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最終話
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秋が近づいていた。オータムフォレストの森はいっそう美しい。
森の番人とオータムフォレスト伯爵家の下男が笑い合っていた。
「今年も、森の恵みは豊かだな。黒鳥様が守ってくださるおかげだ」
いつの頃からか、オータムフォレストの森には「黒い大きな鳥が住みついている」と伝わるようになった。
黒鳥は天から遣わされた森の守護者だとも、大事な伴侶を失い、戻ってくるのを待っているのだとも、はたまた、何十年も昔に亡くなった森を愛した乙女の魂が戻ってきた姿だ、とも。
「どれが正しい答えなの?」
「さあねえ。本当のことは誰も知らないのさ。すべては言い伝え、人の勝手な想像だ」
「ふうん」
白髪のビリーおじいちゃんは「よっこらしょ」と立ちあがった。
「そろそろお帰り。秋は日が沈むのが早い」
「わかった。さよなら、また明日ね」
森小屋に戻って行くおじいちゃんの背を見送り、少女も帰路についた。
秋の森の小道を、枯葉を踏んで足早に進んでいく。
途中、奇妙な音を耳にした。
「? なんだろ?」
まさか、危険な森の獣か。
おそるおそる、音がしたほうの茂みをのぞいて見る。
するとそこには大きな鳥がいて、黒い艶々した翼をひろげていた。
「…………怪我したの?」
少女は目ざとく、翼の片方に走る傷を見つける。
「手当…………鳥にも、人間の傷薬は効くのかな…………?」
腰に下げる小さな袋をさぐっていると、ふいに伝わってくる気配が変化した。
顔をあげると、鳥がいたはずの場所に青年が腰をおろしている。黒い髪に濃い紫色の瞳の、黒い翼を背に生やした青年だ。
「やっと会えた」
青年は言った。
彼の指の長い大きな手が、ライムグリーンの瞳をみはる少女の頬に触れる。
「久しぶりだな」
優しい、感極まった彼の声に、何も知らないはずの少女の唇からも一つの名がこぼれた。
「…………ナイトメア…………」
そうして悪夢は終わりを告げる。
森の番人とオータムフォレスト伯爵家の下男が笑い合っていた。
「今年も、森の恵みは豊かだな。黒鳥様が守ってくださるおかげだ」
いつの頃からか、オータムフォレストの森には「黒い大きな鳥が住みついている」と伝わるようになった。
黒鳥は天から遣わされた森の守護者だとも、大事な伴侶を失い、戻ってくるのを待っているのだとも、はたまた、何十年も昔に亡くなった森を愛した乙女の魂が戻ってきた姿だ、とも。
「どれが正しい答えなの?」
「さあねえ。本当のことは誰も知らないのさ。すべては言い伝え、人の勝手な想像だ」
「ふうん」
白髪のビリーおじいちゃんは「よっこらしょ」と立ちあがった。
「そろそろお帰り。秋は日が沈むのが早い」
「わかった。さよなら、また明日ね」
森小屋に戻って行くおじいちゃんの背を見送り、少女も帰路についた。
秋の森の小道を、枯葉を踏んで足早に進んでいく。
途中、奇妙な音を耳にした。
「? なんだろ?」
まさか、危険な森の獣か。
おそるおそる、音がしたほうの茂みをのぞいて見る。
するとそこには大きな鳥がいて、黒い艶々した翼をひろげていた。
「…………怪我したの?」
少女は目ざとく、翼の片方に走る傷を見つける。
「手当…………鳥にも、人間の傷薬は効くのかな…………?」
腰に下げる小さな袋をさぐっていると、ふいに伝わってくる気配が変化した。
顔をあげると、鳥がいたはずの場所に青年が腰をおろしている。黒い髪に濃い紫色の瞳の、黒い翼を背に生やした青年だ。
「やっと会えた」
青年は言った。
彼の指の長い大きな手が、ライムグリーンの瞳をみはる少女の頬に触れる。
「久しぶりだな」
優しい、感極まった彼の声に、何も知らないはずの少女の唇からも一つの名がこぼれた。
「…………ナイトメア…………」
そうして悪夢は終わりを告げる。
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