水晶神代紀

序章：水晶巡礼

ある書物より

水晶より放たれる恵みは、

大気や海や大地の底、

生けるものと死せるもの

見えるもの、見えざるもの

万物の内から外へ至るまで全てをあまねく満たしています



恵みそのものは実体をもちません

ですから人は、水晶の恵みに手を触れることはおろか、

その其処に在ることを感じることすらできません



しかし、恵みは折に触れ

火や水のような触れ得るもの、

雷や風のような触れ得ずとも感じ得るものへと

姿かたちを変えて、私たちの眼前に顕れます



恵みの姿かたちを変える力あらば

それらは時に、灯火として人を暖め

また時に、雨水として人を潤すでしょう

しかしそれらはまた時に、雷や嵐として人々に災いをもたらすかもしれません



魔法とは、そのような力のことを謂います



（中略）



魔法は誰もが用いることのできるものではありません

水晶の加護を受け

水晶の理を知る者のみが

水晶へと祈りを捧げ

水晶より赦しを得たとき

水晶の恵みをその者の望むかたちへと変化せしめ

水晶の大いなる力を其処に顕かにします



すなわちその者、

水晶の加護を受け

水晶の理に則り

水晶の大いなる力を示すべき者

その者を、人は魔法使いと呼びます




———『初等魔法理論』（コレ＝カトコス＝エーリスフォリス著・年代不詳）より