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闇の魔力の餌食となるがよい!
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話が行ったり来たりしているので整理すると、
時系列としては、
①晩餐会前の顔合わせで、カトリアーナがジーク王子に闇の魔力を発動した
(この時点で魅了スキルの効果は不明)
↓
②その後の晩餐会ではジークがカトリアーナに魅了された様子は見られなかった
(魅了スキルが無効だった、という疑いが生じた)
↓
③バルコニーにジークがいた
(ジーク→(LOVE)→カストル兄様の可能性???)
↓
④眼鏡でジークの心を読んだ
(ジーク→(LOVE)→カストル兄様=確定)
↓
⑤ジークがカストル兄様目当てで来訪するようになった←今ココ!!
ということになる。
とにもかくにも、ジークが私に魅了されていないということは、カトリアーナ(私)の闇の魔法は不発だったということだ。そして、ジークが闇の虜になっていないということは、ジークが真の主人公によって闇から解放され、私を斬殺する結末は、もはや無くなった、ということになる。つまり、私の悲惨な結末の中でも、最悪のルートを回避できたことが確定したわけで、非常に目出度い。とてもめでたい。いや、それは本当にめでたくて、それはそれでいいんだけど、ここでやはり「なぜ回避できたのか?」について、しっかり考えておきたい。だって他にも回避すべきルートが沢山(というか全部)あるんだから。斬殺エンドを回避できた理由を明らかにしておけば、きっと他の悲惨な結末を回避するためのヒントになるはず。
まず考えるべきは、「なぜ、カトリアーナの闇の魔法が不発に終わったか」ということよね。闇の魔法は発動していた。そして、その魔力は確実にジークを捉えていた。本来なら、闇の魔力に取り込まれた者は、闇に魅了され、闇の虜として操られることになる。それがカトリアーナの闇の魔力の一端である『魅了』のスキル。だけど、ジークはカトリアーナ(私)に魅了されていない。つまり、カトリアーナの闇の魔力は、ジークを捉えはしたが、完全に取り込むことはできなかった、ということだ。そういう意味では、”不発”っていう言い方はちょっと正確ではない。発動したけど、命中しなかったというか、ベクトルの方向から外れたというか・・・まぁ異世界転生モノの魔法の理屈に厳密性を要求しても意味ないわね。どうせ、制作スタッフもそこまで考えてるわけないし。とにかく、闇の魔力は発動はしたけど、今のところその効果は発生していない、ということについては多分、間違いないと思う。
そして、その原因はやはり・・・
「カストル兄様かなぁ」
「どうかしましたか?カトリアーナ。」
カストル兄様が、優しい笑顔を私に向けて尋ねる。しまった。考えていることがつい言葉に出てしまった。私は慌てて口を抑えて口篭る。
「あ、いえ、なんでもないです・・・。」
気恥ずかしさに顔を赤らめ肩をすくめた私を、カストル兄様がからかう。
「最近、少しヘンですよ。もしかして、ジーク様が足繁く我が家に通ってくださるのが、そんなに嬉しいのですか?」
いや、それ勘違い。私としては、何かの拍子にまた闇の魔法が発動して、せっかく消えた斬殺エンドが復活するようなことになると困るので、ジークとは極力距離をおきたい。むしろ近寄られると余計な気苦労が増えて迷惑だ。ただ、家族に直接的にそれを伝えることはできないし、かと言って私が喜んでいると思われると、家族の面々はこれを好機とばかりにジークの来訪をけしかけるようなことをするに違いない。ここは、どうにかして「私にその気はない」ということを印象付けなくては。
「まぁ、だったらカストル兄様のお名前は呼びませんわ。」
「ははは、確かに、ジーク様のことを思って、私の名が口から出るとは考えにくい。君は本当にロジカルで賢いね、カトリアーナ。」
カストル兄様は私の言うことを、いつも面白がって笑ってくれる。そして、今のように、私を少しからかって遊ぶ。私はからかわれているフリをしているのだが、カストル兄様はそこまで見越して、私とのやりとり自体を楽しんでいるようにも見受けられる。私も、カストル兄様とこうして言葉でじゃれあうことは楽しいし、からかわれても悪い気はしない。
「もう。からかわないでくださいます?」
