猫のバブーシュカ~しましましっぽ彗星の夜に~

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4 バブーシュカとベンジャミン ~2匹の生い立ち(2)~

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 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

 
 6匹の子猫達は一緒にすくすくと育っていました。

しかし、ある日お母さん猫が食べ物を探しに行き、子猫達だけで留守番をしていた時に事件は起こったのです。


安全なはずの場所に、人間の子供が何人かぞろぞろと入ってきました。

子猫達は皆、びっくりしすぎて声も出ません。

人間の子供達の方は、小さく愛らしい子猫達を目の前にして大はしゃぎです。


「ほらね、たくさん居るでしょう! 昨日ここにいるのを見つけたんだから」


「いちにいさん…、5匹もいる。うわあ、可愛い!」


「私、この子が飼いたいわ」


「僕はこの子をもらう」


人間の子供は、バブーシュカのお兄ちゃんやお姉ちゃんを次々と抱き上げました。

日頃、人間に対する威嚇いかく防御ぼうぎょをお母さんからたっぷりと教え込まれていた子猫達でしたが、いざとなると恐怖で身体がすくんでしまい、皆人間の子供達に抱っこされるがままになっています。



「私はこっちの一番おチビちゃんにするわ」


人間の子供の手がバブーシュカの方に伸びてきたので、バブーシュカはさっと後ろに身を引きました。


「ハーッ!!」


威嚇の声も上手く出せて、バブーシュカを掴もうとした女の子をちょっと驚かせました。


「この子、怒っているみたい。触られるのが嫌なのかしら」


女の子がもう一度バブーシュカの方に手を伸ばしたその時、バブーシュカは前足でその手をめがけてパンチを繰り出しました。

初めての実戦でしたので、爪は上手く出せませんでしたが、パンチは女の子の手の甲に当たりました。


「だめだわ。この子は触らせてくれないわ」


残念そうにつぶやく女の子に、男の子が代わりの猫を見つけてあげようと思い、辺りを見回しました。


「あのすみっこに灰色の猫が居る! 見てみなよ、あの子猫もフワフワで可愛いよ」


「本当だ! 全部で6匹だったのね」


人間の子供が入ってきた時に、あわてて隅っこの方へ逃げて震えていたベンジャミンが男の子に見つかったのです。

男の子の手がベンジャミンの方に向かって来ましたが、腰を抜かしたベンジャミンは、もう一歩も動く事が出来ませんでした。


ベンジャミンが男の子に捕らえられそうになったその瞬間。


バブーシュカはすばやくベンジャミンのもとへ駆け寄り、ベンジャミンの首の後ろをくわえ引っぱって、近くに置いてあった大きな木箱と壁の隙間に逃げ込みました。


「奥の方に逃げちゃったわ」


隙間の奥の方では、バブーシュカとベンジャミンが身を寄せ合ってじっとしていました。


「この木箱を押して隙間を広げよう。おいトム、手伝えよ」


「よいしょ、……これ重たいよ、ジミー、無理だよう」


「『せーの』で一緒に力を入れるんだ! せーの!! 」


ズッ、ズズッ


物音と共に、壁と木箱の隙間がほんの少しだけ広がりました。

バブーシュカとベンジャミンは2匹とも、恐ろしさで毛が逆立ち、身体が硬直しています。


「これで届くかな」


隙間から見える光を覆い隠すようにして、人間の子供の手のひらがにゅっと伸びてきました。

バブーシュカとベンジャミンの鼻先に、その手の指が触れそうになった時、人間の大人の低い声がしました。





「こいつは上手いこと良い隠れ家を見つけたもんだな」





 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

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