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9 バブーシュカ、ベンジャミンを集いに誘う(2)
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*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
バブーシュカが再びベンジャミンの所へ現れたのは、ベンジャミンが納屋で夕食を済ませ、庭へ出て口元の掃除や背中の毛づくろいをしている最中でした。
いつにも増して機敏な動きになっていたバブーシュカは小さな竜巻みたいになってベンジャミンの前に飛び出したので、ベンジャミンは驚いて全身がビクッと強張りました。
「なんだあ、バブーシュカちゃんじゃないか。 僕、鳥か何かが飛んできたのかと思って驚いちゃったよ」
「あら、ベンジャミンお兄ちゃん、驚かせてしまってごめんなさい」
バブーシュカは両前足をぴったりそろえた座り姿で、お澄まししてそう言いましたが、その瞳は集いに行く期待で輝き、小さな顔に対して大きめの耳は夜空へ向かってピンと伸びて緊張感に溢れていました。
背中の毛の気になる部分を舐め終わっていなかったベンジャミンが、会話の途中でしたが毛づくろいを続け出したので、バブーシュカはベンジャミンの毛づくろいが終わるのを辛抱強く待ちました。
頃合を見計らってバブーシュカは声をかけます。
「もうそろそろ、出かけてもいい頃かしらね」
「バブーシュカちゃん、夜の散歩に行くのかい。 今日は星が綺麗だし、気持ちがいいだろうね」
毛づくろいを終えて、草の上に身体を横たえたベンジャミンはのんびりと答えました。
その返事に今度はバブーシュカが驚きます。
「まあ、ベンジャミンお兄ちゃん! まさか、集いを忘れてしまったなんてことないでしょうね」
〝集い〟の言葉にベンジャミンが目を泳がせました。
「違うよ、バブーシュカちゃん、僕はね、その、もう少し遅くに行くんじゃないかって、そう思ってたんだよ。忘れてなんて……そんな……」
本当の所、ベンジャミンは夕食を食べた後には集いの事をすっかり忘れていましたが、バブーシュカの心底驚いた顔を見ると『忘れていた』とは正直に言えなかったのでした。
「そうよね、ついさっき話していたんだし、大事な集いのことを忘れるわけはないわよね」
「うん、うん、もちろんだよ」
頷きながら目を泳がせるベンジャミンでしたが、バブーシュカは変に思っていないようで、元気に誘いました。
「それじゃあ、早く集いの会場へ向いましょうよ、ベンジャミンお兄ちゃん」
そのバブーシュカの一言でベンジャミンの左右に動いていた目の動きは止まり、身体も石のように固まって動かなくなってしまいました。
「どうしたの?ベンジャミンお兄ちゃん」
そう言って不思議そうに見つめるバブーシュカから、固まりながらもわずかに後ずさりで離れるベンジャミンは、なにやら小さな声でモゴモゴ言っています。
「そのう……、今日はちょっと天気が良くないんじゃないかなあ」
「さっき、ベンジャミンお兄ちゃんは星が綺麗と言っていたわよ」
ますます不思議そうな顔をするバブーシュカに、前より小さな声になるベンジャミンです。
「いや、うん、そうだね、今日は星がとても綺麗だね。でも……、寒くなるんじゃないかなあ」
「気温なら大丈夫。変な風が吹いていないし、今日は寒くはならないわ。雲がほんの少ししかないから雨だってきっと降らないはずよ。あたしの天気予報がすごく当たるの、ベンジャミンお兄ちゃんは知っているでしょう?」
「うん、知っているとも!バブーシュカちゃんほど天気を正確に当てられる猫は他にいないよ」
少し声が大きくなったベンジャミンでしたが、またボソボソと小声に戻り、こう続けます。
「ええと……、僕、今日はあんまり集いに行くのは気が向かないなあ。どうだい、バブーシュカちゃんが行って、帰ってきたらお話を聞かせてくれるっていうのは……」
そこまで言って、ベンジャミンはハッと口を閉ざしました。
なぜなら、バブーシュカのさっきまでの瞳の輝きが消えうせてしまっていたからです。
悲しい時にいつもそうなるように、瞳の黒い部分が大きくなって、潤んでいました。
「そう……。あたし、あたし、ベンジャミンお兄ちゃんと一緒に集いに行くのをとても楽しみにしていたのだけど、でも、お兄ちゃんの気が向かないのなら、しょうがないわよね。 そうよね、あたしが1匹で行って、後でお兄ちゃんに集いであった出来事を教えてあげれば良いんだわ。 ベンジャミンお兄ちゃんはああいう場所が苦手なんですもの、無理には連れて行けないわ」
バブーシュカは真っ黒になった目から涙がこぼれないようにするために、一気にお喋りしました。
そんなバブーシュカを見るなり、ベンジャミンは胸に氷柱が刺さったような感覚になりました。
この世で一番大切で可愛い妹に、こんなに悲しい瞳をさせてしまうなんて。
ベンジャミンは集いへの恐怖感など一瞬どこかに忘れてしまい、気がつくと大きな声で叫んでいました。
