猫のバブーシュカ~しましましっぽ彗星の夜に~

catpaw

文字の大きさ
上 下
5 / 13

5 バブーシュカとベンジャミン ~2匹の生い立ち(3)~

しおりを挟む
 
 
 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


人間の子供たちの声と大人の低い声は、交互に聞こえて来ます。


「あっ、先生だ!こっちこっち」


「皆、子猫達をこのバスケットに入れなさい」


「え~、やだ、抱っこして持って帰りたいの」


「だめだ、車の多い道で逃げたら危ないだろう」


「先生、誰がどの子をもらうか、もう決めたよ」


「皆、お父さんやお母さんに猫を飼ってもいいかどうか聞いたかい? 」


「僕とトムとルーシーはOKをもらったよ。アリスは怪しいもんだね」


「では、アリスはOKをもらってからだね。とにかく、子猫達は皆いったん、うちの病院に連れて帰るよ。病気や怪我が無いかを調べるんだ」


「先生、この奥にも、あと2匹子猫がいるんだ」


「白くてちっちゃい方がルーシーの手をを引っ掻いたのよ」


「アリス、私は引っ掻かれていないわよ。軽く叩かれただけよ」


「白い方が、すごくすばしっこいんだよ」


バブーシュカとベンジャミンは固唾かたずを呑んで人間たちのやり取りする声に耳を澄ましていました。

ーー人間の言葉の意味は理解できませんでしたがーー


「ふむう…、これは狭いな。どうしたもんか」


「この木箱を僕とトムで押して、だいぶ広がったんだよ。あともう少し押せば行けるよ」


「それはだめだ。上を見てごらん、これ以上押したら積んである木箱が崩れ落ちるかもしれない」


「ほんとうだ……」


『先生』と呼ばれる人間の大人の言うとおり、雑に積み上げられた大きな木箱は、バランスを崩しかけていました。


「この倉庫は危ないな。管理者不明で放置されているんだ。役所に連絡しておこう」


低い声の人間がもう一度隙間を覗き込んで2匹を確認したあと、ぱっとその場を離れました。

 
「この脅えようでは、素直には出てこないだろう。また来て、エサで釣るか、それでだめなら罠をしかけて捕獲ほかくするよ」


「お母さん猫も罠で捕まえるんでしょう?」


「ああ。 あの母猫は賢いから捕まえるのに苦労しそうだな」


「先生、お母さん猫を子猫と一緒に飼ってもいいよね。 うちのお父さんが『お母さん猫も飼ってもいいよ』って」


「それはいい。 ジミーのお父さんは猫が好きなんだね」


「うん、お母さんも猫が好きだよ」


「さあ、行こう。 もう、ここには子供達だけで来てはいけないよーーーー」


大人の低い声と子供たちの声は少しずつ小さくなり、数人の人間達の足音が遠ざかって行きます。




 バブーシュカとベンジャミンは、周囲が静寂に包まれた後も、隠れている場所から動きませんでした。

これまでずっとお母さん猫に守られながら生きて来て、初めて恐い経験をしたものですから、緊張が解けるのに時間が掛かったのです。


意外なことに、ベンジャミンの方がバブーシュカより先に動き出しました。

バブーシュカがその後に続き、2匹は静かになった住処すみかの匂いを嗅ぎまわりました。

数人の人間と、お母さんと、いなくなった子猫達の匂い。










バブーシュカとベンジャミンは、やっと声を出しました。




お母さんと、いなくなってしまった子猫達を呼ぶ声です。







がらんとした住処すみかに、2匹の鳴き声だけがいつまでも響き渡りました。










 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゆうれいのぼく

早乙女純章
児童書・童話
ぼくはゆうれいになっていた。 ゆうれいになる前が何だったのか分からない。 ぼくが帰れる場所を探してみよう。きっと自分が何だったのかを思い出して、なりたい自分になれそうな気がする。 ぼくはいろいろなものに憑依していって、みんなを喜ばせていく。 でも、結局、ゆうれいの自分に戻ってしまう。 ついには、空で同じゆうれいたちを見つけるけれど、そこもぼくの本当の居場所ではなかった。 ゆうれいはどんどん増えていっていく。なんと『あくのぐんだん』が人間をゆうれいにしていたのだ。 ※この作品は、レトロアーケードゲーム『ファンタズム』から影響を受けて創作しました。いわゆる参考文献みたいな感じです。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

エプロンパンダのおめがね屋

ヒノモト テルヲ
児童書・童話
目黒山の中ほどにできた「おめがね屋」というメガネ屋さんのお話。エプロン姿のパンダ店主と子供パンダのコパンの二人が、手作りでちょっと変わったメガネを売っています。店主がエプロンのポケットに手を入れてパンダネを作り、それをオーブンに入れて三分立てばお客様のご希望に合わせた、おめがねにかなったメガネの出来上がりです。

バロン

Ham
児童書・童話
広大な平野が続き 川と川に挟まれる 農村地帯の小さな町。 そこに暮らす 聴力にハンデのある ひとりの少年と 地域猫と呼ばれる 一匹の猫との出会いと 日々の物語。

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...