私は口を尖らせて拗ねるように言った。転生前の価値観が残っているので、なんだかカマトトぶってるみたいに感じるけど、せっかく転生したんだし、今くらいは伯爵令嬢になりきってもいいでしょ?そして、わたしの感覚的には少しワザとらしくてアザトいと思える仕草でも、カストル兄様は自然に受けとめてくれる。
「からかってはいません。本心ですよ。」
「ウソばっかり。」
私は、少し怒ったふりをしてプイっと横を向いた。正直、自身が転生者であることに気づいてから、”カトリアーナを外側から見る第三者”としての自分が私自身の中に生まれてしまい、カトリアーナにとっての嬉しいこと、楽しいことがあっても、どこか私ではない別の人の事、他人事になってしまったような感覚がある。しかし、カストル兄様と話しているときだけは、私は”転生者である私”ではなく、”カトリアーナ=ヴィトン”その人でいられる。だから、楽しいことは心から楽しく感じられるし、嬉しいことも本当に嬉しい。こうしてカストル兄様と話しているこの時間が、今の私にとっていちばんの幸せなのだ。幸せ気分を隠すように横を向いた私を見たカストル兄様は、クスリと笑って言葉を続ける。
「そういう可愛らしさも併せもっているところが君の魅力ですね、カトリアーナ。ジーク様が君に夢中になるのも無理はない。」
うーん、でもそれ、ちょっと違うのよね。特に後段が違ってて、さらにそこには二重の誤りがあるんだな。まず第一に、ジークは私のことなんて一切眼中に無いの。そして第二に、ジークが夢中になっているのはカストル兄様、あなたなの。
「ジーク様はとても素晴らしい青年です。私としては、君のような素敵な妹を他の誰かにとられてしまうのは、本当に辛く、悔しく、耐え難い。しかし、彼が相手ならそれも止むを得ないと思えます。」
私の気持ちをジークに振り向けようと彼に対する賛辞を並べるカストル兄様。兄様は、まさかジークが自分に思いを寄せているなどとは露程も思っていない。そりゃそうよね。男同士だもの。普通はそんなこと思いもしないわ。メイドたちの話によると、カストル兄様は私がいないとき、私を賛美する言葉をジークに対してあれこれと吹き込んでいるらしい。でもこれって、ジークにとっては少し切ない話よね。思いを寄せている男性が、自分のことには目もくれずに、その妹との婚約を勧めてくる・・・私の胸もなんだか痛むわ。
さて、そんなカストル兄様も、『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』における、真の主人公の攻略対象キャラだ。カストルルートでの私の立ち位置はと言えば、兄のカストルを闇の魔法で操って、真の主人公を暗殺しようと企む、すがすがしいまでの悪役ポジション。その上、全ての罪をカストルに擦りつけ、挙句の果てにカストルを殺して、自分は正義の味方を装うというオマケ付き。自分で言うのもなんだけど、本当にロクでもないわねカトリアーナ・・・どうしたらそんなコに育っちゃうの?なお、そのカストルルートのハッピーエンドは、真の主人公の能力によって、カストルにかけられていた闇の魔力が解けて暗殺計画が露見。カトリアーナは死刑を言い渡されるものの、カストルの嘆願に免じて罪を猶予され、辺境へと追放。まぁ、生き残るだけマシといえばマシだけど、全力で避けたいルートであることに変わりはない。
そして、非常に困ったことに、今わたしはそのカストルルート(の追放エンド)に向かう流れへと足を踏み入れつつある。
カストルはヴィトン家の長男であり跡取り、つまり次期伯爵だ。常にそのための英才教育を受けており多忙であると同時に、普段は必ず誰かがそばに付き従っている。カトリアーナですら、カストルと完全に2人きりになることは稀だ。これでは闇の魔力をかける隙がない。そこでカトリアーナは一計を案じる。既に自身の虜となっているジーク王子を利用して、カストルとカトリアーナの兄妹を王家の別荘へと招待させ、カストルが余人から隔離されたところで、カトリアーナが闇の魔法をかける、という計画だ。これは本編では描写されていない。カストルルートの回想シーンにもない。確か、公式設定集(3560円・税込)に裏設定として書かれていたと思う。え?値段がしつこい?あのね、『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』の公式グッズってどれをとってもすっっっごく高いのよ。おのれ公式め、足元見やがって!
