猫のバブーシュカ~しましましっぽ彗星の夜に~

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11 集いにて ~会議の始まり~

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初夏の夜、ポピーズ・ヒルには普段とは違う空気が漂っています。

月と星の光だけが灯る薄暗い広場に、1匹、また1匹と猫たちが集まってきました。

猫たちが集いの日や場所を事前に相談して決めることはありません。

木々のざわめきや風の匂い、そして何か不思議なものに突き動かされて猫たちは集いを開きます。

事情があって来れない猫や、気が乗らない猫、集いがあると気付かなかった猫は欠席しますが、多くの猫たちにとって集いはとても大切な行事ですのでなるべく出席しようとします。


 バブーシュカとベンジャミンが広場に着いた頃は3匹の猫しかいませんでしたが、時間が経つにつれてぼちぼちと猫たちが集まり、今ではバブーシュカたちを合わせて全部で16匹になりました。


「たいぶ夜も更けて来たし、これで全員かしらね……」


バブーシュカは呟いてから一息つきました。

薄闇の中次々と現れる猫たちの姿かたちと匂いを確認するのは、バブーシュカのような若い猫にさえとても疲れる作業でした。



「おおかた知っている猫だわね。チャビーおばさんの隣にいる2匹は初めて会ったけど、きっとおばさんの仲間だわ。近くを通った時に、チャビーおばさんと同じ匂いがしたもの」


ベンジャミンの返事がないままにバブーシュカは続けます。


「チャビーおばさんは分かるでしょう? ベンジャミンお兄ちゃん。オレンジ色でしま模様の、ほら、スミス家に住んでる世話好きの猫。チェルシーっていう人間のおてんばさんがいる家よ」


バブーシュカが話しかけてもベンジャミンは黙っていて、瞬きで返事をします。


 数時間前、広場の猫が10匹を越えたあたりから、ベンジャミンは緊張で頭がぼうっとしてきました。

そしてセント・ポピー村の猫たちの中でボス的存在のジョナサンが姿を現した時には、ベンジャミンは走って逃げたい気持ちでいっぱいになりました。

ジョナサンは白地にキジトラ柄の短く硬い毛並みを持ち、胴体に対して顔が大きく、どろんとした目つきがいかにも強そうな青年の猫です。

ベンジャミンはジョナサンの縄張りには決して近づかないので普段会うことはありません。

なのでジョナサンがベンジャミンの背後から不意に現れて真横を通った時、ベンジャミンは恐ろしさで毛が全部逆立ってしまいました。

広場に誰が来ようが変わらず落ち着いた様子のバブーシュカに感心し、兄として自分が情けなくなりましたが、ベンジャミンには広場から逃げずにじっとしているのが精一杯でした。


 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


 真夜中を過ぎた頃、月の光を浴びながら押し黙ってじっとしていた16匹の猫たちの中で、ゆっくりと広場の中央に出た者がいました。

バブーシュカの目が鋭くその姿をとらえ


「フィッシャーよ」


と硬い声で、短くベンジャミンにささやきました。

いつもと違うバブーシュカの声にベンジャミンの緊張がより高まります。



猫たち同士の顔合わせの時間は終り、いよいよこれから会議が始まるのです。



 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*



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