ーーーーーー
「ご飯も食べ終わりましたし、そろそろ用意しませんか?」
「よいぞー」
なんとか怒りを収めた俺は、クロが料理を完食するのを待った。そして、過去に戻る用意をすることを提案すると、口にソースをつけたままクロは頷いていた。
「なんで栄養ドリンクなんて持ってきたの?」
軽くシャワーを浴びて、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出したまま待っていた俺に、桜木さんが質問してきた。
「今からする儀式の前に、これ飲んだらちょっと楽なんですよ」
「へー、何するの?」
「えーっと……まあ、見てたら分かります。クロ様、オッケーです」
説明するより見てもらったほうが分かりやすいだろう。
「うむ。では、デザート代わりにいただくとするかの。久しぶりじゃの~貴様の【精気】を喰うのは」
俺の用意が終わったのを確認すると、クロは舌舐めずりをしながらこちらに顔を近づけてきた。
「ふふ~、貴様ぁ……近くで見ると愛おしい顔をしておるのじゃがの~」
小さな手で俺の頬を触りながらクロは笑う。体が小さいクロに子供扱いされると、なんだか複雑な気持ちになってしまう。
「そういうのいいですから……早く済ましてください」
少し恥ずかしくなった俺は、下を向きながら、クロに早く済ませるように言った。
「にゃはは~、貴様はそうでないとなぁ……では、いただくぞぉ……んっ」
下を向いた俺の顎を優しく持ち上げると、クロは俺の唇を奪った。
「んっ……」
「えぇ!? な、な、なんでキスしてるのっ!?」
「はむっ……んっ……」
クロは俺の口の中を、舌でくまなく犯すように、貪るように、蹂躙した。その行為を盛り上げるかのように、クチュクチュっと水音が鳴る。
「んっ、ぷはぁ! ふぅ……ごちそうさまなのじゃ~」
「どういたしまし……てっ」
俺は唇を服の袖で拭きながらクロに空返事をする。精気を取られた時は、貧血のような症状がくる。血の気がひき、頭痛がひどく起こり、立ちくらみが足元をふらつかせる。
「どうして、そんなにあっさりしてるのぉ……」
なぜか桜木さんが横で悶絶している。
「え? あー……これが儀式ですよ。精気をクロ様に食べられるっていう」
「そもそも! 精気って、何!?」
(まあ、知らなくて当然だよな)
1つ1つ状況を整理しようとしているのか、桜木さんは俺たちに質問してきた。
「命の源のようなものじゃ。違う言葉で言うと……なんじゃろうなー?」
クロがなんとか説明しようとするが、言葉に詰まっている。
「ゲームのHPみたいなものですよ」
「お、ぴったりじゃの」
そんなクロに俺は助け舟を出した。
「あー……そういう感じなんだ」
日頃ゲームばっかりやっているクロは大きく頷いているが、どうやら桜木さんはゲームとかはあんまりしないみたいだ。びみょーに納得していない。
すると、あまり素直に頷いていない桜木さんは
「そんなのが、栄養ドリンクで補強できるんだ……」
ど正論をぶちかましてきた。
「おまじない程度ですけどね。時間を戻すのに人間の精気がいるんですよ。本来、神への信仰が少しずつ精気を神に与えるんですけど……まあ、見ての通り信仰されてない神もいるんで」
「なぜ我を見る」
「ナゼデショウネー」
こうやって無理やり精気を取らないといけないんだから、もう少しクロには焦って欲しいが……まあ期待するだけ無駄だろう。
「そうなんだー。でも、どうして、その……き、キスするの?」
「それは完全にこやつの趣味じゃ」
「え!?」
「違うわ! あと、桜木さんも真に受けないで!?」
(このロリババアは俺を社会的に殺すつもりか!)