・・・まぁそれは置いといて、そうやって、王家の別荘でカストルに闇の魔法をかけることが、その後のカストルルートが成立する前提になっている。そして今、私はカストル兄様と共に馬車に揺られ、ジークの招きに応じて王家の別荘へと向かっている、というわけだ。
———さて、おわかり頂けたであろうか?いつもこれ!これなの!!私は、ゲームで予定されているルートに入らないように、必死であの手この手を尽くすんだけど、ある時点に達すると、なぜかゲームのストーリーに沿うように、そのイベントが発生してしまう。私はジークに何の命令もしてないし、そもそもジークは私に魅了されてない。だから、ジークが王家の別荘に私たちを招待するはずがない。だけど、次の闇の魔法の発動イベントが予定されているタイミングに合わせるように、ジークはしっかり招待状を送りつけてきた。一体どうして?当然断ったわよ。それもかなり頑強に。大体、招待状なんか出してこなくても、ジークは頻繁に我が家をたずねてくる。だからその時、面と向かって突っぱねた。しかし、ジークはどこ吹く風で、我が家に来るたびに、私とカストル兄様をセットで別荘へ招こうとするし、さらに、それとは別に、毎日のようにしつこく招待状を送ってくる。招きに応じて、別荘に行けば終わりだ。とにかく私はジークからの招待を拒絶した。徹底的に抵抗した。しかし、周囲がそれを許さない。伯爵夫妻、つまり両親はジークと私の婚約話を進めたがっているので、この機を逃すなと言わんばかり。メイドや使用人たちは揃いも揃ってあなめでたしとお祝いの言葉を述べるうえ、カストル兄様に至っては、
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ、カトリアーナ。今回は私も一緒ですから。でも、そんな照れ屋さんなところも、本当に愛らしいですね(ウインク)。」
などと言いだす始末だ。優しくて大好きな兄様だけど、流石にこの時だけは殺意を覚えたわ。あのね、別荘に行ったら私は辺境へ追放されるの。兄様は闇の魔法の餌食なの!私だけじゃなくて、あんたのためでもあるのよ?わかってんの!?・・・とはいえ、そんなことを言えるはずもなく、結局私は家族一同から丸め込まれて、王家の別荘へとむかうことになってしまった。そう、何度も言うが、重要イベントではいつもこうだ。私の意思とは関わりなく、ストーリーは一本道で進行していく。
(つづく)
時系列としては、
①晩餐会前の顔合わせで、カトリアーナがジーク王子に闇の魔力を発動した
(この時点で魅了スキルの効果は不明)
↓
②その後の晩餐会ではジークがカトリアーナに魅了された様子は見られなかった
(魅了スキルが無効だった、という疑いが生じた)
↓
③バルコニーにジークがいた
(ジーク→(LOVE)→カストル兄様の可能性???)
↓
④眼鏡でジークの心を読んだ
(ジーク→(LOVE)→カストル兄様=確定)
↓
⑤ジークがカストル兄様目当てで来訪するようになった←今ココ!!
ということになる。
とにもかくにも、ジークが私に魅了されていないということは、カトリアーナ(私)の闇の魔法は不発だったということだ。そして、ジークが闇の虜になっていないということは、ジークが真の主人公によって闇から解放され、私を斬殺する結末は、もはや無くなった、ということになる。つまり、私の悲惨な結末の中でも、最悪のルートを回避できたことが確定したわけで、非常に目出度い。とてもめでたい。いや、それは本当にめでたくて、それはそれでいいんだけど、ここでやはり「なぜ回避できたのか?」について、しっかり考えておきたい。だって他にも回避すべきルートが沢山(というか全部)あるんだから。斬殺エンドを回避できた理由を明らかにしておけば、きっと他の悲惨な結末を回避するためのヒントになるはず。
まず考えるべきは、「なぜ、カトリアーナの闇の魔法が不発に終わったか」ということよね。闇の魔法は発動していた。そして、その魔力は確実にジークを捉えていた。本来なら、闇の魔力に取り込まれた者は、闇に魅了され、闇の虜として操られることになる。それがカトリアーナの闇の魔力の一端である『魅了』のスキル。だけど、ジークはカトリアーナ(私)に魅了されていない。つまり、カトリアーナの闇の魔力は、ジークを捉えはしたが、完全に取り込むことはできなかった、ということだ。そういう意味では、”不発”っていう言い方はちょっと正確ではない。発動したけど、命中しなかったというか、ベクトルの方向から外れたというか・・・まぁ異世界転生モノの魔法の理屈に厳密性を要求しても意味ないわね。どうせ、制作スタッフもそこまで考えてるわけないし。とにかく、闇の魔力は発動はしたけど、今のところその効果は発生していない、ということについては多分、間違いないと思う。
