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8 バブーシュカ、ベンジャミンを集いに誘う
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*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
ライラックの花の香りが漂う木陰の下で、バブーシュカとベンジャミンはくつろいでいます。
2匹の身体を太陽の光が木々の隙間から斑に照らしていました。
「ねえ、ベンジャミンお兄ちゃん。最近は天気がいいし、今晩辺り集いがあるかもしれないわね」
バブーシュカは自分のお腹や後ろ足やしっぽをひとしきり毛づくろいした後、ベンジャミンに話しかけました。
ベンジャミンは先ほど中断した昼寝をもう一度始めようと、目をつぶり、顎を右前足の甲に乗せた所でしたが、バブーシュカと話をするために体勢を直し
「そうだね、バブーシュカちゃん。今夜辺りかもしれないね」
と、眠そうな眼をして返事をしました。
「ベンジャミンお兄ちゃん、集いに行くでしょ? あたしと一緒に行きましょうね」
バブーシュカの誘いに、ベンジャミンは小さな声で曖昧な返事をしました。
「う~ん、僕はどうかな、行くかどうか分からないな」
「行った方がいいわよ、ベンジャミンお兄ちゃん。何か大切なお知らせがあるかもしれないし、初めて見る猫が来てたら姿と匂いを覚えておかなくちゃ」
バブーシュカにそう促されても、ベンジャミンは乗り気ではなさそうです。
「う……ん、僕、知らない猫に会うのが苦手なんだよ」
ベンジャミンは社交の場がとても苦手なのです。
自分のしたくないことに関しては頑固なベンジャミンに、バブーシュカは利発そうな瞳をぱっちりと開いて、説得を始めました。
「でもね、お兄ちゃん、『集いには出来るだけ参加するように』って、あたしたちお母さんに良く言われていたでしょう?」
「そうだねえ、お母さんは、良くそう言ってたね」
バブーシュカもベンジャミンも、まだ小さいうちから野良猫母さんに連れられて、集いに通ったものでした。
バブーシュカは説得を続けます。
「ベンジャミンお兄ちゃんは集いで知らない猫に会うのが苦手だって言うけど、道で知らない猫に突然ばったりと会った時って、すごくびっくりするでしょう? あたしはそっちの方が嫌よ」
「うん、僕もあれは嫌だな。僕、背中がゾワッてなるぐらいびっくりしちゃうんだよ」
「だからね、集いでお互いに顔を合わせて匂いを知っておけば、そんなにびっくりしなくて済むのよ」
「そうだね、バブーシュカちゃんの言うとおりだよ。バブーシュカちゃんは良く分かっているよ」
ベンジャミンが感心したようにバブーシュカの意見に納得して見せたので、バブーシュカは、まだベンジャミンから集いに行くかどうかの返事を聞かないうちに半分満足してしまいました。
時折ライラックの香りを運ぶ初夏の柔らかな風が2匹の身体をそっと撫でるように吹き抜けて、2匹を穏やかな心地にさせます。
何回目かの風が吹き抜けた後、ベンジャミンは心を決めたようすで言いました。
「分かったよ、バブーシュカちゃん。僕、夜になって気が向いたら集いに行くよ」
ベンジャミンは、結局の所、集いに行くかどうかはっきりしない返事をしたのですが、バブーシュカは快い返事を受け取ったつもりになり、ご機嫌です。
2匹は再び、毛づくろいや昼寝と、お互い好きなことをして初夏の午後のひとときを過ごしました。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
「もうそろそろ、お夕飯の時間じゃないかしら」
バブーシュカはそう言いましたが、時計の針の位置が頭に浮かんだわけではなく、お腹が減って来たのでした。
「あたし、家に入るわね」
バブーシュカの声に、眠りから呼び戻されたベンジャミンは日がだいぶ傾いてきた事に気付きました。
「うん、バブーシュカちゃん、またね」
「ベンジャミンお兄ちゃんも、たまには家の中でご飯を食べたら?」
「僕は自分の所で食べるよ。あそこが落ち着くんだよ」
『自分の所』というのは、ベンジャミンが寝床にしているタンジェリン家の納屋のことです。
ベンジャミンはタンジェリン家の中に入ったことはありますが、それは探検程度で、バブーシュカのように台所でご飯を食べたり、家の中でお気に入りの場所を見つけて眠ったりすることはありません。
たまに玄関の扉が開いていると、用心しながら中に入り玄関マットの上で休憩することはありますが、寝そべりながら退路を常に見張っていて、その姿はくつろいでいるとは言いがたいものでした。
そんな風なので、毎日ベンジャミンは納屋にご飯が運ばれてくるのを待ち、そこで食事をし、納屋の中で眠ります。
時々バブーシュカが納屋に遊びに来ますが、他の猫は来ません。
出入り口が巧妙に作ってあり、入り方を知っているベンジャミンとバブーシュカにしか通れないようになっているのです。
「それじゃあ、ベンジャミンお兄ちゃん、あたし夜に迎えに行くから集いのこと忘れないでね」
いったん家に向かって進めた歩を止め、振り返って念を押すバブーシュカに、ベンジャミンは目を細めて返事のような合図を送りました。
バブーシュカは玄関の扉の前まで来ると、ちょこんとお座りし、空を見上げて雲がわずかにしか出ていないことを確認しました。
バブーシュカのヒゲがアンテナのようにピーンと張っています。