「一瞬そういう趣味があるのかなって……」
「断じてロリコンではないです! クロ様がこれが1番効率良いって言うから仕方なく! 仕方なくですよ!?」
嘘は言っていない。実際に、クロはこうやって直接吸い取った方が効率が良いと言っていたのだ。そのためにあくまで仕方なくやっているのだ。
「そんなこと言いつつも、まだまだ内心は嫌な思いはしておらんではないか」
「嫌な思いしかしてねーし」
「口ではなんとでも言えるの~。初めての時の反応は今でも鮮明に覚えておるぞ~。あの時は確か、貴様が恥ずかしさのあまり気絶しておったの~」
「ええ!?」
「いちいち余計なこと言わないでください!」
本当に余計なことしかこのロリババアは言えないのかと思うくらい、ペラペラと俺の黒歴史を話しやがる。
「こんな小さい女の子にキスされて……気絶したんだ……」
「いや、桜木さん違いますからね!? なんですかその犯罪者を見るような目は!」
犯罪者というより、ゴミを見る目で桜木さんは俺を見てくる。
「その、なんて言うか……趣味は人それぞれだから……」
社会的に死んだ時ってこんな感じなんだー……授業料にしては高いものを俺は失ってしまったようだが……
「なんか、俺の人権が著しくすり減った気がするんですけど……」
「そんなことないよー?」
「そう言いながらも、さっきより明らかに桜木さんとの間に距離があるのはどうしてですか……?」
「さ……さっきも言ったけど、趣味は人それぞれだから!」
これもう完全に人権と信頼失ってるな。
「だから違いますって! そもそも初めての時はクロ様はこんな姿じゃ……」
「男がぐちぐち言うものではないぞ! ほれ、どうせ時を戻せばこのことを覚えているのは、我と貴様だけではないか。何も問題はないのじゃ」
(問題しかないんだよな)
俺の言い分は聞いてすらもらえないようだ。
「……そーですね」
もう、この神に何言っても無駄ってことを悟った俺は適当に頷いた。
「今度は幸人くんが拗ねちゃった」
「す、拗ねてません」
だが、桜木さんの目には俺が拗ねているように見えてしまったらしい。断じて拗ねてはいない。ただ、あんなにお手軽に人権と信頼が無くなったのが、ちょっとだけ悲しいだけだ……
「やっぱりツンデレなんだね」
「つんでれじゃの」
「ツンデレじゃなーい!」
「にゃはは~! 貴様の方が赤子のようではないか~!」
「人を煽る時そんなに笑顔になるのクロ様ぐらいですよ……!」
「お~怖い怖い。赤子が泣き出してしまうのじゃ」
ニヤニヤニヤニヤしやがって……このロリババアにはちょっと痛い目にあって貰わないとな。
「次の晩ご飯は玉ねぎてんこ盛りにしておきますねー」
「のじゃあ!? この鬼畜め! 我が一体何をしたというのじゃぁぁぁぁああ!」
いや、分かるだろ。
相当嫌だったのか、クロの全身の毛がぶわっと逆立った。
「そうされたくなかったら、余計なこと言う前にさっさと時間を戻してください」
「分かったのじゃ! 分かったのじゃ! くぅ……覚えておれ……」
そう言いながらクロは精気を集中させ始めた。
「……幸人くん」
「なんですか?」
いいタイミングと思ったのか、桜木さんが改まった表情で俺に話しかけてきた。
「その……ありがとうね。私のために……」
どうやら、会ったばかりの俺とクロに頼りっぱなしになることに、桜木さんは少し罪悪感を持っているようだった。
「……その言葉は、生身の身体で笑顔で言ってもらいますから、大事に取っておいてください」
その少しの罪悪感を取り払うのは難しいだろう。誰しも人を頼る時は、多少なりとも罪悪感が湧くものだ。だから俺はせめてと思い、桜木さんを安心させるように微笑んだ。
「っ! ……うん!」
そんな俺を見て安心したのか、桜木さんは少し目元を拭いながら満面の笑みを浮かべた。