そして、その原因はやはり・・・
「カストル兄様かなぁ」
「どうかしましたか?カトリアーナ。」
カストル兄様が、優しい笑顔を私に向けて尋ねる。しまった。考えていることがつい言葉に出てしまった。私は慌てて口を抑えて口篭る。
「あ、いえ、なんでもないです・・・。」
気恥ずかしさに顔を赤らめ肩をすくめた私を、カストル兄様がからかう。
「最近、少しヘンですよ。もしかして、ジーク様が足繁く我が家に通ってくださるのが、そんなに嬉しいのですか?」
いや、それ勘違い。私としては、何かの拍子にまた闇の魔法が発動して、せっかく消えた斬殺エンドが復活するようなことになると困るので、ジークとは極力距離をおきたい。むしろ近寄られると余計な気苦労が増えて迷惑だ。ただ、家族に直接的にそれを伝えることはできないし、かと言って私が喜んでいると思われると、家族の面々はこれを好機とばかりにジークの来訪をけしかけるようなことをするに違いない。ここは、どうにかして「私にその気はない」ということを印象付けなくては。
「まぁ、だったらカストル兄様のお名前は呼びませんわ。」
「ははは、確かに、ジーク様のことを思って、私の名が口から出るとは考えにくい。君は本当にロジカルで賢いね、カトリアーナ。」
カストル兄様は私の言うことを、いつも面白がって笑ってくれる。そして、今のように、私を少しからかって遊ぶ。私はからかわれているフリをしているのだが、カストル兄様はそこまで見越して、私とのやりとり自体を楽しんでいるようにも見受けられる。私も、カストル兄様とこうして言葉でじゃれあうことは楽しいし、からかわれても悪い気はしない。
「もう。からかわないでくださいます?」
私は口を尖らせて拗ねるように言った。転生前の価値観が残っているので、なんだかカマトトぶってるみたいに感じるけど、せっかく転生したんだし、今くらいは伯爵令嬢になりきってもいいでしょ?そして、わたしの感覚的には少しワザとらしくてアザトいと思える仕草でも、カストル兄様は自然に受けとめてくれる。
「からかってはいません。本心ですよ。」
「ウソばっかり。」
私は、少し怒ったふりをしてプイっと横を向いた。正直、自身が転生者であることに気づいてから、”カトリアーナを外側から見る第三者”としての自分が私自身の中に生まれてしまい、カトリアーナにとっての嬉しいこと、楽しいことがあっても、どこか私ではない別の人の事、他人事になってしまったような感覚がある。しかし、カストル兄様と話しているときだけは、私は”転生者である私”ではなく、”カトリアーナ=ヴィトン”その人でいられる。だから、楽しいことは心から楽しく感じられるし、嬉しいことも本当に嬉しい。こうしてカストル兄様と話しているこの時間が、今の私にとっていちばんの幸せなのだ。幸せ気分を隠すように横を向いた私を見たカストル兄様は、クスリと笑って言葉を続ける。
「そういう可愛らしさも併せもっているところが君の魅力ですね、カトリアーナ。ジーク様が君に夢中になるのも無理はない。」
うーん、でもそれ、ちょっと違うのよね。特に後段が違ってて、さらにそこには二重の誤りがあるんだな。まず第一に、ジークは私のことなんて一切眼中に無いの。そして第二に、ジークが夢中になっているのはカストル兄様、あなたなの。
「ジーク様はとても素晴らしい青年です。私としては、君のような素敵な妹を他の誰かにとられてしまうのは、本当に辛く、悔しく、耐え難い。しかし、彼が相手ならそれも止むを得ないと思えます。」
私の気持ちをジークに振り向けようと彼に対する賛辞を並べるカストル兄様。兄様は、まさかジークが自分に思いを寄せているなどとは露程も思っていない。そりゃそうよね。男同士だもの。普通はそんなこと思いもしないわ。メイドたちの話によると、カストル兄様は私がいないとき、私を賛美する言葉をジークに対してあれこれと吹き込んでいるらしい。でもこれって、ジークにとっては少し切ない話よね。思いを寄せている男性が、自分のことには目もくれずに、その妹との婚約を勧めてくる・・・私の胸もなんだか痛むわ。