「僕、集いに行く。 バブーシュカちゃんと一緒に行くよ!」
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バブーシュカが再びベンジャミンの所へ現れたのは、ベンジャミンが納屋で夕食を済ませ、庭へ出て口元の掃除や背中の毛づくろいをしている最中でした。
いつにも増して機敏な動きになっていたバブーシュカは小さな竜巻みたいになってベンジャミンの前に飛び出したので、ベンジャミンは驚いて全身がビクッと強張りました。
「なんだあ、バブーシュカちゃんじゃないか。 僕、鳥か何かが飛んできたのかと思って驚いちゃったよ」
「あら、ベンジャミンお兄ちゃん、驚かせてしまってごめんなさい」
バブーシュカは両前足をぴったりそろえた座り姿で、お澄まししてそう言いましたが、その瞳は集いに行く期待で輝き、小さな顔に対して大きめの耳は夜空へ向かってピンと伸びて緊張感に溢れていました。
背中の毛の気になる部分を舐め終わっていなかったベンジャミンが、会話の途中でしたが毛づくろいを続け出したので、バブーシュカはベンジャミンの毛づくろいが終わるのを辛抱強く待ちました。
頃合を見計らってバブーシュカは声をかけます。
「もうそろそろ、出かけてもいい頃かしらね」
「バブーシュカちゃん、夜の散歩に行くのかい。 今日は星が綺麗だし、気持ちがいいだろうね」
毛づくろいを終えて、草の上に身体を横たえたベンジャミンはのんびりと答えました。
その返事に今度はバブーシュカが驚きます。
「まあ、ベンジャミンお兄ちゃん! まさか、集いを忘れてしまったなんてことないでしょうね」
〝集い〟の言葉にベンジャミンが目を泳がせました。
「違うよ、バブーシュカちゃん、僕はね、その、もう少し遅くに行くんじゃないかって、そう思ってたんだよ。忘れてなんて……そんな……」
本当の所、ベンジャミンは夕食を食べた後には集いの事をすっかり忘れていましたが、バブーシュカの心底驚いた顔を見ると『忘れていた』とは正直に言えなかったのでした。
「そうよね、ついさっき話していたんだし、大事な集いのことを忘れるわけはないわよね」
「うん、うん、もちろんだよ」
頷きながら目を泳がせるベンジャミンでしたが、バブーシュカは変に思っていないようで、元気に誘いました。
「それじゃあ、早く集いの会場へ向いましょうよ、ベンジャミンお兄ちゃん」
そのバブーシュカの一言でベンジャミンの左右に動いていた目の動きは止まり、身体も石のように固まって動かなくなってしまいました。
「どうしたの?ベンジャミンお兄ちゃん」
そう言って不思議そうに見つめるバブーシュカから、固まりながらもわずかに後ずさりで離れるベンジャミンは、なにやら小さな声でモゴモゴ言っています。
「そのう……、今日はちょっと天気が良くないんじゃないかなあ」
「さっき、ベンジャミンお兄ちゃんは星が綺麗と言っていたわよ」
ますます不思議そうな顔をするバブーシュカに、前より小さな声になるベンジャミンです。
「いや、うん、そうだね、今日は星がとても綺麗だね。でも……、寒くなるんじゃないかなあ」
「気温なら大丈夫。変な風が吹いていないし、今日は寒くはならないわ。雲がほんの少ししかないから雨だってきっと降らないはずよ。あたしの天気予報がすごく当たるの、ベンジャミンお兄ちゃんは知っているでしょう?」
「うん、知っているとも!バブーシュカちゃんほど天気を正確に当てられる猫は他にいないよ」
少し声が大きくなったベンジャミンでしたが、またボソボソと小声に戻り、こう続けます。
「ええと……、僕、今日はあんまり集いに行くのは気が向かないなあ。どうだい、バブーシュカちゃんが行って、帰ってきたらお話を聞かせてくれるっていうのは……」
そこまで言って、ベンジャミンはハッと口を閉ざしました。
なぜなら、バブーシュカのさっきまでの瞳の輝きが消えうせてしまっていたからです。
悲しい時にいつもそうなるように、瞳の黒い部分が大きくなって、潤んでいました。
「そう……。あたし、あたし、ベンジャミンお兄ちゃんと一緒に集いに行くのをとても楽しみにしていたのだけど、でも、お兄ちゃんの気が向かないのなら、しょうがないわよね。 そうよね、あたしが1匹で行って、後でお兄ちゃんに集いであった出来事を教えてあげれば良いんだわ。 ベンジャミンお兄ちゃんはああいう場所が苦手なんですもの、無理には連れて行けないわ」
バブーシュカは真っ黒になった目から涙がこぼれないようにするために、一気にお喋りしました。
そんなバブーシュカを見るなり、ベンジャミンは胸に氷柱が刺さったような感覚になりました。
この世で一番大切で可愛い妹に、こんなに悲しい瞳をさせてしまうなんて。
ベンジャミンは集いへの恐怖感など一瞬どこかに忘れてしまい、気がつくと大きな声で叫んでいました。
「僕、集いに行く。 バブーシュカちゃんと一緒に行くよ!」
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