「今夜は集いにおあつらえ向きの夜になりそうだわ」
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
ライラックの花の香りが漂う木陰の下で、バブーシュカとベンジャミンはくつろいでいます。
2匹の身体を太陽の光が木々の隙間から斑に照らしていました。
「ねえ、ベンジャミンお兄ちゃん。最近は天気がいいし、今晩辺り集いがあるかもしれないわね」
バブーシュカは自分のお腹や後ろ足やしっぽをひとしきり毛づくろいした後、ベンジャミンに話しかけました。
ベンジャミンは先ほど中断した昼寝をもう一度始めようと、目をつぶり、顎を右前足の甲に乗せた所でしたが、バブーシュカと話をするために体勢を直し
「そうだね、バブーシュカちゃん。今夜辺りかもしれないね」
と、眠そうな眼をして返事をしました。
「ベンジャミンお兄ちゃん、集いに行くでしょ? あたしと一緒に行きましょうね」
バブーシュカの誘いに、ベンジャミンは小さな声で曖昧な返事をしました。
「う~ん、僕はどうかな、行くかどうか分からないな」
「行った方がいいわよ、ベンジャミンお兄ちゃん。何か大切なお知らせがあるかもしれないし、初めて見る猫が来てたら姿と匂いを覚えておかなくちゃ」
バブーシュカにそう促されても、ベンジャミンは乗り気ではなさそうです。
「う……ん、僕、知らない猫に会うのが苦手なんだよ」
ベンジャミンは社交の場がとても苦手なのです。
自分のしたくないことに関しては頑固なベンジャミンに、バブーシュカは利発そうな瞳をぱっちりと開いて、説得を始めました。
「でもね、お兄ちゃん、『集いには出来るだけ参加するように』って、あたしたちお母さんに良く言われていたでしょう?」
「そうだねえ、お母さんは、良くそう言ってたね」
バブーシュカもベンジャミンも、まだ小さいうちから野良猫母さんに連れられて、集いに通ったものでした。
バブーシュカは説得を続けます。
「ベンジャミンお兄ちゃんは集いで知らない猫に会うのが苦手だって言うけど、道で知らない猫に突然ばったりと会った時って、すごくびっくりするでしょう? あたしはそっちの方が嫌よ」
「うん、僕もあれは嫌だな。僕、背中がゾワッてなるぐらいびっくりしちゃうんだよ」
「だからね、集いでお互いに顔を合わせて匂いを知っておけば、そんなにびっくりしなくて済むのよ」
「そうだね、バブーシュカちゃんの言うとおりだよ。バブーシュカちゃんは良く分かっているよ」
ベンジャミンが感心したようにバブーシュカの意見に納得して見せたので、バブーシュカは、まだベンジャミンから集いに行くかどうかの返事を聞かないうちに半分満足してしまいました。
時折ライラックの香りを運ぶ初夏の柔らかな風が2匹の身体をそっと撫でるように吹き抜けて、2匹を穏やかな心地にさせます。
何回目かの風が吹き抜けた後、ベンジャミンは心を決めたようすで言いました。
「分かったよ、バブーシュカちゃん。僕、夜になって気が向いたら集いに行くよ」
ベンジャミンは、結局の所、集いに行くかどうかはっきりしない返事をしたのですが、バブーシュカは快い返事を受け取ったつもりになり、ご機嫌です。
2匹は再び、毛づくろいや昼寝と、お互い好きなことをして初夏の午後のひとときを過ごしました。
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「もうそろそろ、お夕飯の時間じゃないかしら」
バブーシュカはそう言いましたが、時計の針の位置が頭に浮かんだわけではなく、お腹が減って来たのでした。
「あたし、家に入るわね」
バブーシュカの声に、眠りから呼び戻されたベンジャミンは日がだいぶ傾いてきた事に気付きました。
「うん、バブーシュカちゃん、またね」
「ベンジャミンお兄ちゃんも、たまには家の中でご飯を食べたら?」
「僕は自分の所で食べるよ。あそこが落ち着くんだよ」
『自分の所』というのは、ベンジャミンが寝床にしているタンジェリン家の納屋のことです。
ベンジャミンはタンジェリン家の中に入ったことはありますが、それは探検程度で、バブーシュカのように台所でご飯を食べたり、家の中でお気に入りの場所を見つけて眠ったりすることはありません。
たまに玄関の扉が開いていると、用心しながら中に入り玄関マットの上で休憩することはありますが、寝そべりながら退路を常に見張っていて、その姿はくつろいでいるとは言いがたいものでした。
そんな風なので、毎日ベンジャミンは納屋にご飯が運ばれてくるのを待ち、そこで食事をし、納屋の中で眠ります。
時々バブーシュカが納屋に遊びに来ますが、他の猫は来ません。
出入り口が巧妙に作ってあり、入り方を知っているベンジャミンとバブーシュカにしか通れないようになっているのです。
「それじゃあ、ベンジャミンお兄ちゃん、あたし夜に迎えに行くから集いのこと忘れないでね」
いったん家に向かって進めた歩を止め、振り返って念を押すバブーシュカに、ベンジャミンは目を細めて返事のような合図を送りました。
バブーシュカは玄関の扉の前まで来ると、ちょこんとお座りし、空を見上げて雲がわずかにしか出ていないことを確認しました。
バブーシュカのヒゲがアンテナのようにピーンと張っています。
「今夜は集いにおあつらえ向きの夜になりそうだわ」
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