さて、そんなカストル兄様も、『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』における、真の主人公の攻略対象キャラだ。カストルルートでの私の立ち位置はと言えば、兄のカストルを闇の魔法で操って、真の主人公を暗殺しようと企む、すがすがしいまでの悪役ポジション。その上、全ての罪をカストルに擦りつけ、挙句の果てにカストルを殺して、自分は正義の味方を装うというオマケ付き。自分で言うのもなんだけど、本当にロクでもないわねカトリアーナ・・・どうしたらそんなコに育っちゃうの?なお、そのカストルルートのハッピーエンドは、真の主人公の能力によって、カストルにかけられていた闇の魔力が解けて暗殺計画が露見。カトリアーナは死刑を言い渡されるものの、カストルの嘆願に免じて罪を猶予され、辺境へと追放。まぁ、生き残るだけマシといえばマシだけど、全力で避けたいルートであることに変わりはない。
そして、非常に困ったことに、今わたしはそのカストルルート(の追放エンド)に向かう流れへと足を踏み入れつつある。
カストルはヴィトン家の長男であり跡取り、つまり次期伯爵だ。常にそのための英才教育を受けており多忙であると同時に、普段は必ず誰かがそばに付き従っている。カトリアーナですら、カストルと完全に2人きりになることは稀だ。これでは闇の魔力をかける隙がない。そこでカトリアーナは一計を案じる。既に自身の虜となっているジーク王子を利用して、カストルとカトリアーナの兄妹を王家の別荘へと招待させ、カストルが余人から隔離されたところで、カトリアーナが闇の魔法をかける、という計画だ。これは本編では描写されていない。カストルルートの回想シーンにもない。確か、公式設定集(3560円・税込)に裏設定として書かれていたと思う。え?値段がしつこい?あのね、『没落貴族の令嬢ですが、婚約破棄した第7王子と氷の貴公子と呼ばれる次期公爵がなぜか溺愛してきますっっっTHE GAME』の公式グッズってどれをとってもすっっっごく高いのよ。おのれ公式め、足元見やがって!
・・・まぁそれは置いといて、そうやって、王家の別荘でカストルに闇の魔法をかけることが、その後のカストルルートが成立する前提になっている。そして今、私はカストル兄様と共に馬車に揺られ、ジークの招きに応じて王家の別荘へと向かっている、というわけだ。
———さて、おわかり頂けたであろうか?いつもこれ!これなの!!私は、ゲームで予定されているルートに入らないように、必死であの手この手を尽くすんだけど、ある時点に達すると、なぜかゲームのストーリーに沿うように、そのイベントが発生してしまう。私はジークに何の命令もしてないし、そもそもジークは私に魅了されてない。だから、ジークが王家の別荘に私たちを招待するはずがない。だけど、次の闇の魔法の発動イベントが予定されているタイミングに合わせるように、ジークはしっかり招待状を送りつけてきた。一体どうして?当然断ったわよ。それもかなり頑強に。大体、招待状なんか出してこなくても、ジークは頻繁に我が家をたずねてくる。だからその時、面と向かって突っぱねた。しかし、ジークはどこ吹く風で、我が家に来るたびに、私とカストル兄様をセットで別荘へ招こうとするし、さらに、それとは別に、毎日のようにしつこく招待状を送ってくる。招きに応じて、別荘に行けば終わりだ。とにかく私はジークからの招待を拒絶した。徹底的に抵抗した。しかし、周囲がそれを許さない。伯爵夫妻、つまり両親はジークと私の婚約話を進めたがっているので、この機を逃すなと言わんばかり。メイドや使用人たちは揃いも揃ってあなめでたしとお祝いの言葉を述べるうえ、カストル兄様に至っては、
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ、カトリアーナ。今回は私も一緒ですから。でも、そんな照れ屋さんなところも、本当に愛らしいですね(ウインク)。」
などと言いだす始末だ。優しくて大好きな兄様だけど、流石にこの時だけは殺意を覚えたわ。あのね、別荘に行ったら私は辺境へ追放されるの。兄様は闇の魔法の餌食なの!私だけじゃなくて、あんたのためでもあるのよ?わかってんの!?・・・とはいえ、そんなことを言えるはずもなく、結局私は家族一同から丸め込まれて、王家の別荘へとむかうことになってしまった。そう、何度も言うが、重要イベントではいつもこうだ。私の意思とは関わりなく、ストーリーは一本道で進行していく。
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