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2 猫の女の子バブーシュカ
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花と緑がいきいきと輝く季節を迎えたセント・ポピー村。
ガーデニング好きの人が多いこの村では、皆競うように庭の手入れに励んでいます。
タンジェリン家の庭もなかなか見事なもので、タンジェリン夫妻が力を合わせて作った石積みの花壇には、デイジーやアイリス・スイセン・チューリップにブルーベルと色とりどりの花々が咲き、楽しそうに初夏の風に揺れています。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
そこへ1匹の小柄な猫がやってきて、デイジーの花と並んでちょこんと座りました。
おおかた白地で、耳や背中やしっぽに焦げ茶色から明るい茶色のポイントカラーが付いていて、ポイントカラーの中に時々縞模様が入っている短毛種。
その小柄な猫はバブーシュカという名前で、まだあどけなさの残る女の子です。
何かを薄緑の目で追いながら、静かにしています。
どうやら、花壇の近くで舞う蝶を捕まえようとしているようです。
抜き足差し足で少しずつ蝶に近づくバブーシュカ……。
蝶が下の方へ降りてきた瞬間に、バブーシュカは大きくジャンプしました!
自分の身長の2倍以上は飛んだのですから、たいしたものです。
でもバブーシュカが振り上げた両腕の間を、蝶はふわりとすりぬけて飛んでいってしまいました。
再びデイジーの花のそばでお座りするバブーシュカ。
ちらちらと周りを見ているのは、狩りに失敗したのを誰かに見られてないか確かめているのです。
その時、バブーシュカはライラックの木陰で寝そべっている灰色の猫を見つけました。
「あら、あれはベンジャミンお兄ちゃんかしら」
ベンジャミンは薄く縞の入った灰色の猫で、短毛種ですがやや毛足が長いため実際より大柄に見えます。
バブーシュカの居る場所から少し遠いのでぼんやりとしか見えませんが、きっとベンジャミンであろう、とバブーシュカは小走りで近づいて行きました。
しかし、用心するのも忘れません。
バブーシュカは好奇心が強いけど、とても慎重な猫なのです。
灰色の猫の輪郭がはっきりする所まで近づくと、バブーシュカはクンクンと鼻を利かせました。
ライラックの花の香りと共にベンジャミンお兄ちゃんの匂いも確認できたので、バブーシュカは一気に走る速度を上げました。
「ベンジャミンお兄ちゃん!」
聞きなれた可愛い声に、うたたねしていたベンジャミンはハッと目を覚ましましたが、次の瞬間頬の辺りに何かがぶつかるのを感じました。
バブーシュカがベンジャミンに頭で擦り寄る挨拶をしたのですが、駆け寄ってきた勢いでだいぶ力の入った挨拶になってしまったのです。
大好きなベンジャミンお兄ちゃんに会えたのが嬉しくて、バブーシュカは夢中になって挨拶を繰り返します。
ごつんごつん、とバブーシュカの頭が様々な方向からベンジャミンの顔に当たるものですから、ベンジャミンの顔は上下・左右に揺れました。
「バブーシュカちゃん、もう挨拶はじゅうぶんだよ。僕、頭がぼーっとする……」
ベンジャミンはやっとのことで声を出しました。
「ベンジャミンお兄ちゃん、寝起きだものね」
『違うよ、バブーシュカが強くぶつかってきたせいだよ』
なんて、ベンジャミンは文句を言いません。
バブーシュカの思い違いは気にせずに、のんびりとあくびをしただけです。
ベンジャミンはおとなしくて優しい猫なのです。
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