「おいロリコン、用意ができたのじゃ」
「おい黙れロリババア。……じゃあ桜木さん、行ってきますね」
未だ戦闘態勢のクロにツッコミを入れると俺は桜木さんに別れを告げた。
「……行ってらっしゃい幸人くん、くーちゃん。過去の私を……お願いね」
「任せてください」
「任せるのじゃー」
桜木さんの願いに、俺は軽く、クロは元気いっぱいに、ピースサインをして応えた。
「では、2週間前へレッツゴーじゃ!」
ーーーーーー
9/7
「問題なく戻れましたね」
「そうじゃのー」
先程と同じ社務室の光景だが、先程と違うのは桜木さんの姿が無いことと、気持ち暑いことだ。
「今回はうちの学校のことなんで、翔さんを頼ることにします」
桜木さんがうちの学校でよかった。うちの学校のことなら翔さんに頼れるからだ。
「確か、あやつの父親がりびどーなんじゃろ?」
「理事長です」
翔さんはうちの学校の理事長の息子で、俺と俺の妹の【遥】に普段からよくしてくれている2つ年上の先輩だ。運動能力が凄まじく、性格は面倒見が良くて、おまけに顔まで良い……主人公とはこの人のことを言うのだろう。
「リビドーは性的欲求のことですよ」
「貴様が常に溜めておるやつか」
「溜めてません」
「む? 相手が我だけだったら、やけに軽く流すのじゃな」
「あのテンション疲れるんで……だから、あんまりツッコませないでくださいよ」
さっきのことに疲れた俺は、もうツッコむ気力すら湧いてこなかった。
(ていうか、シンプルに疲れた)
「では、ツッコまなければよいではないか」
「いやー、なんと言うか、関西人としての本能が出るんですよ」
「人間の本能とは面倒くさいものじゃの~」
ただ、その面倒くさいものも面白いのが人間というものだ。
「否定はできませんけど。とりあえず、翔さんに連絡しますね」
「うむ」
そう言って俺は携帯の電話帳欄から翔さんを探しだすと、すぐにコールした。耳元でプルプルと発信音が鳴る。
「……もしもし、お疲れ様です。翔さん、今日ってこの後予定空いてますか?」
「今日? ……空いてるけど、どうかしたか?」
何度かコール音が鳴ると、電話の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。腹の奥に響くような低い声だが、妙に落ち着く。
「ちょっと手を借してもらいたくて」
「いいぞ。どこに行けばいい?」
内容も聞かずに即答。こういう所は無計画かもしれないが、俺達が翔さんを尊敬してる1つの理由だ。頼もしさが半端ない。
「えーっと、大吉に来てください」
「分かった、詳しいことはそっちで聞くわ。ところで、今日は遥ちゃんいるのかー?」
大吉とは、俺と遥が今住んでいるアパートの1階にある定食屋だ。
よくある1階が店、2階が住居になっている感じのやつで、昔からここの大将の家族とは仲が良くて、遥もたまーにバイトさせてもらっている。
「確か14日まで戻したから……いると思いますよ」
俺はなんとなく、14日は遥がバイトしていることを覚えていた。
「お、やる気出てきた~」
「じゃあ、30分後に大吉集合でお願いします」
「はいよー、じゃあまた後でな」
「はい、失礼します」
スムーズに事が進み、翔さんの凄さがひしひしと分かる。
「じゃあ、行ってきますね」
「うむ、無理はするなよ」
「はーい」
「あ、」
「どうしました?」
神社を出ようとすると、何かを思い出したのか、クロが声を上げた。
「今日も貴様の料理は美味かったぞ! ごちそうさまなのじゃ!」
「っ……」
……これだからクロは憎めない。
「次も楽しみにしていてくださいね」
そんなクロの頭を撫でると、俺は1つ大きな深呼吸をした。
「じゃあ改めて……行ってきます!」
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