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 翌朝。薄青い夜明けの空を見あげながら、透子と紅霞、二人一緒に家を出た。
 まだ誰もいない道を歩いていく。
 朝食はまだ食べていないので、街で弁当を調達する予定だった。
 ちなみに透子は今朝は、紅霞の母親の旅装を借りていた。
 紅霞が《朱雀》を使役できるようになったので、透子が《無印》と知られても彼が透子を守れる。なので、男装はもう必要ない、というのが紅霞の意見だった。

「考えたら…………もう街を出る必要はあるのか? 《朱雀》を使役できるなら、花麗を気にする必要はないんじゃ…………」

 今頃、気づいたように訊ねてきた紅霞に、透子は複雑な表情を見せる。

「たしかに、三日後に花麗さんのところに《朱雀》が戻って来ても、紅霞さんの敵ではないと思います。ただ…………紅霞さんが《四姫神》以上の力を持つ、と世間に知られれば、それはそれで新たな問題が起こると思います。それこそ、花麗さんに代わって紅霞さんが《四姫神》になるよう、国王から求められる、とか…………《四姫神》になりますか?」

 紅霞は少し考え、言った。

「それも面白そうだけどな。今はいい」

 紅霞は帯に挿していた一本の細い枝をなでる。
 玄関に伸びていた柳の枝だ。

「今は一度、この街を出たい気分だ。新しい場所を翠柳にも見せてやりたい」

 透子はほっとした。

「それがいいと思います。紅霞さんが《朱雀》を使役できる理由を訊ねられたら、私も色々面倒ですし………………たぶん、最悪の場合は政治的な問題に巻き込まれます」

 ファンタジー系小説での、大きな力を持ったキャラクターの定番だ。

「たしかに、透子には色々訊きたいことができたな」

 紅霞は透子を見た。
 その瞳に忌避や不審の色はなく、ただ疑問だけが浮かんでいる。

「透子は何者なんだ? 昨夜のあれは…………《世界樹》だろ? 透子はなんで《世界樹》の《種》を宿しているんだ?」

「それは…………」

 昨夜、布団にもぐりながら(絶対に訊かれるだろう)と予想していた事柄だった。
 透子は紅霞とは反対側の肩を見やる。
 茶色い小鳥が我関せず、といった風情ですやすや眠っている。
 昨夜の一件で例の女神との伝達手段も確立し、透子が一年半後に日本に帰れるのは確実となった。
 それまでは、おそらく紅霞と行動を共にすることになるだろう。
 ならば、紅霞には本当のことを知っておいてもらいたい。
 透子の本当の故郷、《種》を宿した経緯、本当の年齢…………。

「…………長くなりますけれど、大丈夫ですか?」

「ああ。どうせ道程も長いだろうしな」

「ちょっと荒唐無稽で、信じにくいかもしれませんけれど…………」

「昨夜のを経験したあとなら、どんな荒唐無稽も信じられるぜ?」

「それもそうですね」

 透子は笑った。

「話は長くなりますが…………もともと私は、違う世界から来た人間なんです――――」

 朝のさわやかな風が、歩いていく二人の背を優しく押していく。



 その日、夕蓮の街からは二人の男女が旅立った。





 それから五日間。艶梅国の東の守り手《朱雀》を使役する《四姫神》は頑として家に閉じこもり、訪ねてきた誰もが彼女に会うことは叶わなかった。
 その理由を知る者は、ごくわずか――――
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